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『いなべ』深田晃司監督インタビュー

劇団青年団の演出部に所属しながら映画を制作し、第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞や、第15回プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した『歓待』、第35回ナント三大陸映画祭ではグランプリにあたる「金の気球賞」と「若い審査員賞」 をダブル受賞した『ほとりの朔子』など、今世界中から注目を集める監督・深田晃司。5月31日より劇場公開となる最新作『いなべ』について、これからの映画作りについて聞いた———

「目の前にある景色はいなべ市にしかない唯一の景色のはずだから、そこにある強さを信じました。」

『いなべ』は三重県いなべ市を舞台にした映画ですが、もともと深田監督はいなべ市に思い入れがあったのですか?『いなべ』を制作するに至った経緯も踏まえて教えてください。
深田:『いなべ』は沖縄国際映画祭が提唱する「地域発展型映画」というものの一巻で作られました。前年に富田克也監督や冨永昌敬監督、真利子哲也監督が海外で制作していた作品とかと同じプロジェクトで、日本国内の地方自治体と一緒に映画を作るという経緯で、戸山剛さん(「いなべ」制作プロデューサー)から、「やらないか?」と電話がかかってきて、決めました。いなべ市に行ったことはありませんでしたが、地方を舞台に映画を作るということはしてみたかったので、戸山さんと話してから4日後にいなべ市に行きました。その時はストーリーなど決まってない段階でした。
いなべ市に初めて訪れた時はどんな印象を持ちましたか?また、いなべ市の魅力を活かす上で工夫されたことなどありましたか?
深田:いなべ市の第一印象は、基本的に・・のどかだなって(笑)。
スクリーンに映えそうな自然に恵まれているなと思いました。しかし、映画を撮るにいたっては、いなべ市だからと特別に何か工夫することはしませんでした。例えば、一見すると単なる田舎の景色でも、目の前にある景色はいなべ市にしかない唯一の景色のはずだから、そこにある強さを信じました。だから、特別なにかを工夫するってことはなかったです。
劇中の電車と智広(松田洋昌)が競争するシーンが印象的でしたが、いなべ市をリサーチしたうえで映画を制作していったのですか?
深田:地元の人に色々いなべ市について教えてほしいと言って、いなべ市文化協会の方と、地元を車で巡ったりしました。その時、線路のカーブが急になるところで電車なのに自転車より遅くなる場所があるという話を聞いて、よしこれは物語にいれようと思いました。ナローゲージという珍しい電車で鉄道マニアでは結構有名らしいです。
あと、僕のほうから、脚本を作る段階で地元の語り部、民話とか伝承に詳しい人と話す場をもうけてもらい、色々話を聞かせて頂きました。劇中のおばあさんが唄うわらべ歌はいなべ市に伝わるわらべ歌です。ある年齢以上の女性なら多く知っているわらべ歌みたいです。

「短編ということもあって、普段できないことをやろうと、強いオチのある内容を目指した」

「いなべ」は上映時間が38分と短編映画になりますが、短編を作るという意識はありましたか?
深田:基本的には意識の上では(長編映画と)同じだと思っているのですが、私は、そもそも映画ファンという立場から、好きな映画の背中を追っかけてここまで来たので、短編映画を観る環境があまりありませんでした。なので「映画」といえば「長編」というイメージがあって、2001年に初めて制作した自主映画も長編映画でした。それなので短編映画の方が、少しいつもと違う脳みそを使うな、というイメージはあります。
脚本を書く段階で短編という制約によって普段と違う書き方になったのでしょうか?
深田:基本的に僕は、物語を考える時は、こういう結末にしようというのが先に思いついて、その結末から逆算していく書き方をしています。
脚本のプロに言わせれば、あまりよくない書き方だと言われてしまうと思いますが…僕はいつも思いついたラストシーンが、一番豊かに、余韻が残るように膨らませるにはどうしたらよいのだろうと考えながら書いていて「いなべ」もそういう感じで作りました。なので、その逆算の中で自然に30分に収まるように考えていったという感じです。
普段と違うところは、僕の場合はあまり強いオチがあって終わるという映画が好きではなく、あまりやってこなかったのですけど、短編ということもあって、普段できないことをやろうと、強いオチのある内容を目指したというのはありました。
多分、そういう風に思ったのは、僕にとっての短編映画のイメージはロベール・アンリコ監督の「ふくろうの河」やクリス・マルケル監督の「ラ・ジュテ」といった作品で、そういう何か最後にひっくり返すような結末で鮮やかに映画が閉じるようなものにも憧れがあって、「いなべ」も自然とそういう形に近づいていったというのがありますね。
それでは出演されている俳優についてお聞かせください。「いなべ」に出演する俳優は松田洋昌さんをはじめ、お笑い芸人の方が多く出演されていますが、お笑い芸人というイメージと役どころに随分ギャップがあるように感じました。演出する上で何か特別なことはあったのでしょうか?

深田:特に特別なことはしていません。いつも言っていることですが、ただ共演者とちゃんとコミュニケーションをとってほしいと言っていました。


私は「演出」というのは脚本を書く時点から始まっていると考えていて、お笑い芸人であるか役者であるかどうかは意識していません。それに松田洋昌さんも倉田あみさんも演技がとても上手な方達でしたので。松田さんなんかは普段から全然お笑い芸人っぽくないというか、大きなアクションでしゃべるとか、大きな声をだすとか、そういうのがなくて、むしろ、ちゃんとマイクが拾えているかなって心配になるほどボソボソ喋ってくれて(笑)。

こちらとしてはすごいありがたかったですね。すごく自然なかたちでやってくれたんじゃないかなと思います。


「面白い映画を作るためにいなべ市に来たのであって、地元のCMを作りに来たわけではありません、結果的にそれが一番、地元の宣伝になるはずです」

『いなべ』を制作する上で監督自身強く意識したことは何ですか?
深田:一番意識したことはこれがご当地映画だということです。
吉本興業さんが主催する映画祭から依頼を受けた時、何本か日本の各地域で作られたご当地映画を観させて頂いて。それぞれ力作なんですが、地元の宣伝という意味合いが強いものが多く、自分がやりたいことと違うなと思いました。
ご当地映画というのは2種類あると思っています。
一つは「地産地消型」のご当地映画。
地元の方が映画プロジェクトに参加することが楽しい、映画作りそのものがお祭りになるような地産地消型のご当地映画ですね。

もう一つは、より外に向けて発信して、外の人に観てもらう為のご当地映画です。
今回僕が撮りたかったのは後者の方ですね。


そもそもは沖縄国際映画祭がうたっているのは「地方発信映画」なので。外部に向けて届けることを考えると、地元でこんなおいしい料理があるとか、こんなキレイな景色があるとか地元の名産品をうたうCMにしてはよくないなって思っていました。映画ファンは、そこに映っている名産品に惹かれるわけではなく、やっぱり映画自体に魅力を感じて、映画として独立して面白いと思ったときに初めてそこに映っている土地に行ってみたいって思うはずなんです。だから自分としては、ただ面白い映画を作るためにいなべ市に来たのであって、地元のCMを作りに来たわけではありません、結果的にそれが一番、地元の宣伝になるはずです、ということは最初にいなべ市の方にも説明して理解していただきました。
それでは続いて監督のこれからの活動についてお話を聞かせていただきます。深田監督は第67回カンヌ映画祭に若手映画監督・プロデューサーを派遣する長編映画企画公募プロジェクトC2C Challenge to Cannes 2014の監督の1人に選出されましたが、まずC2Cとはどういったプロジェクトなのか教えてください。
深田:カンヌと静岡が姉妹都市で、日仏交流90周年ということで、そういういくつかの要素が絡み合って、若手作家5人をカンヌへ派遣して、新しい企画を向こうでプレゼンテーション/ミーティングしてくるというものです。
しかしC2Cは日仏だけのつながりではないと思います。カンヌは世界中から映画人が集まってくるところなので、若手作家5人をそういう有象無象が集まっているカンヌに送り込んで、もまれて、自分たちの企画を国際競争力の高いクオリティーのものにしてねというプロジェクトだと思います。

今世界的には、特にヨーロッパなどでは一カ国の資本で作られている映画なんてないくらい合作が主流になっていて、やっぱり日本は立ち後れているんですね。日本の映画業界はドメスティックに閉じてしまっている部分があって、今も昔も合作が行なわれていないわけではありませんが、非常に立ち後れている状態で、何より作り手自身がドメスティックになっている。ドメスティックというのは、資本が一カ国しかない、というだけではなくて、日本人なら理解できるけどコンテクストの違う文化圏には通じないかも知れない、社会性というか他者性が薄いという点でもそうで、表現が狭くなってしまっているということです。自戒を込めてではありますが。


「コツコツと継続して映画を撮れるようなインディペンデントな足場を作ることが今目指す理想です」

深田監督がこれからの目指す映画作りの形はどんなものですか?

深田:私は、何でもいいから映画や映像を撮っていたいという意識がどうもうすくて、映画業界に憧れてはいってきたというより、好きな映画があってその背中を追っかけててここまで来たので、現場は別に好きではない。そのときそのときで思いついてしまったアイディアをただかたちにしていきたいというモチベーションで今までなんとかやってきました。なので、これからも監督としての自由の幅を少しづつ広げながらゆっくりコツコツと作っていきたいと思っています。そんな、コツコツと継続して映画を撮れるようなインディペンデントな足場を作ることが今目指す理想です。
自分のことを横に置いて考えると、日本だと映画の多様性が非常に狭まられていると感じます。多様性というのは単に結果としての作品の多様性だけではなく、作り方の多様性です。やっぱり日本が一番モデルにするべきなのはヨーロッパだろうと思うのですが、ハリウッドなんてのは参考にしたって規模が違い過ぎてしかたがないので(笑)、ではヨーロッパにおける作家性の強い映画というものに目を向けると、助成金であったり、寄付であったり、出資であったり、それらのパッチワークをじっくり時間を掛けて組み合わせ作られているわけです。


そうやって、監督の自由な幅がより広い、つまり作家性の強い映画を成り立たせられる状況があるのですが、そうした資本のパッチワークの一つに合作というものも含まれています。また合作にすることで、完成してからの出口も広がるんですよね。

そして、残念ながら日本は合作がとても弱い。国の助成金が制度的にも規模的にも非常に使い辛いというのもあるんですが、お金もないのに資本主義一辺倒の作り方に偏っているように思える。作り方の多様性の狭さが、そのまま映画自体の内容や技術的なクオリティ面での狭さに繋がってしまっている面は否めないと思います。自作に限らずいろんな映画が共存できるような環境を整えていけたらと願っています。


そのことはC2Cに選ばれたメンバーみなさんが持っている問題意識な気がしますね。C2Cというプロジェクトを経て作られる映画がどれも非常に楽しみではありますが、深田監督がC2Cに出された新作映画の概要について最後に少し教えてください。

深田:原作は平田オリザさんの「さようなら」という15分くらいの短編演劇です。世間的にはアンドロイド演劇という名で良く知られていると思いますが、アンドロイドと人間が初めて競演するということで注目を集めた演劇で、お話は病弱な女の子がアンドロイドに看取られながら死んでいくというそれだけの抽象的な、実験的なもので、そこにある濃密な死の匂いに惹かれました。それを映画化する上で世界観や物語を大きくふくらまして、世界が破滅していく状況のなかで死んでいく女性を描きたいと思っています。今、私たちの日常で、一番身近でリアルな破滅のモチーフは結局原発だと思い、30年後の日本で同時多発テロが起きて、原発が十数基ふっとんでしまって日本が滅びつつあるという状況の中で、死んでいく女性の話にしました。


ここで前の話にも繋がりますが、現在制作中の映画は作り方の多様性が狭い日本でいかにして作家性の強い映画が作れるかという実験だと勝手に思っていて、強引な例えですがアレクサンドル・ソクーロフがアルバイトをしながらお金を貯めて映画を作っているなんて話は聞いたことがない(笑)、それじゃあ日本ではなんで作れないんだろうという発想から製作をスタートしました。この映画は現在日本・韓国・フランス三か国の合作で作れそうな状況になっています。もしちゃんと完成して興業まで進めば、クラウドファンディングというかたちでの寄付、国内からの出資、そして国際共同製作という3つのパッチワークでインディペンデントな映画を成立させたひとつのモデルケースになればいいなと思っています。

撮影予定は10月です。ローケションは決まっていませんが、日本か韓国になると思います。


次回作の公開も楽しみにしています。本日は大変貴重なお話ありがとうございました。
深田晃司監督最新作品『いなべ』
5月31日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムレイトショーにて、他順次公開予定。
『いなべ』公式サイト→http://inabecinema2013.wix.com/inabe
■初日舞台挨拶決定!!

5月31日(土)渋谷シアター・イメージフォーラム

21:15~の回『いなべ』上映終了後

登壇者:松田洋昌(ハイキングウォーキング)、倉田あみ、深田晃司

聞き手: 島村和秀
構成・写真: 島村和秀
『いなべ』
監督・脚本・編集:深田晃司

プロデューサー:原 知行・坂本直彦/撮影:根岸憲一/録音:宮崎祐介/音楽:小野川浩幸/後援:いなべ市 いなべ市教育委員会/制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー/製作:吉本興業株式会社 2013/38分/HD/16:9 (C)吉本興業

出演:松田洋昌(ハイキングウォーキング) /倉田あみ/伊藤優衣/井上みなみ /望月皇希/康光岐/鈴木Q太郎(ハイキングウォーキング) /西田幸治 (笑い飯) /哲夫 (笑い飯) /桂三輝/ほんこん
【Story】養豚場で働く智広(松田洋昌)のもとに、赤ちゃんを連れた姉の直子(倉田あみ)が十七年振りに帰ってきた。「なんで帰ってきたの?」突然の帰郷に訝る智広に「理由いんの?」と直子は素っ気ない。ぽつりぽつりと記憶を辿るうちに、幼い頃に二人で埋めた「何か」を掘りに行こうと、昔と変わらぬ命令口調で智広を連れ歩く直子。 仕方なくついていく智広だが、やがて故郷を歩くうちに、姉と一緒に過ごした日々が蘇る。思い出と共に二 人が掘り起こしたものとは一体?
http://inabecinema2013.wix.com/inabe
  • 『深田晃司(ふかだ・こうじ)』
    1980 年生まれ。大学在学中に映画美学校3期フィクション科に入学。2001年、初めての自主制作映画『椅子』を監督、2004年アップリンクファクトリーにて公 開される。その後2本の自主制作を経て、2006年『ざくろ屋敷』を発表。パリKINOTAYO映画祭にて新人賞受賞。2009年長編『東京人間喜劇』を発表。同作はローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭に選出、シネドライヴ 2010大賞受賞。2010年『歓待』で東京国際映画祭「ある視点」部門作品賞受賞。2014年『ほとりの朔子』で第15回プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞、第35回ナント三大陸映画祭で「金の気球賞」・「若い審査員賞」をダブル受賞した。2014年C2C(C2C Challenge to Cannes 2014)に選出され、現在、次回作「さようなら」の製作準備中。2005年より現代口語演劇を掲げる劇団青年団の演出部に所属しながら、映画制作を継続している。