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♯54「映画と私」梶原香乃(女優)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

高校から演技を学びにイギリスへ留学に

梶原香乃(以下、梶原):女優の梶原香乃です。子供の頃は『風と共に去りぬ』(監督:ヴィクター・フレミング/39年)のヴィヴィアン・リーや、父親に連れられて観に行った「STAR WARS」のナタリー・ポートマンに憧れて、私もスクリーンの向こうに行きたい!と思っていました。強くて、しなやかで、何があっても前を向いて歩いていく女性像に惹かれたのだと思います。子供ながらヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラの真似をしていたのを覚えています(笑)。また、小さい頃から日本舞踊やバレエ、フィギュアスケートを習っていて、多分、身体を使って表現することが好きだったのだとも思います。

人生の転機となったのは、高校からのイギリス留学でした。きっかけは外国への好奇心と、世界基準の仕事ができるようになりたい、俳優としてちゃんとした訓練を受けたいと思ったことです。イギリスの高校は必修科目が無く、基本的には自分の学びたい専門教科を目的に沿って科目できるんですね。私は演劇学校に入りたかったので、高校のうちからドラマ科目を選択して演技を重点的に勉強していました。

プライベートの無い、芝居漬けの大学生活

梶原:イギリスにはいわゆる名門と言われる演劇学校が22校あるのですが、そのうちのどこかの学校で3年間みっちり勉強しないと俳優とみとめてもらえないところがあるんです。でも、どの学校も20数名しか合格できない狭き門で。私は浪人して2年目に入学することができました。試験は4次まであって、一次はシェイクスピアと現代戯曲のモノローグ。2次もまた一次と同じ内容の試験で、3次は協調性なども含めて見られるワークショップ。4次で1~2日がかりのワークショップがあってと、結構大変なんですよ。

入学してからは基本的に芝居漬けの毎日でした。噂通り学校生活にほとんどプライベートはなくて、たとえ休みの日があっても調べなくてはいけないこと、読んだり、覚えなくてはいけない台本など、やらなくてはいけないことが山ほどあるので実質、学校以外の時間はほとんどありませんでした。特に私はネイティブではないので、読むのも覚えるのも皆より時間がかかり、余計にそうだったのかもしれません。

「俳優として自分を律する姿勢を忘れないようにしています」(梶原)

梶原:イギリスは俳優に対しての考え方が日本と微妙に違って、日本との違いに驚くことが多くありました。例えばイギリスの俳優は映画と演劇を分けて考えないんです。日本は映画俳優、演劇俳優と多少区別して考えられたりしますが、イギリスはどちらも根本は同じだと考えらえているので、映画も演劇も両方できて「俳優」なんです。

他にも、イギリスの俳優は自分を厳しく律し続けるという価値観が強くあって。ある学校の入学試験では試験官に「これからアスリートになると思いなさい。俳優になるということは、オリンピック選手を目指すのと同じこと。あなたと同じくらいの見た目で同じくらいの才能がある人は何万といる。だから、毎日役者として生きることを意識しなきゃだめです」と言われたことを今でもよく覚えています。ただ、それは体育会系なノリではなく、雰囲気としては自らを静かに律する修行に近いかもしれません。それだからイギリスの俳優さんって高僧のような達観している感じの人が多いように思います。

イギリスでの学校生活で学んだことは多くありますが、一番はお芝居に対して敬意を払うという考え方です。学校では、幼少の頃から俳優で演技教師のウタ・ハーゲンさんの傍で育った先生から学んでいたのですが、ウタ・ハーゲンさんの著書にもある「リスペクト・フォー・アクティング」(「“役を生きる”演技レッスン ──リスペクト・フォー・アクティング」/フィルムアート社)という、お芝居に対して敬意を払うことを最初に教わり、それが今でも私の根本にあります。

“お芝居に対しての敬意”というのは、芝居という一つの表現方法に真摯であるということ。追求をやめないこと。それは、作家や役に真摯であることでもあり、自分自身に真摯であるということでもあると思います。イギリスでは俳優に対して職人的な見方をするので、だからこそ敬意を払う対象でもあり、俳優は自分を厳しく律し続けるという価値観を持っているのです。私も、少したるんできているかもしれませんが、俳優として自分を律する姿勢を忘れないようにしなければ、と今喋りながら反省しています。

その後、イギリスではなく日本に帰ってきて仕事をするようになったのはある映画がきっかけでした。大学卒業してすぐ日本を舞台にしたハリウッド大作映画のオーディションに受かり、それが初めて受けたオーディションだったこともあり、とても喜んでいたのですが、その映画の撮影が大幅に伸び、合わせて私の役のエピソードもカットになってしまったんです。色々な事情があってのことだと理解しているし、キャリアの最初に映画の洗礼を受け学んだこともあって今では感謝しているのですが、当時はすごく悔しくて…。世界で仕事をしたくても、絶対にカットされないような役を得るにはまずは日本で成功しないと駄目なんだ、と感じたんです。日本で活躍することはまた別の意味ですごく難しいことだと後に分かるんですけどね。若かったんだと思います。

映画を信じて、肩の力を抜いて演じる

梶原:『新しき民』の役を頂き初めて脚本を読んだ時は、本当に心を動かされました。私は色々な人種や価値観の混ざり合う中で思春期を過ごしたので、自分が日本人だという意識は強い方だと思います。また海外にいると、自国の歴史や文化を知っているのが当たり前なので、日本の文化や歴史を少しは勉強していました。そんな訳で学生時代から、いつか時代劇をやりたいな、とは思っていたんです。ですがそれ以上に、こんなにまっすぐに人間と世界を見つめている作品に参加できて幸せだと思いました。

学生のときの教えで、私はどんな作品でも役が決まったらその人物を徹底的に具体化します。時代の情勢だったり、役の人物が朝から晩までどんな生活をしていたのかなどを調べたり想像したりして具体的にしていくんです。なので、『新しき民』に関してもまず文章で調べ、文字だけでは実感にならないので、色々な古い建物を周って、写真を撮ってはノートに貼って時代の実感を少しでも取り入れられるようにました。他にも、私が演じる“たみ”は妊婦なので、それを身体から実感したくてお米を入れたリュックサックを前にしょって、コートを着て山手線を一周したりしていましたね。

現場では、山崎監督って感情を全然出さないんですよ。何を考えているのか分からないんです(笑)。ですから撮影初日は演技の方向性があっているのか、どこかで山崎監督の反応を伺っていました。多分、自己評価としての検閲に自分の衝動が負けちゃっていて、少し不安だったのだと思います。

でも2日目から、「ダメならNGって言ってもらえるのだから、監督のOKを信頼してその場で起きていることに素直になろう」と吹っ切れ、それからは肩の力を抜いて楽しくできるようになりました。実際に完成したものを試写で観たときは自分の演技に「ダメダメだー」と落ち込んだりもしましたが、岡山上映のタイミングでもう一回観に行ったら今度はちゃんと映画として見られて、「ああ、いい映画だな」ってしみじみと感動してしまいました。

はらわたのある映画女優になりたい

梶原:女優としては、日本だけでなく世界の様々な国で、様々な価値観を持った人たちと仕事がしたいし、幅広い役を演じたい思っています。私は人間を描いた映画が好きなので、自分もはらわたのある、人間らしい女優でいたいと思っています。また、俳優として撮影にだけ参加するのではなく、チームの一員として一から作品に関わっていくということもしてみたいです。現場が終わってしまえば完成までお別れというのは寂しいので、始まりから終わりまでしっかり作品と付き合うことをしたいんです。

そういった映画関係のお仕事の一環として「Indie Tokyo」という団体で世界の映画事情を配信したり、世界中のインディペンデント映画の配給を手伝ったりしています。外のムーヴメントをキャッチして配信するのって、日本の映画界にとっても大事なことだと思うんです。Indie Tokyoからはまもなく『若き詩人』(監督:ダミアン・マニヴェル/14年)という映画が公開となりますので、そちらも是非見に来てくださると嬉しいです。そしてもちろん『新しき民』、一人でも多くの人に届いて欲しいと願っています!皆さん観に来てください!

梶原香乃出演作品『新しき民』
2015年12月5日(土)より渋谷ユーロスペース、12月26日(土)より大阪シネ・ヌーヴォにて公開!

◼渋谷ユーロスペース上映スケジュール︎
・12月5日(土)~18日(金) 10:20~12:30
・12月19日(土)~25日(金) 21:00~23:00
http://www.eurospace.co.jp/
◼︎上映イベント
12月12日(土)10:20の回上映前 舞台挨拶
登壇ゲスト:川瀬陽太さん
◼︎公式サイト
http://atarashikitami.jimdo.com/
◼︎公式Twitter
https://twitter.com/ikkinoeiga
取材・構成:島村和秀
『新しき民』

【DCP/117分/モノクロ・パートカラー/1:1.5 Half Vision/5.1ch/2014年/© 2014 IKKINO PROJECT】

脚本・監督:山崎樹一郎 

出演:中垣直久、梶原香乃、本多章一、佐藤亮、瓜生真之助、古内啓子、hyslom、杉井信和、藤久善友、ほたる、川瀬陽太

撮影:俵謙太 照明:大和久健 俗音:近藤崇生/美術:西村立志/組付大道具:宇山隆之/助監督:福嶋賢治/メイク・結髪:中野進明/衣裳:石倉元一 /アニメーション:中村智道/音楽:佐々木彩子/スチール:内堀義之/踊る野良着:別府由紀子/勝山はりこ:高本敦基/宣伝美術:山本アマネ/宣伝:contrail

プロデューサー:桑原広考、黒川愛、中西佳代子

製作・配給:一揆の映画プロジェクト
ストーリー:治(じ)兵衛(へい)は出産を控えた妻・たみと共に山中の村で静かに暮らしていた。ある日、たみの兄から蜂起すると聞き、その場に参加するよう促される。渋々従う治兵衛。集まった大勢の農民たちを前に、藩は要求を受け入れる。それで事態は治まったかに見えた。しかし数日後、一部のものたちが起こした打ちこわしをきっかけに武力衝突へと拡大した。だが圧倒的な藩の力を前に、一揆衆はひとりまたひとりと倒れていく。その渦中、治兵衛はすべてを投げ捨て村から逃げることを選んだのだが――
  • 『梶原香乃(かじわら・かの)』
    東京都出身。高校よりイギリスに留学し、現地校を卒業後、演劇学校を受験。英国名門CDS認定校のEast15 Acting School卒業。3年間俳優訓練を受ける。ロシア国立舞台芸術大学に短期交換留学も経験。翻訳書に雄松堂書店『俳優になるということ』がある。現在は東京を拠点に活動。