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『めぐり逢わせのお弁当』リテーシュ・バトラ監督インタビュー

600万分の1の確率で間違えて届けられたお弁当によって出逢うこととなった男女を描き、インドのみならず従来の市場ではないヨーロッパで異例の大ヒットを記録した『めぐり逢わせのお弁当』。来日したリテーシュ・バトラ監督にお話を伺った。

自分にとって重要なのは何を語るかなんです。映画である一つの世界を紡ぐこと。そしてインドだけではなく、世界に向けてストーリーを紡ぐことです。

私はインドでは主婦が作ったお弁当を職場に届けるシステムがあるということを知りませんでした。このダッパーワーラー(お弁当配達人)(※1)というのはとても面白く、かつ驚くべきシステムですね。当初はドキュメンタリーにしようと考えていて、それが短編になり、最終的にこの長編になったということですが、そのあたりの経緯を教えてください。かなり調査や脚本執筆に時間をかけられたんでしょうか?
バトラ:最初、ダッパーワーラーについてのドキュメンタリーを作りたいと思い、彼らと数週間をともにしたんです。そのドキュメンタリーは、ダッパーワーラーのシステムよりも、彼らの働きぶりや素顔を伝えようとしたものでした。
その時に、お弁当を預けてくれる奥様やその家庭の話などを聞いたんです。それが面白かったので、むしろ家庭を中心にした映画にしようと思いました。かなり早い段階でしたね。
最初は、上手くいっていない家庭を、美味しい手料理で修復しようという奥様が中心の話でした。ただ、そのお弁当が彼女の旦那ではなくて、他人のもとに届いて、他人の人生を修復するきっかけになったらどうだろう、と思いついてしまったんですね。それが物づくりの面白さで、何かを発見すると違う場所に連れていってくれる。また何かを発見して、違う場所に連れて行かれる。そうやって、このような話になりました。
脚本を書き上げるまで5年かかっていますが、他のことをやりつつ、という感じです。二人のキャラクターを作り上げるのに一番時間がかかっています。
あなたはムンバイで生まれ育ち、その後進学のためアメリカに渡り、卒業後経営コンサルタントをしたあとNY大学の映画学校に入学し、さらにサンダンス・インスティテュートに編入したということです。
インド映画は、最近はニューウェーブでそれとは違うものも出てきていると思いますが、やはり主流は、スターが歌と踊りを披露することがメインである、こってりとしたボリウッド映画ですよね。お話の点では大雑把で、一度死んだ人間が生き返ったり(笑)。
あなたが編入したサンダンス・インスティテュートや、主宰のロバート・レッドフォードが製作に関わる映画とは、やはり違うと思います。もちろんミーラ―・ナーイル監督のような先駆者はいるとは思いますが、そのあたり葛藤はなかったんでしょうか。
バトラ:自分にとって重要なのは何を語るかなんです。映画である一つの世界を紡ぐこと。そしてインドだけではなく、世界に向けてストーリーを紡ぐことです。歌と踊りのボリウッド映画は自分にとってずっとしっくり来ないものでした。正直言って、歌や踊りを使ってどう物語を紡いでいいか、僕には分からない。それには特別な才能が必要で、僕にはその才能はきっとないんだと思う。
今あなたがあげたミーラ―・ナーイル監督とか、もっと古い人になるとサタジット・レイ監督、そういったボリウッド映画とは違う監督たちが僕はもともと大好きでした。ただ確かにそのアプローチは孤独なものではあります。つまり、同じような人がたくさんいて、というわけではない。でも僕としては作りたいものを作るだけで、何々派、というレッテル貼りは他人がすることだと思う。
インドでは自国の映画を観る方が多いということですが、監督はインド以外の監督にも強い影響を受けていらっしゃるんでしょうか。
バトラ:18歳の時にアメリカに渡ってから、世界の映画を観ることができたのですが、一番好きなのはアッバス・キアロスタミ監督です。『桜桃の味』が最も好きです。最近では、アスガー・ファルハディ監督も好きです。シンプルで、洗練されたストーリーテリングは自分も目標としています。小津安二郎監督や黒澤明監督の『乱』や『七人の侍』からも影響を受けました。
この作品はインド、フランス、ドイツの合作ですね。国際共同製作はあなたが望んだものだったということです。日本は島国根性ということがよく言われ、合作に関しては取材しても苦労話ばかりです。今、キアロスタミ監督の名前が出ましたが、例えばキアロスタミ監督が『ライク・サムワン・イン・ラブ』を撮った時に六本木で今すぐ撮影したいと言っても、許可が取ってなくてできなかったら怒りだした(笑)とか。合作は国によっては、考え方や風習の違いで実際に共同作業が困難な場合もあると思います。そのあたりはいかがでしたか?
バトラ:インドも島国だよ(笑)。地理的というだけでなく、文化的にもね(笑)。苦労話は合作であるが故のことよりも、ムンバイで撮影することが大変でした。下手をすると東京よりひどいかもれない。4ヶ月も前から撮影すると言ってあったのに、撮影隊と一緒に行ったら、急にオーナーの気が変わったと言って撮影できなくなったり。そもそも撮影するのに、警察、政府、フィルムコミッション、オーナー…5つものところの許可を取らなければいけなかったりするんです。
むしろ合作は利点もあります。今回は撮影監督がアメリカ人、サウンドデザインがドイツ人、カラリストがフランス人だった。映画の最初の観客は、身近なスタッフですよね。僕はインド特有の世界を撮りながら、普遍的にも通じるような作品が作りたいと思っていたから、最初の観客がそういった国際色豊かな人たちで、彼らの反応を見ることができた。
彼らはこの先の映画作りも参加してほしいような人々だった。こういった映画の作り方は、とてもいい作り方なんじゃないかと思っています。
例えば、今回サウンドデザインはドイツ人にやってもらったんだけど、さっき話に出たボリウッド映画は、楽曲がメインですよね。インドでは実はサウンドデザインはあまり使う余地がなかったりするんです。この映画は、曲は全体の10%以下に抑え、ほかは自然音をサウンドデザインとして取り入れている。そこでその技術を持ったドイツ人に活躍してもらったということです。
ダッパーワーラーのシステムが重要なモチーフとなるこの映画は、つましい庶民の生活をかいま見れたようで、そこがとても面白かったです。サージャンのように女性に対して奥ゆかしすぎるようなインド人男性も、われわれ日本人との近似性を感じました。ボリウッド映画は、スーパースターと絶世の美女と、主人公はもっと人間離れしていますよね。だからこそ庶民が夢を見れる強大な装置として映画があるわけです。
ただこの映画もインドで大成功を収めたということです。具体的にはどのような感想が多かったんでしょうか。「私たちのことを描いてくれた」「私たちの映画だ」というようなこと?
バトラ:本当にこの映画がインドで成功を収めたのは、僕も驚きました。多くの劇場でかけて頂いて、小さな市町村から「見た」というお手紙を頂いた。予想してなかったから、とても嬉しかった。この映画が受け入れられたということは、インドの観客も変化してきているということが言えるんじゃないだろうか。今あなたが言ったように、「自分たちの物語をもっと観たい」と思っているんじゃないかと思う。僕は世界に向けて普遍的な物語を作りたいとは思っているけど、自分の故郷であるインドでヒットすること、自分の作品を観てもらうということはとても重要だと思っています。
新作も準備中だということ。楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。

(※1)ダッパーワーラー…「弁当配達人」を意味する。家庭の台所から"できたての"お弁当を集荷してオフィスに届けるという、ムンバイに実在するお弁当配達サービスに携わる人々を指す。ダッパーワーラーの多くは、マハーラーシュトラ州の田舎からやって来たヒンドゥー教ワールカリー派の人々で、簡単な読み書きしかできないという。だが、彼らはこの仕事と配達の確実性に寄せられる賞賛を誇りに思っていて、5千人のダッバーワーラーが1日20万個のお弁当を手に往復しているわけだが、ハーバード大学の分析によると、誤配送の確率はたったの【600万分の1】だそうだ。
【STORY】

ムンバイ、お昼時。ダッバーワーラー(弁当配達人)がオフィス街で慌ただしく複数の弁当箱を配って歩く。その中の、主婦イラが夫の愛情を取り戻すために腕をふるった4段重ねのお弁当が、なぜか早期退職を控えた男やもめのサージャンの元に届けられた。神様の悪戯か、天の啓示か。偶然の誤配送がめぐり逢わせた女と男。イラは空っぽの弁当箱に歓び、サージャンは手料理の味に驚きを覚える。だが夫の反応はいつもと同じ。不審に思ったイラは翌日のお弁当に手紙を忍ばせる……。
『めぐり逢わせのお弁当』
8/9(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!
■公式サイト
http://lunchbox-movie.jp/
聞き手・構成: 夏目深雪
『めぐり逢わせのお弁当』
監督・脚本:リテーシュ・バトラ(長編初監督作品)
出演:イルファーン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキー 
2013年/インド=フランス=ドイツ/1時間45分/英語、ヒンディー語/原題:Dabba/英題:THE LUNCHBOX
© AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013
  • 『リテーシュ・バトラ』
    1979年ムンバイのバンドラ地区生まれ。2008年に短編『The Morning Ritual(朝の儀式)』を発表。2009年には長編劇映画脚本『The Story of Ram(ラームの物語)』でサンダンス映画祭のタイム・ワーナー・フェローとアンネバーグ・フェローに選ばれる。続く短編『Gareeb Nawaz's Taxi(ガリーブ・ナワーズのタクシー)』(10)と『Café Regular, Cairo(カイロの普通のカフェにて)』(11)が注目され、後者は40以上の国際映画祭で上映され、12の賞を受賞した。本作はリテーシュ・バトラの長編デビュー作で、2013年のカンヌ国際映画祭批評家週間で初上映され、絶賛を浴びた。