LOAD SHOW

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♯56「映画と私」和田春(ミュージシャン)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

音楽の記憶。一日一曲作っていた学生時代

和田春(以下、和田):作曲家の和田春です。作曲だけでなく、歌ったりレッスンやったり音楽にまつわる色々なことをしているので最近は“音楽屋”と言ったりもしています(笑)。

自分が音楽の道を選んだのは生まれた環境も影響していると思います。父親は医者なのにクラシックの作曲家を志していたので、生まれた時から家にピアノがあったんですよ。それで父親は仕事の傍ら作曲をしていて、幼な心に「親父が作れるなら僕にも作曲できるんじゃないか」なんて思ってましたね。そんな幼少期からの音楽との関係が今につながっていると思います。

はじめての創作は曲ではなく歌詞でした。中学生1年生の時だったとおもいます。当時、詩人の銀色夏生さんが流行っていて、僕も感化されて星空を見上げながら歌詞を書いたわけです(笑)。それで中学校2年生の時に、学校主催のイベントに出演することになって、それにあわせてはじめて作曲もしました。今思うと曲も大好きな安全地帯のパクリですけどね(笑)。

高校生くらいになると周りでバンドをはじめる友達が現れたりするわけですが、僕はたまにサポートで入るくらいでバンド活動はあまりしませんでした。基本的に根暗なんで、人前で演奏するより夜な夜な打ち込みをするのが好きなのかもしれません(笑)。

その後、大学進学で上京するわけですが、今でも不思議なのは親の嘱望していた方向に進まなかった僕の大学進学祝いに音楽機材やらパソコンを買ってくれたんですよ。要するにDTM(デスクトップミュージック)できるものを揃えてくれたんです。自分の親ながら変わってるなと思いますよ(笑)。その恵まれた創作環境のお陰で学校は試験だけで、“毎日1曲作る生活”を送るようになりました(笑)。

当時、巷ではクラブミュージックが主流で、週5、6くらいのペースでクラブに通っていましたね、大学生が(笑)。そのうち自分でイベントを主催し、そこで自作の音楽を展開するようになり、そうしているうちにレコードメーカーの人やプロミュージシャンの方々と知り合い、所謂「業界」に入り込むことに。そして気がつけば…、現在に至っていました。

最初の映画の記憶

和田:映画の記憶として今でも鮮明に覚えているのは『ランボー3/怒りのアフガン』(監督:ピーター・マクドナルド/88年)でした。忘れもしませんよ、あまりの興奮に鼻血出したんですもん(笑)。それまではマンガ祭りなどでアニメ映画を見たり、祖母が「男はつらいよ」シリーズが好きでよく劇場に連れて行ってくれたんです。でも「ランボー」はそういった映画体験とは全然違くて。センセーショナルだったんじゃないでしょうかね(笑)。

ちなみに、記憶が確かではないのですが一番最初に見た映画は『スター・ウォーズ』だったと思います。幼稚園の時はアメリカに住んでいてロードショーされていたんです。映画館の記憶はほとんど無いんですけど、その時からジョン・ウィリアムズ(映画音楽家)に憧れていました。また、これはこの間親戚から聞いた話なのですが、高校時代に将来の夢を聞かれて「映画音楽家になりたい」と語っていたそうです。

20代半ば辺りでしたか、Vシネマの音楽を担当する機会があったんですが、自分の描いていたものとはかけ離れていて、当然「スター・ウォーズ」とは行きませんでしたね(笑)。ああいう派手なオーケストレーションでもなければメロディアスに謳うものでもなく、SEに近いものだったのでしたから。

お互いがお互いの影響をしあう幸福な関係

和田:その後あるバイト先で、ハマ(映画監督 濱口竜介)などがいる東大の映画研究部の人たちと出会って映画音楽に対する価値観が変わりました。いや、そこで人生が変わったといってもいいかもしれませんね(笑)。音楽への考え方もそこから変わっていったので。

彼らとの出会いで一番衝撃的だったのは、人に合わせることなくしっかり自分の意見を発言することですかね。いつか、当時はまっていた映画の話をしたら、それをことごとく否定されてしまったこともありました。

そんなメンバーと夜な夜な映画談義をしていくわけなのですが、そこでは知らない映画や監督が出てきて、自分もよりディープな映画を見ていくようになっていく。すると、更に映画好きが映画好きを呼んで、より様々な刺激的な意見が飛び交う。今思うと、その時は僕にとってお互いがお互いに影響をしあう幸福な時でした。

また、その縁がキッカケで濱口竜介監督の映画『記憶の香り』(06年)の音楽を担当しました。ハマからは「あまり音楽を使わないかも」なんて言われていたんですけど、結局「全部使ってしまいました」って言われて、映画を見たら本当に全部使われている。ハマは当時「映画には、究極音楽はいらない」とよく言っていたので、それはハマにとっても挑戦だったみたいです。

「映画に音楽はいらない」と言った発言の意図は、音楽によって演技が邪魔をされるということだったと思うのですが、濱口監督の話を聞いて、映画を見れば見るほど、効果的な映画音楽ってなんだろう、と混乱してくる。だからもっと研究していく。すると、どんどん僕の映画音楽への淡い期待が薄くなっていくんですよね。結局、自分の好きな映画はハマがいう通り、あんまり音楽が入っていない映画なんですよ(笑)。勿論、「スター・ウォーズ」シリーズなどの大作も好きですけど、自分の趣向がハマと出会って変わっていったのでしょうね。

「演奏も芝居と同じで情感を込めすぎないほうが良い時もある」(和田)

和田:それからしばらく映画音楽から離れていたのですが、ある時突然、ハマから電話がかかってくるんです。「明日必要な音楽がある」って(笑)。そして「非常に申し訳ないのですが、これは和田さんにしか頼めない。他にいないんだと」と。僕にとっては師匠のような存在のハマに言われたら断れるわけにはいかないですよね(笑)。

注文があったのはハマが監督する映画『不気味なものの肌に触れる』(13年)で使用する「ジュ・トゥ・ヴー」(Je te veux/作曲:エリック・サティ)だったんですけど、僕は初見で演奏できるわけではないので、突然頼まれてもすぐには弾けない。それだから、ハマからもらったリファレンス音源を聴きながら、その演奏の強弱やテンポ感、リズムを参考に4小節ごとに打ち込んでいきました。

ただその時点では映画も見ていないので、どのように使われるのかわかっていなかったんです。それで映画を見たら、とんでもなく大事な場面で使われている。作曲の注文ではなかったにしても、明日必要とかいうレベルじゃない重要さ(笑)。濱口監督はこんな大事な音楽を前日に頼んできたという、ほんととんでもない人だなあと思いましたよね。

しかし今思うとあの映画に関してはスケジュールに余裕がなかった方が良かったのだと思います。時間があれば生演奏にしていたと思うのですが、4小節毎に繋ぎ合わせていくという作り方だったからこそ、無機質で違和感のある感じが出せて、結果それが映画とマッチしたのだと思います。時間があれば、生演奏で余計な情感をこめて弾いていたと思うんですよ。

演技論ではないですけど、芝居しすぎちゃダメというのは演奏にも精通するんですよね。『不気味なものの肌に触れる』に関しては時間がなかったので、ある意味、感情を出す余裕なんてなかったわけですよね。

「好きな監督の要請なら無償でも関わりたい」(和田)

和田:今後も映画音楽の誘いがあったら、自分の音楽人としてのキャリアなんて関係なく無償でもやりたいと思っています。そのかわり、映画は選ばせていただきますが(笑)。要するに、僕は単純に映画のファンなんですよね。自分の好きな監督の映画に名前がクレジットされるだけで嬉しいんです。

音楽の仕事をしていると自分にとって興味がない仕事も引き受けなくてはいけないこともありますからせめて大好きな映画という部分で関わるなら、自分の好きな映画だけをやるという突っ張った姿勢でいてもいいのかなって。その代わり報酬はいりませんが。僕は競馬も好きなんですけど、ファンファーレの音楽制作なら無償でもやりたいと思っています。そんなファン精神と一緒ですね。

あの時の一本

ヴィム・ヴェンダース監督作品『パリ・テキサス』(85年)

和田:ハマなどに勧められた一本で、初めて見たインティペンデント系の映画でした。それは、言葉にするのは難しいんですけど、なんか初めて映画を見た感じがあったんですよね。今の映画の考え方を作ってくれたのは、人としてはハマなど東大の映画研究部の友達たちですが、作品としては『パリテキサス』だと思っています。
□濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』配信中!
https://loadshow.jp/films/8
聞き手:岡本英之
構成:島村和秀
『不気味なものの肌に触れる』

©LOAD SHOW, fictive

2013年/HD/カラー/54分/日本

監督:濱口竜介/プロデューサー:北原豪、岡本英之、濱口竜介/脚本:高橋知由/撮影:佐々木靖之/音響:黄永昌/音楽:長嶌寛幸/助監督:野原位/制作:城内政芳/ヘアメイク:橋本申二/楽曲演奏:和田春/振付:砂連尾理/製作:LOAD SHOW, fictive

出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、瀬戸夏実、河井青葉、水越朝弓、村上淳
【内容】構想段階にある長編『FLOODS』に向けての壮大なる予告編—というにはあまりにも才気と魅力に満ちた中編。主演は監督の濱口竜介とは初タッグとなる染谷将太、『PASSION』以来5年振りの渋川清彦、『THE DEPTHS』以来3年振りの石田法嗣。また、河井青葉、瀬戸夏実、水越朝弓、更には村上淳が出演するなど、豪華俳優陣が脇を固めている。
千尋(染谷将太)は父を亡くして、腹違いの兄・斗吾(渋川清彦)が彼を引き取る。斗吾と彼の恋人・里美(瀬戸夏実)は千尋を暖かく迎えるが、千尋の孤独は消せない。千尋が夢中になるのは、同い年の直也(石田法嗣)とのダンスだ。しかし、無心に踊る彼らの街ではやがて不穏なできごとが起こり始める…。
  • 『和田春(わだ・はる)』
    2000年 大学在学中よりプロの作曲家として映画音楽やインストゥルメンタルなどを手がけ、プロとしての活動を始める。 同時に、クラブシーンでのイベント主催や、それに関連する音楽提供なども手掛ける。2010年国連の友「Music Earthist 2009」のオープニングアクトを務めた「ザ・コラボレーションズ」の キーボーディストとしてメジャーデビュー。 その後、メジャー・インディーズに限らず、数々のアーティストのボイストレーナーとして活動を始め高い評価を得る。濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』では映画音楽を担当。自身のブログ「クレーマークレーマーお春の『一刀両断』」では映画評も定期的に投稿している。