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♯25「映画と私」黒川芽以(女優)

「テレビの世界にワープしたかった子供時代」

黒川芽以です。私は「映画」を見ることよりも子役としてお仕事をはじめたのが先でした。子供の頃の記憶は映画よりもテレビ番組の方が印象に残っています。当時は「テレビ」という箱の向こうの世界に行くにはワープして行くものなのだと思っていて……。「私もテレビの向こうに行きたい」とお母さんにお願いしたことが、デビューのキッカケです。
初めてのお仕事は「某そうめんメーカー」のCM出演で、自分が映るテレビを見ながらお母さんに「ほら、箱のなか入ってるでしょ」と言われて、「なるほど!」と妙に納得したのを覚えています。10歳でテレビドラマに出演して、映画には12歳で出演をしました。「俳優」という仕事を意識しないままにお芝居をはじめてしまったので、「演技」というものに対して無自覚的に挑戦をしていたなと思います。家族も、私の「向こう側の世界」への好奇心に応えようとしてくれただけですから、発声などの特別なトレーニングをさせられることもありませんでした。今振り返ると、母の粋な計らいがなければ、まずこの世界にはいなかったと思います。
小さな頃から「物怖じしない性格」とよく言われていて、あるとき舘ひろしさんと共演させてもらった際に、「演技上手いですね」とか言ってしまって(笑)。数年前に再会したときに「あのときはすみません……」と挨拶したら、「あれが君のいいところなんだよ」と優しく笑ってくださって、とても嬉しかったですね。
「俳優」という仕事に対して意識が変わったのは中学校1年生の時でした。NHK「ハート/月曜ドラマシリーズ」という作品に主演して俳優の陣内孝則さんと共演させてもらったのですが、その放映をテレビで見て、自分にできないことや追求できることがたくさんあることに気がついて、もっと俳優という職業を突き詰めていきたいと考えるようになったんです。
私は今でもテレビは大好きですが、同じくらいに映画も好きです。映画館での体験はインパクトが強く心に残りやすいですし、なにより見ている人の作品への集中力が違いますよね。俳優としての立場で言えば、やはり撮影現場が大好きです。原点に戻って考えてみると私は国語や図工、美術のような「物作り」の時間が好きでした。ですから撮影現場というクリエティブな場で時間を過ごせることは私にとってとても幸せなことなんです。「映画」はより時間をかけてコミュニケーションを取り、クリエイティブなセッションを繰り返します。そうした濃密な空気感が、私にとって映画を特別なものにしていると感じます。

「演技の為に「自分の気持ち」を大切にできるようになった」

たむらまさき監督『ドライブイン蒲生』の現場はクリエイティブな空気に満ちあふれていました。現場でのたむら監督の印象をひとことで言えば「職人」です。カメラマンとして現場を知り尽くしているのは勿論、締めるところは締めて、スタッフも俳優もしっかりと同じ方向へ向かわせる。そんな現場だからみんな物作りに対して誠実になれるのだと思います。たむら監督の予想もつかないようなカメラワークも現場の醍醐味でした。「こんな長いシーンをワンカットでやるんですか?」と、到底不可能に思える箇所もたむら監督はワンカットに収めてしまう。ですから、現場ではすごくカメラが動くんですよ(笑)。
撮影前はなるべくたむら監督の関わった作品を見ないようにしていました。過去に監督へのイメージや先入観を持ちすぎて、自分の中で悔しい思いをしたことがあったからです。「この監督はこれが好きなんだ」と分かってしまうと、現場でつい狙ってしまう自分がいて嫌なんですね。『ドライブイン蒲生』の現場では先入観をなくして素直に受け入れられる構えができていたので、とにかく現場の空気を大事にしていました。また幸運にも良い作品を作ろうという空気に満ちあふれた現場だったので、それだけで私には刺激的で自然と集中力も高まりました。「映画の現場にいる!」という充実感に包まれた現場はとても久しぶりでした。
この仕事をしていると「映画をたくさん見て、本をたくさん読むのも仕事のうちだ」と言われることがあるのですが、私は作品に触れることに対して義務感を持つことはあまり有意義ではないと考えています。楽しめなければ結局残るものも多くありませんからね。俳優の仕事は、自分の表現したいことが埋もれてしまいがちにもなります。演技は自分の感情を表現するものだという考え方もありますが、自分の感情とは関係なく気持ちを上げたり落としたりする場面は当然ありますし、それで自分の位置というか精神状態が分からなくなってしまうと、役につられてとてもしんどい状態に陥ることがあります。ですから、自分を大切にすることも俳優の仕事には必要だと考えています。

「『南風』の現場で感じた孤独は私が演じた「風間藍子」そのもの」

萩生田宏治監督『南風』の撮影時は色々と悩んでもいました。作品に対する意思がしっかりと固まっていなかったこともあって、そうした不安定さは映画にも出ているんじゃないかと思います。日本と台湾の合作映画で、日本人の俳優は私以外誰もいないということもありました。ですから設定としては『南風』のお話通りの現場です(笑)。スタッフは日本と台湾の混合編成で、まず言語の壁があり、価値観の擦り合わせから始めなければならなかったので、大変なことは多くありました。海外での撮影も合作の撮影現場に入ることも初めてで、かつ、日本人の俳優がまわりにいないということも初めてでしたから、藍子と同じように日々を戦いながら台湾の景色に心を癒されてもいましたね(笑)。
演技に関しては、相手役の俳優さんは英語を喋れるんですけど日本語はあまり通じません。私は決して英語が得意なわけではないので、ジェスチャーと覚えている単語を集めて、なんとかコミュニケーションをとっていたという感じでした。『南風』で私が演じた「風間藍子」もまさにそういった孤独を抱えていて、彼女自身も台湾で1人孤独や不安を感じる時があったと思うんです。ですから、コミュニケ—ションを取ろうと必死になったり、部屋で色々と考え事をしながら過ごしたことで、リアルな藍子に繋がれたような気がして、結果それはとても演技に活かされました。

「『ドライブイン蒲生』も『南風』も自信を持って好きだといえる作品」

『ドライブイン蒲生』の撮影時はとても幸せな現場にいられているという気がして、すごくアドレナリンが出ていました。テスト撮影があんまりないので、ほとんどぶっつけくらいの感じでワンシーンワンカットの撮影に入ったりするんです。これから何が起きるのか本当にわからない状態でしたね。染谷将太さんは言葉ではないなにかをもっても表現をしてくるので、そうした言葉を介さないセッションはとても刺激的でした。私が演じた「蒲生沙紀」という役はやさぐれている性格で、本当の私とは真逆の性格です。ただ、私は学生時代には文化祭実行員をやるようなマジメちゃんタイプだったんですが、屋上に上がって悪いことをたくらんでいるような同級生に「やめなよ!」とか言いつつ、実は密かに憧れを抱いていたんです(笑)。
『ドライブイン蒲生』で俳優として挑戦したことは、演技の幅を広げることでした。「蒲生沙紀」という役は笑い方にしても歩き方にしても些細な工夫で、表情が変わる役なんです。ですから微妙にニュアンスを変えて表現しながら「蒲生沙紀」の幅が出せるよう気をつけていました。私は俳優として「毎回同じ演技だね」と言われないように心がけています。余貴美子さんと共演をさせてもらった際に、余さんは私の母親役で暗い性格の役だったんですが、撮影期間中に家で何気なくテレビを見ていたら別のドラマで余さんはすごく明るい役で出演なさっていて、余さんの俳優としての幅に衝撃を受けたことがありました。それ以降、私も「演技の幅」について強く意識するようになりました。『ドライブイン蒲生』では1人の人間の幅を表現することにとても気を使って演技をしていたんです。
私はこれから先もみんなが同じところを見ているような現場に入りたいと思っています。そう考えると、『ドライブイン蒲生』も『南風』もそれぞれの大変さや楽しさがありましたが、どちらも本当に思い入れのある作品になりました。この2作品は自信を持って「好きだ」と言えますね!
取材・写真・構成 :岡本英之
   採録・構成 :島村和秀
『ドライブイン蒲生』
■8月2日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!

染谷将太、黒川芽以、永瀬正敏、小林ユウキチ、猫田直、平澤宏々路

吉岡睦雄、黒田大輔、鈴木晋介、足立智充、田村愛

監督・撮影:たむらまさき/原作:伊藤たかみ

プロデューサー:石井稔久(キングレコード株式会社)/製作:キングレコード(株)

企画・プロデュース:越川道夫/企画協力:(株)河出書房新社

音楽プロデューサー:平田和彦/脚本:大石三知子

撮影補:戸田義久/照明:山本浩資/美術:平井敦郎/音響:菊池信之/編集:菊井貴繁/音楽:ヤマジカズヒデ
制作:スローラーナー/配給:コピアポア・フィルム/製作年:2014年/89分/ビスタ/カラー
© 2014 伊藤たかみ/キングレコード株式会社

《Story》

街道沿いのさびれたドライブインに生まれ育った姉サキ(黒川芽以)と弟トシ(染谷将太)。ろくでなしの父(永瀬正敏)のせいで、物心ついた時から「バカの家の子ども」と蔑まれたふたりの人生にはろくなことがない。周囲への反発からヤンキーに なったサキは、あげくの果てに妊娠して家を飛び出してしまう。それから数年後、夫にDVを受けたサキが出戻ってきた。ヨリを 戻すのか別れるのか? 決断すべく、幼い娘・亜希子とトシを引き連れ夫の元へと向かうサキ。道中、サキとトシに去来するのは 意外にも、あの父のことだった…。ふたりは父から受け継いでいたなにかを胸に抱き、いま決戦の場におもむく。
■公式サイト
http://drive-in-gamo.com
『南風』
■7/12(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!
監督:萩生田宏治
出演:黒川芽以、テレサ・チー、郭智博、コウ・ガ
2014年/日本・台湾/93分/デジタル/1:1.85
©2014 Dreamkid/好好看國際影藝
配給:ビターズ・エンド

《Story》

私、風間藍子(黒川芽以)は東京の出版社で働く26歳。最近彼氏を年下の女に奪われ、さらに大好きだったファッション誌の編集から地味な単発の企画担当へ飛ばされ、まさに仕事も恋愛も崖っぷち状態。4日後に日月潭(リーユエタン)で元プロサイクリスト植村豪が主催するサイクリングイベントの取材のため台湾へやってきた。頼れる先輩・由貴さん(シュ・エイセイ)に取材を手伝ってもらうつもりでいたら、会ったらまさかの妊娠中! 中国語も話せないし、これからどうしよう……そんな時、レンタサイクルのために立ち寄った自転車屋で出会ったのが、ファッションモデルを夢見る高校生の少女・トントン(テレサ・チー)。その子の顔を見てびっくり!だって元彼を奪った女に瓜二つだったから……しかもこの子、私のガイドをしたいと言い出した。内心かなり不満だけど、由貴さんに頼れない今、背に腹は代えられない。トントンは妙に浮かれてる。 こうして、私とトントンは日月潭に向けて出発した。
■公式サイト
http://www.nanpu-taiwan.com
  • 『黒川芽以(くろかわ・めい)』
    1987年5月13日生まれ、東京都出身。1997年、NHK「鏡は眠らない」でドラマデビュー。以降、若手演技派女優として映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍。主な映画作品に『グミ・チョコレート・パイン』(07/ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督)、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(10/三浦大輔監督)、『横道世之介』(13/沖田修一監督)、『僕たちの家族』(14/石井裕也監督)など多数。年内の公開待機作には『福福荘の福ちゃん』(藤田容介監督/秋公開)がある。