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映画『INNOCENT15』甲斐博和監督インタビュー

6月20日(月)、24日(金) テアトル新宿にて、

7月5日(火)、6日(水)シネ・リーブル梅田にて、限定レイトショー!!

田辺・弁慶映画祭をはじめ、東京国際映画祭、ぴあフィルムフェスティバル、水戸短編映像祭、大阪CO2映画祭など多くの映画祭で受賞を果たしてきている甲斐博和監督。繊細な人物描写はもちろんの事、監督の持つ純粋な映画への情熱が演じる役者の心を動かし、観る者に余韻を、そして考えるきっかけを与える。今作が意外にも長編初監督作品。内に秘めた少年少女の在りようは、今作の魅力の一つ。甲斐監督の内に秘めた思い、情熱も今作を機に多くの方が目の当たりにし、きっと焼き付いて離れないだろう。

-自分の中にある15歳-

-監督ご自身が同じ目線で、15歳の男女と正面から向き合っている印象を受けました。15歳をテーマに持ってこられた一番の理由は何だったのでしょうか?
甲斐:一番は、不安定な時期でもある大人と子供の狭間を描きたいと思っていました。その理由としては、社会福祉法人カリヨン子どもセンターという団体が運営している、「シェルター」という、さまざまな事情で帰る家のない少年少女たちを受け入れる場所でいま僕は働いているんですね。そこで働いていると、色んな子供達が来ていて、小学生の子もいれば20歳の子も来るのですが、15歳位の子達が特に多いんです。
そういう子達を見ていて、昔の15歳といまの15歳は全然考え方とか違う気もするのですが、愛に枯渇しているところや、他人を好きになる気持ちがよく分からないなど、人間の本質的な部分では同じだと思っていて。そういう子達のうまく説明出来ない心の内を、残しておきたかったんです。
-そういったお仕事に携わってから、脚本を執筆し始めたのですね。
甲斐:そうですね。今までは作品を作る時は、自分の人生を切り売りするしかないというのが僕の中ではあって、若い子を描こうという気持ちは全くなかったんですけれど。ずっと、自分が経験した事や自分の中にある事を物語の中に組み込んでいくというやり方だったんです。そういう意味では、自分の人生の中に15歳位の子供達が入ってきたというのが、きっかけの一つですね。
-ご自身が15歳だった時とリンクしてくるものはあったのですか?
甲斐:それはですね、自分の中に、いまだに人を好きになることがどういうことか分からない部分があって。「人を好きになるって何だろう?」という気持ちが芽生えるのって、もしかしたら15歳位の頃かなと思っていて、その芽生えがあった頃まで自分を揺り戻していき、登場人物に投影していく感じでした。自分が15歳だった時を思い出しながらというよりは、「自分の中にある15歳」から止まったままの何かを探していました。
-探していく過程の中で、どういったものを見つけれたのでしょうか?
甲斐:今作の最後に主人公の銀という男の子が、ヒロインである成美という同級生の女の子に向かって吐く台詞が、ずっと脚本を書いていく中で見つけた言葉でした。逆に言うと、その一言のためにこの映画があるし、その一言を探していたというのが、脚本を書いていて気付いたところです。
 

-見て感じたものが脚本や演出に反映されていく-

-脚本の執筆期間は、どの程度でしたか?
甲斐:元々は、長い物語を書いていたんです。それが大体2年半前です。現在のあらすじは、父親がゲイだと気付く男の子と虐待されている女の子の二本柱なのですが、元々は父親がゲイだと気付いた男の子が大人になっていく中で、今度は彼がゲイに目覚めて、そしてその彼の息子が同じように彼に反発していく、というお話でした。
最初はその物語を映画化しようと思っていたのですが、前信介プロデューサーから青春の方にフォーカスを当てていく提案を受けて、納得した上で現在の形に移行していきました。15歳の話を新たに書き始めたのが、撮影に入る4ヶ月位前だったと思います。そこから、2ヶ月位で台本を完成させました。結構、短い期間の中で集中して書き進めましたね。
-すでに書かれていた長い物語の中から抽出していくだけでは、なかなか成立しにくかったという事でしょうか?
甲斐:そうですね。以前の物語を全体的に短くするだけでは、自分の中で脚本が死ぬと思ったので。新たに加わっていったのが、主に虐待されている女の子の存在でした。そうする事で、また違った話にもなり、今までに書いてきた物語のプロローグとしても存在しうるようになったかと。いずれ、その先の話も形にはしようとは思っています。
-今作の映像は、かなり寒い中で撮影されていたように見えました。季節や天候、街が心象風景と繋がっていくように感じられたのですが、撮影前から想定されていた事と想定外だった事があれば教えてください。
甲斐:一つは、映画祭に間に合わせたいと思って無理矢理にスタートをかけたため、冬でしか撮れないというのがありました。それと、地方都市を描きたいというのがあったので、寒々しい国道脇の何も無さそうな街を思い描いていたんです。ロケハンの中で、寒い空気と風景を見ていくと、段々と自分の中で確信的なものに変わっていったというのもあります。
僕は、ロケハンをかなり大事にしていて、見て感じたものが脚本や演出に反映されていくんですね。雪については、脚本に「雪が降っている」と書いていた箇所があって、そしたら本当に撮影中降ってくれて、想定外というか、それはすごく嬉しかったですね。そういう意味では、大変な天候ではありましたが、恵まれていたと思います。
-夜の街の風景が、台詞にあるように点々としか明かりがないのもとても印象に残りました。それは台詞に合わせて見つけた風景だったのでしょうか?
甲斐:そうですね。自分のイメージに合う景色をずっと探し歩いていました。あの場所を見つけるのは、すごく大変で、あれだけ別日に撮影したんです。あの景色を撮るためにわざわざ熱海まで出向いて、「これだ」って感じで見つけれたんです。丸一日費やしました(笑)。

-光と闇という対比-

-今作は、萩原利久さんと小川紗良さんが演じる少年少女の話とともに特に印象として強いのが、山本剛史さん演じるゲイの父親と宮地真緒さん演じる虐待する母親です。片親である事も含めて、監督が意図していた事は何でしたか?
甲斐:それもやはりシェルターでの経験かとは思うのですが、こんな親って普通にいるんだと思ってしまうような事がたくさんあって。子供って、どんなに酷いことをされても結局母親のもとに帰りたいという気持ちがあったりするんですね。
片親だと特に親も子供に依存しやすいので、親と子供の関係性の密度が高くなるだろうというのと、主人公の男の子と女の子が惹かれ合うというのも、お互い片親同士というのがどこかにあるのかなと。自分の家に足りないものと、親近感というのが二人を近寄せているのかと思います。
-環境的には似ている反面、二人を対比的に描いているところがあったように見えました。銀が成美に告白されている時に、ガード下から見上げている銀の視点ショットがあります。無機質なコンクリートが目立つ訳です。また別のシーンでは、忍び込んだ披露宴会場で「きれい」と言う成美の視点ショットで真上にシャンデリアが映りますね。見上げる動作の中で二人の対比が描けれているような気がしました。銀と成美との違いは、どういったものとお考えですか?
甲斐:どちらかというと、成美は強い人間で、自分がやるべき事はきちんとやり抜くタイプなんですね。それに対して銀は、受け身で、自分がやりたくない事はやらないといった後ろ向きなタイプと、僕の中で設定していました。銀が無関心であったり、人に対しての愛情が分からないとか、いまいち芯が見えないところというのは、僕の事でもあるんです。成美は、僕の憧れの人達を反映しています。何も言わなくても、きちんと強く生きていく人達。光と闇という対比の仕方でもあります。
-成美は銀のどこに惚れたのでしょうか?
甲斐:それについては、成美役の小川紗良さんとも話し合って、説明が難しい部分ではあったんですね。一つは、銀は父親に愛されて育ってきたんです。だからこそ、銀はわがままでいれたけど、成美は愛情をもらってきていないからこそ愛を知りたいという気持ちが強い。それゆえ、誰かを愛したいという気持ちがあったのではないかと思っています。
銀とは、片親同士であったり、バレエの発表会を見に来てくれたりといった接点があって、気持ちが発展していったのではないでしょうか。好きになる相手を探していたのかなというのもあります。
-銀は愛されているんだなというのは、映画を観ていて、とてもよく分かりました。二人の友達も、銀はそうでもないけど彼らは銀の事を大事な友達だと思っていますよね。
甲斐:そうです。一方で銀はそのありがたさに気がついてないというか。愛されていることに無自覚なんですね。
-銀と成美、二人とも感情はあまり表に出さないところは共通していて、内に秘めた表情、特に目が素晴らしかったです。そういった表情の際、二人に感情について伝えるなどの演出をされていたのですか?
甲斐:そこにはすごい時間を掛けていました。感情を引き出したいと思っていたので、ちょっとでもぬるい表情になっていたら「内側が弱いんじゃないか」という言い方はしました。自分の中で感情が昂ぶっていく事をちゃんとやってほしいと思っていましたから。目線の先に何が見えているのかというのが大切で、実際に見えているものに限らず、その先の未来を見ているのかとか、気持ちとしてどこに視線をやるのかというような細かい話は何回もしました。それをちゃんと撮れた時は、すごく嬉しかったですね。
今までの作品は割と役者さんに自由にやってもらった上で芝居が大げさにならないように抑えることが多かったのですが、今回はグイグイ引き出そうというのは気持ちとしてありました。技術的なものよりも、15歳にしかない感情とその人の人生の時間を切り取りたいと思ってやっていたんです。

-この映画に全てを込めた-

-前作『犬のようだ』にも出演されている木村知貴さんは金髪でインパクトの強い役でした。出演者は年齢、キャラクターと非常に豊かですね。役者との作品の共有、距離感はどのように甲斐監督は心掛けていますか?
甲斐:やっぱり台本をきちんと読んでほしくて。行間をすごく大切にしているので、という事は丁寧に伝えていました。本読みも、短いワンシーンを何度も何度もやって、方向性であったり、僕のやりたい事さえ掴んでもらえれば、あとは皆さん芸達者な方々なので問題なくやって頂けるだろうなと思っていました。大人達は、本番はほとんど細かなNG以外は無かったです。
-冒頭と終盤に出てくるピンクの電動カートに乗るお婆さんは、異様さを醸し出していました。発想はどのように生まれたのでしょうか?
甲斐:街を歩いている時に、変わった人を見るのが僕は好きなんです。ああいう人って、街の中にいると紛れてしまうのですが、一人でどこかにいたら物凄く不思議な存在感を放つのではないかと思っていて。でも、それって一方で日常的だとも思うんです。色んな人が世の中にはいるよねという、当たり前のような事なんですけれど。
それと、劇中に何かが起こるかもしれないという不穏さがすごく欲しくて、そういう意味ではやり過ぎなくらい不思議な要素が一つあっても良いとは思っていました。
-物語が進むにつれて、小川紗良さん演じる成美の目の力強さが増しているように感じました。特に部屋の中で銀に「今からセックスするの」と衝撃的な台詞を言う時の目は焼き付いて離れませんでした。
甲斐:あのカットは良いですよね(笑)。撮影中、モニター前で「よし!」ってなりました。あのシーンの時は、僕は涙が出ました。監督として一番ぐっときたシーンでした。
-小川紗良さんは今作が映画初出演との事ですが、彼女の魅力はどういう所にあると思いますか?
甲斐:オーディションで結構な人数の女の子を見たのですが、第一印象からこの子は奥底にもっと何かを持っている人だと佇まいで感じられましたね。話をしてみても、映画をたくさん観ていて、勉強熱心だし、周りに染まらず自分の指針を持って挑んでいける役者だと思いました。
-今作が甲斐監督にとっての初長編作品になりました。これまで多くの映画祭で受賞されてきていて、待ち望んでいた方も多かったと思います。映画『INNOCENT 15』が、いま、このタイミングで世に出される監督の思いを教えてください。
甲斐:今まで色々と賞はもらえていても、なかなか芽が出ないという自分に対しての焦りやフラストレーションはありました。そういった気持ちを情熱に変えてこの映画に全てを込めました。だから、撮影中の集中度というのはすごくて、頭の中もクリアだったんです。映画を作る楽しさを改めて感じられて、そして何より情熱を思い切りぶつけてもきちんと返してくれる役者さん達と一緒にやれて幸せでした。
この作品は自分にとって勝負作であると思っていて、今後商業映画を撮っていけるかどうかのきっかけにしたいという気持ちが強くあります。誰に観ていただいても、きっと何かを感じてもらえるような作品になっているはずなので、まずはこの映画を一人でも多くの方に観てもらいたいです。

甲斐博和監督作品『INNOCENT15』

6月20日(月)、24日(金) テアトル新宿にて、

7月5日(火)、6日(水)シネ・リーブル梅田にて、限定レイトショー!!

取材・構成・写真: 川邊崇広
『INNOCENT15』
出演:萩原利久、小川紗良、影山樹生弥、中村圭太郎、信國輝彦、木村知貴、久保陽香、山本剛史、 本多章一、宮地真緒

監督・脚本:甲斐博和

プロデューサー:前信介

©INNOCENT15製作委員会/TOCA
ストーリー:父親がゲイだと知り、自分もそうなってしまうのではないかと思ってしまった少年、銀。母親から、自らの性を母親の彼氏に売られようとしている少女、成美。二人が現実の様々を内に抱えながらも、声高に主張するでもなく、静かに、そして時に激しく、それぞれの感情が変化していき…。 15 才、という誰もが通過したガラスのように繊細な時期に焦点を当て、人を好きになること、そして愛することとは何かを観客に問うような、美しい問題作。
  • 『甲斐博和(かい・ひろかず)』
    1977年、鹿児島県屋久島生まれ、38歳。
    私立桐朋学園中等部、高等部と経て、17歳から2年間、チリ、サンチャゴ市で暮らす。
    帰国後、筑波大学人間学類に入学。教育学、心理学を中心に学ぶ。
    2001年、大学を卒業後、役者の道へ。
    2003年に自身の劇団「TOCA」を立ち上げる。
    2006年より独学で映画を製作。
    全ての映画はTOCAプロデュースとなる。
    独学で製作した初監督作品、「hanafusa」(2005)が2006年ぴあフィルムフェスティバルにて緒方明監督の熱烈な支持を受け、審査員特別賞を受賞。
    2007年には、株式会社アプレ主催のWS作品として、「靴が浜温泉コンパニオン控え室」(2007/監督 緒方明)の、緒方監督との共同脚本を手がける。
    同作品はWS作品として渋谷ユーロスペースにて上映される。
    他監督作品として、2009年「 それはそれ、」(大阪CO2映画祭 Panasonic技術賞)、2010年「 浴槽と電車 」(水戸短編映像祭グランプリ)、2012年「 犬のようだ 」(田辺・弁慶映画祭 東京国際映画祭チェアマン特別奨励賞)などがある。