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♯57「映画と私」北川喜雄(カメラマン『ハッピーアワー』)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

-撮影部の編成-

北川喜雄(以下、北川):商業映画やCMの撮影助手で生計を立てながら、インディペンデント映画の撮影をしています。
一般的に撮影の現場には撮影部という部署があり、カメラマンを頂点として助手が二人から四人くらいまでで構成されています。カメラマンの次に偉い人がチーフと呼ばれていて、主に露出を計る人です。光を計測しながらカメラマンが撮りたい画のイメージを共有して、照明部さんとコンタクトを取りながら画を作っていきます。
チーフの下のセカンドは、ピントを合わせる事に従事していて、ピントを送るスピードなど映画的な演出に大きく関わる役割で、カメラのレンズよりも前に起こっている、画に映る範囲のものに関してはセカンドが責任を持ってサポートします。美術のつながりだとか、編集点なども考えますね。
またセカンドのサポートとして、サードがいて、役割はフィルムの現場だとしたらフィルムをカメラにセットしたり、カメラ本体や三脚、備品の管理などカメラのレンズよりも後ろのことを任されます。大きな作品になってくると、見習いという形でフォースもいます。フォースは主にサードのサポートに回って、監督用のモニター出しなども担当します。初めての映画の現場では、フォースとして参加させていただきました。

-カメラを覗く人 -

北川:生まれは、山口県の見島という所です。その後幼稚園から小学校三年生まで埼玉県に住んでいて、その間に観た「ドラゴンボール」の映画版が最初の映画体験でした。実写映画だと、『ゴジラvsビオランテ』(大森一樹(本編)、川北紘一(特撮)/1989)が最初ですね。親と観に行ったのを覚えています。親と映画館に行ったのは、その2本だけだと思いますが(笑)。その頃は、特別映画に夢中になっていたとかは無かったですからね。小学校中学年からは岡山県に移って、遊びといえば大体が、外でサッカーでした。
中学校でもずっとサッカーをしていたので、映画は全く観ていないです。ただ、母親が海外ドラマの「Xファイル」(93-02)にはまっていたので、「Xファイル」だけなら結構詳しいんです(笑)。中学の頃といえば、広末涼子さんがブレークしましたよね?広末涼子さんとお近づきになりたいなと思って、役者をやろうと。これは、動機としては不純なんですが(笑)。それが、映像業界を意識した一つのきっかけだったと思うんです。それから東京にある事務所のオーディションを受けました。確か3次くらいまで受かったんですね。でも、練習生としての採用だからレッスン料がいると言われて、父親にはもちろん断固拒否されて、高校に行くことにしたんです(笑)。
行ったら行ったでそれなりに楽しんで学校生活を送っていまして、そんな時にたまたま岡山に映画監督が撮影しに来たんですよ。地域密着型の映画を撮っている方で、地元キャストで一本撮ると。そのキャストの一人として自分も出演するんですが、その時に役者には向いていないなと思いましたね。本当に本番に弱いんです(笑)。撮影現場に行った時に、初めて監督がカメラを覗いている訳じゃないんだと知りました。その当時、最も影響を受けた映画は『ソナチネ』(監督:北野武/93)です。かっこいい映画だなと思いました。

-カメラマンは自分向き-

北川:高校卒業後は、大阪芸術大学映像学科に進学するんです。動機としては、撮影現場を体験してみて、自分で作った方が良いんじゃないかと思ったのと、そのときは学びたいと思うことが他になかったんだと思います。今思えば芸術大学というところへの漠然とした興味が先行していたように思います。いざ入ってみたら、すごく楽しかったんですよね。映像だけじゃなく、デザインや写真をやっている人達とも知り合えて、むしろ映像学科以外の人達と遊ぶことが多かったです。映像学科で勉強していく中で、自分が監督になるにはどうしてもカメラのことを少しは知っておかないと、カメラに詳しい人に言い負かされてしまうとは感じていて、一眼レフですけどカメラは触っていました。その頃からカメラもいいなとは思い始めてはいました。どちらにしろ、監督になるための人望がないんですけどね(笑)。
三年生からは、卒業制作に向けて動き出すんですけど、アニメーションや短編映画なども選べるので、長編映画を選択する人って案外少ないんです。僕は、やるなら一番大変なものを選んでみようと思い、長編映画を選びました。2、30人くらいが集まって、映画を作るチーム分けをさせられるんですよ。そこで、しまったなと思ったのが、他学科と交流してばかりいたので、皆がすんなりとチームを作っていく中、自分には意気投合できる仲間がいないわけです。本当は監督をしたかったのですが、自分に嘘をついて人数が足りていないチームでカメラをやる事にしたんです。
最新作の『人の望みの喜びよ』(15)でも一緒にやらせてもらっている杉田真一さんが、僕が入ったチームの監督でした。人としてしっかりしていて、同級生の中では一番信用ができる、一緒に作っていけそうな気にさせてくれるひとでした。その作品で、カメラマンは自分向きだと思うようになりました。撮影って、監督と違って答えが明確にあるんですよ。露出やピント、カメラの動きなど、失敗した事はすぐバレますから。数学みたいなところはありますね。そういう意味では、次はこうしようとか目標が立てやすいんです。でもそれよりも、作品制作をしてる中で監督の大変さを横で見て怖気付いたという方が正確ですね。
卒業制作につきっきりで、就職活動は一切やりませんでした。じゃあ、どうしようかと思っていた頃にタイミングよく東京藝術大学大学院映像研究科が新しくできるという情報を得て、一期生として無事入学できたんです。

-映画の見え方が変わる-

北川:東京藝大では、黒沢清さんの授業が楽しかったですね。黒沢さんはとにかく映画に対する感想が独特で、「このタイミングは、奇跡だよ」みたいな感じで映画の見方みたいなものを教えてくれたように思います。自分では借りないような面白い映画も色々観れました。『ラスト・ショー』(監督:ピーター・ボグダノヴィッチ/72)も印象深いです。フィルムセンターにもよく観に行っていました。映画の見え方が変わっていきましたね。在学中に、美術領域教授の磯見俊裕さんの紹介で、『バッテリー』(監督:滝田洋二郎/07)の撮影部のフォースをやらせてもらったのが初めての商業の現場でした。卒業してからは、そこで知り合った先輩方が撮影現場に呼んでくださったおかげで、いまの仕事に繋がっているんです。
アシスタントの仕事を続けながらも、一方で『親密さ』(監督:濱口竜介/12)などではカメラマンとして関わらせてもらっていました。濱口さんは、撮影のこともよく知っていて、何をやったら大変で予算がかかるかを知っているので話は早いんですよ。そのとき実現可能な範囲で、いい瞬間を撮る方法を考えていて、考え方も非常に理論的な方です。

-技術以外での成長-

北川:濱口さんの最新作『ハッピーアワー』(15)でも一緒にやらせてもらっていて、9月から始まったワークショップに毎回スタッフとしてカメラを持って参加していました。毎週土曜日に神戸に行って撮影をしていました。ワークショップは、もともと持っているその人の要素を本人が再発見して、それを皆で認知しあえるような場になるように回数を重ねていっていたんだと思います。
撮影も兼ねた濱口さんのワークショップは、毎回楽しいんですよね。スタッフ、役者ともに面白い人たちがいて、面白いことをしている場なんです。年上の方も多いということもあり、当たり前ですが自分の知らないことを沢山知っているので勉強になりました。技術とは違う意味で、カメラマンとして、表現者として成長させてくれたような気がします。

映画『ハッピーアワー』(監督:濱口竜介/撮影:北川喜雄)

シアター・イメージフォーラムにて絶賛上映中!!ほか全国順次公開!

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取材・写真: 岡本英之
構成: 川邊崇広
『ハッピーアワー』
©2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
田中幸恵 菊池葉月 三原麻衣子 川村りら
申芳夫 三浦博之 謝花喜天 柴田修兵 出村弘美 坂庄基 久貝亜美 田辺泰信 渋谷采郁 福永祥子 伊藤勇一郎 殿井歩 椎橋怜奈
製作総指揮:原田将、徳山勝巳

プロデューサー:高田聡、岡本英之、野原位

監督:濱口竜介

脚本:はたのこうぼう(濱口竜介、野原位、高橋知由)

撮影:北川喜雄

録音:松野泉

照明:秋山恵二郎

助監督:斗内秀和、高野徹

音楽:阿部海太郎

製作・配給:神戸ワークショップシネマプロジェクト(NEOPA,fictive)

宣伝:佐々木瑠郁
2015 / 日本 / カラー/ 317分 / 16:9 / HD
公式サイト:hh.fictive.jp
ストーリー:30代も後半を迎えた、あかり、桜子、芙美、純の4人は、なんでも話せる親友同士だと思っていた。純が1年にわたる離婚協議を隠していたと知るまでは……。純の現状を思わぬかたちで知った彼女たちの動揺は、いつしか自身の人生をも大きく動かすきっかけとなっていく。つかの間の慰めに4人は有馬温泉へ旅行に出かけ楽しい時を過ごすが、純の秘めた決意を3人は知る由もなかった。やがてくる長い夜に彼女たちは問いかける.—私は本当になりたかった私なの?
  • 『北川喜雄(きたがわ・よしお)』
    1982年生まれ、岡山県出身。東京藝術大学大学院映像研究科を卒業後、撮影助手として映画、CMの現場に従事。インディペンデント映画などにも撮影者として参加する。 主な作品として、杉田真一監督 短編作品『大きな財布』(11)、長編作品『人の望みの喜びよ』(15)や、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る、濱口竜介・酒井耕監督作品『なみのおと』(11)『なみのこえ』(13)、東北地方の民話の記録『うたうひと』(13)、同じく濱口竜介監督作品『親密さ』(12)、最新作『ハッピーアワー』(15)などがある。