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♯26「映画と私」ジェシー・ナス(日本映像翻訳アカデミー)

「もともと映画に限らず様々な日本のコンテンツが大好きでした」

私は日本映像翻訳アカデミー(JVTA)で映像翻訳のディレクターをしています。主な仕事の内容は、映画や企業ビデオなど様々なクライアントからの翻訳の依頼を頂いたら、私たちの会社に登録されている翻訳者さんに発注して、出来上がった翻訳原稿をチェックして、クライアントに納品するという一連のディレクションです。

日本映像翻訳アカデミーには二つの側面があります。1つは翻訳者を養成するための「学校」という側面。もう1つは、翻訳や通訳などの人材派遣・コーディネートする「エージェント」いう側面。仕事として翻訳を依頼する場合は日本映像翻訳アカデミーの中に設けられているMTC(メディア・トランスレート・センター)というセクションに依頼することになります。

字幕翻訳の仕事を始める以前は別の仕事でフルタイム働きながら、学生として日本映像翻訳アカデミーで翻訳の勉強をしていました。また卒業後にMTCに入社しました。最近はディレクターという立場なので私自身が翻訳をする機会は減っていますが、まだ私自身経験不足だと感じることもあるので、ディレクターの仕事をしながら時間をみつけては翻訳の仕事もするようにしています。

ちなみに日本映像翻訳アカデミーに通う生徒は、映画が好きで入学される方が多くいますが、私の場合はすこし違いました。私はもともと映画に限らず映画、テレビ、漫画、音楽など日本のコンテンツはオールジャンル好きで、好きな日本のコンテンツを翻訳する仕事があるなら是非やりたいと考えて今の仕事に就きました。本当に私は日本のコンテンツが、好きです(笑)。

「日本語に興味を持つきっかけになったのは『漫画』でした」

日本語を初めて勉強したのは私が高校生の時です。その時は独学でした。最初は日本の漫画を読みながら勉強しました。また、日本語に興味を持つきっかけになったのも「漫画」でした。高橋留美子さんの『犬夜叉』や『らんま1/2』ですかね。初めて読んだ時は英語版だったんですけど、一気にのめりこんでしまい、それから日本の映画や音楽に触れるようになり、自然と「日本語」に興味を持つようになりました。

アメリカの大きな高校には日本語の授業があったりするんですけど、私の高校には日本語の授業がありませんでした。それだから、街の本屋にある「語学」のコーナーで日本語のテキストを買って独り勉強しましたね。

大学に進学してから最初の3年間はアメリカで日本語を勉強して、それから晴れて日本に留学しました。日本にあるものは私にとって何もかもが新鮮でした。私が育ったところはアメリカの田舎だったので、「TOKYO」のような大都市はすごい刺激的でしたね。

それで楽しかった一年間の留学が終わって、私はアメリカに帰国して就職活動をしたんですけど、あまり良い縁がなくて、時間が経つにつれ日本も恋しくなる。それだったら日本でできる仕事を探そうと考え日本で就職活動をしました。

幸いだったことは家族が私のやりたいことをサポートしてくれたことでした。日本での生活が私にとって本当にやりたいことだったら応援しますと言ってくれて本当に嬉しかったです。

日本での最初の仕事は英会話学校で1年半くらい働きました。その次はPodcastを制作する会社で4年間くらい働き、そこで働きながら日本映像翻訳アカデミーに入学して、2013年から同社のMTCで働いています。

日本映像翻訳アカデミーについては雑誌で広告の掲載で知りました。当時は「英日」という英語から日本語への映像翻訳授業しかなかったんですけど、それから少し経って、「日英」という日本語から英語への翻訳授業が始まったと聞き、それなら私にもできる、と思い入学を決めました。

日本映像翻訳アカデミーで勉強できることは映画翻訳以外にも漫画や企業ビデオなど様々なメディアを通して日本語の勉強をできたので私にとって多くの価値がありました。

「夢はアニメーター、毎日のようにキャラクターの絵を描いていました」

私の初めての映画体験はディズニーアニメの『ライオンキング』です。観たのは9歳のときかな。とても面白いと思ったのを覚えています。大好きすぎてしばらく夢はアニメーターだったくらい(笑)。毎日のようにキャラクターの絵を描いていましたね。

家の近くに映画館はなくて、車に乗れないと行けない距離にあったので映画館に行くことはあまりできませんでした。そのため映画はテレビで観ることが多かったです。レンタルビデオで映画を借りることもありましたね。

私はよく動物が登場する映画を観てました(笑)。アニメでも、実写でもとにかく動物映画が好きです。テレビで放映されている映画は大作ばかりでしたし、私の実家は田舎なのでテレビのチャンネルも2つしか映らない。それなので大学に入学するまで私の映画経験やテレビ経験はとても少なく、偏ってもいたと思います(笑)。

映画への意識が変化したのは日本映像翻訳アカデミーに入学してからです。毎週、一本映画を観るという課題があり、私の専門は「日英」なので日本映画を観る機会がとても増えました。ちなみにその課題ではいつもみんなの前で感想を述べる「一分スピーチ」というのがあるのですが、クラスで一分スピーチを続けているうちに日本の映画コンテンツの豊かさに驚くようになりました。

また、実際に映像翻訳の仕事を初めて、さらに映像への意識が変わっていきます。映画を「楽しむ」ことはもちろんなのですが、映像翻訳となるとストーリーを解釈して翻訳しなくてはいけません。それだから、考えることが増えて楽しみ方も変わっていきました。例えば、日英だと「ことばの意味」があっているかという問題の他に、翻訳が映像の見た目や物語に沿っているか研究しなくてはいけません。そうやって受動的な見方から能動的な見方に変わっていきましたね。

「加藤直輝監督作品『FRAGMENTS Tokyo murder case』は私が初めて翻訳した映画でした」

李相日監督作品『悪人』が翻訳の課題になったことがあるのですが、これは台詞が九州弁で、その独特の言い回しを英語に翻訳するのがとても大変でした。しかしそれ以上に内容の解釈が難しかったです。台詞の意図を考えながら英語に置き換えなければいけないので微妙な感情を表現するのは非常に難しいです。それで気がついたのは解釈を深めるためには1、2回映画を観るだけでは足りないということです。その為、翻訳する映画は何度も観る習慣がつきました。

LOAD SHOWで配信されている加藤直輝監督作品『FRAGMENTS Tokyo murder case』は私が仕事で初めて翻訳した映画でした。この作品は難関な映画なので初仕事ということもあり何度も繰り替えし観ましたね(笑)。

また、濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』の字幕翻訳もさせていただきました。この作品も解釈が非常に難しい作品でした。またこの作品の難しい点は、続編を想定した、映画の序章にあたる作品なので登場人物が話す文脈に続編への示唆などあると、答えが映画の中にはないんです。それだから映画に詳しい仕事仲間に何度も何度も相談して、なんとか満足いく翻訳をすることができたと思います。

「日本の魅力やコンテンツを配信していきたい」

翻訳する上で一番難しいのは『〜かもしれない』という推測で翻訳をしなくてはいけない時です。ただ、「日英」の場合、直接監督とやり取りできることがあるのでとても助かります。「英日」ですと、監督が来日することも少ないですし、連絡も取れない。でも日本に住む監督でしたら連絡することも可能ですし、打ち合わせの場を設けてもらえたりもします。そうやって実際に会って作品の解釈を監督自身から聞けることは字幕を豊にすると思いますね。

翻訳の仕事を初めて思うことはまだまだ私には解釈力がないなということです。これからは、映画のみに関わらずオールジャンルのコンテンツに触れて、解釈力を育てたいです。また、作り手のプロセスも学びたいと思っています。そうすることで作り手の意図を汲みやすくなる気がしています。

私はこの仕事に携わって改めて日本のコンテンツは素晴らしいもので溢れていると感じました。そのため私は海外の方に「ことば」を通して日本の魅力やコンテンツを配信していきたいと考えています。実際的なことで言うと、これは映画に限ったことですが、海外に作品を紹介する方法に映画祭があると思います。

私の業務の主は映像翻訳のディレクションですが、他業務に作品を海外の映画祭に出品する手続の代行もしています。海外の映画祭は多くあり、登録書類は英語での記入のため、監督にはことばの壁があると思います。そのため、これからは監督の力になって、海外に作品を届けられたらいいなと考えています。
■日本映像翻訳アカデミー(JVTA) 公式サイト
http://www.jvtacademy.com/
■ジェシー・ナス翻訳作品/LOAD SHOWにてダウンロード、ストリーミング配信中!!

加藤直輝監督作品『FRAGMENTS Tokyo murder case』

(※ダウンロードのみ)
http://loadshow.jp/film/2
濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』
http://loadshow.jp/film/8
聞き手・写真:石川ひろみ
構成:島村和秀
『FRAGMENTS Tokyo murder case』

2005年/16分/SD/カラー

監督:加藤直輝/原案:増田佳祐/脚本:加藤直輝/撮影:杉原 憲明、加藤直輝/録音:福原悠介/整音:加藤直輝/編集:加藤直輝/出演:鈴木智恵、­坂ノ下博樹、小津俊之/Live:Electric Guitar 増田圭祐:Synthesizer 金澤律夫

【内容】「ぽかん」と捉えられた映像と次第に飽和していく音響によりある女子大生の一日が1カット毎に張りつめていく。 白昼の池袋西口公園に突如無数の音響が轟音で乱反射する150秒間が流れ、最後に死が顕れる。その音は消えてもそこにいたすべての者に残響する。

『不気味なものの肌に触れる』

©LOAD SHOW, fictive

2013年/HD/カラー/54分/日本

監督:濱口竜介/プロデューサー:北原豪、岡本英之、濱口竜介/脚本:高橋知由/撮影:佐々木靖之/音響:黄永昌/音楽:長嶌寛幸/助監督:野原位/制作:城内政芳/ヘアメイク:橋本申二/楽曲演奏:和田春/振付:砂連尾理/製作:LOAD SHOW, fictive

出演:染谷将太、渋川清彦、石田法嗣、瀬戸夏実、河井青葉、水越朝弓、村上淳
【内容】構想段階にある長編『FLOODS』に向けての壮大なる予告編—というにはあまりにも才気と魅力に満ちた中編。主演は監督の濱口竜介とは初タッグとなる染谷将太、『PASSION』以来5年振りの渋川清彦、『THE DEPTHS』以来3年振りの石田法嗣。また、河井青葉、瀬戸夏実、水越朝弓、更には村上淳が出演するなど、豪華俳優陣が脇を固めている。
千尋(染谷将太)は父を亡くして、腹違いの兄・斗吾(渋川清彦)が彼を引き取る。斗吾と彼の恋人・里美(瀬戸夏実)は千尋を暖かく迎えるが、千尋の孤独は消せない。千尋が夢中になるのは、同い年の直也(石田法嗣)とのダンスだ。しかし、無心に踊る彼らの街ではやがて不穏なできごとが起こり始める…。
  • 『ジェシー・ナス(Jessi Nuss)』
    1984年8月12日、アメリカ出身。 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒業。字幕翻訳した作品に加藤直輝監督作品『FRAGMENTS Tokyo murder case』、濱口竜介監督作品『不気味なものの肌に触れる』などがある。