LOAD SHOW

A Rooted Soul. Vagabond Eyes.

映画の未来をいち早く
Be the first to witness the future of films

♯36「映画と私」及川奈央(女優)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

及川奈央、最新出演作『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』11月1日より、渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開!

女優の及川奈央です。出演させていただいた映画『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』(監督:山口ヒロキ)が11月1日から渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開となります。撮影したのは2年前だったのでようやく公開という形ですね。『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』の撮影が終わってからは舞台に注力していました。2人芝居のユニット「類類~LuiLui~」という劇団(及川奈央+久下恵美(SET)からなるユニット。2011年『女のキモチ』で旗揚げ、毎年1年に1回ずつ2人芝居を公演する)をベースに、色々な舞台作品に参加させていただきました。多いときは一年に7本くらい演劇に出演していました。

「自分を変えたい」という願望はいつも持っていた

わたしは、生まれは広島なのですが、両親の転勤などでほとんど東京で生活していました。一番最初に観た映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(監督:ロバート・ゼメキス監督/85年)だったと思います。テレビの前でワクワクしたのを覚えています。未来になればこんな世界が広がっているんだ、って感動していました。他にも『グーニーズ』(監督:リチャード・ドナー/85年)とか『ネバーエンディング・ストーリー』(監督:ウォルフガング・ペーターゼン/84年)など、アドベンチャーものをよく見ていました気がします。わたしは小学生の時から近所の男の子たちや弟と裸足で走り回ってるような女の子で、つまり…おてんばな娘で(笑)。なので好奇心をくすぐるような映画が好きだったんでしょうね。

我が家には父親の趣味で小説がたくさんあって、映画より本の方が存在感がありました。ただ…、いつでも読めると思っていたんでしょうね。あまりにたくさんの本に囲まれていたので、外で遊んでばかりで手に取ることはあまりありませんでした。また、わたしの場合映画を頻繁に観るようになったのは女優になってからだったので、いわゆるミニシアター系映画やB級映画と言われる作品に興味を持ち始めたのも最近だと思います。

お芝居が好きと思い始めたのも、この世界に飛び込んでからです。演技に触れながらどんどん芝居が好きになっていきました。こどもの時は幼稚園の先生に憧れていたり、雑貨が好きだったので雑貨のデザイナーになろうと考えていたんですよ。専門学校も雑貨のデザインの学校に通っていて、芸能界に入ろうと思ってはいませんでした。ただ、「自分を変えたい」という願望はいつも持っていたと思います。

「どこにも属したくないからって物事をすごく冷めて見ていました(及川)」

そういう風に思い始めたのは小学生の高学年くらいからです。小学校3年生の時に父親の転勤があって転校をしたのですが、そのタイミングでおてんば少女から少し冷めた感じの女の子に変わってしまって。「友達付き合いってめんどくさいな」とか「早く大人になりたいな」って思うようになっていきました。女の子って女子同士のグループを作る習慣があるんですけど、そういうのがすごく嫌いだったんですよ。

さすがに高校生くらいになると楽しく学校生活も送れるようになっていたんですけど。進路を決める時期ということもあって、自分に出来ることは何なのかとか考えたら自分には何もない気がして…。何にも踏み出せない自分に漠然とストレスが溜まっていたんです。デビューは18歳の時でした。きっかけは自分を変える何かがほしかった、ということが大きかったかもしれませんね。

“及川奈央”という芝居

AVという仕事は本名のわたしではなくて、“及川奈央”という別の自分を作らないとできないと思っていて、ある意味それはお芝居の体験に近かったのかもしれません。もともと4年間でAVの仕事を辞めようと思っていて、それからは元いた専門学校に戻ろうと考えていました。そんな時に(2004年の春)『ファンタズマ~呪いの館~』(テレビ東京/04)というドラマのお話を頂いたんです。それはわたしが出演するわけではなく、“監督業”としての依頼でした。これには驚きましたが、“及川奈央”という名前を必要としてくださる方がいるなら、もう少しだけチャレンジしてみたい、自分の可能性を試したいと思い、芸能の世界に入りました。

『ファンタズマ〜呪いの館〜』はオムニバスドラマで、他の監督さんの名前を聞いたら、パパイヤ鈴木さんや恵俊彰さん、伊原剛志さん、津田寛治さん、猫のホテルという劇団の主宰者千葉雅子さんと…ちゃんとエンターテイナーとして活躍されている方ばかりで。不安もあったのですが、思い切って参加してみました。

はじめての“監督”で覚えた、創作の楽しさ

『ファンタズマ〜呪いの館〜』でわたしが担当した回のキーワードが「浴衣」で、主演が吉井怜さんでした。なので、まずはパソコンで「浴衣、色気」等で検索して(笑)。色々リサーチしたものをプリントして助監督さんにお伝えして、カット割を考えたりしました。また、こどものおばけが全回通して出てくるのですが、わたしが担当する回はシーズン3なのでこどもの後ろ姿しか出せないという制約があってどうやってこどもを怖くみせるかというのが課題だったんです。この時わたしは22歳ですから、まだこんなに未熟でベテランのカメラマンさんや助監督さん達と一緒にうまくやらせていただけるのかという不安も大きい中、皆さん本当に温かい方々ばかりで救われました。今でも、心から感謝しています。

「ここで来るとみせかけて…来ない!」って良くありませんか?と打ち合わせしたり。モニターにかぶりついて「ヨーイ、ハイ!」とかけ声をかけるのにも徐々に慣れてきて。皆さんから「監督」と呼ばれることに最初は抵抗があったんですけど、現場が終わる頃には、えっもう呼んでくれないんですか、なんて欲しがるようになっちゃったり(笑)。本当にとても貴重な経験をさせていただきました。この作品が、わたしの第二の原点です。この作品に出会っていなければ、“及川奈央”を辞めていたと思います。

「なんだかわたし、影のある役が多い気がします(及川)」

山口ヒロキ監督の作品にはじめて出演したのは『葬儀屋月子』(07年)という携帯ドラマで、『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』は2回目でした。わたしにとって山口ヒロキ監督は尊敬する映画監督のひとりです。『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』の現場は結構過酷だったんですけど、山口さんはずっと同じ感じでいられるんですよ。みんな寝られない現場だったのに山口さんは変わらずフワーとそこにいて、強いことばも言わないからピリピリした空気にならない。それは山口監督の存在感のおかげだと思います。打ち合わせなども綿密にしてくれるので、不安もすごく少ないんですよ。

ちなみに、『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』でのわたしの役は葬儀屋さんでした。初登場のカットは倉庫の中で作られた町のセットの中に“弔い車”で入っていくというもので、その空気感はすごく好きでした。役柄に関しては監督とはじめてお仕事をした『葬儀屋月子』も葬儀屋さんだったので、その時のキャラクターと通じるものがあり、嬉しかったです。

わたしの役は冷静な性格で、髪は黒のロングストレート。唯一「ダミの儀」という弔いができて、強い女性にみえるが実は過去のキズを抱えているという複雑な役でした。こう考えてみると、なんだかわたし、影のある役が多い気がします(笑)。

グラビア撮影でも、ビーチではしゃぐカットではなく廃墟の隅にある瓦礫の上など、そういう影のあるものの方が似合うと言われていて。わたしもそちらの方がやりやすかったですが。そのような配役も、小学生の頃の冷静さなどと通じているのかもしれませんね。

そしてこれから…

『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』の撮影以降は演劇に集中していました。それまでにも色々舞台に出させてもらったことはあったんですけど、レッスンなどを受けたことが無いので、“できない”というジレンマがあったんですよ。そんなときに「スーパーエキセントリックシアター(SET)」という三宅裕司さんの劇団に所属している久下恵美さんという女優さんと、もっと場数を踏みたいと意気投合して「類類~LuiLui~」を旗揚げしました。

最近は優秀な制作さんがついてくれたのでとても助かっていますが、最初は大変なことばかりで。人を集めて、稽古場どうしようってはなしあって、劇場決めてって。一から演劇のことを知っていくようでした。他にも、たくさんの舞台作品に携わって、ここ2〜3年はまさに舞台漬け。でも最近になって自分の中で一区切りつきまして、演劇も続けていけたらと思いますが、別のことにも挑戦したいと考えています

これからは髪も切って心機一転、裏方のお仕事をしてみたいと考えています。例えば、わたしは日本酒が好きで、最近日本酒のプロデュースをさせていただいたんです。

わたしの生まれ故郷である広島県に賀茂泉という酒蔵があるのですが、 そこの蔵の方をご紹介いただけることになりまして。わたしの日本酒への熱い思いを汲んでくださり、 自らのプロデュースとして、純米「及川」というお酒と「NAO」というスパークリング系のお酒の二種類を出していただきました。今まで培ってきたご縁を大切に、自分が前面に出ないお仕事もしていけたらと考えています。

『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』はみんなで作ったと自信を持っていえる映画

『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』は町おこしを狙った映画ということもあって、たくさんの町の人々が協力して出来上がったんです。ストーリーもSFというジャンルではありますが、登場人物は心の温かい人ばかり。温かい映画なんです。そのなかでも特に素晴らしかったのが、主人公を演じられた前田希美さんです。撮影時はまだ18歳だったと思うのですが、彼女が先頭に立って映画の役としても現場での雰囲気づくりとしても引っ張ってくれたからここまでの作品が出来たのだと思います。

そして小野川温泉。これはスタッフのみなさん今でも言ってますけど、小野川温泉のパワーがすごいんですよ。疲れが全部とれて、癒されていく感じがするんです。わたしはこれまでかなりたくさんの温泉に入ってきましたが、ここが一番好きです。温泉があったからこそ、この映画ができたと言っても過言ではないと思いますよ(笑)。

映画って昔と比べて大分少なくなってきてしまっている印象がありますね。でも、沢山の人の力が集まって出来上がる映画がわたしは大好きです。これからも映画の現場は大事にしていきたいと思っています。

そんな風に考えるようになったのはやはり『ファンタズマ~呪いの館~』で作品創りを知られたことが大きいです。クランクインする前までに何ヶ月ももしくは何年もの打ち合わせを重ねて、ようやく現場に入って過酷なスケジュールの中で撮影をして、クランクアップ後はまたハードな編集作業があって。監督さんの大変さに驚きますし、助監督さんもほとんど寝ていなくて。皆さんの大変な分量が多すぎて、わたしひとり悠長でいるわけにはいかないんです。そういう意味でも『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』は泊まり込みでの撮影ということもあって、スタッフキャスト陣全員で協力しあってこの作品をつくったと自信をもって言える作品になりました。この映画が盛り上がってくれることを願っています。
山口ヒロキ監督作品『ヲ乃ガワ-WONOGAWA-』
11月1日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開
◆公式サイト
http://wonogawa-movie.jp/teaser/
◆公式Facebookページ
https://www.facebook.com/WonoguawaZhiZuoWeiYuanHui
◆公式Twitter
https://twitter.com/wonogawa
◆上映イベント

11月1日(金)初日夜9時より、出演者・監督による舞台挨拶決定!

(登壇:前田希美/及川奈央/山口ヒロキ監督)
◆及川奈央プロデュース 「純米及川」「NAO」オンラインショップ
http://kamoizumi.com/ (賀茂泉オンラインショップ)
取材・文:島村和秀
『ヲ乃ガワ』
(114分/カラー/16:9 /ステレオ/©2014ヲ乃ガワ製作委員会)

スタッフ

監督・脚本・編集 山口ヒロキ

Exec.プロデューサー:奥山琢、奥田真平、横川康次/プロデューサー:犬童一利、関谷寿宣、小野島重幸

撮影:曽根剛/美術:宮下忠也/衣装:伊東摩美/音楽:倉堀正彦/楽器制作:明和電機/紋章デザイン:弐瓶勉/特殊造形:JIRO、 奥山友太/監督補: 政成和慶 助監督:上野山雅也、 基はるか/原作: 山口ヒロキ 高橋有里

出演

前田希美、及川奈央

深水元基、マメ山田、川本淳市、志賀廣太郎

漆崎敬介、ボブ鈴木、税所伊久磨、阿知尚康、阿部恍沙穂、松田俊政、ナオミ、副島淳、こいけけいこ、安友健二、

藤崎ルキノ(友情出演)

【Story】

西暦2033年、「大崩壊」と呼ばれる地球規模の天変地異が発生。わずかに生き残った人類は、各地に小規模のコミュニティを築き、生き長らえていた。1000年後、温泉地に形成された「ヲ乃ガワ」と呼ばれる王国。考古学者月山(つきやま)ヲノガは1000年前の地層から風化した携帯電話を発掘する。そこには歴史を揺るがす、ある証拠が隠されていた。調査を続ける中、仲間を次々に失いながらも核心に迫っていくヲノガ。そして、常識を覆す驚愕の真実が明かされる─。
  • 『及川奈央(おいかわ・なお)』
    1981年、広島県生まれ。東京育ち。2000年、AV女優として宇宙企画よりデビュー。2004年に引退後、『ファンタズマ〜呪いの館〜』でドラマ監督デビュー。女優、タレントとして活動の幅を広げる。2007年11月初の主演舞台『ナイトメス』で全国ツアーを行う。2008年スーパー戦隊シリーズ『炎神戦隊ゴーオンジャー』にレギュラー出演。2010年にはNHK大河ドラマ『龍馬伝』に出演。2011年より、女優の久下恵美と二人で演劇ユニット「類類~LuiLui~」を結成し、舞台活動も積極的に行っている。また、2013年賀茂泉酒造より純米酒をプロデュース。「純米 及川」と「NAO」が販売となる。