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映画『東京の日』公開記念 池田千尋(本作監督)インタビュー

10月31日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー

池田千尋監督、7年振りの長編映画『東京の日』が公開となった。東京にあるカレーが美味しいと評判のカフェで働く本田と勢いだけで上京してきたワケあり女のアカリ。そんな二人のつかの間の共同生活から、東京の片隅で起こる恋が描かれる。池田千尋監督は本作の他にも今年の10月17日に公開となった監督作『先輩と彼女』や、来年公開となる黒沢清監督の新作『クリーピー』を共同執筆するなど大きな期待を集めている。そこで今回LOADSHOWでは池田千尋監督のインタビューを企画。『東京の日』から見えてきた“現代の若者”と“東京”という街の関係や今後の展望などを聞いた。

「東京は何かに根を張らずに浮遊していても許されるし、干渉されない」(池田)

映画『東京の日』は、池田監督の初演劇作品『東京の空』、『東京の歌』に続くシリーズのラブストーリーですよね。パリやニューヨークなど街を舞台に展開するラブストーリーは多くありますが、映画を通して東京はどんなふうにみえましたか?
池田:主要都市ならどこでも一緒なのかもしれませんが、自分の根っこがない場所で根っこを作ろうとする人が多い街だと思いました。私もそうですが、『東京の日』に関しては全員、地方出身者という設定なんです。地方から来た人にとって東京は、「向こうにある憧れの世界」という場所だと思うのですが、いつか憧れが現実になってしまう場所でもある。それぞれのルーツが希薄な街だからこそ、ラブストーリーという観点で見ると、能動性が必要な街だと思いますね。
佐々木大介さん演じる本田の存在感にふわふわとした浮遊感を抱きました。本田も東京という街で自分が根を張る場所を探していたのでしょうか?
池田:ある意味、東京は何かに根を張らずに浮遊していても許されるし干渉されない街だと思うんです。その状態に慣れてしまったのが本田ですね。
香川京子さん演じるスナックのオーナーの美知子が本田に「あなたは何してる人なの?」と尋ねますが、これは誰が聞かれてもドキッとする質問だと思います。特に本田にしてみれば怖い質問ですよね。
池田:これは、佐々木さんに色々取材して作った場面です。佐々木さんは囲碁が趣味で、碁会所によく行くそうなんです。そこでいつも同じお年寄りから「君は何をしてる人なの?」と聞かれるそうで、その話を聞いて面白いなって思ったんです。

おもうに、多くの人間は何者でもないんです。だからみんな、何者かになりたいという願望がある。私は映画を作りたいので、映画を作る人になっている気でいますが、本質的には何者でもないままなんだと思うんですよね。だから「あなたは何してる人なの?」なんて聞かれると、ちょっと怖いですよね。

ただ、本田に関して言うと、普通何者でもないということに恐怖を感じたり焦ったりすると思うのですが、本田はそのことを受容して生きているんです。
映画では、アカリ以外の多くの人も本田のことを気がかりにしていますよね。それは、本田の「何者でもない感」がある意味怖いからなのかもしれないと思いました。
池田:そうだと思います。本田くんを鏡みたいに見てみんな不安になって、ほっとけないのかもしれません。
本田とほとんど面識のないアカリは何で繋がっていたのでしょうか?
池田:上手く説明するのが難しいのですが、本田は「木」なんですよね。弱った動物が立ち止まってしまうような木みたいなものです(笑)。
たしかに包容力があるというか、よりかかりやすい男の人っていますよね。
池田:いますよね(笑)。アカリは結局、東京というファンタジーのなかに入ったものの、家がない、ツテがないと現実問題に弱り切っている。そういう状況で性の対象としてではなく本田くんを頼ろうとするのは、理解できるんです。

一直線なアカリと優柔不断な本田

本田という登場人物の設計に際して、現代性を投影することはありましたか?
池田:ありました。今の日本という貧困も戦争も差別も表立ってはないような世界のなかで、如何様にも生きてしまえる時代だからこそ、何も掴めない若い人がいっぱい生きていると思うんです。そういう人たちを、無視したり、若いからと済ませてしまうのはとても簡単なのですが、私としては「何がそうさせてるんだろう?」と考えてみたくて。それで、本田のような若者を映画で語ってみたいと思ったんです。
何も掴んでいないし、掴む意思もない人を物語で描くのは難しくなかったですか?
池田:ものすごく難しかったです(笑)。理解することがなかなか出来なくて。且つ、本田に関しては成長してほしいと考えていたんです。でも、本田はなかなか私の考える成長に追いついてこないんですよ(笑)。だから、些細な差異さえ本田にとっては「大いなる成長」になりえるんだということを私自身が発見させられ掴みながら映画を作っていきました。

実際、ドラマツルギーのなかで「戦い」があるほうが映画になるんですよ(笑)。それはわかっていたんです。でも、戦いとは別の次元で物語にしないと、本田は描けなかったんですよね。
なるほど。例えば成長の差異をどのように表現しましたか?
池田:食べることであったり、歩くということ、彼の住む部屋がどう変わっていくかに注目していきました。部屋の装飾はすごい狙って作り込んでいったんですよ(笑)。
それでは今度はアカリについて教えて下さい。映画のコピーでは、アカリについて「一直線な女」と書かれていますが、たしかに本田とは真逆のエネルギーを持っているように感じました。
池田:アカリはバレエをしていたなど今まで一直線に突き進んできた背景があるのですが、ある理由で衝動的に “東京”という街に来てしまう。でも、東京に来て行き先を見失ってしまうんですね。その行き先のない鬱屈とした力が本田に対して向けられてしまう。共同生活だからこそ、アカリと本田のコントラストははっきり出たと思います。
アカリという登場人物はどのように作っていったのでしょうか?
池田:本田くんの心を動かすほどの出会いって何だろうって考え作っていきました。また、アカリに関しては、潔癖であったり、突き進んでしまう感じなど、私の若いころも反映しています。
アカリの一直線さを趣里さんは見事に演じきっていますが、役のイメージを伝えるのは難儀しましたか?
池田:全くしませんでした。趣里さんはリハーサルの時点で掴んでいるように見えましたね。アカリって冷静に考えると突拍子もない人間だと思うのですが、趣里さんが演じれば必ず地に足がつくと脚本の段階で思っていたんです。それは見事に的中しました。なので、現場ではあまりアカリの内面についての話はしなかったですね。
本田演じる佐々木大介さんはどうでしたか?
池田:佐々木さんに関しては本人がかなり本田的な人なので、本田を成長させるということはイコール、佐々木さんを成長させることでもあると考え、結構厳しく言ったりもしました。本人も台本が出来た時点で、自分に限りなく近いと認識はしていたと思うんです。だから役と自分を分離させる作業に苦労させてしまったかもしれません。

7年ぶりの長編映画だからこその葛藤と進化

池田監督は今作で、これまでの自分を払拭する格闘をしたと聞いたのですがどのような格闘があったのでしょうか?
池田:カフェの従業員それぞれの恋を描いた『東京の空』、『東京の歌』という演劇公演がこの映画の大元にあるのですが、同じシリーズを今度は映画にするとなった途端脚本が書けなくなってしまったんです。演劇の本はとても新鮮な気持ちで書けたのですが、映画となると手癖みたいなものがでてしまい、イメージが不自由になってしまったんです。周りのスタッフからも「今までの池田と何が変わったの?」と、指摘されたりもして。

私はクリント・イーストウッド監督の作品が大好きでとても尊敬しているのですが、クリント・イーストウッド監督は作品毎にいつも進化しているような気がするんです。同じように私も、7年ぶりの長編映画でもある『東京の日』で進化したいという気持ちがあったんです。だから脚本は納得できるまで何度も書き換え、現場では必ず脚本を越えようと決めていたので、俳優の演技を見ながら柔軟に物語を変えていきました。
進化し続ける池田監督がとても楽しみなのですが、次回作などのイメージはございますか?
池田: 5年くらい前から温めているオリジナルの脚本があって、この本を実現化させたいです。そのためには、オリジナル脚本でも撮らせたいと思われるような監督しての位置に立たなければいけないと思っています。これまでも、気に入ってくれるプロデューサーはいたのですが、やはりオリジナル脚本だと企画のスケール感によってはなかなか通らないんですよね。

「映画」に貢献できる人間でありたいとも最近ようやく思えるようになりました。これからも『先輩と彼女』のような商業のメジャー作品を続けてしっかり撮っていきたいですし、もちろん、自分が積み重ねてきた小規模でも自分発信で作るオリジナル作品の映画作りも絶やしてはいけない。今後はその両輪を持って、温めている企画実現に向けて進んでいきたいと考えています。
黒沢清監督の次回作『クリーピー』では黒沢監督と共同執筆されていますが、それもひとつの布石のように感じます。
池田:黒沢監督もまさに、“黒沢清監督”だから期待され、実現できる企画が多くある監督ですよね。なので、とても恵まれた機会でした。黒沢監督のように私も、監督しての立場をしっかりとして、企画を実現できるように邁進していきたいと思います。
映画公開も今後の池田監督の作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
池田千尋監督作品『東京の日』
10月31日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
◼︎公式サイト
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◼︎公式Twitter
https://twitter.com/tokyonohi
◼︎公式Facebook
https://www.facebook.com/tokyonohi/
◼︎トークイベント
□11/4(水)18:40~の回上映後
ゲスト:樋口尚文さん×池田千尋監督
□11/6(金)18:40~の回上映後
ゲスト:本広克行監督×池田千尋監督
□11/11(水)18:40~の回上映後
ゲスト:俳優・戸塚純貴さん×池田千尋監督
□11/18(水)21:00~の回上映後
ゲスト:高橋栄樹監督×池田千尋監督
□11/19(木)21:00~の回上映後
ゲスト:演出家・倉本朋幸さん×池田監督×モグモスさん(1 曲ライブ付き)
(※全て、渋谷ユーロスペースにて)
取材・構成・写真:島村和秀
『東京の日』

監督・脚本:池田千尋

出演:趣里、佐々木大介、浅野千鶴、小澤雄志、田中佐季、山田純大(友情出演)、渡辺真起子、香川京子

エグゼクティブ・プロデューサー:日置克史、プロデューサー:前田紘孝、ラインプロデューサー:金森保、撮影:池内義浩、照明:斉藤徹、現場録音:清水オサム、音響:菊池信之、音楽:茂野雅道、編集:田巻源太、制作プロダクション:ソウルエイジ、配給・宣伝:マジックアワー

  • 『池田千尋(いけだ・ちひろ)』
    池田千尋(いけだ・ちひろ)
    1980年北海道生まれ、静岡県出身。映画監督、脚本家。映画美学校修了制作作品である『人コロシの穴』(2002)が2003年カンヌ国際映画祭・シネフォンダシオン部門に正式出品される。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域2007年修了。劇場公開作品に『東南角部屋二階の女』『とんねるらんでぶー』『夕闇ダリア』などがある。昨年は、K’s cinemaにて『ミスターホーム』が公開された。また舞台の作演出も手がけ、『東京の空』『東京の歌』が上演され好評を博した。2016年公開予定の黒沢清監督作品『クリーピー』の脚本を共同執筆。最新作は少女漫画原作の映画化となる『先輩と彼女』(10月17日公開)。