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♯47「映画と私」小谷忠典(映画監督)

「映画とあなた」のあいだにある物語を知りたい。幼少期の記憶から映画との現在まで。

闇に向かう作品を好んだ幼少時代

小谷忠典(以下、小谷):映画監督の小谷です。子供の頃はあまり映画を見ていなくて、子供心に残っている映画というのはあまりありません。家にテレビがなかったのも関係あるかもしれません。それよりは絵を描くのが好きで、例えば、オカンと銀行に行ってATMを見たら、なんとなくそれを描いてみたり。お金が出る機会って不思議だなぁ、みたいに好奇心の向くまま絵を描いていました。もともと、あまり喋るのが得意ではなかったので、絵で説明したりもしていましたね。

絵が好きなのは日本画画家のおじいちゃんの影響が大きかったと思います。働かずに絵を描いている姿を見て、ぼくも憧れの気持ちを持ったんだと思います。

覚えている範囲で最初に衝撃を受けた作品は、映画ではないんですけど小学校高学年の時に読んだつげ義春の漫画「ねじ式」です。当時、これだって確信したのを覚えています。闇に向かっていく感じがすごく響いたのだと思います。それからは、とにかく暗い作品を求めるようになっていき、中学生の時は、坂口安吾や太宰治などを読んでいました。

高校生の時は、サッカーをやったりバンドをやったりと一般的な高校生活をして過ごしていました。もちろんその時も暗い作品を見たり読んだりはしていたんですけど、別にその趣味はひとに見せるものでもないと思っていたので周りはぼくの趣向を知らなかったと思います。一度、小学生の時につげ義春を友達に見せたことがあるんです。そしたら「気持ち悪い」って反応が返ってきて。それ以来、こういう作品はひとにわかってもらえるものじゃないんだとわかり、自分の趣向をひとに伝えなくなったんです(笑)。

絵画から映画、そしてドキュメンタリーへ

小谷:ぼくの通っていた高校は進学する生徒が少なく、ぼくもネジのボルトを作る工場に内定が決まっていました。ただ、高校三年の時に出会った美術の先生が、絵が上手いから芸術大学に行ってみなよとアドバイスをくれて。その方からデッサンなど基礎を教わり芸術大学に入学しました。ちなみに恩師である美術の先生は2014年に『破門』で直木賞を受賞された黒川博行さんの奥さんなんですよ。画家でもある彼女には、暗い作品をたくさん教えてもらいました(笑)。

大学にはぼくみたいなひとが大勢いて驚いたのを覚えています。初めて仲間といえるひとに出会えた気がしました。専攻は油絵でした。ただ、大学で絵を学びながらだんだんと自分が表現したい悶々としたもの−自分の家族であったり、土地に関しての愛憎など−が絵画では上手く表現できないのではないんじゃないかと感じるようになったんです。

それで、大学二年生の時に学園祭で、学科のメンバーで出し物の演劇を作ったんです。ぼくは脚本/演出の立場で、殺し屋が出てくる自分でもよくわからない話を作ったんですけど、見に来てくれたひとが泣いていたりして。それまで、ひとと関わって作品を作ることがなかったので、その演劇がきっかけで集団制作に興味を持つようになりました。

ただ、演劇より映画の(作品と観客の)距離感の方が自分の肌にあっているように感じたので、以降は映画の道に進んでいくようになりました。それからはとりあえず片っ端から映画を見ましたね。年間400~500作くらい見ていたと思います。その中で特に覚えているのはツァイ・ミンリャン監督の『河』(97年)という作品です。なんだかスクリーンの中の主人公が自分に見えたんです。暗くて、狭くて、人気が無いところに逃げ込んでいるだけの自分に。だから観ている時は、息ができなくような苦しさで、映画は自分を映す鏡なんだと思いました。僕にとって『河』は逃げてたら表現はできないんだって作家として突きつけられた作品です。

その後卒業して一年間普通に働いていたのですが、もうちょっと表現活動をしたいと思うようになり、大阪のビジュアルアーツ専門学校に通い、映画を撮るようになりました。カメラが面白くていつもカメラを持って何かしらを撮影していましたね。

ただ、ぼくの作品を見た先生からは「君の映画は映像はキレイなんだけど、俳優が人形みたいで、イキイキしていなくてツマラナイ」と言われていて、映画を撮るのが楽しい一方もどかしさがありました。もともと絵を描いていたからか、ぼくは画面を支配的に切り取ってしまうところがあったんですよね。それで、どうやったら「イキイキした人間」を撮れるのかと考えて、段々とドキュメンタリーに流れていきました。《カメラに人が合わせる》のではなく、《カメラがひとに合わせる》というドキュメンタリーのあり方に惹かれていったのだと思います。被写体の動きによって想定していたものが壊れていく。そういう瞬間が気持ちいいんですよね。

また、ドキュメンタリー監督の佐藤真監督の存在も大きかったです。『SELF AND OTHERS』(00年)を見てドキュメンタリーってこんなに豊かな表現が出来るのかって驚きました。

過去の時間/石内都さんの眼差し

小谷:基本的にぼくはドキュメンタリーを作るにあたって自分の好きなひとにアプローチするようにしています。『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』に関しては写真家の石内さんの写真が学生時代から好きだったので、2012年2月に石内さんに電話して「映画を撮らせていただきたい」とオファーしたんです。そしたら石内さんから「2週間後にフリーダ・カーロの遺品を撮りにメキシコに行く」と聞かされて、急いで制作費を集めたり機材を準備したりと奔走してスタートしたプロジェクトなんです。なので、実際どんな作品になるかは全然想定できていなく、撮りながら考えるようにしていました。

フリーダ・カーロの遺品を撮影されてすぐの石内さんは、フリーダ・カーロを個人として捉えているように見えたんですけど、段々と石内さんはフリーダ・カーロの背景にある「メキシコ」を捉えているように感じ、フリーダ・カーロやメキシコの《過去の時間》に興味が湧いていきました。

そうして、日が経つにつれこの映画の目的が「石内さんが見ている世界観を映像化する」というものだとわかっていきました。そのため、石内さんのメキシコでの撮影プロジェクトが終わった後にもう一度メキシコに行き、刺繍家の方や死者の祭りを撮影して、石内さんが感じていたものを編集で編み込んでいきました。石内さんの眼差しを通して自分が考えたことを表現していったという形ですね。
(完成した石内都さんの写真集「Frida by Ishiuchi」の1ページ)

「死」を描くわけ

小谷:今後は『flow』(14年)で追いかけた画家の諏訪敦さんを被写体とした長編ドキュメンタリーを制作したいと考えています。諏訪さんはリアリズムの画家で現実を尊重するというテーゼの上で絵を描かかれている。その辺はドキュメンタリーをやっている自分にも当てはまるので、そこの部分を重ねて表現できないかなって考えています。

映画というのは時間であってリズムであって、生命であって。つまり映画というものは「生」を描くものなのだとぼくは考えています。それなら、どんなモチーフが生をより鮮明に描けるのかなって考えた時に「死」に行き着くんです。だから、結果的にぼくの作る映画は「死」に近づいてしまうところがあって、今後も「死」をテーマにした作品になっていくと思います。

映画『フリーダ・カーロの遺品―石内都、織るように』8月8日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

【内容】

2004年。死後 50年を経て、メキシコを代表する女性画家フリーダ・カーロの遺品が封印を解かれた。そして2012年、メキシコ人のキュレーターの発案により、その遺品を撮影するプロジェクトが立ち上がった。依頼を受けたのは世界的な写真家・石内都。メキシコシティにあるフリーダ・カーロ博物館《青い家》を訪れた石内の前に、フリーダのアイデンティティを支えた伝統衣装やアクセサリー、絶え間ない身体の痛みを想起させるコルセットや医薬品等、膨大な数の遺品が一つ一つ並べられていく。それは喜びや誇りとともに様々な “痛み ”を抱えながらフリーダが生きていた証であり、彼女の記憶を内包しているようだった。生きることそのものを描き続けた画家、フリーダ・カーロ。彼女の遺品を見つめ、撮影した石内都の写真には何が写るのだろうか?
■トークイベント

小谷忠典(本作監督)×石内都(写真家)

会期:2015年8月5日(水)
会場:蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース (住所: 東京都渋谷区猿楽町17-5)
開館時間:19:30~21:00

参加方法:

代官山 蔦屋書店2号館1階アートコーナーで、映画前売り券もしくはイベントチケットご購入の方に整理券を配布。お電話かオンラインストアでも受け付け可。
■公式サイト
http://legacy-frida.info/
■公式Twitter
https://twitter.com/FridaLegacy
■公式Facebook
https://www.facebook.com/legacyfrida
取材・構成・写真:島村和秀
『フリーダ・カーロの遺品―石内都、織るように』

監督・撮影:小谷忠典

出演:石内都

録音:藤野和幸、磯部鉄平/撮影助手:伊藤華織/制作:眞鍋弥生/メキシコロケコーディネーター:ガブリエル・サンタマリア/編集:秦岳志/整音:小川武/音楽:磯端伸一/アソシエイト・プロデューサー:光成菜穂/コ・プロデューサー:植山英美/プロデューサー:大澤一生/宣伝:テレザとサニー/宣伝美術:小口翔平、西垂水敦(tobufune)/DCP制作:ダイドウシネマパッケージ/助成:文化庁文化芸術振興費補助金/後援:メキシコ合衆国大使館

製作・配給:ノンデライコ

(2015/日本/89分/HD/16:9/ドルビー5.1ch/日本語、スペイン語、英語、フランス語)