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♯39「映画と私」石井清猛(日本映像翻訳アカデミー株式会社 メディア・トランスレーション・センター チーフ・ディレクター)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

-講師でもあり、エージェントのディレクターという立場でもあります-

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)という会社に勤めていて、所属はメディア・トランスレーション・センター(MTC)という部署になります。JVTAでは翻訳者を育成する学校を運営していまして、そこで講師として字幕や吹き替えといった映像に関わる翻訳のスキルを教えています。MTCというのは学校を修了した方々の就業を支援するための翻訳エージェント部門で、僕はその部署に所属していますので、スクール部門の講師であり、同時に翻訳エージェントのディレクターという立場でもあります。
学校での授業に関しては、英語から日本語へ、もしくは日本語から英語へというのがメインですが、エージェント部門での仕事は、その他のアジア言語やヨーロッパ言語についても翻訳案件を取り扱っています。ここ数年、日本発のコンテンツを海外で配給・配信したり、フランクフルトのニッポン・コネクションやロサンゼルスのLA EigaFestなど日本映画祭をはじめとした、海外のイベントに出品したりするケースでお手伝いをする機会が増えていて、日本語から英語への翻訳案件が非常に増えていますね。
ニッポン・コネクションでは、ほとんどの作品はドイツ語でなく英語字幕付きで上映されているのですが、これはドイツの観客が英語で理解できるということと、もう一つ、この映画祭ではインディペンデントの作家の作品が多いのですが、彼らにとってドイツ語字幕っていうのはコストの面と品質管理の面の両方にも結構ハードルが高いため、英語字幕になっていますね。日本で映画を作っているクリエイターの人達が海外に目を向けた時に越えなければいけない壁としてやはり言語があって、いくら良い作品でもちゃんとした字幕がついていないとなかなか正当な評価ってされないんですね。JVTAでは、その部分を補うような仕事をしています。

-ジャッキー・チェンやジョン・ヒューズ、デヴィッド・リンチに魅了された学生時代-

小学生低学年の頃に地元の広島の映画館で観て強烈に印象に残っている作品が、『キングコング』(1976年/監督:ジョン・ギラーミン)ですね。ジェシカ・ラングが半分水着みたいな格好じゃないですか?それで巨大なゴリラの手の平で彼女が叫んでいるっていう映像は記憶の中に刻みつけられています。
小学校高学年から中学生にかけては、ジャッキー・チェンの作品に夢中でした。肉体を使ったアクロバティックなアクション映画が好きでしたので、そういう映画を学校の友達とよく観に行ってましたね。高校生になると映画を一人でよく観に行くようになりました。その頃は、ジョン・ヒューズの作品に代表されるアメリカの学園ものが大好きだったんですよ。『すてきな片思い』(1984年)や、『ブレックファスト・クラブ』(1985年)、『フェリスはある朝突然に』(1986年)などですね。ジョン・ヒューズの映画で、映画を観ている時のドキドキ感っていうのを覚えたんです。
広島にサロンシネマという映画館がありまして、ハリウッド映画とは違う趣向の映画を上映してたんですね。そこではマキノ雅弘監督の昭和残侠伝シリーズなどの特集上映もしていて、観てかっこいいと思いましたね。基本は『ダイ・ハード』とかハリウッドのロードショー作品が好きではあったんですが、そういう映画もあるんだっていう発見が楽しくて高校時代は色んな映画を観ていました。その後、僕の中でアート系のムードと、ハリウッドのエンタメ性の両方がバシッと混ざった存在がデヴィッド・リンチでした。高校卒業して、広島から東京に移住してから池袋シネマ・ロサでデヴィッド・リンチの『ブルー・ベルベット』(1986年)と『ワイルド・アット・ハート』(1990年)の二本立てを観たんです。それから例に漏れず『ツイン・ピークス』に夢中になり、それからしばらくデヴィッド・リンチの世界にどっぷりと浸かってましたね。ジャンルやスタイルが何であれ、映画の世界に没頭する喜びは同じなんだって事をデヴィッド・リンチの作品から教わった気がします。

-映画の登場人物が喋る言葉を覚えたい-

フランスのヌーヴェルヴァーグ作品も知ってはいましたが、はじめは単なる「かっこいい」っていうイメージでしか見てなかったんですよ。蓮實重彦さんや山田宏一さんの本を読んでから、また映画に対する見方っていうのが変わってきましたね。映画っていうのはエキサイトして移入してこそ面白いっていう感覚だったのですが、そもそも映画って現実の複写じゃないですか?それに何でこんなにも惹かれるんだろうかっていうのを、蓮實さんや山田さんが説明してくれた気がするんですね。映画にかかわる仕事に就いている人は、そういう方々の本をある意味教養として絶対読むべきだと思いますね。
大学生の頃は、映画を観たり、音楽聴いたりっていう事ばかりしていたので、親不孝者のロクでなしという感じでした(笑)。卒業してからは、仕事を転々としましたね。YMCAで子供に水泳を教えたり、国際会議やイベントなどの企画運営もやったり。ただ、今やっている翻訳や通訳といった仕事にたどり着くまでも、割と英語を使う職場は多かった気がします。
英語を好きになったのは、アメリカ映画など、一人で映画を観に行くようになってからなんですよ。登場人物が喋る言葉を覚えたいって思ったんです。VHSを再生して、その音をテープで録音するんですよ。そのテープを何回も聞いて覚えて、それを続けていれば、いつかネイティブになれると思ってた(笑)。英語自体は学校の勉強で覚えたというよりは、そういう体験が根っこになってるんじゃないですかね。本当に好きでやっていたってだけなんですけどね。

-これ以外の仕事はやりたくないって思ったんです-

英語での会話に関しては、大学生の頃に留学生も結構いましたし、英語での授業もあったのでそれなりに英会話に触れていたとは思うのですが、実際に英語でコミュニケーションするようになったのは社会人になって仕事で使い始めてからですね。色んな国の色んなアクセントの人と仕事をする機会もありました。その後、34歳位の時に、色んな仕事をしてきたけど、ちゃんと手に職をつけるのも良いかもって思ったんです。その時に思い出したのが、翻訳だったんです。そう思って翻訳学校について調べた時に、字幕の学校があるじゃんって思ったんですね。これはいいかもって思ってJVTAに入学しました。
平日は会社員として仕事をして、週末に学校に通う生活を1年続けて、終了後に、少しずつ仕事の依頼を受けるようになったんですね。最初にやったのがMoto GPの世界を描いた『Faster』というドキュメンタリーでした。印象に残っているのはやはり好きな音楽もので、R・ケリーのDVDの字幕や、アリシア・キーズのMTVアンプラグドでのライブなど、すごく思い出深いです。最初は映像翻訳って、趣味を生かして多少の収入になる副業的な感覚で続けていくつもりだったのですが、1つ1つ仕事をこなしていくうちに、これ以外やりたくないって思い始めたんです。それで当時勤めていた会社を辞めて、少しフリーで仕事をしていました。それからJVTAでの仕事のお誘いがあって、いまに至ります。

-「分からなさ」にコミットしなければ翻訳は始まらない-

映像翻訳者として仕事をする立場から見ると、素材の内容で選り好みする贅沢はまったくないですね。会社のPRの社員のインタビューだろうと、トム・クルーズが出ている映画だろうと同じテンションでやらなければいけない。ただ映画っていうのはやっぱり胸躍りますね。それって単なる思い入れっていう事だけじゃなくて、作っている人も観る人も共通してそれぞれに思う「映画」に対して向き合っているっていう感覚があって、ちょっと緊迫感があるんです。そういうテンションで仕事と向き合えるっていうのが僕は好きなんですよ。
翻訳っていうのは「分かるように伝える」ものだと思っています。でも「分かるように伝える」前に、まず「分からなさ」にコミットしなければ翻訳は始まらないんだと最近感じています。分からないものを分かりやすく変える、みたいな話ではなくて、新しい映画や番組って、それがどんなものか分からないままとりあえず思い切って作品世界に飛び込まないと何も始まらない。作る側の人達と色んな共同作業をしたり、教室の中で映像翻訳を学ぶ人達と対峙したりする中で、気付いたことの1つです。
■日本映像翻訳アカデミー(JVTA) 公式サイト
http://www.jvtacademy.com/
   取材: 岡本英之
採録・構成: 川邊崇広
『日本映像翻訳アカデミー(JVTA)』
業界の第一線で活躍するプロの映像翻訳者を養成するスクール。輩出したプロは 約1000人に上る。併設するエージェント部門(東京/LA)では映画・テレビドラマなど エンターテイメント素材を中心に多様な翻訳案件を扱うほか、字幕版・吹き替え版の 制作など映像編集業務にも対応する。国内外の映画祭、映像イベントでの特別上映 プログラムやワークショップの実施などコラボレーション企画の実績も豊富。著書に 「はじめての映像翻訳」(アルク)などがある。公式Webサイト: http://www.jvtacademy.com/
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  • 『石井清猛(いしい・きよたけ)』
    企業研修会社、イベント・会議運営会社、人材派遣会社などを経て、2005年より1年間、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)に在籍。2006年に映像翻訳者としてデビューし、その後、MTCのディレクターとなって現在に至る。日本映像翻訳アカデミー株式会社 メディア・トランスレーション・センター チーフ・ディレクター。