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映画『海にかかる霧』シム・ソンボ監督インタビュー

4月17日(金)より、TOHOシネマズ新宿他全国順次公開

シム・ソンボ監督作品『海にかかる霧』が4月17日(金)より、TOHOシネマズ新宿他全国順次公開となる。本作は、金目当てに密入国を手助けした漁師が、あることがきっかけで不法移民を死なせてしまい、その屍体を遺棄したという実際の事件を元に制作された舞台作品「海霧」(ヘム)を映画化したもの。不法移民の死が引き金となり抉り出される人間の狂気に満ちた本質は「海」や「霧」といった不可避な圧迫感と相乗して、観るものを恐怖と混乱に落とし込む。監督は、2015年米アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表にも選出されるなど、本作で高い支持を得たシム・ソンボ氏。ポン・ジュノ監督作品『殺人の追憶』(03年)の脚本を手がけ、『海にかかる霧』で監督デビューを飾った期待の新鋭監督である。そこで今回LOADSHOWではシム・ソンボ氏にインタビューを実施! 撮影現場で交わされた俳優とのやりとりなど、制作の裏側を伺った。

密度の濃い限定された空間で、観客のイメージを増幅させる

舞台作品「海霧」(ヘム)の映画化ということで、どのような点に映画的工夫を施したのでしょうか?
シム・ソンボ:演劇を映画化する場合、普通は舞台より空間を広げて描くものですよね。ただ『海にかかる霧』の場合は演劇のように限られた場所で密度の濃い空間を用意するのが良いと考えました。

また、舞台「海霧」では1幕と2幕の合間の暗転中は波の音が鳴っているんですけど、それが鑑賞者の想像力を増幅させていました。なので、映画でもそのような「観客にイメージを喚起させる」描き方に重点を置きました。

内容に関しても演劇の核となっていたシーンはあまり変更しませんでした。具体的には「密航者が渡ってくるシーン」「船員が密航者の屍体を処理するところ」「船が沈むところ」などがそうですね。しかし、形式を変えたところも多少あります。

一番の違いは序盤の「陸」のシーンです。舞台版では漁に出て行くところから始まり、海で終わっていきます。なので「海で始まり・海で終わる」という形式だったのですが、そのように構成してしまうとキャラクターを説明する上で、フラッシュバックを多用して「陸」の部分を描かざるを得ないと感じていて。

そういったスタイルはこの映画には合わないと思ったので、《漁から陸に帰ってくる》というシーンを最初に入れました。それが演劇と映画の形式的に違う場所ですね。

悪者のいない物語

『海にかかる霧』は群像劇のように登場人物それぞれの思惑が交錯する話ですが、シム・ソンボ監督は何が、もしくは誰が話を引っ張っていると考えていますか?
シム・ソンボ:私の心の中の主人公は“ドンシク”(新人乗組員)と“ホンメ”(密航者の若い女性)だと思っています。ただ、お聞きくださった質問の意図でお答えすると、まずこの映画に真の悪人はいないのだと考えています。どの人物もお金に動かされている。そのため、物語を誘導するような人物は明白にはいないと言えます。
この映画にとって「悪」とは何か?ということは聞いてみたいと思っていました。ソンボ監督にとって、悪とは「お金」と言えますか?
シム・ソンボ:そう考えられると思います(笑)。
キャラクター設定をする上で気をつけたことはありますか?
シム・ソンボ:『海にかかる霧』は非常に限定されたか空間の中で、そんなに多くない人物が登場する物語です。そのような場合、映画が世界の縮図として表現されてしまうことがあるんです。しかし、今回はそういった表現にならないようにしたかったので、登場人物が記号的なキャラクターにならないよう考慮しながら登場人物の個性を考えていました。

何度も脚本を見直し、俳優の理解を大事にした

密航者の死をきっかけにそれぞれの人間性が極限まで引き出されますが、監督は俳優にどのような演出をしたのでしょうか?
シム・ソンボ:特にこちらから演出上の大きな基準は提示しませんでした。しかし、物語やキャラクターについては俳優さんたちと多くディスカッションを重ねました。そもそも、すばらしい演技をしてくださる俳優さんばかりでしたので、演出というよりは脚本のなかで理解しがたい点を聞き、その都度直していくことで、あとはそれぞれが脚本の意図を理解して期待に応えてくれるだろうという自信があったんです。
“わかりにくい点”というのは例えばどこにあったのでしょうか?
シム・ソンボ:一番俳優さんたちが理解し辛いと言っていた点は密航者たちが死ぬ理由でした。最初のシナリオにはそれが曖昧に書かれていたんです。しかし、俳優さんたちは「なぜ死んだのかわからないとその後の振る舞い方がわからない」と心配していました。死がきっかけになって極限状態に追い込まれていくので、言われてみればそうですよね。それで俳優さんたちと船の専門家であるコンサルタントと皆で話し合った上で、ある理由を作りました。
撮影前に書かれた《密航者の死》は、なぜ原因が判然としないように書いたのですか?
シム・ソンボ:そこの部分を描いてしまうと、責任が船員の誰かに集中してしまうと思ったのです。この映画で重要なのは「責任が等分してある」もしくは「誰にも責任がない」という状況なんですね。それ故に個人の思惑が食い違うのですから。
それでは最後の質問です。海や霧の圧迫感も極限状態を引き出す上で重要なポイントのように感じましたが、シム・ソンボ監督は何か参考にした映画などはございますか?
シム・ソンボ:コーエン兄弟が監督した『ファーゴ』(監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン/96年)ですね。海や霧がでてくる作品は、撮影に入る前にたくさん観たんです。しかし、それ以上に精神的葛藤を情緒的に描いているものに興味があって。そういう意味で『ファーゴ』は私にとって特別な作品でした。
公開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

映画『海にかかる霧』 4月17日(金)より、TOHOシネマズ新宿他全国順次公開!

取材・文:島村和秀
『海にかかる霧』

(原題:해무 英題:Haemoo|2014年|韓国|111分|カラー|スコープサイズ|5.1ch|韓国語|字幕翻訳:小寺由香 |©2014 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & HAEMOO Co., Ltd. All Rights Reserved.)

監督:シム・ソンボ/脚本:シム・ソンボ、ポン・ジュノ

製作総指揮:キム・ウテク/製作:ポン・ジュノ、チョ・ヌンヨン、キム・テワン

出演:キム・ユンソク|パク・ユチョン|ハン・イェリ|イ・ヒジュン|ムン・ソングン
  • 『シム・ソンボ』
    韓国芸術総合学校 映像院映画科卒業。ポン・ジュノ監督作品『殺人の追憶』の誕生から完成までのすべての過程を共に行い強いパートナーシップを築く。また、同作で第4回釜山映画評論家協会賞脚本賞受賞など多くの賞を受賞。その後は、映画を教えながら数々の脚本を執筆。『海にかかる霧』ではポン・ジュノプロデュースのもと、監督デビュー。同作は韓国本国で公開から6日間で100万人を超える観客動員を記録して大ヒットを記録。期待の新鋭監督として注目を集める。