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『愛しのゴースト』バンジョン・ピサンタナクーン監督

タイでは誰でも知っている有名な怪談「メー・ナーク・プラカノーン」をリメイクし、国民の10人に1人が鑑賞する大ヒットとなった『愛しのゴースト』。来日した監督にタイのホラー映画事情や、この映画にかけた思いなどを伺った。

僕はこの映画をホラーというよりは、コメディ、あるいはロマンティックなジャンルのものと見ています。ハッピーエンディングになったことによって、みんなとても幸せな気分になった。だからこそ大ヒットしたんだと思います。

この映画のもととなっている「メー・ナーク・プラカノーン」という話は、タイの人々に長く愛され、30回以上リメイクされている作品といいます。どの辺りがタイの人々の心に響くのか、監督の考えをお聞かせください。
バンジョン:正直言ってよく分からないけど、ただ「怖い」というだけでなく、死が2人を分かつ、それでも愛し合う、という古典的な愛情が描かれているところではないでしょうか。
あなたの初長編『心霊写真』(06)はとても怖いホラーでした。タイの人々はたいへんホラー好きといいます。あなたも小さい頃から、ホラーを楽しんできたのでしょうか? 初長編がホラーだったのは、ホラー好きだから?
バンジョン:子どもの頃からホラー映画が好きで、よくビデオを借りてきて観ていました。家族や親戚が集まって、部屋を暗くして…。ホラー映画のビデオはほとんど借りて観ています。もともと、初長編をホラーにしようと思ったのではなく、いいプロットを色々と考えていたら結果的にホラー映画になったんです。
じゃあ30以上リメイクがあるという「メー・ナーク・プラカノーン」ものも、ほとんどご覧になっているんでしょうか。初めて観たのはいつ頃になるんでしょうか。その時の感想など覚えていらっしゃいますか?
バンジョン:全編観たのはノンスィー・ニミブット監督の『ナンナーク』(99)と、お芝居になったものくらい。古いリメイクものも、流し見では観たけど。
大学に入ってから『ナンナーク』を観た時、すごく感動して、好きでした。確かに話自体は物心ついた頃にすでに知っていましたね。それはテレビで何度もリメイクされているからだと思います。
昔は「メー・ナーク・アメリカ」というメー・ナークが金髪だったりと、変なものがたくさんあったんですよ。
メー・ナークが日本に来たものもあったんですよね。
バンジョン:そうそう。「メー・ナーク、東京に乗り込む」みたいなね(スマホで検索して見せてくれる)。僕が生まれる前に上映されていると思います。「メー・ナーク・アメリカ」はちょっとお色気映画でね。
ノンシィー監督の『ナンナーク』に感動されて、それでこの映画を手掛けることに?
バンジョン:感動したことは感動したけど、今回の製作とは関係ないです。今回はリメイクというよりは、誰も作ったことのない視点で作りたいと思いました。ノンシィー監督の『ナンナーク』はシリアスなドラマで、あれはあれで素晴らしいので、同じものを作るという気持ちはなかった。全く違うジャンルのものを作りたいと思いました。
2011年に大阪アジアン映画祭で上映され、「来たるべき才能賞」と「ABC賞」をダブル受賞した『アンニョン! 君の名は』(10)はうってかわって温かく瑞々しいラブコメディですね。私はこの作品、とても好きでした。日本でもホラーを撮った監督がシリアスなドラマを撮る、くらいのことはあると思いますが、ホラーとラブコメを両方撮るというのはあまりないと思います。器用で才能のある監督なんだな、という印象を持ちます。
実際のところ、製作に当たってはそう違いはないものなんでしょうか?
バンジョン:映画ってコミュニケーションじゃないですか。どのように伝えたいかというのがチャレンジしどころだと思います。ですので、いろんなジャンルの映画を撮ってみたいと思っているんです。
ホラーとコメディ、どちらが得意というのはない?
バンジョン:コメディの方が得意かな。
この『愛しのゴースト』は、『心霊写真』のホラーと、『アンニョン! 君の名は』のコメディとラブロマンス、その3つの要素が上手く溶け合っているように見えます。私も監督と同じように「メー・ナーク・プラカノーン」もので全編観たものは『ナンナーク』だけなんですが、話によると、他のリメイク作品はコメディ要素も比較的強いとのことですね。抜粋だけならいくつか観たんですけど、どれもラブロマンス色が強いとは思えず――それはナークの外見に理由があるような気がしました。
この映画のナークは、幽霊であるからといって怖すぎず、容姿や雰囲気で親しみやすさや可愛らしさが強調されていますね。人間と幽霊の間の境界を曖昧にしようという戦略は、マークや仲間のエーまで幽霊か? と疑いがかかるエピソードにも現れていると思います。
「メー・ナーク・プラカノーン」の話からの一番大きな改変であるラストも含め、幽霊と人間の共存というか、愛はそんな違いだって乗り越えてしまうのだ、 みたいなことが、あなたが一番込めたかったメッセージなのかな、と思ったんですが。
バンジョン:僕はこの映画をホラーというよりは、コメディ、あるいはロマンティックなジャンルのものと見ています。だからこそ、ナークはあのような可愛らしさを持った人物として描いています。ただ人間と幽霊が一緒にいてもいいんじゃないか、ということは後から思いつきました。
今までのバージョンだと、一緒にいたいけれど、人間とは一緒にいられないから成仏しなさい、という終わり方ですよね。あんなに愛し合っているのに。よく考えたら、障害って、村人が反対しているくらいじゃないですか。だから「一緒にいられる」「共存できる」という、全く新しいエンディングを思いつくことができました。
この作品はタイで大ヒットしたとのことですね。どんな反応が多かったんでしょう。例えば今までのエンディングに慣れたお年寄りが、変えてけしからん、というようなことはなかったんですか?
バンジョン:歴史をひっくり返すようなエンディングだったんですけど、「なんで変えちゃうの」というような、マイナスな観方というのはなかったです。若い人にもお年寄りにも、気に入ってもらえました。
そもそもこの伝説は真実ではなく、口承伝説なので、ハッピーエンディングになったことによって、みんなとても幸せな気分になった。だからこそ大ヒットしたんだと思います。
真実ではない…。でもタイには実際にいると信じられている幽霊がいるんですよね。
バンジョン:いますね、いくつか。でもこれも口承伝説です。本当にあるか分からないし、僕は信じてません。
そもそもタイの人々がホラー好きなのは、そういった風土が関係しているんですよね。
バンジョン:そうですね。お化けの話を信じている人が多いし、お化けの話をするのも好きだし、聞くのも好き。ラジオで「ザ・ショック」という幽霊話ばっかりする番組があってかなり流行りましたし、テレビでも幽霊話ばかりするトークショーがありました。
『心霊写真』の後に、僕も関わったオムニバス作品の『4BIA』(08)『Phobia2』(09)やパン兄弟の『THE EYE【アイ】』(02)など面白いホラー作品が続き盛り上がった時期があったんです。
それでホラー映画が定着したと。
バンジョン:タイホラーがアジア中で有名になったんですね。
製作にあたって一番苦労した点を教えてください。
バンジョン:最初は新解釈をした時代物なので、難しいのかなと思ったんですが、実際に摂り始めたらそんなことはなかったです。上手くいきました。
やっぱりコメディを撮るのが得意なところが功を成したんでしょうか。
バンジョン:僕は自分のスキルを少しずつ磨いてきたと思うんです。最初の『心霊写真』は共同監督でしたし、『4BIA』『Phobia2』はオムニバスホラーだから30分と短いんですね。2は1よりもコメディ色が強くなっています。そして、『アンニョン! 君の名は』で単独で長編のコメディを撮った。
徐々にスキルアップしていって、その全ての経験を生かしたからこそ『愛しのゴースト』が撮れたのであって、いきなりこの作品を撮っていたら、この出来にはなっていなかったはずです。
次回作の予定を教えてください。
バンジョン:次の映画はすごく大きなステップアップになると思います。チャウ・シンチーがプロデュースしてくれて、中国映画のコメディを撮ります。
それは楽しみですね! 本日はどうもありがとうございました。
【STORY】

戦場から仲間と共に奇跡的に帰還したマーク。妻・ナークとの再会に喜ぶが、村人たちから「ナークは既に死んでいる。ゴーストになってこの地に留まってる」という不気味な噂を耳にする。ナークへの強い愛情故に聞く耳を持たないマークだったが、仲間内では、「実は、本当に死んでいるのは、戦地に赴いた自分たちではないか」という疑いが浮上。次第に、誰がゴーストで、誰が人間なのかもわからなくなっていく。一方で、周りの疑いをよそに、マークとナークは愛を深めていくが・・。
『愛しのゴースト』バンジョン・ピサンタナクーン監督
10月18日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート六本木ほか全国公開
■公式サイト
http://love-ghost.com/
聞き手・構成: 夏目深雪
『愛しのゴースト』
監督:バンジョン・ピサンタナクーン
出演:マリオ・マウラー/タビカ・ホーン
2012年/タイ/112分/シネスコ
配給:キネマ旬報DD/提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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  • 『バンジョン・ピサンタナクーン』
    1979年9月9日生まれ。チュラーロンコーン大学で映画を学び、1999年に卒業。2000年、初の短編『Plae Kao』がクリック・ラジオのコメディ短編コンペの作品賞と脚本賞にノミネートされる。2002年、2作目の短編『Color Blind』を監督・脚本。国内外の映画祭で高い評価を受ける。またこの頃、タイの人気映画雑誌「Starpics Magazine」で映画批評家としても活動。2004年、パークプム・ウォンプムと共同で監督した初長編『心霊写真』(04)が、タイの年間興行収入ナンバーワンを記録。国外においても興行・批評の両面で大成功を収め、2008年には『シャッター』としてハリウッドリメイクされる。以降、『Alone』(07)、タイの気鋭監督によるオムニバスホラー『4BIA』(08)、『Phobia 2』(09)、『アンニョン!君の名は』(10)などを発表。『アンニョン!君の名は』は2010年の興行収入1位を記録し、インドネシア、シンガポール、オーストラリアでも好成績を獲得、日本では大阪アジアン映画祭2011で上映され「来るべき才能賞」と「ABC賞」を受賞した。映画監督以外の活動も幅広く、FM局89.00 Chillの土曜夜の2時間ラジオ番組のDJをつとめているほか、多数のCMに声優として参加。また数本のCMの演出も手掛けている。今回、オムニバスホラー『4BIA』、『Phobia 2』で起用した4人をマークの友人役としてキャスティングしている。