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『ユラメク』松井一生監督インタビュー

ロマン主義的恋愛像と現代社会の病みを切迫した色彩で混ぜ合わす夢幻劇

本作『ユラメク』では、一人の人間の変容がいつしか世界全体の変容のように扱われています。それがデモのシーンや友人との会話などでも暗示されていたように思いますが、こうした「変容」については、どうお考えだったのでしょうか?
松井:この作品では、しだいに客観的な要素が消えていくよう構成したかったんです。主人公の青年は周囲と無関係な自分だけの時間に閉じこもっています。デモシーンのある序盤は、そんな彼個人と社会の流れの距離感を意識しました。物語が進むにつれ、彼は内なる病理に飲み込まれていきます。精神の混乱がやがて友人を含む外部の世界の見え方を変え、現実感をも喪失してしまうのです。
劇中に「この世界」と「別の世界」があると仮定すれば、主人公がその2つの世界の境界を越えたとたん、映画全体は色彩を失い、彼を異世界へと導いたはずの女性が身にまとう衣服も日常的な様相を帯びてきます。通常イメージされるような日常と非日常のあり方が逆転しているような印象を受けたのですが……。
松井:特に既存のイメージの逆転を狙ったというわけではなく、色彩を変化させることでドラマを立ち上げたかったんです。まずセットでモノクロに似た部屋を作ることを早い段階で決め、そこを基軸に全体の色合いを設定していきました。衣装も日常/非日常という区分より、その舞台となる空間や他の人物との関係を暗示するようなものを選びました。これらは今回に限らずいつも同様のやり方です。また、本作にはいくつもの「境界」を用意したつもりなので、観てくださる方には自由な解釈を楽しんでいただければ嬉しいですね。
東京藝大・映画専攻の馬車道校舎のあるエリアでその多くが撮影されていますね。
松井:横浜周辺や都内を自転車で巡ったんですが、結局は毎日通った校舎の周辺がメインになりました。予算や期間などの現実的な側面以上に、よく知っている場所で撮影したかったんです。「場」も「人」と同じで、長く過ごすことによってはじめてわかる特別な魅力がありますよね。
40稿近くの改稿を重ねたとお聞きました。事前にかなり詰めていた印象がありますが、実際の撮影は往々にして予想外のものが入り込むものだと思います。そんな出来事などがあれば教えて下さい。
松井:改稿は主人公と共に歩む探検に近い作業でした。実際の撮影でも予想外をどう受け入れるか、その場で思いついた方法を試すのが好きです。例えば終盤での大雨は、撮影予定だった前日が雨天で中止になったのに、代替日に余計降ってしまった。厳しい現場にはなったけど、内心ひっそりこれ以上ない幸運だ!と喜んでました。雨のおかげで俳優らが一層輝き、画面のエモーションも倍増したんじゃないでしょうか。そうした幸福な想定外がいくつもあった今回は、つくづく恵まれていました。
聞き手:江本優作
■「東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻第8期生修了作品展」公式サイト
http://film.fm.geidai.ac.jp/2014/
■会期
2014年3月8日(土)〜14日(金)
■上映スケジュール
3月8日(土)19:00『息を殺して』/21:00『霧の中の分娩室』
3月9日(日)19:00『あの電燈』、『ユラメク』/21:15『RIGHT HERE RIGHT NOW』
3月10日(月)19:00『RIGHT HERE RIGHT NOW』/21:15『息を殺して』
3月11日(火)19:00『ユラメク』/21:15『あの電燈』
3月12日(水)19:00『霧の中の分娩室』/21:15『RIGHT HERE RIGHT NOW』
3月13日(木)19:00『息を殺して』/21:15『ユラメク』
3月14日(金)19:00『あの電燈』/21:00『霧の中の分娩室』
■劇場
渋谷・ユーロスペース
■料金
前売り1回券=¥800/前売り1日通し券=¥1,500
当日1回券=¥900
『ユラメク』
【Story】従順なプログラマーとして働く成瀬カズヤはチャットで知り合った女性・ルミと結ばれる。成瀬は恋に浸り、いつしか別世界へと迷いこむ。そこでルミには精神を患った夫がた。成瀬は彼らと共に過ごしはじめるが、恋の幻想はやがて不安と狂気におかされる。
監督・脚本・編集:松井一生/製作:松井 一生、遠藤 幹大/助監督:坂下 雄一郎、山下 洋助/撮影・照明:松井宏樹/録音:西垣太郎/美術:谷本佳菜子/音楽:重盛 康平/メイク:須見 有樹子/出演:小林ユウキチ、渡辺奈緒子、斎藤歩、札内幸太 尾藤亜衣、戸田昌宏、岩谷健司、ほか/2014年/60分/16:9/HD/5.1ch
  • 『松井一生(まつい・いっせい)』
    1987年生まれ、愛知県出身。慶応義塾大学在学中より自主映画制作を始める。大学卒業後、モバイルゲームのシナリオライター、作詞家などを経て、東京芸術大学院映像研究科映画専攻に入学。主な監督作に『ブレイクガールズ』(11)、オムニバス映画『らくごえいが』中の一編『ライフ・レート』(12)がある。