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#07『映画と私』 吉岡睦雄さん(俳優)

「自分の心情とATG映画の鬱屈した雰囲気が重なりあったのかも知れません」

あまり映画を見ない家庭でしたから、幼少期の映画体験は記憶としてないんです。ですから、中学から高校にかけての思春期、自分の殻を壊したくてギターを買っちゃったりするような時期の話になるんですが、当時僕は広島で中高一貫の進学校に通っていて、とにかく真面目だったんです。それこそ東大に行きたいとか考えちゃうくらい。それが急にというか高一の頃ですけど、「そういうのじゃないよな」って思い始めたんです。それで広島の中心部にあった公民館のような場所に通い始めるんですが、そこでは500円くらいで映画が見れて、ATGの特集なんかをやっていました。よく覚えているのは『十九歳の地図』(1979/監督:柳町光男)で、主人公の名前が吉岡というんですが、そのことにもグッときたりして。当時の自分の心情とATG映画の鬱屈した雰囲気が重なりあったのかも知れません。それ以外にも『さびしんぼう』(1985/監督:大林宣彦)が好きになって、舞台になっていた尾道まで遊びにいったりもしました。
部活動ですか?ほとんどやっていませんでしたが、中学の頃は体操部でした。あとは茶道、週一でお茶を飲みにいってただけですけど(笑)。うちは4人兄弟で僕は双子なんですけど……、いやそれは全然関係ないな(笑)、とにかく真面目に勉強ばかりしていたんです。娯楽的な要素が全くなかったわけですけど、それが高一になってからさっきの映画の話もそうですし、バイトを始めてギターを買ったり、そういったことがダムが決壊したように押し寄せてきたんです。周りに同じような友達はいなかったですから、ギターを買ってバンドを始めたりということはなかったですね。家に帰ってひとりでフォークギターをかきならしてました。恋愛なんかしたこともないのに、「くちづけを~交わした~」とかいってね(笑)。吉田拓郎が好きだったんですよ。
まあそんなふうにして過ごしていたわけですが、東京への憧れもありましたし、とにかく広島を出たかったんです。その後なんとか東京の大学に合格して上京することになるわけですが、大学ではギターを弾いて歌おうか、映画研究会に入ろうか、あるいはキチンと勉強して国語の教師を目指そうか、そんなことを漠然と考えていました。そう、実は高校生の頃に祖父が持っていた8mmカメラを回して撮影をしていたことがあるんです。内容は思春期の男の子が考えそうな、どうしようもないものですよ。自分の股間をひたすら撮影してみたりね(笑)。そんな経験もあって映画研究会をのぞいてみたんですが、そこには既に新入生の女の子がいたりして、すっかり場に馴染んでいるわけです。僕は中高一貫の男子校出身で、6年間で女の子と話をしたのはトータル5分くらいですからね(笑)、その雰囲気には入っていけない気がしました。それで帰ろうとしたんですけど、隣の隣くらいにあった演劇研究会の部室の前を通ったときに声をかけられたんです。赤いちゃんちゃんこを着た女性で、「寄ってかない~」みたいな感じでね(笑)。

「くだらないとさえ思えることを一生懸命やることが楽しかったんです」

なんだかよくわからないんですけど、これなら大丈夫そうだと思いまして、誘われるがままに新歓コンパに参加をしました。その場にギターが置いてあったので、「僕もギター弾くんすよ」みたいな話になって、最終的に自分の曲を歌ったんです。そしたら途中で失笑が起こるわけですよ。それで僕は泣きはじめちゃった(笑)。サークル棟のトイレに駆け込んで個室にこもって泣いてたんですが、そこに3つ上の先輩がやってきて、「吉岡、俺はお前の歌、最後まで聞いてないぞ」と言って去っていったんです。それを聞いて、「なんて格好いいんだ……」と思ってすっかり憧れちゃって(笑)。その先輩は、知ってる限りですけど、そこにいた人達の中では現在も唯一俳優として活動をされている方です。結局その演劇研究会は半年くらいでやめちゃったんですけど、良くしてくれた方もいて、芝居やりたいんだったらと言って劇団を紹介してくれたんです。それで、もちろんギャラなんて出ないですけど、いわゆる小劇場にちょこちょこ出演をするようになりました。
その後なんですけど、大学は2年で中退をしてしまいまして、アルバイトをしながら時々小劇場に出演してという日々を過ごすことになります。そんな時期に『家族ゲーム』(1983/監督:森田芳光)に出演していた前川麻子さんのワークショップに参加をしたことがありまして、あるとき前川さん出演の『母娘監禁 牝』(1987/監督:斉藤水丸)がニュープリント上映されたんです。時期を同じくして、「映画藝術」誌上で「日活ロマンポルノ」の特集が組まれていて、いまおかしんじ(今岡信治)監督が『母娘監禁 牝』の名前を挙げていました。前川さんから、「トークゲストを呼びたいんだけど、いまおかさんは知ってる?」と聞かれまして、当時僕は『デメキング』(1998/監督:いまおかしんぢ)なんかを見ていて、いまおかさんの作品が好きでしたから、それは是非!という感じでした。そんなこんなで打ち上げに参加をしたんですが、そこでいまおかさんとお話をしまして、紙切れに連絡先を書いて渡したんです。それで次の日くらいだったと思うんですけど、打ち上げに同席していた女性から連絡があって、友人の自主映画に出てみないかとお誘いを受けました。それで出演をしたのち、その監督も一緒にいまおかさんの家で飲む機会がありまして、そんな交流がありつつ半年後くらいかな、いまおかさんから「次の作品に出てみない?」と連絡をもらったんです。それがいまおかさんの『したがる先生 濡れて教えて』(2002)という作品で、僕のデビュー作になるわけです。
お話してきたように、僕はなんでもすぐ辞めちゃうところがあるんですけど、俳優としてデビューして以降も、これだなというか、これでやっていこう! みたいな強い意志が芽生えたわけではなかったと思うんです。今はあるのかと言われたら、それもはっきりとはわからないところがあります。だけどデビューして以降、ピンク映画の世界ってわりと狭いですし、色々な監督と知り合ってちょこちょこ声をかけてもらえるようになって、それが嬉しかったということはあります。じゃあピンクの現場やそこに集まる人達と波長が合ったから続けてこられたのかというと、必ずしもそういうことではなくて、実際演出されていて、「俺こんなことやりたくて俳優になったわけじゃないんだよな……」と思う瞬間もあるわけです。ピンク映画ですから、例えば女性器を撫でるようなシーンで、「そこは中指じゃないだろ!」って怒鳴られたり(笑)。けど、打ち上げの場になって、「吉岡、ありがとう、お前のおかげだ」なんて優しく言われると、「次もやっていいかな……」って気持ちにもなったり。なんなんでしょうね、要するにある種くだらないとさえ思えることを、一生懸命それこそ徹夜とかしてやっているわけですよ。なんの役に立つのかもわからない、渋谷で1000人に聞いても誰も知らないような作品でね。けど、結局それが楽しかったんだろうなと思います。だから続けてこられたんじゃないかな。

「自分の宝物になればいいなという気持ちで作品に臨んでいます」

ピンク映画ってもちろん絡みのシーンが多いわけですが、女性経験もそんなに多くない時期になんで演じられたんだろうとは思います。ただ、やっぱり芝居のひとつだと思っているんですよね。絡みだから特別ということはなくて、人間ですから、会話をして、食事をして、当然そこにはセックスもあるわけです。新作の『なにもこわいことはない』(2013/監督:斎藤久志)にもベッドシーンがありますけど、僕は全然いやでもないし、普通のことだと思って演じています。一生を互いの夫と妻であり続けようと決めた夫婦の日常が描かれている作品で、僕は夫の史也役を演じたんですが、よく「優しい夫だよね」って言われるんです。でも僕はそんなふうには思っていないところがあって、自分自身結婚をしていて付き合ってからも長いわけですが、家庭ではそんなに声を荒げたりしないし、気をつかってもいるつもりで、「会話が少ない映画だね」とも言われたりしますが、それも実際あのくらいだろうと思っていて、少ないとは感じていないんです。決して静かな映画ではないと思うんですよね。とは言え、日常の捉えかたって人によって違うと思いますし、その意味では映画全般の話ですけど、やっぱり作られた世界だとは思います。
妻の恵理役、高尾祥子さんはとっても魅力的な方でした。僕は現場ではあまり喋らないんですけど、同じ広島県出身ということもあって、声をかけてもらって。変な意味でなく、現場が終わる頃には高尾さんのことをとっても好きになっていました。共演者のことを愛おしく思えるような現場ってやっぱり少ないですし、それは本当に嬉しいことです。そうした気持ちはどこかで作品にも出てきていると思いますし、やっぱりそう仕向けてくれたのは高尾さんであり、監督の斎藤久志さんの演出ですよね。現場作りも含めた大きな意味での演出の力だと思います。これは直接的には関係ないんですが、心の中で思ったことを指摘されるということがありました。例えばカップを持ち上げようとするシーンで、そのカップの位置が気になって、一瞬動かそうかなって思ったんです。目線を送ったわけでもないですし実際に手を動かしたわけでもないんですけど、「吉岡、今カップ動かそうとしたでしょ」って。この監督には嘘をつけないなって思いましたね。よく見てくれているんだなって、監督を全面的に信頼することに繋がりました。僕は作品の評価に関わらず、自分が出演した映画の場面を思い出して胸がキュンとなる瞬間があるんです。今回の『なにもこわいことはない』もそうした映画の一本で、実際下北沢から池ノ上に向かって歩きながら、ふとそんな気持ちになったりするんです。映画に出演する際には、そんなふうに思い出せる自分の宝物になればいいなという気持ちで臨んでいるんですが、結果として必ずしもそうなるわけではありません。ですから今回参加することができて本当に良かったですし、自分の宝物にもなってくれた作品を是非ご覧いただければ嬉しいです。

あのときの一本

『祭りの準備』 (1975/監督:黒木和雄)
なんであんなに故郷とか家族を嫌っていたのか、今となってはよく分かりません。江藤潤に自分を重ね合わせました。ああ、青春。
■『なにもこわいことはない』
2013年12月14日(土)より新宿K's Cinemaから全国リレー上映
■公式サイト
http://kowaikotohanai.com/
■場所
新宿K’s cinema
その他、全国上映情報はこちら→http://kowaikotohanai.com/index.html#theater
■新宿K’s cinema初日舞台挨拶・トークショースケジュール
◆12月14日(土)≪13:00≫上映後舞台挨拶  斎藤久志監督、高尾祥子さん、吉岡睦雄さん、山田キヌヲさん
◆12月15日(日)≪13:00≫上映後トークショー  福間健二さん×加瀬仁美さん(本作脚本)
◆12月28日(土)≪17:20≫上映後トークショー  中原昌也さん
◆1月11日(土)≪17:20≫上映後トークショー  矢崎仁司さん
◆1月12日(日)≪17:20≫上映後トークショー  やまだないとさん
◆1月13日(月・祝)≪17:20≫上映後トークショー  七里圭さん
※すべての回に斎藤久志監督も登壇します。 ゲストは変更になる場合があります。
■料金
一般:1,700円/大・高:1,400円/中・小・シニア:1,000円
●リピーター割引あり 『なにもこわいことはない』半券提示で1,000円
 ※ユーロスペースの半券もご利用できます。
●夫婦30割 夫婦のどちらかが30歳以上の方は、ふたりで2,000円
 ※チケット購入時に年齢の証明できるものをご提示ください。
聞き手・構成 :岡本英之
    写真 :石川ひろみ
『なにもこわいことはない』
製作/監督:斎藤久志/脚本:加瀬仁美/撮影:石井 勲/照明:大坂章夫/録音:小川 武/編集:鹿子木直美/音楽:小川 洋/キャスト:高尾祥子、吉岡睦雄、岡部 尚、山田キヌヲ、谷川昭一朗、柏原寛司、角替和枝、森岡 龍
公式サイト:http://kowaikotohanai.com/
  • 『吉岡睦雄(よしおか・むつお)』
    広島県出身。前川麻子の元で俳優としてキャリアをスタートさせ、2002年「したがる先生 濡れて教えて」(監督・今岡信治)で映画デビュー。2004年「たまもの」とタイトルを変え一般公開して話題となったいまおかしんじ監督のピンク映画で故・林由美香の相手役を務める。カイロ国際映画祭シルバーアワード賞受賞の「へばの」(08年/木村文洋監督)で主演。「婚前特急」(11年/前田弘二監督)では杏の夫役で奇妙な存在感を見せる。最近作に「かぞくのくに」(12年/監督:ヤン・ヨンヒ)「HOMESICK」(13年/監督:廣原暁)などがある。