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『ラブバトル』ジャック・ドワイヨン監督インタビュー by 濱口竜介

ジャック・ドワイヨン監督最新作『ラブバトル』が、日本での劇場公開を予定している。同監督作品の日本国内での公開は『ポネット』以来、実に16年振り。フランス映画祭2013での『アナタの子供』上映に合わせ来日したドワイヨン監督にインタビューをおこなったのは、いまや国内で最も注目を集める映画作家のひとりとなった濱口竜介。最新作『不気味なものの肌に触れる』ではコンテンポラリーダンスを取り入れ、現在は神戸で即興演劇ワークショップを開催するなど、昨今その周囲に「身体」というキーワードを漂わせている濱口氏が、まさにバトル、身体のぶつかり合いが展開される『ラブバトル』についてドワイヨン監督に迫った。

まずはご紹介をさせてください。インタビュアーを務める濱口竜介さんです。いま日本で最も注目を集めるシネアストのひとりです。
濱口竜介:よろしくお願いします。
ジャック・ドワイヨン:DVDをお持ちでしたら、是非いただけますか?
濱口竜介:では早速ですが(笑)
一同:(笑)
(濱口、DVDを渡す)
こちらの『PASSION』という作品は、サンセバスチャン国際映画祭ほか、海外の映画祭にも出品された濱口さんの代表作のひとつです。
濱口竜介:もう一枚は、日本の民話の採録活動を追ったドキュメンタリー映画で、『うたうひと』という作品です。
ジャック・ドワイヨン:どちらの作品を先に制作されたのですか?
濱口竜介:フィクションの『PASSION』(2008)が先になります。『うたうひと』は、2011年3月11日に起きた東日本大震災の後に、東北地方に移り住んで震災のドキュメンタリー映画を撮影していたのですが、そこでの出会いの中から生まれた作品です。
ジャック・ドワイヨン:そうだったのですね。気持ちは分かります。
濱口竜介:早速ですが、『ラブバトル』本当に素晴らしかったです。もともとドワイヨン監督の作品は大好きなのですが、新作を拝見して、これまで以上に衝撃を受けました。
ジャック・ドワイヨン:そんなに気に入っていただいたなら、私はもう映画作りを辞めなければいけません(笑)次でがっかりさせてしまっては申し訳ないですから。
一同:(笑)

テイクを重ねること

濱口竜介:2008年にドワイヨン監督も来日をされた「フランス映画の秘宝」というイベントで、『誰でも構わない』という作品を拝見しました。そのときのトークでとても印象的な言葉がありました。ドワイヨン監督は、基本的に毎回20テイクから30テイクを重ねるとおっしゃられた後、“待っているのは理想ではない、疲労なんだ” という言葉を続けました。ただ、今回『ラブバトル』を拝見して、その原則がそのまま適用されたとは到底思えない濃度であると感じました。いかに疲労を待っているとは言え、この演技を20回も30回も繰り返せるはずがない。どのようにして撮影はおこなわれたのでしょうか?いつもと違った点はあったのでしょうか?
ジャック・ドワイヨン:『誰でも構わない』はリハーサルなしで撮影に入りました。ですからファーストテイクはカメラが回っているリハーサルのようなものだったのです。テイクを重ねるにつれて段々と、7~8テイク目くらいからですが、ようやくこのシーンができるという希望のようなものが見えてきて、結局完成にいたるまで20~30テイクを必要としたわけです。ところが『ラブバトル』の場合、ワンシーンワンショットで撮影をしているわけですが、各シークエンスがとても長いので、俳優はものすごく疲労をしてしまう。カメラマンもそうですし、録音技師も同様です。ですからそうした疲労を考えて、カメラを回す前にリハーサルをおこない、撮影内容を決めていました。今回平均して8~9分のシークエンスでしたから、テイクも5テイク程度と決めていました。身体がぶつかりあう闘いのシーンはあまりにも暴力的ですし、そうしないと疲労困憊してしまいます。実際のところ4~6テイクでも、他の作品でいうところの20テイク目くらいの疲労状態にあったわけです。
20~30のテイクを重ねることで求めていたのは、必ずしも疲労ではありません。疲労困憊ではない疲労は良いものですが、それだけを求めているわけではないのです。いつもボクシングに例えて言うのですが、第一ラウンドで試合は面白くならない。8、9、10とラウンドを重ねるにつれて選手も疲労してきますから、ガードも下がり付け込む隙が生まれてきます。それは俳優にしても同じことだと思うのです。私の撮影は長回しのワンシーンワンショットですから、俳優の側はやらなければならないこと、覚えなければならないことが沢山あります。台詞だけではなく、動き、立ち位置、その場の状況、カメラと自分の関係、台詞と自分の動きの関係、パートナーとの関係、完全にできるようにならなければいけないことが山ほどあるのです。それらを完璧にマスターしてはじめて、ある程度の自由な余地というものを彼らは見つけることができます。私自身もファーストテイクではそのシーンが何なのかが分かりません。けれども、テイクを重ねているうちに、ここは上手くいかないから動きを変えよう、テンポを変えようといった具合に、段々とそのシーンをマスターしていくことが可能となります。かなりテイクを重ねることで、私自身そのシーンをコントロール出来るようになるし、俳優も、台詞や動きが完璧な状態にあることで、よりそれらに捉われることなく自由に動けるようになるのです。
いつだったか、いまではとても有名になったフランスの女優レア・セドゥーが、きつい調子で私に聞いたことがあります。きつい聞き方をされたわけではなく、内容がそうであったという意味ですが、“何故こんなに沢山の稽古をしなければならないのですか?” といった内容でした。そこで私は彼女に対して “あなたの演技をより良くするためだ” と答えました。2テイク目よりも17、18テイク目の方が良くなるのは当然のことで、それは子供であってもイザベル・ユペールであっても同じことです。もっとも私の側から演技に対する的確な指示をすぐには出せないことで、このようなことが必要になるのかも知れませんが。
『ラブバトル』の撮影期間は1ヶ月です。日本では撮影期間が短いと聞いたことがありますが、フランスでは平均8~12週間が通常ですが、今回の映画祭のフランス代表団の中のとある監督が、撮影に12週間しか取れなかったと苦情を言っているのを聞きました。私は4週間と2日、つまり1ヶ月間でこの作品を撮影しました。素早く良い仕事をしなければならなかったのです。音楽家であれば、一晩のコンサートをするために長い時間をかけて準備をするでしょう。私達はこの作品に関して1日にワンシークエンス、7~8分のもので、それが全部で18あるのですが、その7~8分のシークエンスを3~4時間の濃密な仕事で見つけていったということで、これはとてもスピーディーな仕事だと思います。もちろんもっと沢山時間があればそれはそれで喜ばしいことではあったのですが、結果として、この2時間の作品を完成させることができたわけです。実際のところ、私にとって今回の作品は下書きが素描になったくらいのもので、完璧主義の目から見ると全く完成していないとも思いますが、1ヶ月という短い撮影期間であの映画が映画として成立したことを奇跡のように思っていますし、しかもそれを素晴らしいと言ってくださる方がいることはとても嬉しいことです。

厳密であること

濱口竜介:本当に素晴らしいと思ったのは役者とカメラの動きの調和です。例えば男が女の体から絨毯を引き剥がすシーンでは、すべての動きが即興的に見えるのにも関わらず、カメラがそれに完全に対応していることを驚きとともに見ていました。でも、カメラがあらかじめすべてを知っているような印象もなく、カメラもまた即興的に対応しているのがわかります。おそらくは2台のカメラを回してのワンシーンワンショットで撮られていますね。カットによって雰囲気が寸断されることがありません。息遣いまでもがシーンの中でずっとあるテンションを保っています。そこには映画の中で発展する一続きの時間ができていました。映画の内容からして、そのことはまた一層驚くべきことだと思います。いったいどのようにしてこのような調和が可能になるのでしょう?
ジャック・ドワイヨン:あなたがジャーナリストではなく映画作家であるということが良く分かる質問です。2台のカメラを使用したことについてですが、例えば『ラ・ピラート』や『ポネット』の場合、フレームはもっと厳密なものでした。いつもカメラの高さが決まっていて、移動が若干あったりですとか、小さなズームがあって焦点距離を変えたりはしていましたけれど、しかし例えば『ポネット』であれば、床にカメラの動きが18種類くらい記してあって、それらを辿っていくほど厳密に撮影をしていたのです。成瀬巳喜男の『浮雲』(Floating Clouds)という作品がありますね。そのタイトルにひっかけてお話をするわけではありませんが、『ラブバトル』には若干カメラの動きが揺れている、Flotingなところがあります。いつも厳密であるのは非常に難しいことです。2台のカメラを使用していて、1台目のカメラに関しては、それを扱うカメラマンは非常に経験があり、熟練をしていたわけですが、2台目のカメラに関しては、やや疲れが見られる傾向があり、私にとってはあまりにもFloating、揺れがあり過ぎました。とは言え、2台のカメラを使用して1ヶ月の撮影期間ではこれ以上厳密になることはできません。結果として、あまりに出鱈目だということにはなっておらず、本当に良かったと思っています。
2台のカメラを使用したことには撮影期間の問題もありますが、私にとっては全シーンを長回しのワンシーンワンショットで撮影することが、より簡単になるということがあります。いつも2台が回っているわけではありませんが、例えば1台が客間であれば、もう1台は階段を登った先に先回りをして待っているですとか、その逆もありますが、両方をいつも同時には回さないことによって、ワンシーンワンショットを、人物の移動があってもうまく繋いでいくことができるのです。先ほどのFloatingの問題はあるにしても、全体を捉える、ワンシーンワンショットで全てを撮影することが可能となる。ある音楽が、歌が聞こえはじめたとき、おっしゃったようにそれらの息遣いが持続したままで、そのシーンをやり遂げることができるのです。シーンの最後の最後まで、幸福に聞こえ始めた音楽が終わらないということが、私にとって重要なことでしたから、こうしたことは本当に大きな利点です。しかし若干の犠牲もあります。先ほどFloatingということでお話しましたが、やはり不正確になってしまう。三脚に固定しているわけではありませんし、ドリーの上に乗せているわけでもありませんから、これだけ動きがあっての手持ちカメラですと、それが人間的なことなのかも知れませんが、どうしても若干不正確になってしまうのです。
濱口竜介:最後に、1人の演出家としてあなたから教わりたいことがあります。あなたの俳優はいつも、映画の中で、そしておそらくは現場で、危険にさらされています。そのことがあなたの作品が常に素晴らしい理由のひとつだと思うのですが、彼らを勇気づけるためにあなたが心がけていることがあれば教えてください。
ジャック・ドワイヨン:彼らには、自分たちがただそこへ来てエキストラをする以上の野心を持って欲しいと思うのです。彼らは力を持っています。そこに優美なもの、魔術的なものが働いて何かが生まれてくるためには、ただ教えられたこと、言われた通りのことをするだけではなく、彼らの側からの働きかけによる力が必要なのです。彼らはそうした力を生み出せると、私は信じています。
濱口竜介:今日はありがとうございました。
ジャック・ドワイヨン:少し時間が短すぎましたね。こちらこそありがとう。
採録:構成: 岡本英之
   写真: 石川ひろみ
『ラブバトル』
監督・脚本:ジャック・ドワイヨン/出演:サラ・フォレスティエ、ジェームズ・ティエレほか/プロデューサー:ダニエル・マルケ/制作:Doillon & Cie, Groupe2
ストーリー:彼女は父親の葬儀と、彼が残した財産整理のために田舎町へと戻ってきた。その土地でかつて想いを寄せていた男と再会する。いっぽう財産分与に向けての兄妹での議論では、過去の確執や古い心の傷が疼き始め、次第に彼女を苦しめてゆく。 自分を愛さなかった父の死に加えて、少女時代のトラウマが蘇る。彼女は現実から目を背け、男に身を寄せ、変わった“セラピー”にのめり込み始める。回を重ねるごとに単なる口ゲンカから掴みあい、殴り合いへとエスカレートしてゆく。反発し、嫌悪し、淫らにぶつかり合い、怒りを解放し、エスカレートしていく関係の先に彼女は何を求めるのか。
  • 『ジャック・ドワイヨン』
    1944年、パリ生まれ。74年に初めての長編『頭の中に指』を監督し、フランソワ・トリュフォーから賛辞を受ける。その後、自身の製作会社を設立し『あばずれ女』(79)でカンヌ映画祭ヤング・シネマ賞を受賞。『放蕩娘』(81)で主演に起用したジェーン・バーキンと結婚し、現在女優として活躍するルー・ドワイヨンをもうけた。『ラ・ピラート』(84)はカンヌ映画祭コンペティション部門に出品され、そのインモラルな内容が物議を醸すが、その後フランス一般公開で好評を博した。15歳の少年の無垢な心を描いた傑作『ピストルと少年』(90)はルイ・デリュック賞、フランス映画大賞、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞など様々な賞を受賞した。日本でも記録的ヒット作となった『ポネット』(96)では4歳の女の子が母の死を乗り越えていくさまを描き、史上最年少のヴェネチア国際映画祭主演女優賞をもたらした。
  • 『濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)』
    1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。2013年からは神戸に居を移し「即興演技ワークショップ」を9月から開催。精力的な制作活動を続けている。最新作は『不気味なものの肌に触れる』(2013)。