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『山犬』佐藤考太郎監督インタビュー

LOAD SHOWにて配信中の長編『山犬』、ひいては佐藤考太郎監督自身について話を聞いた。

『山犬』以前の映画との関わり

まずお聞きしたいのですが、佐藤監督はどんな映画がお好きなんですか?
佐藤:大体は洋画です。テレンス・マリックの映画とかスピルバーグの『プライベート・ライアン』なんかは好きで何回も観てます。あとは『ウルトラセブン』とかですね。
特撮もお好きなんですか?
佐藤:万遍なく観るわけではないんですけど、中学生の時に『ウルトラセブン』をたまたま見始めました。そこで作っている裏側の人たちが具体的に何をしているのかを調べるようになりました。もともと映画は好きだったんですけど、作ることを『ウルトラセブン』を観た辺りから意識するようになりました。
佐藤監督は小学生の頃から映画少年だったんですか?
佐藤:映画少年という訳ではありませんけど、小学校5、6年生の頃に授業で将来の夢を発表することになったんです。まぁみんな将来の夢とかないんですけど、そういう授業があったら書かざるを得ないじゃないですか。その時『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開されていて、ちょうど映画館に行ったばかりだったんで、なんか「映画監督」って書いちゃったんです。何も考えてなかったんですけど、言っちゃったから退けなくなったって感じですね。
佐藤監督は高校時代に『左右田次郎の死』を撮ってらっしゃいますね。いつ頃から映画を撮り始めていたんですか?
佐藤:中2の時にDVテープのカメラを買ってもらって、常に持ち歩いてハムスターとか風景とか何でも撮っていました。作品にする訳ではないけど撮りためていました。高校の時は空手をやっていたんですけど辞めてしまって、そんなタイミングでたまたま映画甲子園というコンペが始まると聞いて、送ってみたんです。撮影1日、編集1日くらいで作りました。それが高3の時ですね。
多摩美術大学の時は映像系の学科とお聞きしていますが、どんな大学生活を送ってらっしゃったんですか?
佐藤:あんまり自分の作品を発表するってことはやってなかったですね。1年生の時は16mmフィルムで1分の撮影・編集をするとか、演劇や写真の授業などの課題はやっていました。でもそれからは、友達の制作に参加するのがほとんどでした。みんな映画や演劇以外にも色んなことに興味があって、作るものも型にはまらず刺激になりました。
LOAD SHOWのフィルモグラフィーでは高校時代の『左右田次郎の死』に次いで大学の卒業制作『山犬』となっています。この間にも作品は撮られていたんですか?
佐藤:課題や遊びで撮ったものはあるんですけど、いちいち名前を付けて出すのもちょっと……。
作品という感じではなかったんですね?
佐藤:未熟な点も多いのですが、自分で責任を持って見せようと思えるのはフィルモグラフィーにある2本ですね。

『山犬』制作

『山犬』は大学の卒業制作でしたね。予算は大学から出ていたのですか?
佐藤:予算は自分達の学費の中から出ます。それまで履修した授業などの関係で額は一人ひとり違いますが、大体みんな10万前後で、あとはそれぞれバイトの給料とかを足して何とかする感じでした。僕は何故か3万しかもらえなかったので、そうか、と思ってスタートしました。結果的には5~6万ぐらい掛かりました。
スタッフやキャストはどのように編成されたんですか?
佐藤:スタッフはそれ以前の現場で何回も一緒だった人たちです。映画だけのつながりという訳ではなくて、友達を集めた感じです。キャストは同級生だったり、現場で知り合った人に出てもらいました。
演技経験はある方々だったんですか?
佐藤:演技経験はあると言えばありますけど、大学で演劇の授業がある程度で、本格的にやっている訳ではありませんでした。
ヒロインの方もですか?
佐藤:ヒロインの決定は難しくて、どうしようかと迷って、結局自分が現場でコミュニケーションを図り易い人に決めることにしました。岡部さんは制作で関わる機会が多かったのでお願いしました。主役の川本くんは普段監督をやっているんですが(最近も短編がベルリン国際映画祭に出品されました)、役とイメージが最初に合ったのは彼でした。そこを最初に決めて、だんだん他の役も決めていきました。
ハーフの和久田さんの存在感が印象的でした。彼のキャスティングはどのようにして決まったんですか?
佐藤:害獣駆除をやっている猟師のイメージとして、最初絵に描いた様なマタギみたいなのが出てきたんですが、それはイヤだなと思って。それはそれで面白いんですけど、キアヌみたいなのにこの役をやらせても面白いんじゃないかと……。
撮影日数はどれほどあったのですか?
佐藤:期間は9月末から12月に入るか否かくらいです。実数で言ったら半月程度だったと思います。
シナリオはどのようにして書かれたんですか?
佐藤:執筆自体はそこまで長くないんですけど、考える時間は長いです。頭の中には断片的な画のイメージはあります。いつも関係図を考えるんですけど、大体そこには主役が不在だったりします。『山犬』の時は6人の主要人物がいて、その六角形が頭の中にあって、(映画のパンフとかに載っている人物名の間を棒線が飛び交うような)関係図をずっと考えていました。ぼんやりとそれを頭の中に置きつつも、自然と取り掛かるスイッチが入らない限り…青臭い言い方ですが、気持ちが乗らないと言いますか、それがないと形だけの作業になってしまうので書き始められないんです。
〆切に追われて無理やりスイッチを入れる人が多いと思います。佐藤監督の場合は〆切は関係ありましたか?
佐藤:〆切は卒業制作だから無関係ではないですけど、それより先にニダル・マリク・ハサンという2009年にアメリカで銃乱射事件を起こした人(イスラム教徒でありながら、アメリカ軍の軍人であるというジレンマを抱えていた)のことが頭の片隅にあって、その人物と先ほどの関係図が重なっていきまして、整理していったら『山犬』の物語になりました。
『山犬』はシナリオ通りに撮影されたのですか?
佐藤:シーンを3つくらい削ってはいますが、ほとんど忠実です。
佐藤監督は現場で即興演出はなさるんですか?
佐藤:する時もあります。アドリブをそんなに多用したりはしないですけど、現場で急に変えることもあります。
コントロールが行き届いている映画に見えたので、シナリオに忠実に撮る監督なのかな、という印象を持ちました。
佐藤:それはコンテを切っているからだと思います。僕はコンテを描くのが好きなんです。以前友人の監督と話していて、まるで撮り方が違うことがわかりました。僕はコンテを描いてカットの並び等を眺め、どういう作用が生まれるか考えるのが好きなんです。もちろん現場で、ダサいなと思った時は変えたりもします。ある友人の場合は、演技を先に固めて、そこから現場でカットを割っていくというやり方をしていて、その友人は自身で演技もしていますから、そういった演技主動の撮り方なのかなとは思っています。対して僕は『ウルトラセブン』から入っています。特撮では本編のドラマパートを撮る監督と、特撮で怪獣とかを撮っている監督がそれぞれ別にいます。その場合は予めコンテを切って、打ち合わせをしておかないとつながらなくなっちゃうんです。自分は特撮から興味を持った人間だからコンテが好きなのかもしれません。
『山犬』の会話シーンのカット割りは「特殊だな」という印象を持ちました。会話シーンにはどんな考えをお持ちですか?
佐藤:なるべく飽きないものにしようとは考えています。会話って基本的につまらないものだと思っているんです。会話なんかより車が爆発した方が面白いです。演技ですごく惹きつけられることもあるので一概には言えないですけど。
回想内の山のシーンが秀逸でした。ロケ地はどのようにして選ばれたのでしょうか?
佐藤:ロケ地は八王子の相原でした。本当はもっと地方で撮ろうとしていたんですけど、如何せん予算がなかったので、車を出さずに機材を手で運べるロケ地を探したら、そこになりました。ロケハンで地形やらを見ておいてコンテを考えました。
梅沢が疾走するところをカメラが横移動で追うカットはどうやって撮ったのでしょうか?もちろんドリーは敷けませんよね?
佐藤:カメラマンの力です。手持ちで走っていました。タフなカメラマンです。
梅沢の疾走するシーンでは、移動撮影や仰角のアングルがあったりと、カットのバリエーションが豊富でした。あのシーンもコンテ通り撮られたのでしょうか?
佐藤:そうです。ただ、最近ではコンテから外れる瞬間のような余裕を持っていいのかな、とも考え始めています。コンテを描かないとサボっているような気分になっちゃうんです。現場でゼロから決めていいのは天才だけだと思っています。自分は天才じゃないので事前にやれることはやっておこうと考えているんです。でもある現場に参加した際に、その場で考えながら画を決めていったシーンがあって、ただ段取りを踏んでいるのではなく、ちゃんと物を創っている感じが良いなと思いました。いつもそうする気にはなれませんが、時には余裕も必要だと最近は思っています。

ピースの足りないパズル

梅沢の登場のさせ方は、言ってしまえば唐突です。観客に伝わるか、という観点で考えると勇気がいる演出だと思います。佐藤監督は、観客に対する「伝わる/伝わらない」という感覚をどのようにお持ちでしょうか?
佐藤:(観客には)難しいだろうなと思っていましたが、腹はくくれました。というのも『山犬』は、ピースの足りないパズルのような映画にしようと決めていたからです。一度ストレートに考えた後で、いくつか取り去りました。埋まった分の絵柄から、その余白を考えさせるような映画にしようと思ったんです。なので、この映画では全てを観ることは不可能なんです。でも、何があったのかを考えることは出来ます。答えも用意してあります。普段の生活でも、何かを知りたい時、全てに「経緯はこうです」とまとめ役がつくなんてこと、まずありません。自分で断片を拾い上げていくのが殆どです。それを映画に持ち込んだだけです。
佐藤監督ご自身が演じられている、左右田次郎の割り箸のシーンは象徴的ですね。あのシーンはまさに宙吊りでした。『山犬』を作るにあたって意識していた作品はあるんですか?
佐藤:さっき挙げた『プライベート・ライアン』だと、カパーゾという兵士が引き画で狙撃されて唐突にパタッと死にます。そのイメージが好きで、人物が撃たれるシーンでは意識しています。他にも色々参考にはしています。

佐藤考太郎と左右田次郎

『山犬』では左右田次郎の存在がストーリーを転がしています。どの段階から左右田次郎をシナリオに持ってきたのでしょうか?
佐藤:割と早い段階でいました。自分の視点の置き場が左右田次郎になっていたので「いいや俺がやっちゃえば」と決まりました。演技力は全くありませんが、それでも役のことを一番わかっているのは自分だと思ったので。
佐藤監督は『左右田次郎の死』、『山犬』では、ご自身で左右田次郎として作品に出演されています。佐藤監督の中で左右田次郎はどのような存在なのでしょうか?
佐藤:この話をすると頭がおかしい人みたいになってしまいますが、自分には「もう一人の自分」の感覚が強くあります。何をしても、もう一人の自分に見られているような感覚がすごくあるんです。左右田次郎は自分の分身のような存在として作りました。「左右田」という名前は江戸川乱歩か何かの短編で知ったような気がします。「左右田」って名前に二面性を覚えました。「次郎」は『人造人間キカイダー』の主人公(ジロー)からで、キカイダーも赤と青で体半分の色が違って二面性のあるヒーローです。その2つをくっつけて「左右田次郎」…いいじゃん、となりました。
今後の作品でも登場してくる可能性はありますか?
佐藤:出したいという気持ちはあります。エキストラに毛が生えた程度の登場でもいいのですが「その度に自分がやるのか」みたいな思いもあります。このままではイカンな、とも思っています。あんまり上手い/下手を基準にしたくはありませんが、やっぱり下手だなと思っているのも事実です。もし出続けるのだったら(演技面での)訓練もしたいです。
ちなみに、演じること自体はお好きなんですか?
佐藤:好きですけど、それで食べていきたいとか、憧れの人と現場で一緒になりたいとか、そういう野心は全くないです。上手くはなりたいですが、子供が逆上がり出来るようになりたいと思う位の感覚が近いです。
ご自身が画面内に登場しているシーンの演出は、どのようになさっていたんですか?
佐藤:あまり動かないようにしていました。セリフを言い切るのに精一杯なので、自分に関して演出はそんなにしていないです。役の左右田次郎も、違う名前の自分なんだと考えていたので素のままでもいいや、という気持ちで演じていました。
コンテを作っていたから可能だったのかも知れませんね。
佐藤:全体的にみんな、普段の感じで演じてもらおうと思っていたので特別キャラクターをつけるような演出はしませんでした。
新作の準備はなさっているのでしょうか?
佐藤:考え事して、書いてはボツにしてという状態です。
佐藤監督はこの先、映画とどのような関わり方をしていこうとお考えですか?
佐藤:さっきも話に出ましたが、「もう一人の自分」がすごくうるさいんです。「それで撮って後悔ない?」みたいなことを言ってきて、ある意味ではどんなお客さんよりも厳しいんです。今はそれを黙らせるために映画と向き合っている感じがあります。
例えば商業映画を撮りたい、という思いはありませんか?
佐藤:それが出来れば親孝行になる、ぐらいの思いはあります。結局そういうわかりやすい形でないとわかってもらえないので。何であれ自分の中では何年経っても忘れられない映画こそ良い映画だと思っているので、人の記憶に残る、且つ「俺はやったんだ」と思える1本を残すことが最大の目的です。
聞き手・構成: 川田真理
    写真: 石川ひろみ
『山犬』
主人公の菊池岳雄は金属加工所に勤めながら、恋人の市丸亜紀同棲している。ある日、菊池は友人の“デンジロー”こと左右田次郎と再会するのだが、それを境に彼らの生活に不穏な空気が漂い始める。実は菊池と左右田には“ある事件”以来、誰にも言えない秘密があった。その秘密には菊池の先輩の伊藤や、会社の取引先の高井戸、猟師の梅沢らも関与しているのだが……。一見平穏であったはずの日々が、静かに崩れようとしていた。
2011年/61分/HD/カラー
監督・脚本:佐藤考太郎/撮影:矢川健吾/撮影助手:楠 雄貴/録音:平田悠介/録音助手:島村和秀/音楽:浜田洋輔/整音:堀田智幸/美術:新谷 葉/編集:田村元幸、矢川健吾/助監督:北原督己、須貝裕太朗/衣装:中村 瞳/出演:川本直人、岡部桃佳、広木健太、佐藤考太郎、齋藤芳廣、和久田恒次、ほか
ダウンロードはこちら!
  • 『佐藤考太郎(さとう・こうたろう)』
    1988年生まれ、埼玉県出身。多摩美術大学卒業。 2006年、高校在学中に撮影された『左右田次郎の死』が第1回映画甲子園にて上映、2011年には長編『山犬』が第33回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワードにて入選を果たした。同作は2012年に下北沢トリウッドで上映、注目を集める。大学卒業後はスタッフや役者として数本の映画に参加しつつ、現在は次回作を構想中。『山犬』で自身が演じる役同様、放浪癖があり、すぐに人の家に住み着く。