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映画『暮れ逢い』パトリス・ルコント監督インタビュー

時は1912年。裕福な実業家の優しい夫と可愛い息子がいながらも孤独と喪失感を抱える若妻ロットと、秘書として才覚あふれる美しい青年フリドリックの8年間にわたる“純愛”を、気高くも官能的に綴ったパトリス・ルコント監督最新作『暮れ逢い』が12月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開となる。そこでLOADSHOWでは『仕立て屋の恋』や『髪結いの亭主』など香り高い恋愛映画で知られるフランス映画界の“愛の名匠”パトリス・ルコント監督にインタビューを実施。当作の魅力から映画における恋愛の作法など、ルコント監督のチャーミングなトークをお楽しみください。

恋愛映画において「障害」と「欲望」は不可欠!?

『暮れ逢い』では恋する2人の間にある様々な障害によって欲望が抑えられ、結果、恋がさらに盛り上がっているように感じました。監督は「障害」と「欲望」は恋愛関係に必要不可欠だと思いますか?
パトリス・ルコント(以下、ルコント):確かにおっしゃる通りですね!障害があるからこそ恋愛は熟成し、それが禁じられた恋であれば、さらに盛り上がるものだと思います。この映画でいうと主人公のフリドリック(リチャード・マッデン)は雇主の奥さんであるヒロインのロット(レベッカ・ホール)に恋をする権利なんかないんですよ。でもそういう秘めたる恋の道を選んだからこそ、彼の恋心は過剰に熟成してしまったんです。彼はいつも心の中でソワソワ動揺していたと思いますよ。ロットはどこにいるのかな~?ピアノを弾いてるかな~?って(笑)。抑制は欲望を掻き立て、恋を熟成させるものなのでしょうね。
ちなみに、監督は今後 障害のない平和な恋を描く予定はないんですか?
ルコント:わかりました、撮ります(笑)。でも…どうでしょう?それではひとつ例え話をしますね。ある男の子が女の子に恋をして、両想いになりました。すぐにベットインするでしょうね。次の日には喧嘩をします。それで2人は…終わるでしょう。だから映画は5分で終わります(笑)。5分で終わる映画にはあまり人が来てくれないと思うので、やはりなかなか難しいですね(笑)。
キャスティングにおいて、リチャード・マッデンとレベッカ・ホール、2人を選んだ理由を教えてください。
ルコント:時代性に合うか、ということが大事でした。ロマン主義の感じを出せる俳優ということです。且つ、現代にも通じるようなモダンさを持つ俳優でもいてほしかった。そういった点で2人を選びました。今回の映画の課題は現代の観客にも届く映画にするということでした。そのため、毎朝撮影前にあるエクササイズをしてたんですよ。

撮影前、俳優は映画の衣装を着ずに現代の服を着て演技をしてもらっていました。Tシャツとかテニスシューズを履いた俳優が演技をするのです。例えどんな衣装を纏っていても、俳優間で感情が精通していれば時代性など関係なく観客に通じると考えたんです。これはなかなか面白いエクササイズでしたね。

俳優と監督のインティメートな関係で生まれる映画

アラン・リックマンのずっしりとした存在感によって、2人の俳優が更に活きているように感じました。アラン・リックマンにはどのような印象を覚えましたか?
ルコント:最初、彼は気まぐれで気難しいという噂を聞いていたのですが、全然違いましたね。チャーミングだし、こちらに全幅の信頼を寄せてくれるし、様々な注文にも勇猛にチャレンジしてくれる。イギリス人の俳優特有の、役柄に対しての理解力が深く、役のことをちゃんと考えて演技ができる素晴らしい俳優でした。

ハリウッド映画にもよく出演していますが、そういう映画の撮影に退屈しきっていたのかもしれませんね。“ハリウッドの映画現場”では気難しい人なのかもしれません。

レベッカ・ホールは『アイアンマン3』にも出演していますけど、1日5分しか撮らず、ほとんどがグリーンバック撮影だったそうです。なので今回のようなインティメートな(親密な)撮影現場にみんな喜んでいるようでした。俳優にとっては幸福な現場になっていたと思います。

「僕にとって恋愛の色は決定的に「赤」です!(ルコント)」

なるほど。それでは絵作りに関してお伺いします。映画を見ていて非常に色彩が豊な映画だと感じたのですが、作るうえで色彩について意識されましたか?
ルコント:舞台となるホフマイスターの屋敷内は暗めなのですが、窓からの光源をはっきりさせるなどして屋敷に威厳が出るようにしました。また、ロットが現れる時は光が溢れるようにして彼女の存在感を際立たせたり。彼女の動き方に合わせた照明の当て方は随分と吟味しましたね。
太陽が沈みかける夕暮れ時のオレンジとブルーの景色が映画のなかでとても印象的でした。あの夕暮れも恋愛の美しさも一瞬なのかな、なんて考えさせられたりしました。
ルコント:それはみなさんで言う“桜の季節”と同じです(笑)。一瞬美しく、すぐに散る。でも2人のラブストーリーはそれほど儚いものでもないと僕は考えています。だからこの映画は『桜の季節』というタイトルではないんです(笑)。
ちなみに日本だと恋愛の色は「桜色」とされているのですが監督は何色だと考えますか?
ルコント:最初はピンクだけど、それが赤になる。フェラーリの赤じゃないですよ(笑)。赤っていうのは火の色ですからね。フランスでは「灼熱の愛」というような言い方があるので、やはり赤は恋愛の色だと思います。ただ、フランスでは緑は希望の色とされているので「愛は緑色」だと言ってもいいかもしれませんね。ただ、僕にとって恋愛の色は決定的に「赤」です。これはしっかりと書いておいてくださいね!(笑)恋焦がれる「赤」です。
初めて映画を監督した時「もう辞めようかな」なんて考えたという話を聞いたのですが、ルコント監督にとって自分の気持ちを持続させるようなモチベーションに繋がる作品はなんでしょうか?
ルコント:50年代、60年代のフランス映画にはやはり思い入れがあります。ジュリアン・デュヴィヴィエの作品『望郷』(37年)だったり。あの時代の監督は最高のロマネスクを映画にしていた監督たちなんです。なんというか、観客の手をとって映画の世界へ導いてくれるような監督たちなんです。でも、決定的に僕を映画の世界に導いたのはゴダールの『勝手にしやがれ』(60年)やフランソワ・トリュフォーの作品です。映画という遠い存在だったものが自分たちに近づいてきてくれた印象があったんです。
確かに、ルコント監督の映画からはロマン主義とヌーヴェルヴァーグが合わさったような印象を感じます。
ルコント:あんまり考えて映画を作るタイプではなく、直感的にやるタイプなので自分の映画の分析が苦手なんですよ。なので、もしこの映画が『望郷』と『勝手にしやがれ』を足したような映画と言って下さるなら是非同意させていただきたいです(笑)。
映画を見ながら2人の視線にドキドキしっ放しだったんですけど、監督は2人の目線をどうのように演出されたのですか?
ルコント:自分でカメラをまわしていますから、俳優とインティメートな関係が生まれるんです。俳優はカメラの後ろに監督がいるとわかっていれば最高の演技を提案してくれるものです。そこで視線の強さも生まれたのかもしれません。

(原作を読みながら)まるで我が家にいるような居心地だったんです。

ファインダーを覗いていて、監督が一番ドキっとしたシーンはどこですか?
ルコント:ドキドキしたのは、ホフマイスターがロットに髭を剃ってもらいながら微かな声で素晴らしい告白をするシーンですね。あまりにも感動したのでワンテイクでOKでした。

僕は監督でありながらカメラもまわしているので最初の観客になれるんです。非常に特権的なポジションだと思います。それだから俳優が演技で強いものを差し出してくれた時は、すさまじいインパクトを受けるもので、ホフマイスターの告白のシーンもそのひとつです。
原作シュテファン・ツヴァイク「Journey into the past」に対して、興味が湧くとは思っていなかったと別のインタビューで仰っていましたが、映画化することに決めた最大の理由はどこにあったのですか?
ルコント:最初、共同脚本のジェローム・トネートが僕に「この本の中に君の映画の素材となるものがあるよ」と言って紹介してくれたんです。それで読んでみたら…即決でした。自分が今まで感じていたことをこの小説は雄弁に語ってくれていて、まるで我が家にいるような居心地だったんです。愛し合っている者の欲望というものが見事に描かれているという点が映画化を決めた最大の理由です。
最後の質問になるのですが、日本の時代劇も“恋しのぶ”物語が多いですけど興味はありませんか?
ルコント:今まで日本の映画で恋愛に関するインスピレーションを受けたことがなくて…。まだありませんね(笑)。
貴重なお話ありがとうございました!公開楽しみにしています。

パトリス・ルコント監督作品『暮れ逢い』

12月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開!

取材・文:島村和秀
『暮れ逢い』

(2014年/フランス・ベルギー/英語/98分/原題:A Promise)

監督:パトリス・ルコント/原作:シュテファン・ツヴァイク

音楽:ガブリエル・ヤレド/劇中曲:ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」作品13第2楽章「アダージョ・カンタービレ」

出演:レベッカ・ホール、アラン・リックマン、リチャード・マッデン、シャノン・ターベット
【Story】 あなたと出会い、生きることが喜びとなった。夕暮れ ルール・ブルー(青の時)に染まるわずかな時間。そして、ふたりはめぐり逢う・・・ 1912年。初老の実業家ホフマイスターの屋敷に、秘書として青年フリドリックがやってくる。一つ屋根の下で暮らすうちに、若妻ロットとフリドリックは惹かれあうが、 触れあうことはもちろん、愛を口にすることも出来ず想いだけが募ってゆく。突然、フリドリックの南米への転勤が決まったとき、お互いに胸にしまいこんでいた気持ちが溢れ出し 初めて想いを伝え約束を交わす。「2年後、戻ってくるまで、変わらぬ愛を誓おう」と。しかし、まもなく訪れた第一次世界大戦によって運命は大きく揺れ動く――。
  • 『パトリス・ルコント』
    1947年11月12日、フランス・パリ生まれ。漫画家・イラストレーターを経て、75年、劇団スプレンディドの舞台をジャン・ロシュフォールとコリーシュの共演で映画化した「Les vécés étaient fermés de l'intérieur」で長編劇映画監督デビュー。『レ・ブロンゼ~日焼けした連中』(78)、『恋の邪魔者』(81)、『夢見るシングルス』(82)などヒットを連発。85年にはアクション大作『スペシャリスト』、翌年には『タンデム』を発表し、多才な商業監督としてフランス国内での人気を確立。ジョルジュ・シムノンのミステリーを映画化した『仕立て屋の恋』(89)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、『髪結いの亭主』(90)でルイ・デリュック賞を受賞。現在も多彩なジャンルに挑みながら、各作品で独自の世界観を確立させている。とりわけ“愛の名匠”と謳われるほど男女の愛を美しく官能的に描き、日本でも多くのルコントファンがいる。