LOAD SHOW

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#02『映画と私』 小原治さん(ポレポレ東中野スタッフ)

「ワゴンセール50円『ゆけゆけ二度目の処女』のインパクトは強烈でした」

東中野にある映画館、ポレポレ東中野(以下、ポレポレ)に務めています。直接、映画に関する仕事に就いたのはポレポレからですね。子供の頃から将来自分がこれになるんだってものを考えたことがなくて、別に親と仲が悪かったわけでもないんですけど、18になったら家を出ようということだけ決めていたんです。僕は三重県出身なんですけど、家を出てからは仕事をしつつ関西を点々としていました。当時の仕事はリサイクルショップで、家電とかを扱うようなところじゃなくてレコード、漫画、VHSなんかを扱っている店で、ぎりぎり映画との繋がりがあるような、ないような感じでした。
関西を点々とした後、やっぱり東京に住んでみたいという漠然とした憧れがありまして、何も決めずに27のときに上京してきたんですよ。年齢としてはかなり遅かったですね。上京して3ヶ月目くらいにレンタルビデオ屋であるDVDを借りたんです。そのエンドロールに「ポレポレ東中野」と出てきて、気になって調べてみたらどうやら映画館らしい。そのとき職を探していて「映画館ていいな」と思って、物は試しに電話をしてみたんです。そこで支配人が出て、ちょうど今バイトを募集しようと思っていたんだということですぐに面接することになりました。支配人と2人で50分くらい話したんですけど、今思えば2人でそんなに真面目な話をしたのはそのときが最初で最後ですね(笑)。採用が決まって最初はバイトで途中から社員になりました。未だにバイトに間違われますけど(笑)。
思春期にさしかかった15歳の頃ですかね、映画とのはっきりした出会いがありました。まわりにはレンタルビデオ屋しかないんですけど、「すごい監督がいるぞ」とか「すごい作品があるぞ」という情報だけは、なんかわからないけど入ってくるんですよ。当時、ネットも普及していないし映画に詳しい友人がいたわけでもないんですが、一言で言えば “風の噂” で入ってきたんですね。なにせ田舎なので、何の店だかわからない、雰囲気だけ売っているような店がたくさんあったんですよ。そこの店先のワゴンセールでVHSとかを売っていて、若松孝二監督の『ゆけゆけ二度目の処女』(1969)を見つけました。多分50円くらいだったと思います。それで見てみたら今まで見てきた映画は何だったんだってくらい面白かったんです。乾いた血のにおいというか、そういうのにグっときたんですよ。当然、若松孝二の作品を全部見てやろうと思って近くのレンタルビデオ屋に走るわけです。でも田舎なので『エロティックな関係』(1992)しか置いていなくて。結局、若松さんの作品をちゃんと見られたのは大人になって家を出てから、大阪の映画館で若松特集をやっていたときでした。そのときもやっぱりこの人すごいわと思いましたね。でも例えば、田舎のレンタルビデオ屋に若松孝二の作品が全作並んでいて、それを借りて見ていたとしても、果たして最初の出会いと言い切れるかといえばわからないですね。やっぱり僕はワゴンセール50円『ゆけゆけ二度目の処女』というのが出会いのインパクトとして強烈に残っています。

「いろんな動きの中で映画館の価値も更新され続けると思います」

ポレポレで上映している作品は持ち込みも多いのですが、別の動きの中にも映画館を展開できるんじゃないかと思って、上映会やほかの映画館に作品を見に行って、うちで上映したいなという作品に出会えば声をかけるということを去年くらいからやり出しました。僕が初めて声をかけたのが山戸結希監督の『あの娘が海辺で踊ってる』(2012)という作品です。たまたま上映会に行ったときに出会って、それを一緒にやってから僕自身も仕事のあり方が変わってきました。それまでは映画館での勤務を主としていましたが、今は積極的に外に出ていろんな作品と出会って、それを自分の仕事に生かそうと思っていますね。
今年の5月末から6月頭にかけて濱口竜介監督の『親密さ』(2012)をポレポレでも上映させてもらったんですが、それはオーディトリウム渋谷さんのオールナイトで見たのがきっかけでした。異様な興奮を覚えましたね。でもそれはオールナイトで、しかもお客さんがいてという状況で初めて実感できることだったと思うんですよね。あのとき、これはポレポレでも上映したいと声をかけて実際興行させてもらったんです。興行して思うのは、映画を育ててくれるのは本当にお客さんだなということですね。『親密さ』も徐々に口コミで広がっていきました。上映時間4時間半の作品ですから半日潰さないと行けないわけですよ。Twitterで「『親密さ』見たいけど見れない」という発言に、他のお客さんが「仕事さぼってでも来い」みたいなリプライがけっこう飛び交っていて、その現象は面白かったですね。『親密さ』はその後もいろんなところで上映されているので、次の動きにつながっていく感じが嬉しいですね。
今って、映画を届ける手段が以前に比べて多いじゃないですか。映画は映画館で見るべきだという意見はよく聞きますけど、僕は必ずしもそうとは考えていなくて、それこそLOAD SHOWさんがされている配信もそのひとつだし、サンプルDVDを配るのもひとつの映画のあり方だと思います。よく映画業界の衰退の理由にDVD化が語られていた時期があったんですが、僕はなんかピンとこなかった。やっぱりDVDと映画館は別物だと思うんですね。僕なんかはDVD化は出し惜しみなくすればするほど違いが見えて映画館という場が立ち上がってくるんじゃないかという気がしています。いろんな動きの中で映画館の価値も更新され続けると思うのでそういう状況を僕はけっこう前向きに捉えています。
僕はほかの映画館でかかってる作品でも面白ければ平気で人にすすめるんです。なぜそれをやっているかというと、今ある映画館で限られたお客さんを取り合っていても所詮潰し合いでしかないので、来場者数の絶対数を増やさないと意味がないと思うんですね。だから面白い映画であれば積極的に人にすすめていくことで何か変わるんじゃないかという思いでやっています。

「映画が映画館を発見してくれる瞬間があります」

若い監督さんは自分の作品を映画館でかけたいのであれば、現状どういうことが起こっているのか身をもって体験した方がいいですね。もちろん厳しい現状はあるんですが、上映の場で本当は何が起こっているのかを知らずにイメージで悲観的に語る大人ってすごく多いと思うんですよね。でも実際に上映会とか映画館に行くとやっぱり入ってる作品は入っているし、すごい熱気を感じることもあるので、そういう人たちの意見なんて全部無視していいと思う。まったく無名の監督さんが撮った自主映画であったとしても、映画が映画館を発見してくれる瞬間があります。誰かが映画を見て、これを映画館で上映したいと思うことは映画が映画館を発見してくれていることだと思うんですね。僕もそういう出会いを常に求めているので、若い監督さんは僕の動きで良ければどんどん利用してほしいです。
そして、映画の趣味って人それぞれ本当に違うのでいろんな人に作品を見せてください。そういう動きをしていくと、作品が一人歩きしてやがて興行につながるということもなくはないので動きを止めないことが大事です。今、色んなことが起きまくっている中で自分の映画をいかにして展開させていくかというのは考えた方がいいし、ちゃんと考えてやれば絶対に結果は出せると思います。映画自体の面白さ以前にそこを考えているか否かの差は大きい。僕は若い人にとって、今の映画業界の状態は開かれているし、チャンスはたくさん転がっていると思っています。

あのときの一本

『あの娘が海辺で踊ってる』(2012/監督:山戸結希)
僕自身の今後の活動にかなり影響を受けました。自主配給での上映が成功し、その後も山戸さんは監督としてどんどん次のステージにいったので、本当にやってよかったと思える作品です。新たな映画の可能性が開かれたような気がします。
聞き手・構成・写真: 石川ひろみ
  • 『小原治(おはら・おさむ)』
    ポレポレ東中野スタッフ 
    いろんな人と面白いことがしたい。
    上映中(12/2現在)『ある精肉店のはなし』『旅する映写機』『映画 立候補』『マリア狂騒曲』/次回上映『1BR らぶほてる』
    http://www.mmjp.or.jp/pole2/