LOAD SHOW

A Rooted Soul. Vagabond Eyes.

映画の未来をいち早く
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♯38「映画と私」浅川奈美(映像翻訳者、プロデューサー)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

字幕・翻訳を楽しんで学べる場を企画する

私は日本映像翻訳アカデミー(JVTA)でプロデューサーとして経営・企画の仕事をしています。日本映像翻訳アカデミーは映像翻訳者を育てる「学校」であり、映像翻訳を手がける「エージェント」でもあります。 経営・企画という仕事は「映像翻訳」という業種を社会に広げる仕事です。映像翻訳は映画表現においてとても重要なものなのですが、その重要性があまり知られていないように感じます。

しかし、その重要性が社会的に広まっていかないと映像翻訳の業界規模が小さくなり、私たちの社会的な地位も向上しません。 そのため「映画翻訳」が社会に広がるよう、海外の映画祭でワークショップをひらいて字幕の大切さを訴求してみたり、日本映像翻訳アカデミーで新しい講座を企画したり、大学や小中高の教育機関で映像翻訳の授業の企画や担当をしています。

私は最初、映画と自分の接点を「字幕翻訳」という仕事に見いだしました。日本映像翻訳アカデミーに受講生として通い、何作品か字幕翻訳の仕事をさせていただきました。その後、日本映像翻訳アカデミーに入社すると同時に東京国際ファンタスティック映画祭の事務局に出向となり映画祭の運営に携わるようになりました。その頃から、翻訳というよりも映画に関わったり、映像から色々な仕事を創出していくという方向性に移っていきました。

そもそも、海外の映画祭などで日本映画はどんな風に受け取られているのか、日本映画の英語字幕ってどういったものがついているのか、というのは国内にいると実感しづらいですよね。私たちの想像以上に、外国では日本の映画をよく観られていて、翻訳の良し悪しなども分かるみたいなんですね。

日本映画を観る海外の人たちは、もちろん字幕を見て映画を楽しむのですが、なかには英語翻訳の質に対して感想すら持っている方もいます。私がそのことを知ったときは驚きましたし、嬉しく思いました。だから、より 日本の作品をしっかり堪能しようとしてくれている、そういうファンを増やしたいですし、質の良い字幕を作れるようになりたいと考えています。

そのためにも教育サービスの土壌を豊かにして、字幕・翻訳を気軽に楽しめるワークショップなどを企画したりしながら社会へと「字幕翻訳」を広めていきたいと考えています。

人生の節目にいつもある映画

私が一番最初に観た映画でトラウマ的に覚えているのがスティーヴン ・スピルバーグ監督作品『ジョーズ』です。父親が映画好きだったので我が家のテレビではいつもロードショーがついていました。特に父親は洋画好きだったので洋画ばかり私も観ていましたね。映画館でよく見たのはこれも父親の影響でしたけどジャッキー・チェーンの映画シリーズが多かったです。

特にジャッキー・チェーン監督作品『プロジェクトA』を初めて観た時は「凄い!」って興奮しましたね。見事に心を掴まれてしまいました。特に エンドクレジットのNGシーンが大好きでした。友達同士で初めて観た映画は那須博之監督作品『ビー・バップ・ハイスクール』でした。

また、初めて映画というものを意識させられたのはジュゼッペ・トルナトーレ監督作品『ニュー・シネマ・パラダイス』です。映画館を舞台に少年と映写技師の心の交流が描かれる映画で、映画が上映されるまでの行程を知って「映画」への意識が変わった気がします。

『ニュー・シネマ・パラダイス』の中で好きな小話があります。青年に成長した主人公「トト」がある女の子を好きになって、映写技師の「アルフレード」に恋愛の相談するんですね。するとアルフレードが「99日目の衛兵」の話をする。

簡単に説明すると、ある王様に従事している衛兵が、王女さまに恋をしてしまい、身分の違いを超えて告白するんです。そうしたら王女が「バルコニーの下に昼も夜も100日間ずっといれば私はあなたのものになるでしょう」と言う。それで騎士は喜々として毎日バルコニーの下に居続けるんです。彼は雨が降っても風が吹いても、蜂にさされても、一歩も動かずにバルコニーの下にいた。

90日目には涙を止める気力も失い、真っ白に疲れ果ててしまっている。だけど、念願の99日目の夜に彼は何も言わずそこを立ち去るんです。「その後は?」ってトトがアルフレードに聞いたら、「その後は知らない」って。私は何故かこの小話がずっと心に刺さっています。

またなぜかなんですけど、このエピソードを4年に1度は姉に話して聞かせているらしいです。 私はあんまり覚えていないのですが、多分自分の精神状態を計る尺度のようにこの小話を扱っているみたいで、その都度自分の解釈が変わっている。それなので、私の人生の節目にはいつもこの映画があります(笑)。

そもそも私が英語に興味を持ったのは映画の影響でした。リチャード・ドナー監督作品『グーニーズ』や、ロブ・ライナー監督作品『スタンド・バ イ・ミー』、TVドラマ『ファミリータイムズ』を観てアメリカに興味を持ち英語を勉強しました。アメリカには短期留学もしたのですが、そこで自分の英語がいかに拙いかということを痛感してさらに猛勉強しました。

「映像翻訳」の道を歩き出した理由は、恥ずかしいことですけど「自分にしかできない仕事」をしたかったからです。私の前職は国際線の客室乗務員でした。そこでは在籍中は乗務で各国へ飛び、時に地上業務として航空文章を「日英」「英日」に翻訳したり、外国人乗務員の教育にあたっていました。大企業でしか体験できないことや、多くの国を訪れいろんな人に出会うなど素晴らしい経験をたくさんさせていただきました。

でもそういう生活の中で、「自分にしかできない仕事」に憧れを持つようにもなりました。本当だったら、世の中に代わりのいない仕事なんてほとんどないんですけど、当時は手に職をつけて、「自分にしかできない仕事をするんだ」って意気込んでいました(笑)。

そこで、働きながら日本映像翻訳アカデミーに通いました。当時はフライト先にPCを持っていき滞在先のホテルで課題に取り組んでだりしていましたね。学校修了して少ししてからこちらの仕事に転職させていただきました。自分は映画を観て楽しむ側だとずっと思っていたので、映画に関わる仕事をするとは思っていませんでした。

「映像翻訳」の他にも「配給会社」 など色々な選択肢はあったと思うんですけど、私はやっぱり「ことば」が 好きなので、映画の「言語」に興味があって翻訳の道を志しました。

「映画を作る一員になれていると実感する時が翻訳者冥利につきる瞬間です(浅川)」

「映像翻訳」は事務的な翻訳とは違い、作品の解釈がとても重要です。実務翻訳ならある程度経験によって対応していけるのですが、映画翻訳の場合はいつも作品の世界観、ストーリーをゼロから解釈していくことになり、あまり経験と関係ないところがあります。「言語+解釈」はリサーチと感性が必要で、時間がかかるんですね。

日本語って人間関係がすごく投影される言語です。そういうものを「ハイコンテクストな言語」と言います。「コンテクスト」は行間や文脈という意味で、この場合コンテクストとは、文化や習慣のこと。

コミュニケーションにおいて、そのコンテクストに頼ることが「多い:High」のが日本語ですね。直接的な言葉にしなくても、ある程度察してもらいながら意志疎通を図っている。一方、英語などは「Low」コンテクストな言葉といわれます。あいまいな表現も、主語を省くこともほとんどしない。映画翻訳では、こういった「ハイコンテクスト」を「ローコンテクスト」な英語に変換しないといけないわけですから大変です。この変換の作業は「文化的な背景」や「人間関係」「習慣」「歴史」など様々な要素を踏襲した上で英語表現に翻訳します。

そのため「日英」翻訳 は突き詰めると非常に深みがあり、それは私のやりがいにも繋がっています。また、監督と直に話して解釈を補っていくこともやりがいのひとつです。字幕翻訳を通してこの映画を作る一員になれていると実感する時が翻訳者冥利につきる瞬間だと思います。

私のこれからの課題は、言語の壁を超えるコツをクリエイターに提案する場を作ることです。誰もが英語を用いた最低限の発信ができるのを目指しています。というのも、現在、一億三千万人総クリエイター時代などと言われて、デバイスも整っていて全ての人が何か発信できるという時代にあると思います。

私は日本人が作るものは全てを大応援していきたいんですけど、とかく、日本人をターゲットにして制作することが多いと感じます。でも例えば映像をアップロードする時に少し英語の説明をつければ、一気にマーケットが20億人くらいに広がるんですよ。そういうことをいつも意識していてほしいな、と思っていて、そのためには私たちのようなプロの映像翻訳のスキルを利用してもらいたいですし、同時に最低限は自分で発信できるような教育を受けられる場が必要だと感じます。

今後、日本映像翻訳アカデミーではグローバル人材に求められるスキルのデフィニションを教えるコースを作ろうと企画しています。クリエイターが 世界へ発信するスキルを身につけ英語で思いを伝えることは、技術として身につけられるものです。そういった英語を用いる土壌が豊になれば日本のコンテンツは必ず勢いがでてくるようになると思うんですよ。

海外の映画祭だと香港や韓国の映画製作陣は必ず英語でやりとりします。やっぱり情報を収集して発信するメディア側としては通訳を通さないで監督の生の声を聞きたいという思いは強いようです。それだから日本の作家に向けて私たちが英語を使った発信の方法をもっと軽やかに提案できればいいですよね。映画祭での「日本映画」の反応はとてもいいです。

アメリカではまだ、マイナーなジャンル映画という枠からは出ていないように感じますが、ヨーロッパでは日本映画はジャンルとして確立しているように感じます。それだから日本映画はもっと世界にマーケットの視野をもっていいと感じますし、そういった監督やプロデューサーのサポートや教育の場を提案したいと思っています。

現在、来年4月にグランドオープンする国際コミュニ ケーション学院(GCAI)という学校のプロデュースをしています。世界とつながるプレゼン力、対応力、発想力を身につけられる学校です。映像制作に携わる人が、作品の魅力や自分自身を世界に発信していけるように、これからも応援していきたいと思います。
■日本映像翻訳アカデミー(JVTA) 公式サイト
http://www.jvtacademy.com/
■日本映像翻訳アカデミー(JVTA) 翻訳作品/LOAD SHOWにて世界に向け配信中!!
□加藤直輝監督作品『FRAGMENTS Tokyo murder case』
http://en.loadshow.jp/film/2
□濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』(英題:Touching the Skin of Eeriness)
http://en.loadshow.jp/film/8
採録・構成:島村和秀
『日本映像翻訳アカデミー(JVTA)』
業界の第一線で活躍するプロの映像翻訳者を養成するスクール。輩出したプロは 約1000人に上る。併設するエージェント部門(東京/LA)では映画・テレビドラマなど エンターテイメント素材を中心に多様な翻訳案件を扱うほか、字幕版・吹き替え版の 制作など映像編集業務にも対応する。国内外の映画祭、映像イベントでの特別上映 プログラムやワークショップの実施などコラボレーション企画の実績も豊富。著書に 「はじめての映像翻訳」(アルク)などがある。公式Webサイト: http://www.jvtacademy.com/
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外堀通りと江戸通りの交差点(新常盤橋)の角、共同ビル3F。1Fはミニストップ。
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地下鉄 日本橋駅(銀座線・東西線のA4出口より徒歩10分
  • 『浅川奈美(あさかわ・なみ)』
    国際線客室乗務員として乗務しながら日本映像翻訳アカデミーで受講。修了後、翻訳者としてデビュー。その後、東京国際ファンタスティック映画祭で運営ディレクターやニッポン放送ファンタスティックシアターでプログラミングディレクター業務に従事。その後出版社で書籍の編集に携わる。現在は日本映像翻訳アカデミーで国内外の映画祭関連事業や、映像翻訳講師(英日・日英)、また2015年開校予定の学校、国際コミュニケーション学院(GCAI)の総合プロデュースを手掛けるなど幅広く活躍している。