LOAD SHOW

A Rooted Soul. Vagabond Eyes.

映画の未来をいち早く
Be the first to witness the future of films

♯51「映画と私」柴山健次(映画監督)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

隠していた心に響いて止まらなかった『マイ・ルーム』

柴山健次(以下、柴山):映画監督の柴山健次です。一番最初の映画の記憶は、小学校3年生の時に学校で見た『となりのトトロ』(監督:宮崎 駿/88年)です。トトロの躍動感を印象的に覚えています。振り返って考えると色んな映画や歌に影響を受けてきたと思うのですが、ジブリアニメは特に影響を受けた映画だと思います。映画に熱中しているような少年ではありませんでしたが、ジブリ作品は再放送を含め、よく観ていました。ただ、ジブリ作品の本当の凄さに気がつくのはそれからずっと先のことです。

小学生の時は『グレムリン2』(監督:ジョー・ダンテ/90年)や『ホーム・アローン』(監督:クリス・コロンバス/91年)など洋画のメジャー作品を見たりすることはあったのですが、特別意識して映画を観てはいませんでした。映画を意識するようになったのは、高校生になってからですね。俳優のレオナルド・ディカプリオが好きで『バスケットボール・ダイアリーズ』(監督:スコット・カルヴァート/94年)や『太陽と月に背いて』(監督:アニエスカ・ホランド/95年)などディカプリオが出演する作品を追っかけるようになったんです。その流れでディカプリオが出演する『マイ・ルーム』(監督:ジェリー・ザックス/96年)にも出会うわけですが、これは僕の人生の一番の転機となった作品です。この映画を観て映画監督を志す覚悟が出来ました。

高校生の頃って刺激的なものを求める傾向にあると思うんですけど、御多分にもれず僕もそうでした。その延長で、『バスケットボール・ダイアリーズ』や『太陽と月に背いて』を見ていたんです。でも『マイ・ルーム』を見ている最中は刺激をあまり感じず「ハズレだな」なんて思いながら映画館を出て、ラーメンを食べに行ったんです。名古屋にある寿がきやというラーメン屋なのですが。そうしたら、ラーメンを食べていて不意に涙が止まらなくなってしまったんです。『マイ・ルーム』について、頭の表面では刺激を求めて「つまらない」とレッテルを貼っていたんですけど、頭の奥深くというか、身体はすごく感動していたんだなってそこで気がつきました。

なぜ『マイ・ルーム』が衝撃的だったのか、それは多分「問題が解決しない」というところなのだと思います。それまで僕が観てきた映画というのは答えに向かって進むものばかりだったのですが、『マイ・ルーム』は人生の不条理な部分がそのまま描かれていたんです。映画の内容は、別々に暮らしていた不仲の姉妹がある日、姉が患う病気のため故郷に呼び戻されるといったものなのですが、結果としてこの映画は姉の病気も様々な人間関係も何も解決しないんです。ただラストに離ればなれだった家族が部屋に集まるというだけ。そこに猛烈に感動してしまったわけです。きっと、強がっていた日常の中、気付かないようにしていた本心に『マイ・ルーム』が強く響いたのだと思います。

お客さんの反応を明確に狙い、作る

柴山:大学は大阪芸術大学に入学しました。とはいえ、映像学科でもなければ、映画研究会にも所属しませんでした。なので自分と映画に興味がある友達数人で小規模体制で映画を作っていました。最初のうちは実験映像に近いものでした。それで、大学2年の時に初めてドラマがしっかりとある恋愛ドラマを作ったんです。そうしたら周りから意外にも高評価をいただいたりして、実際のお客さんの反応に手応えとやりがいを感じました。

その後に転機となった映画は篠原哲雄監督の『はつ恋』(00年)です。女優の田中麗奈さんが好きで、その一環で田中さんが出演されている『はつ恋』を観たんです。観終わったあとは、涙が止まらず、電車に乗れないほど。自分もこんな映画を作れるようになりたいと改めて思いました。それですぐに篠原哲雄監督に弟子入りしたいと思ったんです。なんというか、映画に対する自分の中のルールを打ちのめされた感覚があって、独学ではやっていけないということも感じ、映画の勉強をするのなら篠原監督の元で一から勉強したいと考えたんです。それで、篠原監督が講師を務めるENBUゼミナールに迷わず入学しました。

ENBU卒業後も篠原監督についてまわっていました。その頃になると篠原監督から直接何かを教わるということがある一方、傍から篠原監督の振る舞いや発言を見ることで学ぶということが多かったです。ENBUゼミナールを卒業してからは、美術応援や装飾助手として現場に入ったり、助監督として色々な現場に入るようになりました。24歳の時にビデオストレートの監督依頼をいただいたのを機に、監督として仕事が、ゆっくり増えていったという感じです。

ビデオストレートではホラーを数本制作したのですが、そこでは学生の頃撮っていた実験映像の経験が活かせた部分もありました。ホラーは、お客さんの反応が狙ったところに明確に現れるんです。狙ったところで明確に反応してもらわなければいけないジャンルなんです。そこで、エンターテイメントとして何をサービスするべきなのかということを明確に持つことを身につけたと思います。かなり鍛えられた気が…。

また、そういった狙いを明確にしていく作業はその後、ジャンルを問わず自分の武器になったと思います。例えば、振りがあってオチがあるというホラーの手法は笑いや感動を起こす構造にも通じるんです。構造はほぼ変わらない。もしそういった経験をせず、繊細な人間ドラマを作り始めていたら、きっと人間の機微の複雑さに酔ってしまうような、見づらい映画を作っていたと思います。だから、ホラーで狙いを明確にするという視点を持てたことは、とても良い経験になりました。

最新作『流れ星が消えないうちに』は、原作の最初の台詞で映画化を決めた

柴山:今回公開となる『流れ星が消えないうちに』を制作するキッカケは、原作の小説の冒頭にある「おやすみ…加地くん」という主人公・奈緒子の言葉でした。この言葉は奈緒子が眠くなって、つい口が動いてしまった言葉なんです。それは自分の意思とは関係なく身体が覚えている言葉。つまり、何度もその名を呼んだということなんです。原作のたった数行を読んで奈緒子の背景が一気に広がる。そこでもう心がふるえ、絶対映画化したいと思ったんです。

映画って見方によっては、お金を払って2時間程度、お客さんを映画に強制というか拘束しているとも言えると思うんです。だから、今作に限りませんが映画の内容として、押し付けるような表現はなるべく避けたいと思っています。狙いを持っても狙っているように見えてはいけない、というような意識です。

また今回は時間軸の複雑さを原作に可能な限り従っています。主人公の奈緒子はかつての恋人・加地が死んでしまったことに対して区切りを迎えられていません。意識としては死を理解しているが無意識としてはその事実を拒絶してしまう。不意に、繰り返し、加地との過去を思い出し困惑してしまう。お客さんにも奈緒子の困惑を追体験してもらいたく、時間の交通整理はしないようにしました。

役者たちの演技に関しては、現場には多くを持ち込まないようにしています。事前に会ってたくさん話をします。そして、後はお任せする。事前段階で共通認識が生まれれば、現場では、役者たちの出来事を見ているだけです。それが楽しいんです。

映画全体のモチーフとしては、タイトルの通り「星」がありますが、僕としては星を描くこと自体が現実的ではない夢の世界を見ることだと考えました。「星に願いを」ということそのものが現実的ではない行為ではと。

この物語は変わっています。一般的な物語に照らし合わせれば、映画のクライマックスは奈緒子の元恋人・加地の死を設えるべきなんだと思うんです。でも、この物語では、クライマックスが物語の始まる前に終わっている。「死は乗り越えられない、日々は続いていくんだ」と突きつけられる。また、何かを願うということで人は動き出せるわけですが、この物語は「考えを整理なんてしなくていい、とにかく動け。恐れながらでも動け」と訴えてくるわけです。星に願いをかけるのはその後になります。『流れ星が消えないうちに』は物語が終わってからも物語は続く、否が応でも日々は続く、生きるしかないということを証明する作品なんだと僕は考えています。

傍にいて共感する 映画

柴山:自分が映画を通してやりたいことは、人を応援するという言葉に落とすこともできるのですが、映画監督の木下恵介さんを取り上げた番組で使われていた「共感力」という言葉がしっくりきます。『二十四の瞳』(54年)という木下監督の映画の中で、家が駄目になって、女の子が親の都合で転校しなくちゃいけないという場面があるんです。そこでは先生が女の子に「あんたが苦しんでるの、あんたのせいじゃないでしょう?
お父さんやお母さんのせいでもないわ。世の中のいろんなことからそうなったんでしょう?
だからね、自分にがっかりしちゃだめ。泣きたいときはいつでも先生のとこいらっしゃい。先生も一緒に泣いてあげる」と一緒に泣くシーンがあるんです。先生は同情するわけでも叱咤するわけでもなくただ共感するわけです。それがまさしく自分も映画でやりたいことなんです。

登場人物が悩んでいるということは現実でも同じ悩みを持っている人がいるはずで、写し鏡のように映画は現実と関係しています。多くのことが経験しなくても、想像力で補えることなんです。自分は経験したことがないことでも、想像して同じ悩み、問題を持つ人の傍にいたいと思っています。それが僕が映画を通して一番やりたいことです。それは『マイ・ルーム』を見て涙を流した僕の原体験にも通ずることだと思います。

表現者というのは、同じところを何度も廻るものなんだと思うんです。それでいて、螺旋的に上昇している。より強く、深く描くために感性を強固にしていく。今後も「側にいて共感する」という自分の芯の部分は変わらないと思いますし、『流れ星が消えないうちに』は間違いなくそんな僕のルーツにあたる作品だと言えると思います。
柴山健次監督作品『流れ星が消えないうちに』
角川シネマ新宿ほか全国ロードショー中
◼︎上映イベント

日程:12月5日(土)

開催時間(計2回)

①10:00の回 上映後(12:05~12:25)

②12:40の回 上映前(12:40~13:00)

登壇者(予定):波瑠さん、柴山健次監督

会場:テアトル梅田(お問い合わせTEL:06-6359-1080)
◼︎公式サイト
http://nagareboshi-movie.com/
◼︎公式Facebook
https://www.facebook.com/nagareboshi.movie
◼︎公式Twitter
https://twitter.com/nagareboshieiga
取材・構成・写真:島村和秀
『流れ星が消えないうちに』

(2015年/カラー/124分/日本)

監督:柴山健次

原作:橋本紡『流れ星が消えないうちに』(新潮文庫)

出演:波瑠、入江甚儀、葉山奨之、黒島結菜、小市慢太郎、石田えり、古舘寛治、西原亜希、岸井ゆきの、八木将康

配給:アークエンタテインメント株式会社

ストーリー:21歳の女子大生・本山奈緒子(波瑠)は、無二の存在だったかつての恋人・加地(葉山奨之)を突然の事故により失って以来、彼のことをいつまでも忘れられず、ことあるごとに思い出してしまう。心の整理ができないまま毎日を過ごし、過去に立ち止ったままの奈緒子であったが、同じ傷をもつ現在の恋人・巧(入江甚儀)や、奈緒子の妹(黒島結菜)、奈緒子の父(小市慢太郎)ら家族との関わりによって、少しずつ“今”を取り戻していく……。
  • 『柴山健次(しばやま・けんじ)』
    愛知県出身。大阪芸術大学卒業後、ENBUゼミナールに参加。担当講師、篠原哲雄監督に師事。 05年に監督デビュー。06年『黒振り袖を着る日』(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2008にて奨励賞)、11年『君の好きなうた』が長編劇映画第一作目として公開された。そして、13年には多くの作品が「シラン 柴山健次作品集 vol.1」「黒振り袖を着る日 柴山健次作品集 vol.2」としてリリースされた。