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樋口泰人インタビュー「ひっそりとうるさい爆音上映」

今年も爆音映画祭の季節だ。爆音上映とは通常の映画用の音響セッティングではなく、 音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、ボリュームも限界まで上げ大音響の中で映画を観・聴く試み。しかしそこにはただ音が大きいだけでは片付けられない何かがひそんでいる。 同映画祭の仕掛人boid代表、樋口泰人氏から爆音調整をしている人にしかわからない秘話や今年のラインナップについて語っていただいた。

5月31日よりいよいよ第6回爆音映画祭(in吉祥寺バウスシアター)がはじまりますね。今日はその魅力についてお聞きしたいのですが、爆音上映を企画したそもそものきっかけはなんだったのでしょうか?
樋口:直接的なきっかけはニール・ヤングのライブでした。「グリーンデイル」っていうアルバムを出したときに世界ツアーがあって、日本では武道館でやったんです。その10何年前にNHKホールでのライブも観に行っていて、その時は前半はカントリー、後半は完全にフィードバックを使ったノイズ。その轟音が忘れられなくて「グリーンデイル」のライブに行ったんですが、そもそもノイズのアルバムではなかったですし、武道館の音も妙に良くて、やっぱりフィードバックが聴きたいなと思ったんです。たまたま同時期に吉祥寺バウスシアターで、来日記念としてジム・ジャームッシュの『イヤー・オブ・ザ・ホース』を上映していたんですが、その時バウスのスタッフが通常のスピーカーではなくて、今爆音で使ってるライブ用のスピーカーを使って上映していたんですよ。これならもっと大きい音でちゃんと調整すれば面白くなるんじゃないないかと思ってバウスのスタッフに相談をしたのがきっかけです。その時に、音楽映画だけじゃなくて普通の映画もやろうよという話になりまして、オールナイトで『デッドマン』や『クンドゥン』をかけたらそっちの方が面白くてですね、そうやってはまっていったんです。
そうして現在のような形となったのですね。この映画はきっと爆音上映に合うだろうというのは経験としてわかるものですか?
樋口:なんとなく勘ですよね。でもこれが基本的に裏切られるんです。そうやって自分が想像もしていなかった思わぬ展開になるのが面白い。音楽映画の場合は自分が聴きたい音に落ち着いていくか、そのミュージシャンのファンが聴きたい音を優先させるかだと思うんです。もちろんものによってはものすごい音になる場合もあるんですけど、やっぱり思わぬ変化が起きる、自分自身も変わっていけるような大きな変化が起こる要素は劇映画に大きくあると思います。音楽映画に関しては、最近他の劇場でも大きな音やいい音で上映をしているので、それはそっちにお任せして、爆音映画祭では普通の映画がどうなるかっていうのを見せていきたいです。それはみんながやりたがらないことなのか、やれないことなのかはわからないですが、細い道を進んでおります(笑)。
爆音ファンとしてはこれからもぜひ細い道を進んでほしいものです(笑)。爆音上映の面白さはただ音が大きくなるだけではなく、様々な音の発見があるところだと思いますがいかがですか?
樋口:自分の耳が広がる感じを体験できるようになれば、別の人生が始まるんじゃないかと思っているんです。去年だとアレクサンドル・ソクーロフの『精神の声(こころのこえ)』なんかが特にそうで、4時間もあるドキュメンタリー映画を一体誰が観るんだと思いながら上映したんですが、調整をしていくと本当に小さな鳥の声とかが頭の中にすーっと入ってくるようになる。ソクーロフとかガス・ヴァン・サントの映画はそうした小さな音が絶対面白い。それは監督たちも完全に意識して作り込んでいます。前にソクーロフの『ストーン/クリミアの亡霊』を上映したんですが、冒頭、お風呂場の蛍光灯がちかちかしていてブーンと音を立てているんですが、その音が完全にノイズなんです。蛍光灯の音がもともとノイズっぽいんですけど、さらに音を加えたのか、シンセか何かで違う音をつけたのか。そのノイズの中、裸のチェーホフの亡霊がいきなり現れるんですが、その現れ方がまったく『ターミネーター』なんですよ。ソクーロフあんなにアメリカ映画嫌っておきながら実はちゃっかり観ていて、『ターミネーター』くらい俺にだってできるよ、と言わんばかりなんです。それって爆音にしてノイズやら周囲の音が出てきてようやくわかる発見なんですね。例えば、爆音で『ターミネーター』と『ストーン/クリミアの亡霊』を2本だてでやったら面白いなって思うんです。ただそれって何も知らずに観る人にとって、片方はすごい面倒じゃないですか。なんでそんな映画観ないといけないの?っていう(笑)。でも冒頭だけ観るとすごく似ているんです。そういったことを自分の中で妄想して楽しんでいます。同時にそういったことをしてもいいのだという自由さや開放感も一緒に味わえるんですよね。あまりにも儲からないし疲れるので、もうやめようかなと思うこともあるんですが、やっぱり続けちゃうのはそういった普通なら味わえないものを味わっちゃってるからだと思います。
難しいと言われているゴダール映画ですが、爆音上映の会場ではよく爆笑が起こっていますよね。これも爆音ならではの新たな発見ではないですか?
樋口:ゴダールは小さな音だとどうしても文字を追っちゃうので、わからないと思われがちですが、爆音だと文字を読むことなんてどうでもよくなってきて、この人何こんなことして遊んでんだっていうね、いいおやじが遊んでるようにしか見えないですから(笑)、気がつくと全体ではなくても、ぱっと目に入った言葉が入ってくるんですよね。そこがいいなと思って。多分そういうふうに作ってあるのではないかと思います。今回上映する『We can't go home again』もそうなんですけど、トータルで人に説明できるようなものではなくて、こちらの回路を無理矢理こじあけてそこに何かを注入していくみたいなことを意識的にやろうとしている映画だと思うので、なるべくそういった部分を退屈させずに見せられるといいなと思っています。
爆音調整のポイントはどうやって決めるんですか?
樋口:その映画によってどこの音をメインにするかを、観ながら決めていきます。プリントの場合面白いのは、フィルムの傷でノイズが入るじゃないですか。そういった部分を消した方が良い作品と、活かした方が良い作品があるんですよ。どっちがいい悪いじゃなく、その映画のあるべき姿というか、その映画がどういう場所にいるかによって、付属してきた歴史としてのノイズをどう処理すべきかが違ってくるんです。映画がとっている態度や位置づけが自然と出てきてしまうので面白いですよね。プリントの場合、比喩ではなく本当に映画が生きてきた歴史を音として聴いてもらえるのが嬉しいですね。デジタルにはまた別の良さがあって、今回のゴダールは全部デジタルなんですが、音の一粒一粒が全部見えるような感じがして、それはそれでゴダールの遊びがつまっているように感じます。
やはり音にこだわっている監督はわかりますか?
樋口:それが監督によるものなのか音響の人によるものなのかわからないですけど、この人の作品だったら何をしてもOKという人はいますね。多分監督自身はそんなに音に興味がなくてもスタッフとして誰を選ぶかというところで決まってもきます。例えば楊徳昌(エドワード・ヤン)がそうで、1度インタビューをした際に彼自身はそんなに音自体に繊細な興味がある人ではなかったんですが、音をつけているスタッフに聞いたらやっぱり色々なことをやっていた。杜篤之(ドゥ・ドゥージ)という人が楊徳昌と侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の音を担当しているときは本当にすごいです。だから台湾映画の音は彼が作っていると言っても過言ではない。彼のインタビューを読んだことがあるんですけど、基本的にスタジオの録音マンというタイプの発言しかしないんですよ。そのわりに侯孝賢の音はあまりにグシャグシャじゃないか、あまりに冴え過ぎじゃないか、と突っ込みたいんですけど、インタビューではそんな音をつける人とは思えないくらいまともなことしか言わないので、もともとが狂っている人なのかもしれないですね(笑)。時々爆音でも侯孝賢をやるんですけど本当にグシャグシャで面白いんですよ。ただ、人は入らないです。侯孝賢の音といっても若い子はあんまり反応しないのかな。でも実際爆音で観るとゴダール並みにめちゃくちゃ狂ってます。ゴダールはインテリの音なんですけど、侯孝賢はめちゃくちゃ悪い人の音(笑)。空族の『サウダーヂ』とか『国道20号線』のわるーい感じと同じで、アジアな悪い地下の水脈が空族と侯孝賢をつないでいるとはっきりわかります。その時だけはバウス地下上映でモッコモッコの音でやりたいですね(笑)。
今年のラインナップでマイケル・チミノ特集がありますが、どうして今チミノを上映しようと思われたのですか?
樋口:たまたま去年のベネチア国際映画祭でデジタル修復完全版の『天国の門』が上映されたんです。『天国の門』は、2005年に各所から状態のいいプリントを集めてきて修復したものがあるんですが、今回のデジタル修復完全版は3色分解されたオリジナルネガを2Kスキャンしてそれらを合成して、チミノの監修で作り上げられたものなんです。それが出来上がったっていうので観たいなと思っていたら、どうも日本で公開される予定はないらしい。とりあえず爆音でかけて、映画祭が宣伝になってどっかが買い付けてくれたらいいなという思いで進めていたんです。でも結局映画祭でやるにしても字幕をつけるんでけっこうな額になっちゃうんですね、しかも『天国の門』は英語だけじゃないし。それにデジタル修復なのでDCPでしょう、明るいプロジェクターが必要だったりと問題が多くて、もういいや!全部買っちゃえ!と思ったんです。そう思ったのがまだ1ドル75円のときで、順番に契約して支払ったのが3月末。1ドル100円になっていたんです(笑)。アベノミクスでまるまる損しましたよ。来年爆音できなかったら安倍のせいだ!と、とりあえずそれだけは訴えておきたい(笑)。
まさかアベノミクスが影響しているとは思いませんでした(笑)。そして、いわくつきの『天国の門』ですが、やはり再評価されるべき映画ということですか?
樋口:そうですね。『天国の門』はやっぱりひとつの会社を潰しただけあって、労力と関わった人の数が半端じゃない。例えば、ものすごい群衆シーンを今だとデジタルで作り込むことができるんですけど、同じような大群でもあきらかに何かが違う。それのどこがどう違うのかを説明するのはすごく難しいんですけど、ただこれをでっかい画面で観てもらえれば何かが入ってきます。そこだけはとにかく観てほしい。なぜかというと今はビデオでも簡単に映画が撮れるようになって、身の回りの世界を描いた映画が多いですよね。もちろんそこから大きく広がる映画もあったりして、それはそれで面白いんですけど。とち狂っていても自分が狂っているだけで世界を巻き込んではとち狂えない、会社は潰せないでしょ。狂い方がわかりやすくて色んな人に面白がられる映画はあったりもするけれど、そういうのが息苦しかったんですよね。映画は昔から共同作業であると言われますが、それは多くの人が関わって人と人との関係の中からできあがってくるということだけではないと思うんです。もっと人の力を超えたものまで呼び寄せちゃう、まあイタコみたいな(笑)。全然自分の力の及ばないものがやってきてひとつの映画になっていく。色んな意味でいいことも悪いことあるってことを全部体現している映画が『天国の門』でありマイケル・チミノなので、今これをやっておく価値は絶対にあると思います。
もう1本の目玉であるニコラス・レイ監督『We can't go home again』はどうですか?
樋口:これもそうなんです。『We can't go home again』は、ほぼ映画という枠組みを台無しにしています。もともとが6台の映写機を使い、ひとつのスクリーンに映写をしたものなので、スクリーンのあちこちに違う映像が出て、どこを観ていいか全くわからない。色んなことが同時に起こりすぎてとりあえず観ている自分が崩壊するしかない。漠然と観始めたところにようやく何かが浮かび上がってくる。ここには映画があるんだから、おまえの観たいものじゃなくて映画を観なさいと。音もぐしゃぐしゃで面白いですよ。学生たちと撮った映画なので、録音も学生で、同じ台詞でも途中で大きくなったり小さくなったり、そういうことも含めて全体でひとつのノイズミュージックみたいになっています。グシャグシャでめちゃくちゃなんですけど、各ショットがハリウッドの50年代を生きた人にしか撮れないような、ものすごくいいショットになっているんです。それでこう、泣くしかない(笑)。わけわかんないけど泣いちゃう。この映画はほっとくと単に「変な映画」ということになってしまって『理由なき反抗』を撮った監督が最後に変な映画撮っちゃいましたっていう話になってしまうんだろうけど、そうじゃなくてここから映画が生まれるのだ!という誕生の瞬間だらけで、これから映画を撮ろうとか観ようって人にとってもヒントだらけです。明日なんかやれる気がするんですよ(笑)。ストーリーを説明しろって言われたら誰にもできないんですけどね。これは学生たちとすごく少ない予算でちっちゃく撮った映画なんだけど、とてつもないことが起きている映画なんです。そういう意味で『We can't go home again』と『天国の門』の小ささと大きさの中でありえないものと一緒に何かを作っている感じがうまく伝わってくれたらいいですね。
とても貴重な2本ですね。爆音映画祭としては今回6度目の開催となりますが、上映ラインナップ選定の方法にこれまでと変わった点はありましたか?
樋口:今回は意識的に海外からめったにできない作品を取り寄せました。今までは人からの意見を聞きつつ上映作品を選んできたんですが、今年は今こういうことを考えていているのでこういう映画はどうですか、という感じで提案する形をとっています。全然意識してなかったんですけど最初にニール・ヤングをやった時から10年経ってるんですね。10年間人との関係の中でやってきたので、今年はちょっとはわがままにラインナップも決めました。それに毎年あれやこれやと盛り上げてテンション上げながら宣伝するにはもう歳なんでね、爆音とか言ってる人間がそんなこと言ってちゃいけないんですけど(笑)。例えば24,5才から始めて34,5才だとまだまだ体力あるんですけど44,5才から始めて54,5才だともうね、ないです。どこにも力が(笑)。テンション上げるよりはこんな貴重な映画をやっていますと、穏やかに宣伝しようと思いまして。会場にくれば音はでかいんですけど、なんかひっそりやってる感じ。ひっそりやってるんだけど気になってしょうがない、みたいなことにしたいと思って。地味に伝えながら生きていけると今後穏やかな人生を迎えられるかなと(笑)。穏やかにするつもりもないんですが。
爆音上映は苦労が絶えないイメージですが、今年の映画祭はどうでしょう?
樋口:爆音というだけあってめちゃくちゃ燃費悪いんですよ(笑)。アメ車より悪いかな。まったく日本仕様の映画祭ではないです。普通にやろうとすると機材費だけで4~5日で100万くらいかかるので商売として全然成り立たない、収支合わせはいつも課題ですね。プリントも赤字覚悟で取り寄せていますからね、もうやるしかないです(笑)。あと心配なのは『ヴァージニア』と『地球最後の日』と『ウィンターズボーン』です。ロードショーでヒットしなかったアメリカ映画を爆音でやるととことん人が来ないんですけど、俺としてはそこら辺をやりたくて仕方がないんですよ!去年、一昨年で『アンストッパブル』を何度もやったんですが、最初本当に人が来なくて、もう泣きながらやりました(笑)。ですのでこの3本はガラガラの映画館で本当に贅沢に観られると思います(笑)。
満員になることを願います!貴重なお話ありがとうございました。樋口さんに代わり声高に宣伝して参りますので爆音漬けの1週間をぜひお楽しみください!
聞き手・構成・写真:石川ひろみ
■スケジュール
2013年5月31日(金)~6月8日(土) 今年は1週間限定!
■場所
吉祥寺バウスシアター http://www.bakuon-bb.net/access.php
詳細はこちら→http://www.bakuon-bb.net/
  • 『樋口泰人(ひぐち・やすひと)』
    映画評論家、音楽ロック評論家。爆音映画祭ディレクター。現在も自ら爆音調整に立ち会っている。98年に「boid」を設立。爆音上映、映画配給、boidレーベル、boid出版など、多岐に渡る仕事で多くの監督や作家から支持をえている。著書に「映画とロックンロールにおいてアメリカと合衆国はいかに闘ったか」「映画は爆音でささやく 99-09」などがある。「マイケル・チミノ読本」も絶賛発売中!
    boid→http://www.boid-s.com/
  • 『爆音映画祭』
    2004年より吉祥寺バウスシアターにて、通常の映画用の音響セッティングではなく 音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、ボリュームも限界まで上げ、大音響の中で映画を観て聴く「爆音上映」イベントが始まった。そして2008年から「爆音映画祭」がスタートする。現在は映画だけでなくライヴ演奏や、 映画と音を巡る講演などさまざまな角度から映画と音を観ていく、聴いていく催しとなっている。