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映画『Dressing Up』公開記念対談 安川有果(本作監督)×渥美喜子〈gojo〉

映画『Dressing Up』シアター・イメージフォーラムにて絶賛レイトショー公開中!

安川有果による長編初監督作品『Dressing Up』が渋谷イメージフォーラムにて公開中である。本作は大阪映像文化振興事業 CO2(シネアスト・オーガニゼーション・大阪)によって製作され、主演の祷キララが CO2新人俳優賞を受賞、第14回 TAMA NEW WAVEではグランプリ受賞と多くの賞に輝き、この度、満を持しての劇場公開となる。監督は青春Hシリーズ『激写!カジレナ熱愛中!』でセクシーコメディーに挑戦してその名を知られた安川有果。本作では死んだ母親の過去を調べる女子中学生の混乱や成長を《怪物》というモチーフを絡め見事に表現した。そこで、今回LOADSHOWでは安川監督たっての希望で映画評論家の渥美喜子との対談を企画。「女性の一代記を描きたい」と語る安川監督と渥美喜子さんの映画における女性観についてお楽しみください。

『Dressing Up』制作のきっかけは牛丼屋でのバイト

今回は安川監督のご指名で渥美さんとの対談が企画されたんですよね。
安川有果(以下、安川):普段から渥美さんが書かれているブログを拝見しているのですが、女性の描き方についての考察がいつもとても面白くて。私は女性の一代記を描きたいという思いで映画を作っているので、映画における女性のあり方や心理について今日伺えたらと思っています。
渥美喜子(以下、渥美):ありがとう(笑)。わかりました。
そもそも、おふたりはどのように出会ったんですか?
渥美:忘年会で初めて会ったんだよね。
安川:渥美さんのファンだったので、お会いできた時は感動しました。「ついに会えた!」って(笑)。
渥美:初めてお会いした時の安川監督の印象は丁寧でおとなしい子。でも『Dressing Up』を見たら結構過激だったから、本人の印象とは大分違うように思いました。
安川:そうですか?映画評論家の荻野洋一さんは、『カノジョは大丈夫』という作品や『激写!カジレナ熱愛中!』を見て、作る映画と本人から受ける印象にかなりギャップがあるという風に批評分の中で書いてくださっていたのですが、『Dressing Up』は本人から受けるイメージと近い映画だったと仰られていて(笑)。
渥美:え、そうなの!?(笑)。『Dressing Up』は脚本も安川監督が完全に書いたんですか?
安川:はい、そうです。
渥美:話を考えたきっかけは何だったの?
安川:当時牛丼屋でバイトをしてたんですけど、とても忙しいお店で。だからいつも心を無にして…。
渥美:牛丼を作り続けてたんだ(笑)。
安川:そうです(笑)。機械的に動けば仕事がスムーズに流れるんですよ。でも、動きの遅いおじさんとかが会計でモタモタ支払いとかすると、お店の流れが完全に止まってしまって。それで、そういう全体の流れを止めてしまう女の子が周りの人に考えるきっかけをもたらすみたいな話を考え始めました。
渥美:ははは。腑に落ちるような、落ちないような(笑)。
安川:それと、私は小さい頃関西に住んでいたんですけど、神戸連続児童殺傷事件が心に残っていて。その事件のことと、そのとき生きていて感じていたことが結びついたというか。犯人はもう親の世代なんだなと気付いたときに、その子供の話にすればどうだろうかと思いました。
渥美:なるほど。

女性の幻想と見せ方

渥美:今日来るまでいろいろ『Dressing Up』の映画評を読んできたんだけど、「モンスター」という切り口で書いている人が結構いたね。私としては、そこまであの女の子が化け物だという印象は受けなかったんだけどな。そもそも、主人公の少女は頭のおかしな女の子ということじゃないよね?
安川:そうなんですよ。親子関係が特殊な状況に置かれた子ではあるんですけど、基本的には母親のことを知りたいとか、父親に対して向き合ってもらうことを望んでいるだけの普通の子なんです。壮大なかまってちゃん、という見方もできるかも知れません(笑)。
渥美:なるほど。
安川:確かにモンスターは出てくるんですけど、それはジャンル的な落とし込みということでもあって、基本的には主人公の少女は普通の女の子だと思っています。
渥美:『Dressing Up』は少女が化け物になる原因を十代の女の子特有のナイーブさに展開していかないところが良いんだよね。男性の監督だったら、10代の女の子っていろいろ抱えてるんじゃないか、みたいな幻想を抱きがちなんだけど、私は意外と単純なことだと思うんです。だから、「病気」という理由はシンプルで腑に落ちた。
安川:なるほど。私は、女性監督だから女性を描けるとは思っていないところもあります。多分、映画で女性を描くのってとても難しいことなんだと思うんです。考えずに作ろうとすると、女性の一面的な性格だけを取り上げることになっちゃうというか。私としては女性の多面性を描きたいんです。
渥美:そうだね。私が思うのは結局、なんでも説明してしまおう、理屈を通そうとするのがつまんないと思ってる。例えば、主人公は母親と死別してしまっているから、彼女は不幸である、という見せ方はあんまり好きじゃない。そうやって、人物を不幸であるという前提で描いたとして、それってドラマとして面白いのかな?って考えてしまう。その点、『Dressing Up』は、少女の気持ちをあまり説明できない。
祷キララさん演じる主人公の少女は不幸という感じではなく、自立した女性という印象を覚えました。
安川:そうですね、確かに、脚本を書いていて不幸だと全然思っていなかったですね。
一同:(笑)。
安川:私としては探究心溢れる子だなって考えていました。ただ、ヒロイックな描き方に見えなくもないので、今回は渥美さんにあんまり気に入ってもらえないんじゃないかと思っていて…。
渥美:もしこの少女がすごいいじめられっ子になっていくという展開だったら嫌だったかもしれないけど、とても面白かったですよ。

俳優との関わりについて

主演の祷キララさんは映画が進むにつれ、どんどん綺麗になっていきますよね。
安川:撮影自体は順撮りってわけにはいかなかったんですけど、ラストシーンは一番最後に撮りました。この映画はキララちゃんの存在感にすごく助けられたと思います。
お父さん役は『ゲゲゲの女房』(10)などの監督もされている鈴木卓爾さんですよね。
安川:そうです。弱々しい役すぎて、鈴木さんに申し訳なかったなと今になって反省しています(笑)。ビンタの一発でもあればドラマチックだったんですけどね、この時はあまりそうしたくなかったんですよ。
「ビンタでもしてみたら?」といった台詞がありましたよね。
安川:ひねくれすぎですよね、この女の子は。
一同:(笑)。
渥美:まあ、確かに存在感の薄いというか、可哀想な男の役ではあったね。少女がお父さんと対峙する描き方は考えなかったの?
安川:私としては、これでも対峙しているつもりだったんです。途中でふたりの仲は決定的に相容れない部分が露わになるんで、そこで女の子がどういう行動を取るのかがこの映画の大事なところかなと思っています。
鈴木卓爾さんには現場でどのような演出をしたんですか?
安川:まず、鈴木さんが脚本を読んで、役者として何が出てくるかを見させてもらいました。そのため、最初から演技の注文をつけることはありませんでした。

主人公の性格が変じゃない/男が情けない

渥美:安川監督の2作目『激写!カジレナ熱愛中!』(14)も、主人公の女がサゲマン女で、主人公とセックスしたら不幸になるという、男のひとが可哀想な話だったね。ただ、あれも冷静に考えたら、主人公の女がぶっ飛んだタイプの人であるというわけではないよね。
安川:そうなんです。まあ基本的には幸せになりたい普通の女の子だと思うんです。ただ特殊な状況に身を置かれているだけで。
渥美:両作品とも、主人公が変わった人ではないというのと、男がだいぶ情けないっていう共通点があるよね。
安川:それが私の課題で…。女性を描きたいという気持ちが強かっただけに、男性を描くということをしっかり考えてこなかったのかなと思います。ひとから言われたんですけど、この世に女も男もいる以上、男性も描かなければ女性を描いたことにはならないよ、って言われて。
渥美:でも、男なんてどう描いても情けなくなるのは…、仕方ないのかもしれない。
一同:(笑)。
渥美さんのgojoブログで『Dressing Up』について、若いのに映画が落ち着いていて、むしろ落ち着きすぎなんじゃないかなと書かれていましたよね?
渥美:そうね。『Dressing Up』の演出があまりにもしっかりしているから、もっとわけわかんない映画でも見れたのかなって。カメラマンは誰だったの?
安川:三宅唱監督作品『Playback』などを撮影された四宮秀俊さんです。
画面も落ち着いている印象がありましたね。
渥美:そうそう。
安川:四宮さんは経験値も高い先輩でしたので流石でしたね。
『Dressing Up』の現場はどうでした?
安川:それが、監督をやられている方ばかりがスタッフにいる現場だったので、見られているという意識が働いてしまい、余計な緊張ばかりしていました。いま、映画を撮れる機会って本当に貴重で、一回、一回大事にしなくちゃいけないのに、この時は「どう見られているか?」という意識が邪魔していて、私バカだったなって…。
渥美:監督だらけはちょっとキツイね。

女性を描くということ

草野なつか監督(『螺旋銀河』)、岨手由貴子監督(『グッド・ストライプス』)、竹内里紗監(『満ちていく』)など、映画に出てくる女性の自由度が高い作品が増えてきていますよね。
渥美:たしかに。メジャーでは難しいかもしれないけど、少しずつ映画界が変わってきている感じはするね。ちょっと前に男たちが撮っていた自主映画よりも、女性を描くという観点では面白くなってきているんじゃないかって思う。
女性監督進出の理由にはカメラが軽くて女性でも扱いやすくなったからというのもある気がしています。
安川:そもそも映画って撮ろうと思って撮れるようなものじゃなかったと思うんですけど、私が学校に入った時からは既にデジタルだったので、軽いし扱いやすく、案外できるものだなっていう実感はありました。
渥美:たまに私の家をロケーションとして提供することがあるんだけど、女性が監督でそれ以外のスタッフが全員男性だったりすると、ちょっと監督が肩身狭そうにしてたりして。それはよくないなーと思ったりしたな。一概に言い切れないところはあると思うけど。
安川:たしかにそういうのはあるかもしれませんね。
それだからか、女性監督の方がガッツがある気がしますけどね。
安川:たしかに。知り合いのカメラマンが「女性の方が圧倒的に粘る」と言っていましたね。
安川監督も結構粘るタイプですか?
渥美:なんか、感じ的には頑固そうやな(笑)。
安川:『Dressing Up』はスケジュールがタイトだったので、そこまで粘れませんでしたけど、『カノジョは大丈夫』という作品では、主演の前野さんが求めれば期待以上に応えてくれる俳優だったので、どんどん欲がでてきちゃって、たくさんテイクを重ねました。

「次はベタベタな恋愛ものをみてみたいな」(渥美)

『Dressing Up』や『激写!カジレナ熱愛中!』を見比べると表現の振り幅が広いですよね。安川監督が今後挑戦してみたい映画のジャンルなどはあるのですしょうか?
安川:ホラーも好きですし、コメディーも好きですし、ジャンルに拘りはないので全ジャンルに挑戦したいんですけど、そんなに器用なタイプではないはずなのでどれか絞っていかないといけないとは思っています。ただ、いつも映画を撮る上で念頭に置いているのは、その映画にあったルックを目指すということです。
渥美:ベタベタな恋愛ものもみてみたいな。ラブコメでもいいし、しっかりとした恋愛ドラマでもいいし。
安川:ドロッドロの恋愛ですか?
渥美:そうだねぇ(笑)。ドロドロ系の映画を撮る女性監督はあまりいないからね。「この監督、嫌な女っぽいな」という映画撮って欲しいな。
一同:(笑)。
安川:是非、挑戦したいです。
今考えている、次作の構想などありますか?
安川:次の作品も少女が主人公で、まだ構想段階なのですが…。永遠に年をとらないという設定の役を演じる女優の女の子が、配役の気持ちがわからなくて、たまたま出会った男の子に、見た目は14歳でだけど本当は27歳なんだ、という嘘をつき、少女は騙し続けられるかという話を考えています。
渥美:へえ!おもしろそうだなあ。安川監督は日常の些細なドラマみたいなものには興味ないの?今まで、全部フィクションの濃度が高いから。
安川:些細なドラマの方が自分の演出的にはあってるとおもうんですけど、自分の中から出てくる話がどうしてもフィクションの度合いが強いもので、そこの葛藤に…悩んでいます。
渥美:悩んでるんだね(笑)。いや、最近珍しい監督だなって思って。

「映画に対して女性は一回怒った方がいい」(安川)

安川:最後にズバリ聞いてもいいですか?渥美さんは、男性が女性をロマンで描くことはダメだと考えていますか?
渥美:「こんな女おるわけないやろう」みたいなのはちょっと嫌だな。女にとんでもない幻想を抱いている作品もたまにあるから。
安川:ハリウッド映画は結構女性を鋭く描いていると思うんですけど…、なんで日本の男性監督ってこんなにもロマンに傾倒してしまうのかって思うことがあります。
渥美:男が困った時に都合よく助けに来てくれたりね。
安川:だから女性は一回怒った方がいいと思うんですよ。そうじゃないと、映画が良くなっていかないんじゃないかなって。男性目線のロマンにばかり傾倒していると、新しい映画が生まれない気がしていて。
どんなふうに安川監督は怒るというかムーブメントを起こしていくんですか?
安川:口で言ったところで、変わらないと思うので、自分は自分で淡々と映画を作って表明していくしかないんじゃないかなって考えています。
渥美:なんか、男の幻想ばかりの映画にむかついていたひと、安川監督をはじめ草野監督や竹内監督とかが、私たちの映画には間違ってもそんな都合の良い女は出てこないという怒りを静かに表明しているんじゃないかなって気がするね。
お客さんも、そういうリアルな女性像を求めているかもしれませんね。
安川:女性に人気がでないとヒットしないというのも聞きますしね。『Dressing Up』も本当は女性に向けてもっと宣伝していきたいんですけど、まだ、男性に向けたプロモーションになっている気がしています。
女性と男性で『Dressing Up』の受け方は違うんですかね?
渥美:どうなんだろうね。でもなかには、こんな若くて可愛い監督がこんな映画を撮るなんて!みたいな受け方をする男性もいたりするからね。
安川:そういう関係ない部分を取り上げられてしまうのは、あんまり好きじゃないんですよね。
女性の方にも『Dressing Up』を見ていただきたいですね。
安川:そうなんです。そういうこともあって、渥美さんとお話したっかったんです。
男性でも、リアルな女性を発見したくて見にくるお客さんもきっと多くいらっしゃいますよね。
安川:最近、今まで女性をロマンで描いてきたけど、それだけじゃだめだと思ってるという相談をうけたことがあって。
渥美:いいことやんか(笑)。
安川:ロマンチックな描写も好きなので、全否定はしたくないのですが、でもやっぱり見ていて男性が描く理想の女性と、映画を見ている自分とのギャップに疎外感を感じることも少なくなかったので、映画も少しずつ変わってきてるんだなって思うと嬉しいですし、私は淡々と自分の映画を作っていけたらと思っています。
安川監督の今後も期待しながら、『Dressing Up』を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

安川有果監督作品『Dressing Up』シアター・イメージフォーラムにて絶賛レイトショー公開中!

■トークイベント
8月28日(金)渥美喜子(映画評論家)、草野なつか(映画監督『螺旋銀河』)、安川有果
■上映館
シアター・イメージフォーラム(住所:東京都渋谷区渋谷2-10-2)
http://www.imageforum.co.jp/theatre/
■公式サイト
http://dressingup.jp/
■公式Facebook
https://www.facebook.com/DressingUP2015
■公式Twitter
https://twitter.com/DressingUPmovie
■安川有果監督作品『カノジョは大丈夫』
LOAD SHOWにて販売中!ご購入はこちらから。
http://loadshow.jp/film/11
取材・構成・写真:島村和秀
『Dressing Up』

【Story】

桜井育美は父親と二人暮らしの中学一年生。授業で「将来の夢」について考えるという課題が出るが、自分の未来を想像することが出来ない。「母親のような立派な人になりたい」というクラスメイトの発言を聞いた育美は、死んだ母親がどういう人だったのか興味を持ち始めるが、ある日、隠されていた母親の過去を知ってしまう。

(2012 / カラー / 68分)

監督・脚本・編集:安川有果

出演:祷キララ、鈴木卓爾、佐藤歌恋、渡辺朋弥、平原夕馨、デカルコ・マリィ

撮影:四宮秀俊/照明:大嶋龍輔/録音・音楽:松野泉/美術:塩川節子/衣装:金井塚悠香/メイク:北川恵里/特殊メイク:仲谷進(KID’S COMPANY) /制作統括:濱本敏治/制作:横田蕗子、草野なつか /助監督:福田良夫、清水艶/チラシロゴ・イラスト:小林エリカ/アートワーク:寺澤圭太郎 /WEB制作:久保渚、制作・配給:ドレッシング・アップ/配給協力 トラヴィス/宣伝:細谷隆広、岩井秀世
  • 『安川有果(やすかわ・ゆか)』
    1986年、奈良県生まれ。 大阪美術専門学校で映像制作を学び、'10年短編映画『カノジョは大丈夫』(出演:前野朋哉)がオムニバス企画“桃まつりpresentsうそ”の一本として渋谷・ユーロスペースにてレイトショー上映される。この作品を参考作品に、'11年大阪映像文化振興事業CO2(シネアスト・オーガニゼーション・大阪)に出した企画が通り、『DressingUp』(出演:祷キララ/鈴木卓爾)を監督。主演の祷キララがCO2新人俳優賞を受賞した後、TAMA NEW WAVEではグランプリと最優秀女優賞を受賞。『激写!カジレナ熱愛中!』(出演:中村愛美)が2014年3月にポレポレ東中野にて劇場公開。
  • 『渥美喜子/gojo』
    1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。 gojogojo.comで映画日記を更新中。