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第15回東京フィルメックス オープニング作品

『野火』塚本晋也監督インタビュー

2015年7月25日より東京・渋谷ユーロスペースほか全国公開決定!!

第15回東京フィルメックスにてオープニング上映された『野火』。今作は塚本晋也監督が長い間暖めてきた企画で、作品に込めた監督の力強い反戦への思いが、戦争の悲惨さをこれでもかと物語る!塚本晋也監督に今作が完成するまでの貴重な話を伺うことが出来た。

「善悪もないただの人間の主観」

観終わった後、本当に心に焼きつく戦争映画でした。20年間もの長い構想期間があったとの事ですが、原作(「野火」大岡昇平著/1952年)とはどういった出会いがあったのでしょうか?
塚本:おそらく高校時代だと思うんですが、その頃日本文学を結構読んでいまして、その中で物凄くインパクトがあったのが「野火」で、本当に自分が戦争に行っているような臨場感があったんですよ。ヒーローではない等身大の、善悪もないただの人間の主観で戦争を体験していくお話でして、非常に共感しながら読んで、その恐ろしさが身に迫ってきたんです。それからずっと頭から離れなくなりましたね。
読んだ事で、あたかも戦場を体験したような感覚になられたんですね。
塚本:そうですね、物凄くリアルに。文章なんですけど極彩色の大自然の中でボロボロになっていく人間の色彩までがくっきり浮かんでくるような感覚で、鮮烈な体験でした。
そういった体験から映画化していきたいと思い始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
塚本:思い始めたのはもっと前からなんですが、具体的に動き始めたのは30代前半の頃からなんです。脚本や企画書を書いたり、更には、日本だけじゃなくて外国にも出資を求めようとしてましたから、英語に翻訳した企画書やら脚本を作って、プレゼンテーションを具体的にし始めたんです。かなり乗ってくださる所もありながら、僕的には大きな規模の映画だったので、ちょっと難しいという事でずっと形にならなかったんですね。
自主映画で作るよりはとにかくお金が掛かってしまう企画だったので、自分で作るのは無理だと思っていたんです。プロデューサーの方が話しかけて下さる度に企画を出してたんですけど、時が経つにつれどんどん難しくなっていった感じですね。戦争を描いていても、戦争に行く若者たちの青春を悲しくも美しく描いている映画というのは作られてきたと思うんですが、ここまで戦争の悲惨さを描くのはあまり好まれない感じにどんどんなっていったんですよ。
製作自体を監督ご自身で動かし始めたのは、最近の事でしょうか?
塚本:そうですね、でも10年前の時には、20年前に企画を提案し始めた時よりもっとシリアスになっていて、戦争でフィリピンに行かれた方が80いくつになられていて、そういった方々にインタビューを始めたんです。それで、更に具体的に脚本とか企画書を書いて、原作権をいただこうと試みたりしたんですがやっぱり難しかった。ですから、その時のインタビューなどの資料はふんだんに残っているんです。そうして更に10年経っていまに至りました。いま作ろうと思ったのは大きなバジェットになるので出来ない企画ではあるんですけど、お金は無い中でも、もう自分でやるしかないと思ったんです。

「人が死ぬと完全に物になってしまっている」

ボランティアでスタッフを募ったりもなされたんですよね?どういった方達が集まられたんですか?
塚本:若い人達が多かったですね。学生さんもいれば、アルバイトで働いてる人もいて。Twitterで募集して、集まったんです。昔は雑誌などを活用してたので、Twitterではどの位集まるのかは分からなかったんですが、かなりたくさん集まりました。その人達と直接会って、面接させてもらってお願いしました。
映画の中では、肉体がちぎれている描写や、弾け散る描写でしたり、かなり容赦のない描かれ方で圧倒されました。今作のとことん見せるというスタンスは、今までの作品と比べても重要視されていた部分だったのでしょうか?
塚本:今までも乱暴な描写というのは多いんですが、今までは割と人って根本的にバイオレンスが好きな部分があるので、嫌いな人もいますけど、見たい人もいますので、そういうものを日常生活ではやらない分、想像の世界で見せるって意味でやってたんですね。今度はそういう風に楽しむんじゃなくて、つくづく嫌だなと思ってもらうためにやっていたので、かなり目的が違うんですね。
特殊造形もかなり凝ったものになっていました。
塚本:そうですね。戦争映画でよく死んでるシーンを人間が演じていますけど、生きているよなと思いながら、“まあ、死んでるって事ね“っていう風に見るんですが。そうじゃなくて、ドキュメンタリーとかで見ると、人が死ぬと完全に物になってしまっているので、そういう風にしないといけないなと思ったんです。ボランティアで集まった造形を希望するスタッフとは、人が亡くなってしまっている写真とかを集めて、かなり細かく研究をして納得のいくまでずっとやっていた感じですね。
リリー・フランキーさんや中村達也さん、森優作さんと、主要の方々の個性がとても際立っていました。キャスティングでは、そのお三方はどういった形でお決めになったのでしょうか?
塚本:今まで一回は仕事などで会った事があって、こういう現場でも大丈夫だという風に期待出来る方。尚且つキャスティングは非常に大事なので、存在がその役にピッタリであり、客観的にもお客さんの立場で観たいなと思わすことができる魅力のある方っていう事ですよね。ですから、今回リリーさんと中村達也さんの二人はスペシャルゲストといった形で出ていただきました。その他の兵隊さんもボランティアで来てもらいました。痩せたり髭も生やさなきゃいけないから、一年くらい前から準備してくれた人もいましたね。それと、中村優子さんと山本浩司さんは短いシーンだけど、こちらからお頼みした俳優さんですね。
監督ご自身で主人公の田村一等兵を演じられている訳ですが、カメラマンとして撮影もやられていますね。監督が出られている所は、助監督でもある林啓史さんが撮られていて、それ以外のシーンは監督がカメラを回されていたんですか?
塚本:はい、そうでした。今回自分が出てばっかいますけど、僕の主観とか出ていない所はいつも通り自分が撮っていました。出ている所もモニターを自分で持って、「もうちょっと右をあけて下さい」みたいな事を言いながらやっていましたね。

「急に戦争が始まるようにしたかった」

数ある戦争映画の中でこれだけ狂気一点に集中させた戦争映画というのは、すごく珍しいのではないのかなと思っているんですが、監督ご自身記憶に残っている戦争映画って何かありますか?
塚本:戦争映画でやっぱり一番記憶に残っているのは、『地獄の黙示録』(監督:フランシス・フォード・コッポラ/1979年)ですね。戦場体験って事でいうと、エキサイティングではあるんだけど客観的に観ている映画っていうのはあったんですけど、『地獄の黙示録』は完全に戦場に入ってしまっている感じがしたんですね。川を渡っている時に弾が飛んでくるシーンとかでは、弾が本当に自分に当たりそうな3D感覚で観ていたので、リアルな戦争から段々と摩訶不思議な領域に入っていく感じにかなり没入して影響受けたんですよね。あとは、『プラトーン』(監督:オリバー・ストーン/1986年)がインパクトありましたね。
そうなんですね。観ている時の心の重さという意味では『野火』と『地獄の黙示録』は近いものを感じました。
塚本:『地獄の黙示録』は物語が絡んでいくというよりも、エピソードが連続していくような感じなので、ドキュメンタリーにも見えるような不思議な作りの映画ですよね。
監督の作品は、どの作品も視覚と聴覚両方でダイレクトに伝わります。今作でも音楽は石川忠さんが手掛けられていますね。音楽に関しては何か要望みたいなものはあったんでしょうか?
塚本:音楽に関してはですね、特に要望は出さなかったんですけど、ただいつも音楽をつけて頂きたいポイントは僕の方で頼むんですね。『鉄男』などでは、激しい所に音楽をつけていたんですけど、『野火』では激しい所にはあえてつけないで、「緩急」でいうと前は「急」につけていたのを「緩」の所とか、いつもとはちょっと違うイレギュラーな場所に、でもどうしても必要な所につけて頂いたという感じでした。
最初は音楽無しかなと思ってたんですね。おどろおどろしい気配があってから戦争が始まるんじゃなくて、急に戦争が始まるようにしたかったんです。喜怒哀楽も特に無い映画にしようと思っていたものですから、音楽まったく無しという中で、どうなるんだろうとお客さんに思ってもらうような映画にしようというのがありました。でもそういう狙いがありながらもどうしても音楽がほしい所もあったので、いつもとは外した所につけてもらったんです。
でも、戦場のシーンで一番残虐に破壊されていく所には音楽をつけたんですけど、そこでは縦ノリの音楽とは違う音楽をというのが二人の見解の一致していた所でした。石川さんのテーマとしては「そこで戦争が無かったら、大自然の綺麗な地面では畑を耕す人がいたかもしれない。なのに、こんな風に使われてしまっている」というような事を思いながら作っていた曲みたいなんですね。そう聞くと、なかなか見事にそんな感じでして、ありがたいですね。
あと、音響も細かい音まで作りこまれているのが分かりました。サラウンド感もすごくて、本当にその場にいるような感覚になりました。
塚本:そうですね、それをテーマにしてやっていた所がありますね。

「今度のトランスフォームしていく行き先はただの悲劇でしかない」

今までの作品でも人間が人間ではなくなっていくという要素が特徴的にあったと思うんですが、今作ではいわゆる戦場でリアルにそういった形になっていくという事で、ある種、塚本監督らしい題材なのかなとも思ったんですけども。
塚本:いつものは段々とトランスフォームしていく時に、悲劇的にトランスフォームしてくんですけど、でも最後になっちゃった日には「もういいや」って感じで、新しいユートピアみたいな世界に入ってしまって、むしろ陽気に元気にその世界で生きていこうというような感じなんですけど、今度のトランスフォームしていく行き先はただの悲劇でしかないんです。全然ユートピアでも何でもないんです。全然いいことなしのトランスフォームなんで、そこはかなり今までとは違いますね。
現場でも今までとは少し違った雰囲気ってあったのでしょうか?
塚本:いえ、現場では特に。大作なのに人がさらにさらに少なかったって位ですかね。
実際にフィリピンで撮影されたんですよね?
塚本:フィリピンは、僕と、カメラと助監督をやってくれた林くんと、美術を全部修理しなければいけないボランティアのスタッフと、フィリピンのことに精通している方との4人で行ったって感じですね。自分が映るところを、フィリピンならではの風景の中で撮って、あとはリリーさんや中村さんなどが出られる所は沖縄で撮って、仕掛け物などの大掛かりな撮影は関東の近くの森の中でやったんです。それらを、あとで編集で組み合わせていったんですね。

「崖から落ちそうにもなった」

そんなに色んな所で撮られていたというのは分からなかったです。現場でもっとも苦労されたシーンというのはどこですか?
塚本:全部大変だったんですけど、仕掛けがどんなに大変でもスタッフみんなで協力し合って大爆発させたりとか、銃撃戦しているのはまだ楽だったんですが、フィリピンのジャングルは特にきつかったですね。ジャングルっていうのは、ただいるだけでも辛いんですよ。場所を探しに森の中を歩いているだけでも、もう半分くらい疲れてるんです。撮影場所決めて機材取りに戻るってのはかなり大変なんです。撮影中はモニターを見ながら演技するんですけど、お腹が実際もペコペコなんで何回もやりたくないんです。でも一回やってモニター見るとちょっと駄目だったりするので、何回も何回も淡々とやってる時は結構辛くてですね。
それからジャングルの中で何かに刺されて、足がぷくぷくに腫れちゃって、夜には熱が出てるのか不思議な浮遊感で、気持ち良いんだか怖いんだか分からないようなすごい変な感じになってました。疲れてるんで、撮影中自分で誤って崖から落ちそうにもなったんです。必死で掴まってるんですけど、大勢スタッフがいる訳じゃないので一人で解決しなきゃいけない状況で、どうやって落ちないようにしようかなって踏ん張ってましたね。暑さもあって、ジャングルはとにかくきつかったですね。ぼくがそんなだから、スタッフはさらに大変でしたでしょうね。
撮影のための減量もかなり事前にされていたんですよね?
塚本:そうですね、普通に生活してる時は60キロくらいなんですが、『鉄男2 BODY HAMMER』(1992年)では30歳過ぎからダイエットした時に55.5キロまで落とすのが限界だったんです。この歳になって余計落とすのが大変なんですけど、それでも53キロくらいまで減量したんです。フィリピンでの撮影から帰ってきてからは、やる気のあるスタッフがたくさんいたので大分助かりました。
リリーさん演じる「おっさん(安田)」と森優作さん演じる「永松」との関係の中で起こる出来事に生々しさを感じました。
塚本:原作でもあったんですが、僕の中ではお父さんと子供のような関係にも見えるし、こないだ誰かが同性愛ですかって聞いてましたけど(笑)、それでも別にいいですし、あるいはヤクザの親分と子分のような関係かもしれないですし。まあ、でも独特の関係の雰囲気ではあると思うんですけどね。
劇中で自分の実際の息子との関係についてのエピソードもありますよね。
塚本:そうですね、その子供とシンクロさせるような形で設定したんですよね。どんなに永松のことを優しくしてるふりをしても子供を捨ててしまっている人なんで、何となく何を考えてるかわからないんですけどね。

「山の中に逃げてでも(戦場に)絶対行かないでほしい」

これから国内で劇場公開されていく事も決まっていますが、『野火』を多くの方が今後観られると思うんです。監督ご自身、この映画がどのように広まっていってほしいとお考えでしょうか?
塚本:できたら老若男女に観てもらいたいですね。今までの作品は、割と若い人が多かったりするんですね。もちろん、かなり若い人にはまず観てもらいたいんです。これから戦争に行くか行かないかを一番問われるのは若い人なんで。自分たちが行くか行かないかというのを考え始めてもらいたいので、若い人に観てもらって「絶対行きたくない」っていう風に思ってもらいたいです。もしそんな事になってしまったら、断固、山の中に逃げてでも絶対行かないでほしい、という様な気持ちがあるんです。
上の世代の方には、大岡昇平さんの本を読まれた方もいらっしゃると思いますので、そういう人にもまた別の観点で、小説との関わりみたいな所で観てもらったら面白いかもしれません。いつもの自分の映画よりは、自分的には間口が広いように思っています。いつもの「都市と人間」というような独特なテーマではないので、なるべく多くの人に観てもらいたいですね。戦場の恐怖を味わってもらいたいという気持ちですね。
映画のジャンルをある種超えた、本当に人間の一部分を見せつけられる作品なので多くの方に観て頂きたいですよね。
塚本:しっかり、長い期間、見せ込んでいきたいなというのがあるんです。映像としては体感映画なので、スクリーンで画面を大きくして、音もでかくして、中に埋もれるようにして観てもらいたいです。
今後の上映楽しみにしております。本日はお忙しいなか、ありがとうございました!
塚本晋也監督作品『野火』
2015年7月25日より東京・渋谷ユーロスペースほか全国公開決定
■『野火』公式サイト
http://nobi-movie.com
■『野火』公式Facebook
https://www.facebook.com/NOBI.MOVIE
■第15回東京フィルメックス 公式サイト
http://filmex.net/2014/
聞き手・構成・写真: 川邊崇広
『野火』
原作:大岡昇平「野火」

出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 、森優作、山本浩司、中村優子

監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也

音楽:石川忠

配給:海獣シアター

英題:Fires on the Plain

(C)SHINYA TSUKAMOTO/海獣シアター
  • 『塚本晋也(つかもと・しんや)』
    1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。87年制作『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。主な作品に、『東京フィスト』、『バレット・バレエ』、『双生児』、『六月の蛇』、『ヴィタール』、『悪夢探偵』、『KOTOKO』など。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は、国内、海外で数多くの賞を受賞。北野武監督作『HANA-BI』がグランプリを受賞した97年にはベネチア映画祭で審査員をつとめ、05年にも2度目の審査員としてベネチア映画祭に参加している。俳優としても活躍。監督作のほとんどに出演するほか、石井輝男、清水崇、利重剛、三池崇史、大谷健太郎、松尾スズキらの作品にも出演。『とらばいゆ』『クロエ』『溺れる人』『殺し屋1』で02年毎日映画コンクールほか男優助演賞を受賞している。他、テレビコマーシャルのナレーターとしても活躍。
    監督・主演最新作『野火』はベネチア国際映画祭、トロント国際映画祭、釜山国際映画祭と各国で上映されている。