LOAD SHOW

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♯34「映画と私」山脇有美(高知県立美術館 職員)

意外と知られてない?!映画が盛んな街・高知!

高知県立美術館 企画事業課の山脇有美です。当館の美術館ホールで行われる映画や演劇、パフォーマンス企画の雑務全般を担当しています。企画内容は館長やプロデューサーが決めるのですがものによっては制作も担当します。

2013年の夏開催された「手塚治虫 アニメーションの夢と冒険」という企画は、館長が『クレオパトラ』(70)を再上映したいとの意向があり、それ以外の作品(「ジャンピング」、「ある街角の物語」、「展覧会の絵」など多数)をプロダクションの方にアドバイスをいただきながら選びました。

LOAD SHOWさんで初めて取り上げて頂いた、2015年の春に開催した「台湾映画の新旋風‐ウェイ・ダーション監督特集」も、『セデック・バレ』を東京で観てきて感動した館長が、ずっとやりたいと言っていた作品でした。日本人にはあまり知られていない統治時代の霧社事件を描いており、残虐なシーンも多く、私自身はなかなか乗り気になれなかったんですけど…でも、せっかく上映するのだし、少しでもたくさんのお客様に来ていただきたく、同時上映の「海角七号」にご本人役で出演されていた歌手の中孝介さんに舞台挨拶に来ていただいたりしました。

結果的に、胎教にはあまり良くなかったかもしれませんが(笑)『セデック・バレ』は心に残る1本となりました。中さんからも台湾での撮影の裏話を聴くことができ、思い入れの深い上映会となりましたね。

そもそも高知県立美術館の館長(藤田直義)は、銀行員時代の自主上映活動がきっかけで、美術館ホール事業のお仕事をするようになった経緯の持ち主で、ホールの催しは館長やプロデューサーが、世界各地で行われている芸術見本市で観てきたものから企画を立てたりしています。

なので、高知県立美術館はユニークな上映企画や斬新な舞台が行われていると思います。ホワイエに貼られている過去の公演ポスターを観てお客様が「ピナ・バウシュが高知に来てたの!」と驚かれたりもします。

美術館ホールは一般の方に貸出しもしており、ミニシアター系の映画を上映する自主上映団体などがホールを借りて様々な映画を上映してくれています。上映団体はNPOとして活動している団体もあれば、個人単位で活動している人もいて、美術館を良く利用してくださる5〜6団体は、街中の映画館が減っている現状において、心強い存在です。

上映作品によって集客数も違いますが1日だいたい100人から200人くらいお客さんが来ているようです。高知は映画好きがとても多いと思いますよ。
※自主上映団体による、近日上映予定の映画ポスター

札幌とともにあった、映画と青春

私は札幌生まれで、札幌に27年住んでいました。初めて友達と映画館で観たのは『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督作品/1984年)です。母がよく映画や美術館に連れて行ってくれたんですよ。『ラストエンペラー』(ベルナルド・ベルトルッチ監督/1987年)や北海道立近代美術館のガラス作品やシャガールが印象に残っています。(高知県美が世界有数のシャガールの版画コレクションを所蔵していることを勤務してから知り驚きました。)

小学生から中学生の時はバスケばかりの毎日で、映画館からは遠のいていました。だから『アンタッチャブル』(ブライアン・デ・パルマ監督作品/1987年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス監督作品/1985年)などテレビで放映されているのを観ていたくらいです。

でも、高校生の時にリバーフェニックスが出ているという理由だけで『マイ・プライベート・アイダホ』(ガス・ヴァン・サント監督作品/1991年)を観て衝撃を受けてしまい…。何だこの世界はって!(笑)ヒーローが活躍する映画ばかりではないのだと、映画への印象が変わった瞬間です。

今でも、映画の内容をあまり知らないまま、いくつかのキーワードだけで観に行くことが多く、音楽好きな子と“ビョーク”というキーワードだけで『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(ラース・フォン・トリア監督作品/2000年)を観に行って、撃沈したこともありましたね(笑)。

進学した短大は、デザイン、建築などアート系の分野も学べる学校でとても楽しかったですね。授業の合間には、映画に詳しいステキなおばさまが司書を務める視聴覚ライブラリーでオススメの映画を聞いて観たりしていました。印象的だったのは『ミツバチのささやき』(ビクトル・エリセ監督作品/1973年)です。それまで英語圏の映画しか観たことがなかったので、この映画に流れている独特の時間感覚に感動して、それから色々な国の映画を観るようになりました。

また、20代の頃にシアターキノ(札幌市にあるミニシアター系 映画館)が開館して『アメリ』(ジャン=ピエール・ジュネ監督作品/2001年)や『彼女を見ればわかること』(ロドリオ・ガルシア監督作品/2001年)などミニシアター系映画も観られるようになりました。札幌には映画館が一杯ありましたし、シアターキノの存在も大きくて、結構多くの映画に触れられていたと思います。

短大卒業後は教師を目指して大学に編入し卒業後も働きながら勉強していたのですが、なかなか教員採用試験に受からず、どうしようかと考えていた時に札幌市生涯学習センター(ちえりあ)が新設され、職員募集に応募して運良く勤めることができました。札幌市生涯学習センターは市民向けに色々な講座を企画運営しており、今思えば現在の仕事にも繋がっているなと感じます。

いまのご主人との出会い。一挙、札幌から高知へ

高知で住むことになったのは今の主人との出会いがきっかけになりました。友達の結婚式で、高知から来ていた今の主人と出会い意気投合しまして、仕事も楽しく札幌での生活も充実していましたが、一緒にいたら楽しいだろうなと思える人に出会える機会もなかなかないかなと思い、あまり深くは考えずに勢いで高知に行きました。高知では主人がよさこいのチームに関わっていたので、そのお手伝いをしながら家庭教師などをしていました。

それで30歳頃に「そろそろ働いたら?」とも言われて、ハローワークに行ってみたら今の仕事を見つけました。どんな業務かよくわからず、お茶汲みとコピーかな?なんて思っていたのですが、実際入ってみるとホール事業に関する様々な仕事をさせてもらえるので正直、経験・実力が追い付かず、想像以上に刺激的でちょっと大変な日々ですね。

ちなみに主人は私以上に映画が好きで、自主映画制作や映画撮影のお手伝いもしています。映画制作を間近で視ているとスクリーンには映らないところで、たくさんの人が動いていることを痛感します。実際、高知でロケが行われた『桐島、部活やめるってよ』のエンドロールに彼の名前があった時は、私も感動してしまいました。

職員でもちょっと映っている人がいたりと、映画に関わっている人が凄く身近にいるので、今の仕事といい札幌に住んでいるときより映画が生活の近くにあるかもしれませんね。

住んでみて驚いた、雪国と南国の違い

高知に来て感じだ雪国(北海道)と南国(高知)の違いは、“準備”に対する考え方です。雪国の場合はスタットレスタイヤやコート、靴を用意しておかないと身に危険が起こりますので(笑)。

高知は準備がそう万端でなくても、「どうになかなる」という感じを受けます。その理由は台風かなと個人的に思っています。どんなに準備しても台風が来たら振り出しに戻ってしまう。だから何度でも立ち上がる強靭な精神を持っているのだと思うんです。

もちろん美術館での企画展や事業に関しては何年も前から準備しています。でも仕事とは別の場所では「あれ?」と思うことはたくさんもありました。高知は時間の流れもゆっくりしていて、私は新しい環境に3日で慣れるタイプだったのですが、高知に慣れるのは3ヶ月かかりました。その分、もう戻れません(笑)。

札幌は組織化されていて、リーダーが物事を進めて行くことが多いのですが、高知は個々に動いて物事が進んで行く印象があります。そして、そんな一人ずつの能力が発揮されるのが“よさこい祭り”なのだと感じています。

札幌だとそれぞれの役割が職業になってしまうのですが、高知は本業の傍らでよさこいの音楽や衣装のデザインを皆でワーワー言いながらやることが多くて、間に合うのかなと思うのですが、本番までにはどうにかなっていて。それだから高知はなんでも自分達でできてしまう人たちが多いように感じます。

あらためて感じた映画を“みんな”で観る意味

美術館は「春・夏・秋・冬」と定期的に上映会をしていて、春は色々な国。夏はアニメーション。秋はアート系。冬は監督特集などをしています。そういう上映会で“ポルトガル、ブラジル、ロシア”と様々な国の映画に触れるようになりました。でも、職員は映画に詳しい人が多く、なかなかついていけません(笑)。

また、高知の方は懐が深くて、どんな作品も受け入れてくれるように思います。園子温監督特集や斬新すぎるダンス公演など、こちらが大丈夫かな?と思っていても、こんな上演をするなんてすごい!とアンケートに書いていただけたりします。

もともと高知は四国のなかでも四国山脈の影響で交通が制限され、娯楽が少なく、その中で輸送が簡単な「映画」が県民の楽しみとして育っていたようで、他の県より映画への親しみが強いと地元出身の職員に聞いたことがあります。

生活の一部として映画がある方も多く、定期上映会に毎回足を運んでくれるお客様もたくさんいます。今年の夏の怪獣映画特集でも『空の大怪獣ラドン』(本多猪四郎監督作品/1956年)上映中に「今なにやりゆう!?」と言って遅れてきたお客様がいて、「ラドンです」とお伝えしたら「しもうた!」って言うんです。詳しく聞いたら、小さい頃『ラドン』の上映に遅刻してしまったから、今回のチラシを見つけて、リベンジができると思ってワクワクして来たのにまた遅刻してしまったそうなんです。でもその方が上映後「前に観れなかった場面が観られたからすごい良かった、ありがとう」と言って帰られて。なんだか、こちらが笑顔になってしまいました。嬉しかったですね。

2008年に『パンダコパンダ』(高畑勲監督作品/1972年)を上映したときは、上映中に子ども達が主題歌の大合唱をはじめたんです。「パンダコパンダコパンダッ!」って(笑)。そしたら保護者の方から「普段ひとりでテレビを観させているから、こんなふうに皆で映画を観る機会が得られて嬉しかったです」と書かれたアンケートをもらって。これから子どもを持つ身として、そのときのことを思い出すとジーンとします。あらためて映画館で観ることのステキさを感じた瞬間です。

高知は上映する映画によって来場してくださる年齢層は違うものの、ドキュメンタリーや実験映画、抽象的なアニメーションといったニッチな内容でも一定数の人が集まります。特に多く来てくださったのは、ドキュメンタリー映画『ヴィダル・サスーン』(クレイク・ディパー監督作品/2010年)と『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(ゲレオン・ヴェツェル監督作品/2011年)の2本立て上映ですね。高知は日本でもかなり美容室が多く、その時はたくさんの美容師さんが来てホールがおしゃれな空間になりました。

これからの高知県立美術館と映画

高知県立美術館では今年の秋に「爆音英国映画祭」が開催されます。それは同時期に開催される展覧会「プライベート・ユートピア ここだけの場所 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国現代美術の現在」に関連して英国の音楽映画を中心に上映し、せっかくならいい音環境で上映しようということになった企画です。

高知県立美術館では、今後とも展覧会と映画を繋げていくことを意識しています。また、フィルムがある場合はできるだけフィルムでの上映をしています。家庭では得られない上映環境を用意することもこれからの課題だと思っています。

―あの時の1本―

『幸せのパン』(2012年/監督:三島有紀子)
1作を選ぶのは難しいですが、『幸せのパン』を観ている時のおいしそうな、あのしあわせな時間が今でも心に残っています。チラシを観るだけで、その時感じたあたたかい気持ちになれるんです。それと札幌出身ということもあって、大泉洋さんが映っているとどうしても観てしまうんです(笑)。
高知県立美術館 秋の定期上映会「爆音英国映画祭」
2014年11月12日(水)、13日(木)、14日(金)開催!

【概要】

通常の映画用の音響セッティングではなく、それ以上の音響セッティングをフルに使い、大音響の中で映画を見・聴く(爆音)上映会。今回は同時期に高知県立美術館で開催される「プライベート・ユートピア ここだけの場所 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国現代美術の現在」展に関連してイギリス映画を中心に上映。ロック映画、クラシック音楽映画から劇映画まで、今まで体験したことのない映画の音の世界を感じられる特別上映会。
■作品プログラム
(※開場は各プログラムの30分前)
Aプログラム
『すべての若き野郎ども/モット・ザ・フープル』(2011年/101分/イギリス/ブルーレイ)

監督:クリス・ホール、マイク・ケリー/出演:モット・ザ・フープル

【内容】イギリスのロックバンド、モット・ザ・フープルの歴史を綴ったドキュメンタリー。メンバーたちのインタビューや貴重なアーカイヴなどを交え、グラム・ロックシーンを華麗に彩った彼らの姿を描く70年代の英国ロック・シーンを知る上で欠かせない作品。

上映日時:11月12日13:00~14:41 | 11月13日18:00~19:41

『トミー』(1975年/111分/イギリス/ブルーレイ)

監督:ケン・ラッセル/音楽:ピート・タウンゼント/出演:ロジャー・ダルトリー、アン=マーグレット、オリヴァー・リード

【内容】ロック・バンド、ザ・フーの傑作ロック・オペラの映画化。ザ・フーのボーカル、ロジャー・ダルトリーを主演に迎え、アン=マーグレット、オリヴァー・リード、ジャック・ニコルソンなど個性豊かな役者を揃え、エルトン・ジョン、エリック・クラプトンなども出演したラッセルの70年代の快作。

上映日時:11月12日14:50~16:41 | 11月13日19:50~21:41

Bプログラム
『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』(1982年/95分/イギリス/35mm)

監督:アラン・パーカー/音楽:ピンク・フロイド/出演:ボブ・ゲルドフ

【内容】ブリティッシュ・ロック・グループ“ピンク・フロイド”の大ヒットアルバム『ザ・ウォール』の映像化を試みた異色作。身勝手な大人の中で、ロック・ミュージシャンとして成長した主人公は、ドラッグと妄想をさまよいながら、やがて狂気へと取りつかれていく。

上映日時:11月12日18:00~19:35 | 11月14日13:00~14:35

『マーラー』(1974年/115分/イギリス/ブルーレイ)

監督:ケン・ラッセル/音楽:グスタフ・マーラー/出演:ロバート・パウエル、ジョージナ・ヘイル、リー・モンタギュー

【内容】1970年代当時、次々と問題作を発表して映画界の話題をさらっていたケン・ラッセルが大作曲家マーラーを大胆に描いた伝記映画。ニューヨークでのコンサートを終え、ウィーンに向かう中、自らの半生を回想していく。

上映日時:11月12日19:45~21:40 | 11月14日14:45~16:40

Cプログラム
『ドント・ルック・バック』(1967年/96分/イギリス/35mm) 

監督:D・A・ペネベイカー/出演:ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、ドノヴァン

【内容】フォークシンガーとして絶頂期にあったディランの65年英国ツアーを追ったドキュメンタリー。フォークの女王ジョーン・バエズとの関係やドノヴァンとの交流、取材記者をやり込める姿など、23歳時のカリスマ性溢れるディランの若き姿。

上映日時:11月13日13:00~14:38 | 11月14日18:00~19:38

『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年/99分/イギリス/ブルーレイ)

監督:ジム・シャーマン/出演ティム・カリー、バリー・ボストウィック、スーザン・サランドン

【内容】1973年にロンドンで生まれ、さらにロサンゼルス、ブロードウェイで大ヒットのホラー・ミュージカルの映画化。グラム・ロックのゴージャスでセクシャルな世界に、B級ホラーやSF映画へのオマージュを織り交ぜたポップさとブラックユーモアが同居する不思議な映像世界に引き込まれる。

上映日時:11月13日14:45~16:24 | 11月14日19:45~21:24

■秋の定期上映会 開催期間
2014年11月12日(水)13日(木)14日(金)
■会場
高知県立美術館ホール(住所:高知県高知市高須353-2)
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/
■入場料

《各プログラム入替制》

前売券:1プログラム券1,000円

当日券:1プログラム券1,200円

身体障害者手帳・療育手帳・障害者手帳・戦傷病者手帳・被爆者健康手帳所持者とその介護者(1名)は3割引です(割引料金の場合1プログラム前売券700円、1プログラム当日券は840円。ローソンチケットは割引対象外)

*年間観覧券をご提示いただくと前売料金でご覧いただけます。

※「プライベート・ユートピア展」のチケットをご提示いただいた方は前売料金でご覧いただけます。

※本上映会のチケットをお持ちの方は、「プライベート・ユートピア」展(11月2日(日)~12月23日(火・祝)を団体割引料金でご覧いただけます。

■爆音英国映画祭 詳細ページ
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/contents/hall/hall_event/hall_events2014/14bakuon/hall_event14bakuon.html
聞き手・写真・構成:島村和秀
  • 『山脇有美(やまわき・ゆみ)』
    札幌出身。北星学園大学卒業。札幌市生涯学習センター(ちえりあ)勤務。その後、結婚相手のいる高知に移住。よさこい祭りのチームスタッフなどを経て2006年より高知県立美術館 企画事業課 勤務。