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♯55「映画と私」奥秋泰男(映画監督《『かぐらめ』》・映像クリエイター)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

-初めて観た映画は、父親と一緒に観た戦争映画-

奥秋泰男(以下、奥秋):普段は映画以外にも企業PVなどを制作しています。映像の仕事を始めてからは15年ほど経ちます。「ヌーヴォ」という会社を立ち上げて、現在は8名ほどのスタッフとともに活動しています。映像を始める前は、グラフィックデザイナーでした。『かぐらめ』のポスターは自分でデザインしているんです(笑)。デスクトップパソコンで映像編集が出来る時代になってから、映像の仕事に参入していきました。
生まれは、『かぐらめ』の撮影現場にもなっている山梨県の都留市です。田舎町なので映画館は近くには無くて、電車で甲府まで行ってやっと観れる環境でした。初めて観た映画は、おそらく家のテレビで父親と一緒に観た戦争映画ですね。うちの父が海軍の軍人だった事もあって、幼少期は特に戦争映画の印象が強いんです。『トラ・トラ・トラ!』(監督:リチャード・フライシャー、舛田利雄、深作欣二/1970年)は記憶に残っていますね。我が家では、子供達にテレビのチャンネルの選択権はありませんでしたから、夜は父親が観ている番組を一緒に見ていました。ただ夕方は父親がいないので、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」は見れたんです。思い返すと、子供の頃は映画に接する機会は少なかったですね。
中学生になってから、電車に乗って映画館まで行くことは何度かありました。僕は当時ミーハーでしたから、松田聖子さんが出ている映画を夢中で観ていましたね(笑)。観に行く映画はほとんど邦画でした。字幕を読むのが嫌いで、海外の映画は苦手だったんです(笑)。

-ラジオドラマを作ることに夢中だった-

奥秋:物心ついた時から絵を描くのは好きで、家にいる時はカレンダーの裏や、広告チラシの裏などに絵をずっと描いていて、中学の頃は美術部に入っていました。その頃は、将来仕事としてやっていきたいとかはまだ考えていませんでした。高校では放送部に入り、シナリオを書いてラジオドラマを作ることに夢中になっていました。NHKで高校生向けのコンクールがありまして、優秀な作品は放送されるので、そこを目指して頑張っていましたね。放送室で声を収録したり、効果音を入れたりと。残念ながら落選していましたが(笑)。また、給食中の番組編成を作るのも楽しかったんですよ。今日は、この人をDJにして曲はこういうのを流そうとかを考える訳です。絵の方もその間、ずっと続けていました。
映画は、父親からの影響なのか、戦争映画を中心に観ていて、高校時代は『連合艦隊』(監督:松林宗恵《本編》、中野昭慶《特技監督》/1981年)を観た記憶があります。古い作品ですが、『戦場にかける橋』(監督:デヴィッド・リーン/1957年)も好きな作品です。戦争映画で描かれる、生き死にに関わる濃密な人間関係や、露呈される人間の本性というんですかね、そういったところに魅了されていたんです。

-平面の中の人物を動かしたい-

奥秋:高校を卒業してからは、桑沢デザイン研究所というグラフィックデザインの専門学校で勉強をしていました。その道に進もうという明確な意思があった訳ではなく、とにかくその頃は色んなことをやりたくて、音楽活動も行なっていました。僕は、ギターとヴォーカルを担当していたんです。絵の勉強と、音楽、それに加えて役者もやりたいと思っていて、いくつかオーディションを受けたりもしていました(笑)。30歳くらいの時にはTSUTAYAなどがDVDレンタルを始めていて、その頃から自分の中で映画熱というのが盛り上がっていくんです。それで、映像も作りたいと思うようになっていきました。
グラフィックデザインの仕事をやっていると、平面の中の人物を動かしたいなと思ったりして、そうすると今度はここに風の音が入ってくるよなといった形で、イメージがどんどん広がっていくんです。いざ映像を始めようとしても、すぐには映像制作会社は作れないし、まずは遊び感覚でビデオカメラを買って、編集してみる所から始めました。そこから、少しずつ企業映像にも携わらせてもらえるようになっていくんです。
映画に関しては、観るのは好きでしたが、自分が作れるとは思っていませんでした。すごく敷居が高いものだし、そんな簡単に出来るものじゃないよなと。いつかはやってみたいなという気持ちだけは、もちろんありましたね。

-後戻りできない状況にしちゃおう-

奥秋:企業映像のお仕事を長年続けていく中で、やはり映画への思いも膨らんでいき、次第に視野に入るようになっていきました。4年前に父親が他界しまして、その父が神楽を生前やっていたんですよ。父が亡くなる前に山梨に一旦戻って、三年くらい向こうで生活をしていました。父が他界した後、喪失感とともに、父が生きていた頃にはあった伝統文化が無くなっていく危機感というのも感じたんです。古き良き日本の原風景がどんどん無くなっていて、お祭りも無くなったりと、無駄だと思われるものが容赦無く削ぎ落とされていく時代になってしまっている事を強く感じたんですね。どうにか映像でそういった思いを表現出来ないだろうかと考え始め、40代半ばも過ぎていたので、機は熟したなと思い、映画の企画書を書いて都留市に提出したんです。
とはいえ、映画って今までやってきた企業の映像とは全く違うじゃないですか?それでも、何とかやってみようと。そこは、自分の力というより神様に摘まれてやっているような感覚でしたね。企画書を提出した時点から、製作の方も同時進行で進めていきました。とにかく、後戻りできない状況にしちゃおうと。積年の思いが爆発したんでしょうね。ここでやれないと、この先ずっと映画は作れないだろうという思いがありました。
ストーリーは、プロットだけでは伝わらないと思い、より詰めた原案を書いたんです。仕事でアメリカに行く時に飛行機の中で一気に書き上げました。それを脚本家に渡して、脚本が出来たところでキャスティングをすぐに始めたんです。キャスティングは、武田梨奈さん、大杉漣さん、筒井真理子さんといった、思い描いた形で主要キャストは決まっていきました。そこからは色々と難航して、前信介プロデューサーの協力もあって撮影まで何とか漕ぎつけることが出来たんです。

-「神様キャスティング」 -

奥秋:今作は都留市制60 周年協賛事業として制作されることになりまして。都留市からはロケ地や役者さんが寝泊まりする場所などをご提供いただいて、非常に助かりました。作品自体は、俗に言うご当地映画には自分はしたくはなかったんです。良い物語をしっかり伝えていく事が、結果的にその土地を魅力的に映すだろうと思っていました。
こうして完成してみると、よくこれだけの役者さんが集まってくれたなと。僕は「神様キャスティング」と言っていて、導かれたような感覚があるんです。撮影を始める前は、海外の映画祭を目標に掲げていまして、完成後にモントリオール世界映画祭などで上映してもらえた事は素直に嬉しかったです。ただ、撮影に入って役者さん達と話していく中で、世界の人達に観てもらう事はもちろん大事だけど、やはり田舎の畑で働いているお婆ちゃんに観てもらいたいよね、そういう思いで作ろうよという風に考えが変わっていきました。高望みせず、まずはそこにいるお婆ちゃんを泣かそうね、という話は主演の武田梨奈ちゃんにしていました。今後も、映画館以外にも地方のホールなどでも上映していきたいですね。時間をかけて、色んな方に観てもらえるように活動していく予定です。

-一生かけてもいい仕事-

奥秋:次回作の方も、すでに準備をしています。映画って、すごく素敵なものだなって今回改めて感じさせてもらいました。中々人々に伝えられない事を伝えていくには、映画というのはすごく良いツールだと思っていて、作品は世界中でアーカイブされるじゃないですか?男が一生かけてもいい仕事だなと心から思うんです。映画の歴史を作ってくれた先人たちに本当に感謝しています。僕なんかは、たまたまこうやって足を突っ込ませてもらえたんですけど。図々しくももっと突っ込んじゃおうかなと思っている訳ですが(笑)。5年以内に、戦争映画も作りたいと目論んでいます。

奥秋泰男監督作品『かぐらめ』

2016年 1月9日(土)~大阪 第七藝術劇場にて上映!

取材・構成・写真: 川邊崇広
『かぐらめ』
監督:奥秋泰男

脚本:難波望

エグゼクティブプロデューサー:清家端

プロデューサー:前信介

撮影:岩永洋

出演: 武田梨奈 大杉漣 筒井真理子 上條恒彦 今井雅之 朝加真由美 黒川芽以 大河内奈々子 森岡龍 白須慶子 瀬駒妃

配給:イーライフピクチャーズ

© 2015 『かぐらめ』 製作委員会
ストーリー:小学生の時に最愛の母を亡くした主人公秋音。母が亡くなる日、父は母を看とらず「獅子神楽」を舞っていた。「母と獅子神楽、どっちが大切なの?」それ以降、秋音と父の関係に深い溝ができてしまった。 高校卒業と同時に故郷を離れる秋音。東京での生活も行き詰まっていた。また、父も妻の死による悲しみから抜け出せないでいた。そんなある日、母の13回忌に5年ぶりに実家に戻る秋音。そこには亡くなった最愛の母に似た女性の存在が、、、 60年に一度の大例祭が近づく町ではベテランの舞い手、父が最後の神楽獅子の舞を披露することに。しかし父の体に異変が、、、
  • 『奥秋泰男(おくあき・やすお)』
    1965年生まれ。山梨県出身。
    桑沢デザイン研究所にて視覚伝達を学ぶ。広告代理店勤務を経て、1999年、株式会社ヌーヴォを設立。
    大手企業のプロモーション映像からミュージッククリップや CM、またVシネマなど数多くの作品を手掛ける。
    また学生時代よりインディペンデント制作を行い、映画の世界にのめり込んでいく。
    今回、映画『かぐらめ』が初長編監督作品となる。