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『泣く男』イ・ジョンボム監督インタビュー

アクション・ノワール『アジョシ』によって映画ファンを虜にしたイ・ジョンボム監督が新作『泣く男』によって新たなアクション映画の境地を開いた。来日された監督に、『泣く男』についての貴重なお話を聞く事が出来た。

「ターゲットを殺せない殺し屋の話を韓国芸術総合学校の二年生の時に既に短編で撮っている」

『泣く男』を作るきっかけとなった経緯について教えて下さい。
イ・ジョンボム:デビュー作の『熱血男児』、次の『アジョシ』より前から実はこのアイディアってあったんですね。ターゲットを殺せない殺し屋の話を韓国芸術総合学校の二年生の時に既に短編で撮っているんですが、韓国では大々的で完成度のある銃撃戦って撮るのが難しいんですね。それは予算の問題があるからなんです。予算がかなり掛かってしまうものなので。でも、『アジョシ』を撮った事によって、それなりの予算でもって撮る事が可能になり、今回実現する事が出来ました。
作品の中でゴンの鋭い目つきと飄々と話す様とのギャップがとても印象的でした。ゴンというキャラクターを描く上で特に気を付けた点がありましたら教えて下さい。
イ・ジョンボム:チャン・ドンゴンさんは今回、本当に大変だったと思います。体は体でアクションを消化しなければいけないので、3ヶ月前からアクションの練習に取り組んでもらったんです。それと、肉体的な大変さ以上に、殺すターゲットがいるのだけれども、ターゲットを殺せない理由を説得力を持たせて演技で見せるというのが大変な作業だったと思うんですね。最初に自分が過って殺してしまった子供がいて、今度はその子供の母親を殺せという指令を請け負った殺し屋な訳ですよね。
その内面を演じるというのは、本当に難しかったと思いますし、更にまた、以前自分を捨てた国、韓国に戻った時の気持ちもまた表現しなければいけなかったので、その点も理解してほしいと思いました。なので、実際に養子縁組に出された人達が直接書いた小説とか、エッセイを読んでもらって、一緒に読みながら話し合っていったんですけれども、そんな風にしてチャン・ドンゴンさんとゴンの内面を相談しながら作っていった記憶があります。

「ドキュメントのような銃撃戦」

銃撃戦がすごい迫力で、ハリウッド映画のようなどんどん相手を倒す爽快さではなくて、痛みの伝わってくるような銃撃戦でした。どの点に一番苦労したのかお聞きしたいんですが。
イ・ジョンボム:私はまさにそういう風な意図で銃撃戦のシーンを撮ったのでそんな風に感じて下さって本当にありがたく思っています。私はハリウッドの銃撃戦のような感じで撮りたくはなかったんですね。銃撃戦を見ながらも、まるで当事者と同じように戦場にいるような臨場感を感じてほしい。ドキュメントのような銃撃戦にしたいっていう思いで撮ったので撮影監督にもそこを強調し、特殊チームとか、効果のチーム、CGのチーム、サウンドミキシングのチームの皆さんにもその点を共有して作ってもらったんですね。
本当にリアリティを生かしたいっていう思いで撮りたくて、射撃の訓練もかなりしてもらいました。で、実際に人が住んでいるアパートを借りたんですね。なかなか撮影をするのが難しい場所を大々的に借りなければいけなかったので、スタッフに一ヶ月半位そのアパートに暮らしてもらって、一人一人住民全員を説得して、撮影をさせて下さいってお願いをして、やっと撮れたシーンですね。そんな風に誠意を込めて撮ったシーンでした。

「人物やキャラクターを理解するための銃撃シーンであり、アクションシーン」

この映画で監督が目指した銃撃戦、アクションシーンについてもう少し詳しくお聞かせ願えますか?
イ・ジョンボム:今回は銃を撃つのは主にゴンだった訳ですよね。チャン・ドンゴンさんが自分のキャラクターを理解するためには、銃によって犠牲になった人達っていうのはどうだったのかというのを知ってもらう必要があったので、YOU TUBEなどに上がっている、見るのもおぞましいんですけども、銃によって命を落とされた方、犠牲になった方、あるいはまさに銃によって命を落とす瞬間をおさめた映像をあえて見て頂いて、チャン・ドンゴンさんと一緒に話し合ったんですね。で、私がチャン・ドンゴンさんに言ったのは、「あなたが今回演じる仕事というのはこれなんですよ。こんな事をあなたはしているんです。今の気持ちはどうですか?」っていう風に聞いて、あくまでも内面をアクションに投影させるようにしました。
なので、私が目指している銃撃のシーン、アクションのシーンというのは、もちろん快感とかカタルシスもありつつ、でもそれ以上に人物やキャラクターを理解するための銃撃シーンであり、アクションシーンになってほしいと思っています。だから、相手をとことん懲らしめるっていうアクションだったらそれに合わせたアクションデザインが必要ですし、本当に複雑な心境でいま登場人物がアクションをしているって事になれば、その内面に合わせたアクションデザインが必要だと思いますね。
回想シーンの砂漠や、銃撃戦の行われるアパート、高層ビルなどロケ地がどこも印象的なんですけれども、ロケ地を探す上で苦労した点や映画でのロケ地の重要性についてどの様にお考えですか?
イ・ジョンボム:まずは、砂漠に関してはLA(ロサンゼルス)でロケハンをしたんですね。ロケーション探しは、外国でやると尚更難しさがありました。文化も違いますし、外国でロケハンをするので予算もかなりかかるという、そんな大変さがあったんです。アパートの銃撃戦の実際のアパートを探す時も、さっき言ったように住民を説得しなければいけないっていう苦労を伴いましたね。私は基本的にロケ地っていうのは、バックグラウンドとして映画には出るんですけど、人の気持ちを代弁してくれる空間だと思っていますね。今回だったらゴンの気持ちを代弁するようなものが、その空間として後ろにあったと言えるので、尚更ロケ地は本当に注意深く慎重に選んだんです。
それからまた、正確な答えになってるか分からないんですが、ゴンは母親に捨てられますよね。捨てられた場所は砂漠でした。砂漠は水が一滴も無いですね。ところが回想シーンでお母さんに垢擦りしてもらっている所は銭湯ですよね。子供の頃は、水がいっぱいあった銭湯だったんですが、もう一度大人になってからゴンが訪ねた時にはもう銭湯には水が一滴も無かったっていう、あの場面は場所もやっぱりゴンの気持ちをあらわしているんですね。だから、ゴンの気持ちをあらわせる所っていう風に相談しながらスタッフとロケハンをしていました。

「『アジョシ』の記憶を忘れてほしいっていう思いでオープニングを撮ったんですね」

キム・ミニさんがとても印象的でした。彼女に対する現場での演技指導はどのように行われたんでしょうか?
イ・ジョンボム:まず私はキム・ミニさんの前作の『火車 HELPLESS』という作品を観て、すごく良い演技をしてるなと思いました。それ以前のイメージというのは、背がスラリと高くて、痩せていて凄くスタイルの良い若いお嬢さんというものだったんですが、『火車HELPLESS』の演技を見て、可能性を感じる事が出来たんです。今回の役については、本人がまず心配していました。自分は結婚もしていないし子供もいないんだけれども、子供を失う母親の役が出来るだろうか?と、かなりプレッシャーを感じていたんですが、その点は一緒に話し合いながらキャラクターを作っていきましたし、チャン・ドンゴンさんもかなり引っ張っていって、助けてくれましたね。
だから、私が特に演出をしたっていう感じは無くて、一番私がミニさんに要求したのは、絶対に嘘をつかないでほしい、本当に本心を映画の中で見せてほしいっていう風にお願いしました。そうした所、彼女はしっかりと準備をして現場に来て下さったんです。それに、どうやらキム・ミニさんが、私がテイクを何回も重ねる監督だっていう事を知っていたみたいで、事前に本当に一生懸命準備をしてきて下さったんですよ(笑)。なので、今回はそれほどたくさんのテイクを重ねなくてもオーケーを出す事が出来ました。
面白いなと感じたのは、前作『アジョシ』の時には主人公と少女との交流が出てきましたけど、今回の『泣く男』では過って殺してしまった少女の姿っていうのが出てくるんですが、監督にとっての少女の位置づけについてはどのようにお考えですか?
イ・ジョンボム:今回は、私が前に撮った『アジョシ』の記憶を忘れてほしいっていう思いでオープニングを撮ったんですね。『アジョシ』の時にはとにかく少女を助ける、救うっていう主人公が出てきましたが、今回の『泣く男』ではオープニングから真っ先に過って少女を殺してしまうので、同じように少女なんだけれども違う感じでお話が進むんですよ、って事を皆さんに認知してほしいという風に思ってオープニングを作りました。『アジョシ』を書いていた頃というのは、ちょうど自分の娘が三歳くらいになっていたんですね。
その当時私は娘を抱きしめる度に複雑な気持ちになったんですよ。この娘を失ったらどうしようっていう、そんな不安がありまして。そういった思いが『アジョシ』の中に出ているんですけれども。今回その流れで『泣く男』っていう作品も位置づけられると思うんですが、だからといって特別に少女っていうイメージだけにこだわっている訳ではなくて、誰かの心を動かす純粋なメタファーとして位置づけたいという思いから登場させました。
今後挑戦してみたいアクションシーンについてお伺い出来ますか?
イ・ジョンボム:やってみたいのは剣術ですね。ただ、私たちの国の朝鮮時代は刀を使う時代ではなくて、弓を使う時代だったんですね。一方日本は戦国時代をはじめとして、侍は刀を使っていましたので、剣術のアクションってたくさんあると思うんですが。私自身剣術にチャレンジしてみたいので、それを考えたら歴史的な部分にこだわらないといけないんですよ。もし朝鮮時代を背景にしてしまうと、史実としてあまり剣が使われていないので合わないという事になってしまいますので、何とか説得力を持たせるためには高麗時代まで遡らなければいけないのかなと思います。高麗時代は、武人が実権を握っていた時代になるので、剣術っていうのは可能なんです。だから、そういうような時代背景を設定すれば初めて時代劇に挑戦しながらも剣術をやれるんじゃないかなと思っています。日本では山田洋次監督や、黒澤明監督などが立派な作品を撮っているので、私もそんな感じの剣術に挑戦してみたいと思っています。
【Story】

幼い頃にアメリカの砂漠に捨てられ、殺し屋に育てられたゴン(チャン・ドンゴン)。

ある日彼は任務遂行中に誤って幼い少女を撃ち殺すという、取り返しのつかないミスを犯してしまう。何とか忘れようと酒に溺れるゴン。しかしその罪から逃れようともがけばもがくほど、葬り去ったはずの過去の哀しい記憶が蘇ってくるのだった。そんな彼に組織から新たな暗殺命令が出る。これが最後の任務と決め、一度は捨てた故郷の地、ソウルに降りたつゴン。そこで彼を待ち受けていたのは、哀しい因縁で結ばれた最後のターゲットと、硝煙と薬莢の嵐のような壮絶な死闘だったー。
イ・ジョンボム監督作品『泣く男』
10/18(土)新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国ロードショー
■公式サイト
http://nakuotoko.jp
■『泣く男』関連記事
http://culture.loadshow.jp/topics/nakuotoko/
聞き手、構成、写真: 川邊崇広
『泣く男』
■監督:イ・ジョンボム 『熱血男子』、『アジョシ』

■出演:チャン・ドンゴン 『ブラザーフッド』、『マイウェイ 12,000キロの真実』/キム・ミニ 『火車 HELPLESS』『恋愛の温度』/ブライアン・ティー『スターシップ・トゥルーパーズ2』、『ウルヴァリン:SAMURAI』/キム・ヒウォン『アジョシ』、『ミスターGO!』

2014年/韓国映画/116分/カラー/シネスコ/5.1chサラウンド/日本語字幕:根本理恵/R15+

©2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

■配給:CJ Entertainment Japan
  • 『イ・ジョンボム』
    1971年9月生まれ。韓国芸術総合学校卒業後、2000年に短編映画『帰休』をトロント国際映画祭、ギリシア・ローマ短編映画祭に出品。2006年、初めての長編『熱血男児』で正式に監督デビューを果たす。2010年に2本目の長編映画であるアクション・ノワールの金字塔『アジョシ』を監督し、数々の賞に輝いた。新作が待望される中、ついに2014年『泣く男』が完成。