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『レッド・ファミリー』イ・ジュヒョン監督インタビュー

第26回東京国際映画祭観客賞を受賞した本作がついに日本で劇場公開される。今回、来日されたイ・ジュヒョン監督に現在の韓国国民の政治についての考え方や、映画に込めた思いをお聞きした。

「キム・ギドク監督が私に撮れるよって言って下さり、勇気をもらいました」

今作、国との対立する理念といった現在も続く社会問題をベースにしながらもフィクション性の高いドラマチックな映画として楽しむ事が出来、素晴らしい作品だと思いました。

監督自身、脚本を初めて読まれた時どのように感じましたでしょうか?それと、どういう映画にすべきだと思いましたか?

イ・ジュヒョン:私は脚本を最初に読んだ時の第一印象ってすごく大事だと思ってるんです。人と出会った時の最初の印象と同じように。最初に読んだ気持ちを忘れずに映画を作ろうと思いました。どうしても、映画というのは撮っていく内に自分の中で迷いが生じて、こういう方向に行った方がいいのかなと途中で立ち止まったりする事もあるんですけども、その度に最初に脚本を読んだ時の印象を思い出していました。最初に読んだ感想は本当に感動的でした。
それから、物語の構造は二つの家が出てきて、それらが対立するというものなんですが、そういった点もとても気に入りました。脚本を書いて下さったキム・ギドク監督には、是非やってみたいですっていう風に申し上げたんですが、不安もあったんですね。果たして自分にこれが撮れるだろうかという風に不安に思っていた所、幸いキム・ギドク監督が私に撮れるよって言って下さり、勇気をもらいました。
その後は、シナリオの修正作業に入ったんです。実は最初はもっと重い内容だったんですね。修正の段階で、ユーモラスにどんどん変えていきました。特に人間味を膨らませていったんですね。私が考えるには、いくらスパイとは言ってもずっと目がギラギラしてる訳でも無いですし、ずっと銃を握っているだけでは無いと思ったんです。スパイといえども人間ですから、映画館に行って映画を観る事もあるでしょうし、ご飯も食べるでしょうし、私たちと一緒に生きている人達だって思ったので、そういう所も含めてユーモラスな部分を足していったんですね。そんな風に色んなものが後で加えられた事によって、映画館で皆さん観て頂いた時に多様性を感じ取ってもらえるようになったかと思います。

「特に描きたいと思ったのは、体制という枠の中で葛藤している人々の姿」

今まで南北関係を描いた映画というのは、『シュリ』(1999年/監督: カン・ジェギュ)であったり、『JSA』(2000年/監督: パク・チャヌク)とかがありました。過去の作品を何か参考にされたりはしましたか?そういった過去作品との違いを意識して作られたという事はありましたでしょうか?
イ・ジュヒョン:もし近いものが何かと言われれば、『JSA』と『トンマッコルへようこそ』(2005年/監督: パク・クァンヒョン)だと思います。他の作品が工作員の目線で観るような世界が展開されて、工作員の役割とか、アクションが主に描かれていたと思うんですけれども。『JSA』の場合は、南北を分けてる線が出てきますよね。あれをなかなか越えれないという描写がありました。南と北の兵士達はまるで親しい兄弟のようにはなっているんですけど、なかなかその一線を越えれず、そしてある時にラジオの声が聞こえた事によって、大展開が起こるんですけれども、そんなハラハラさせられるような内容でした。
で、『レッド・ファミリー』も両家の家と家の間に小さな塀があるんです。あまりにも低いので、ジャンプしたらすぐに飛び越えれそうなのに、なかなか二つの家族は行き来されないんですね。鳥はあの塀をすぐに越えれるんですが。だけど、最初にチョコレートを渡して、その後少しずつ小さな塀を越えるようになります。まあ、無意識のうちに越えていったのかと思うんですけど。それから北の家族の家にも南の家族が行ったりして、段々行き来されていく訳ですけど、そういう風に両家が行き来をした事によって、北側からすると今度はそれを検証しなければいけないという風になって、そこで思想の検証をするのが工場の男なんです。
南北を語る上で、その線を越えるか越えないかという事を考えると形式的には『JSA』と似ている所があったと思います。『レッド・ファミリー』で特に描きたいと思ったのは、体制という枠の中で葛藤している人々の姿だったんです。やがて家族を演じる中でお互いを気遣うようになって、特にキム・ユミさんが演じた班長の女性というのは、相手の事を気遣って面倒をみてあげたいんだけど、本当はそういう風にしてはいけないっていう事で自分を制したりっていうのがあります。なので、今回はその体制というものと人間性というものを描いてみたいと思いました。そういった上で、『JSA』は参考にした作品です。

「希望を信じたい」

ミンジとチャンスというそれぞれの家の子供が逆境に立ち向かっていく姿に勇気をもらったんですが、ミンジとチャンス二人に込めた監督の思いというのを教えて下さい。
イ・ジュヒョン:今回は家族にぞれぞれの世代を現したいという風に思いました。おじいさんは朝鮮戦争を実際に体験していて、台詞の中でも自分はスパイとして南にやってきてもう40年も経っている。つまり、朝鮮戦争が終わってからすぐに南に来ているんですね。彼は体制というものを疑いかけているんですけれども、すでにこれだけ老人になってしまったっていう、そういう象徴なんですね。で、キム・ユミさん演じる班長のスンヘとチョン・ウさん演じる夫のジェホンなんですが、あの二人の世代っていうのは体制を固めていく、実際に体制を作っている世代になるんですね。
ミンジの場合には、北に生まれた時にはもうすでにこの体制だったという事になります。映画の最後の方でもミンジとチャンスの役割ってとっても大切なんですけれども、ミンジとチャンスにとってはそういった体制というものは一つの荷物になってしまってはいると思うんですが、次の世代が解決しなきゃいけない課題ですよね。そういう課題を背負っている二人に少しでも希望を託して、その希望を信じたいっていう風に思いました。誕生日のシーンで、ミンジやチャンスが言ってる事って本当に正論だと思うんです。思想の教育は受けているけれども、私たちの世代はそれとはあまり関係無いというような台詞を言うんですね。最近は韓国でもイデオロギーというのを若い世代は意識しなくなっているんです。でもその反面、意識しないからこそ統一を望むっていう事に対しても関心が薄れてきています。
そんな風にイデオロギー教育をされていない南のチャンス、それから生まれた時からその体制の中にいたっていう北のミンジですね。その二人だったらもしかしたらこれからの希望を見出す事が出来るのではないかなっていう思いを込めています。あと、途中で鳥が出てきますよね。鳥が死んでしまうんですけれども、実は鳥にもある比喩を込めています。おじいさんの台詞で「自分はまるで鳥みたいだ。一体どこを見て、何のためにここまで来たのだろう?そして、いまの自分に残っているのは癌しかない」っていう、そんな台詞を言うんですけれども、あそこで死んだ鳥を埋めるのはミンジとチャンスなんですね。これが映画の伏線になっています。死んでしまう人間、生き残っていく人間といった意味でも、希望を持たせるために、鳥の死体を埋めるっていうのをミンジとチャンスの役割にしました。

「韓国では北への考え方というのは、いま人によって全然違う」

北の家族と南の家族、それぞれの中にもかなり意見が纏まらずにいる誕生日のシーンでは、韓国における現在の状況を色々と比喩的に表しているのかなと思いました。あの場面について少し解説して頂けますか?
イ・ジュヒョン:あのシーンは本当に一番難しいシーンでした。撮る前から心配してたんですね。島のシーンというのも難しかったんですけども、それ以上に難しかったのがあのシーンだったんです。みんなで食事をするシーンなんですが、この食事の場の意味は何なのか。そして、どんな風に撮影をしたら良いのかという事で、かなり悩みましたね。台詞もたくさんありますし、とっても大事なシーンだったので撮り方も難しかったですね。あのシーンというのは韓国で良く見られるお酒の席と似ています。よく韓国でもお酒を飲んでいるとお前はアカじゃないか?なんていうような事があるんです。例えば誰かが戦争の事を心配してるとしたら、それを聞いたまた別の人が「今の時代、戦争の事を心配する人なんていない。心配するって事はお前はアカなんじゃないか?」っていう風な流れになっていって、一緒にお酒を飲んでいるんですが心が通じ合わないんですね。だから皆さんもどかしいっていうような思いをしている人がたくさんいると思います。私自身もそんな気持ちで、どうしてこの国はお互い人と人との心の触れ合いが出来ないのかというのをよく考えていました。
韓国では北への考え方というのは、いま人によって全然違うんですよね。北と何らかの良くない記憶がある人たちとか、家族の中で北との何らかの繫がりがある方とかでは、また考え方が違ったりしますし、本当に人によって考え方が違うんですね。中には早く統一してほしい。そして、北の事を助けなければいけないっていう意見もあります。そんな風に、どれが正解ですよというような答えはなかなか出せないんですね。そういった事もあって、あのシーンは色んな意見の衝突っていう事にした訳なんですけれども、北の家族っていうのは、自分たちはスパイなので、南に対して何か言いたい事があってもなかなか正直に言えないっていう状況が映画の中ではありました。
ミンジは北で教育を受けているんですけど、彼女が言う事はすごく正しい事だと思うんです。例えば、どうして他の国に頼ってばかりいるのか、どうして自分たちの国の事なのにお互いで相談しないのか、といった事を言うんですけれども、それもすごく正しい意見だと思います。そういう風にミンジが言うと、班長のスンヘが止めたりとか、おじいちゃんが止めたりするんですが、スンヘも心中そんな風な考え方だったと思うんですよね。ミンジと同じ事を考えているんだけれども、言えない立場なので、お酒の席が終わってから「今日は誕生日だから多めに見てあげる。でも、あんな風に言えるっていう事は羨ましい」って事を言うんです。スンヘも本当は心の中では、そんな風に思っていたんじゃないかと思います。そういう言葉を聞いて、段々とお互いの心が通じ合ってきているのを映画を観て感じれるのではないかと思っています。
イ・ジュヒョン監督作品
10月4日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開
■公式サイト
http://redfamily.gaga.ne.jp
■関連記事
http://culture.loadshow.jp/topics/red-family/
聞き手、構成: 川邊崇広
『レッド・ファミリー』
■監督:イ・ジュンヒョン

■CAST: キム・ユミ/チョン・ウ/ソン・ビョンホ/パク・ソヨン

■STAFF:【脚本、編集、エグゼクティブ・プロデューサー】キム・ギドク

■上映時間: 100分/製作国: 韓国

■配給会社: ギャガ

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  • 『イ・ジュヒョン』
    1977年生まれ。フランスのヨーロピアン・スクール・オブ・ビジュアル・アーツで映画やデジタル・アートを学ぶ。在学中に、数多くの短編アニメーションやドキュメンタリー作品を制作し、山形国際ドキュメンタリー映画祭、アニマムンディ国際アニメーション映画祭、アニフェスト映画祭などの海外の映画祭に度々招待され、その実力を認められる。最も影響を受けたキム・ギドク監督に抜擢され、『レッド・ファミリー』で初の長編映画の監督を務める。デビュー作で、第26回東京国際映画祭観客賞を受賞した快挙は、ニュースとして全世界に配信され、次回作が待望される監督の仲間入りを果たした。