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『祝宴!シェフ』チェン・ユーシュン監督インタビュー

名作『熱帯魚』『ラブゴーゴー』で“台湾ニューシネマ”監督としてその名を定着させたチェン・ユーシュン監督。16年ぶりの長編映画は、アイドル志望の女の子が料理の下手な母親やおかしな仲間たちと料理コンテストに挑む、テンポのよい料理エンタテインメントだ。来日した監督に、これまでの経緯やこの映画にかける思いを伺った。

私はこれからもずっと、取るに足らないような人が、何かを見つけていく成長の過程を描いていきたい。なぜなら、自分こそがずっとそういう存在だったからです。

まず、『ラブゴーゴー』(97)から16年ぶりの長編発表、お祝いを申し上げます。ずっとCM業界に活躍の場を移して、独創的なテレビCMを数多く生み出し数々の賞を受賞してたとのこと。
『熱帯魚』(95)『ラブゴーゴー』の前はテレビドラマシリーズを手掛けていらっしゃったんですよね。『ラブゴーゴー』来日時のインタビューで、テレビ業界は映画業界に劣らないくらいの不景気になってきて、ドラマが作りにくくなっている。逆に映画は政府の補助金が出るシステムができた、というようなお話もされているのですが、やはりテレビドラマを作るのが厳しくなったから、CM界に活躍の場を移したということでしょうか。


長編を16年も撮らなかったというのは、やはりそのインタビューでも政府の補助金システムも、補助金を貰うことは簡単ではないというようなお話をされていましたが、それも関係しているんでしょうか?
監督:当時、映画界は不景気でした。私はアートフィルムではなく、大衆的な映画を撮りたいと思っていたので、観客のことを考えざるを得ませんでした。観客が観ないような映画を撮っても意味がないと思っていたんです。どうやったら観客に受け入れられるような映画を撮れるのか、と考えながら何本か脚本を書きましたが、どうしてもそれが当時の観客に受け入れられるとは思えなかった。
それで、ちょっと映画を休んでCMディレクターをやってみようと思ったんです。数年やればいいだろう、と思っていましたが、急には景気は回復しませんでしたので、あっという間に十数年経ってしまったということです。
当時お書きになった脚本はどのようなものだったんでしょうか。どうして観客に受け入れられないと思ったんでしょう?
監督:2つあって、1つはロマンティックなラブストーリーです。もう1つはシリアスなアートフィルムでした。しかし映画を撮るには莫大な資金が必要です。その資金を調達するような担保を私は見つけられませんでした。当時はコメディを撮っていこうという考えも固まってはいませんでしたしね。
いろんな迷いがあって、自分が迷っていると、脚本も「これを貫こう」というものが表現できないんです。自分でも満足するような脚本ではなかったし、例え撮ったとしても、観客が満足してくれるような映画になるとは思えなかった。今だったら、「コメディを撮ってください」と依頼されたら「はい。自分はコメディだったら撮れます」と自信を持って言えますが。
本当に、『祝宴!シェフ』はテンポのよいコメディで、もちろん『熱帯魚』や『ラブゴーゴー』もコメディの要素もあったのですが、作風の変化を感じました。一つ一つがとてもおかしいギャグを次々とたたみかけるようなところは、CM作りで培われたものなのかな、とも思いました。
また、感心したのが料理を作っているところの見せ方、「美味しい」という味覚の表現です。ドラマティックでかつ分かりやすく、垢抜けています。その辺りが「料理コンテストもの」として本物感があって、作品の格をあげていると思います。この辺りはどのように作られているんでしょうか。
監督:2つの質問に共通することは、リズム感ということだと思います。リズム感は、この十数年CMを撮り続けることで、練習を繰り返してきたということが言えると思います。CM作品でコメディータッチのものを多く撮ってきたので、笑いを撮るのが熟練してきたんですね。それが作品に生きていると思います。俳優の雰囲気を掴んでいるか、また俳優を動かすリズムを掴む、そのようなことなんですが、それらが比較的ラクにできるようになってきた。
また最近は特に、ピザやフライドチキンなど食べ物のCMを撮る機会が多かった。それらの手法もまた、この作品に生きているのではないかと思います。
この作品の面白いところは、料理コンテストものと「世間的にはダメだと思われている人たちが集まってチームを組み、試合やコンテストに挑む」系譜の映画が、ドッキングしているところだと思います。
料理コンテストものはチャウ・シンチー主演の『食神』やレスリー・チャン主演の『金玉満堂 決戦!炎の料理人』などの傑作があります。
「ダメ人間たちのチームもの」は、アジア映画では『少林サッカー』や『アタック・ナンバーハーフ』などスポーツものがありますね。これらの原型に黒澤明監督の『七人の侍』があるという分析もあります。


料理コンテストものの定石と違い、コンテストで実際に闘うのが、この映画では腕のある料理人ではありません。アイドル志望のいつも自分の容姿ばかり気にしている女の子と、料理の腕はイマイチな母親です。彼女らを手伝うのも、チンピラ2人です。でもそんなメンバーだからこそ、彼らの奮闘ぶりがとてもおかしいのと同時に、コンテストを勝ち抜いていくところは本当に感動します。
このあたりの着想は、どのように得たんでしょうか。
監督:そうですね。そういった雑種の混交チームみたいな人たちが、素晴らしく優秀な人たちに挑んでいく。これが凄く題材としては面白いわけなんです。本当に社会的には取るに足りない、端っこにいるような人たちが、力を合わせて非常に強いものに挑んでいく、ということに私はとても関心があった。雑種の混交チームのなかで、コメディというものが立ち上がってくるわけです。そのチームにはいろんな人がいます。優秀な人ばかりではつまらない。おかしな人も混じっている、というところで面白さが出てきて、映画的になるわけです。


過去の作品『熱帯魚』『ラブゴーゴー』もそうですが、私が一貫して描いているのは、まだ自分がどの道に行ったらいいのか迷っている人、例えばこの映画のヒロイン、シャオワンもそうですが、そういう人です。そういった、取るに足らないような人が、何かを見つけていく成長の過程を描いていきたいと思っています。
今後も、そのような人々を取りあげたいと?
監督:そうですね。なぜなら自分こそがずっとそういう存在だったからです。
シャオワンというキャラクターは最高です。可愛くて、おかしくて、最後にはわれわれ観客を感動させます。 演じたキミ・シアさんはバラエティ番組の中学生美少女コンテストで優勝し、人気料理番組の司会も務めたとのことですが、どのようなきっかけでシャオワンを演じることに?
監督:キミ・シアは私が人気バンド、メイデイ(五月天)のプロモーションビデオを撮った時に、演じたのがきっかけで知り合いました。その時はまだ16歳くらいで、とても可愛い少女でした。彼女を見ていて、大スターになれるはずだ、という素質を感じました。でも私は映画を撮っていなかったので、彼女を起用する機会もなかった。今回彼女を主役にして撮ることができ、彼女の持っている才能を映画で表現することができて、よかったと思っています。とてもいいコラボレーションではなかったかと思っています。
経歴からいっても、シャオワンはもしかしたら彼女がモデル? なんて思ったんですが…。
監督:確かに地に近いかもしれませんね(笑)。自分ではとってもお利口だわ、と思っているみたいなんですけど、周りから見ると、ちょっと天然ボケのところが (笑)。
(笑)。本日はどうもありがとうございました。

【Story】

20 年以上前の台湾では、お祝いごとには屋外で宴席が設けられ、そこで腕を振るう、総舗師 ツォンポーサイと呼ばれるおもてなしの心を極めた宴席料理人がいた―その中でも、“神”と称された伝説の料理人を父に持つシャオワンは、料理を嫌い、モデルを夢見て家を飛び出していたが、父の死をきっかけに帰省。そこで父がレシピノートに残した“料理に込めた想い “に心を動かされたシャオワンは、時代の趨勢で衰退の一途をたどっている宴席料理の返り咲きをかけ、全国宴席料理大会への出場を決意する。しかし料理は初心者。果たして、シャオワンは父の想いを引き継ぎ、人々のお腹も心も幸 福で満たす“究極の料理”に辿りつくことができるのか?
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http://culture.loadshow.jp/review/syukuen-review/
チェン・ユーシュン監督作品『祝宴!シェフ』
11/1(土)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!
■公式サイト
http://shukuen-chef.com/
取材・構成: 夏目深雪
『祝宴!シェフ』
監督/脚本:チェン・ユーシュン(陳玉勳)
出演:リン・メイシウ(林美秀)、トニー・ヤン(楊祐寧)、キミ・シア(夏于喬)
2013年/台湾/145分/中国語、台湾語/カラー/スコープ/DCP5.1ch
  • 『チェン・ユーシュン(陳玉勳)』
    1962年台湾・台北生まれ。TVドラマシリーズを長年手がけたのち、95年の『熱帯魚』で長編監督デビュー。 商業的成功を収め、高い評価を得た同作はスイスのロカルノ国際映画祭にて青豹賞を受賞。 台湾映画史上、最も素晴らしい映画のひとつと称された。 2本目の『ラブゴ-ゴ-』(97)でも独特のユーモアのセンスで好評を博し、 アン・リーやエドワード・ヤンなどと並ぶ“台湾ニューシネマ”監督としてその名を定着させる。その後、CM業界に活躍の場を移して、数々の賞を受賞し、独創的なテレビCMを数多く生み出してきた。 しかし、映画制作に対する情熱は消えることなく、短編映画『ジュリエット』(10)、 短編オムニバス映画「10+10」(11・未)で監督を務め、映画界に返り咲く。そして本作は待望の長編映画である。