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映画『追憶と、踊りながら』ホン・カウ監督インタビュー

5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

ロンドンに暮らす初老の中国人女性とイギリス人青年の二人を繋ぐ愛の記憶を描いたホン・カウ監督の長編デビュー作『追憶と、踊りながら』が現在日本で公開中。本作はサンダンス映画祭のオープニングに選ばれて撮影賞を受賞。ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード(BIFA)や英国アカデミー賞(BAFTA)でも高く評価された記念すべき一作となっている。そこで本作の公開を記念してホン・カウ監督にインタビューを実施。映画愛に溢れるホン・カウ監督が語る、制作の裏側をお楽しみにください。

自分が信じられる脚本を書き上げていたら、まずは第一希望の俳優にアプローチしてみるべき(ホン・カウ)

長編第一作のインディーズ映画にも関わらず、イギリスのベン・ウィショー、そして香港の武侠映画の大スターだったチェン・ペイペイといった第一級の俳優をキャスティングできたのはとても凄いことですよね。
ホン・カウ:この映画全体を引っ張っていくのは俳優の演技です。だからキャスティングがどれほど重要かはわかっていました。もちろんそれは、有名とかスターとかそういう意味でなく、「正しい」俳優を選ぶという意味で。それでもベン・ウィショーとチェン・ペイペイは僕の頭に最初に浮かんだ俳優でした。ただ、低予算映画なので、正直言って、まさか彼らが出演してくれるとは思わなかったです。本当に幸運でした。
まずベン・ウィショーが出演することになった経緯を教えてください。
ホン・カウ:ベンはトム・ティクヴァ監督の『パフューム』(06年)を見て以来ずっと、とにかく凄い俳優だと思っていました。それで、リチャードというキャラクターを考えた時、彼の驚くほどの繊細さと、一方で感じているものすべてを人に伝えられる剥き出しの強さがぴったりだと、最初から感じていました。でもベンは今や大スターなので、さすがに無理だろうと思い、「ベンみたいな俳優がいい」とキャスティング・ディレクターに言ったんです。

ところが、だったら本人にコンタクトしようと、エージェントに連絡してもらい、正面突破で手紙と一緒に脚本を送ったんです。そしたらなんと、ベンが脚本を気に入ってくれて出演をOKしてくれたんです。最初に諦めないで、まずベンにアプローチして本当に良かったです。
ペイペイと言えば、香港のキン・フー監督の映画のヒロインとして有名ですよね。彼女がこういう役をやるのは新鮮でした。
ホン・カウ:リチャード役と違って、ジュン役の場合は、誰がいいのか、なかなかぴんと来る人がいなくてすごく時間がかかったんです。あの年代で、伝統的な中国人らしさを持ちながら、西洋文化の中で暮らしているという感覚もある俳優というのは本当にいなかったんです。それで粘りに粘っていた時に、ペイペイがニュージーランドの映画で、ごく普通の移民の母親役をやっているのを見て。僕は子供の頃からカンフー映画の彼女の大ファンだったんですけど、そうかこういう演技ができる人なんだと感動して、「ペイペイはどうだろう」と思ったんです。その後は、また幸運だった。

僕には何のコネクションもなかったけど、友人のエリック・クー監督が、彼女のマネージャーを知っているというプロデューサーを知っていると言うので、その繋がりを辿って彼女に脚本を送ったんです。そしたら出演してくださることになりました。

映画の大小や出演料など気にせず、脚本さえ良ければ出演してくれる彼らのような素晴らしい俳優ばかりではないかもしれないけど、たとえ低予算映画だとしても、もし自分が信じられる脚本を書き上げていたら、まずは第一希望の俳優にアプローチしてみるべきなんだと、その時に思いましたね。

映画を常套句(クリシェ)にしないために

脚本の評価が高いですが、映像面もサンダンス映画祭の撮影賞が証明するように素晴らしいですよね。
ホン・カウ:イギリス映画というと社会派リアリズムと呼べるものに、たくさん名作が生まれています。でもこの映画では社会を描くことより登場人物の感情を描きたかったので、それにふさわしいルックは何か考えて、もっとヨーロッパ的な美しさをもたせたいと思い撮影にのぞみました。
撮影監督のウラ・ポンティコスは、どんな方なのですか?
ホン・カウ:ポーランド出身で、まだ若いけど、コマーシャルやミュージックビデオでも活躍しているキャメラマンです。長編映画では、『Weekend』(2011/第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映)という映画で素晴らしい仕事をしていて、今回の映画にぴったりだと思いました。
とくに過去と現在を1カットでつながって見せるカメラワークは印象的ですね。あの着想はどこからきたのですか?
ホン・カウ:過去のシーンで、よくあるのはフラッシュバックだけど、それでは映画を常套句(クリシェ)にしてしまう。映画のリズムを壊さずに、どうしたらシネマティックにエモーショナルに、過去を表現できるか、考え続けました。それで大好きなジョン・セイルズ監督の『真実の囁き』(96/未/ビデオ発売あり)から多くのヒントをもらったんです。
最後の一連のダンスシーンはどんなふうに撮影したんですか?
ホン・カウ: あそこは1カットで撮りました。スムーズなカメラの動きで、なんとか満足のいく映像が撮れたけど、とても撮影の裏側は見せられません(笑)。カメラの動きに合わせて、俳優たちは衣装を変えたり、踊る相手を変えたり、タイミングを完璧に合わせなくてはいけないのでなかなかうまくいかなくて、実は全部で21テイク撮ったんです。

影響を受けた映画監督

『真実の囁き』の他に影響を受けた映画はありますか?
ホン・カウ:この映画では、母親のジュンの記憶が漂っているように表現しているので、美術にも古い時代の美術を取り入れているけど、そのあたりの感覚でウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(00年)とショーン・ダーキン監督の『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11年)の映像を参考にしました。
ちなみに好きな映画監督はどなたですか?
ホン・カウ:あまりにもたくさんいて挙げられない!(笑)。フェリーニ、ファスビンダー、キシェロフスキ、イギリスの監督ならヒッチコック、デイヴィッド・リーン、マイケル・パウエル……。クラシック映画を見るのが大好きなんだ。小津や黒澤ももちろん大好きです。
現代の映画監督では?
ホン・カウ:選ぶのは大変だよ。う〜ん、たとえば、アジア映画だったら、さっき挙げたウォン・カーウァイ監督。それからツァイ・ミンリャンやアピチャッポン・ウィーラーセタクン。日本の監督では是枝裕和監督の『distance』(01年)がとても印象に残ってます。配給の人に、僕の映画がダルデンヌ兄弟の映画と同じ初日だと聞いたけど、ダルデンヌも尊敬してるのでとても光栄だと思いました。でも、なんて強大な競争相手なんだろう!(笑)。
本日はありがとうございました。

映画『追憶と、踊りながら』 5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

『追憶と、踊りながら』

【Story】

ロンドンの介護ホームでひとり暮らすカンボジア系中国人のジュン(チェン・ペイペイ)。英語ができない彼女の唯一の楽しみは、優しく美しく成長した息子のカイ(アンドリュー・レオン)が面会にくる時間。しかしカイは、自分がゲイで恋人リチャード(ベン・ウィショー)を深く愛していることを母に告白できず悩んでいた。そして訪れる、突然の悲しみ。リチャードはカイの“友人”を装ったまま、ジュンの面倒を見ようとするが……。

(原題:LILTING イギリス映画|2014年|英語&北京語|カラー|1:2.35|5.1ch|86分|DCP 配給:ムヴィオラ)

監督・脚本:ホン・カウ

出演:ベン・ウィショー、チェン・ペイペイ、アンドリュー・レオン、モーヴェン・クリスティ、ナオミ・クリスティ、ピーター・ボウルズ

主題歌:「夜来香」(李香蘭)

© LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014

  • 『ホン・カウ』
    1975年10月22日、カンボジアのプノンペンに生まれる。ヴェトナムで育ち、後にロンドンへ移住。1997年にUCA芸術大学を卒業。当初はファイン・アーツを目指すが、映画に惹かれるようになり、映画製作を学ぶ。その後、BBCとロイヤル・コート劇場の【50人の新進作家】プログラムに選ばれ、多くの企画に加わって脚本の経験を積む。独立系映画会社で働きながら、映画の製作を始め、2006年のベルリン国際映画祭で上映された『Summer』、2011年のサンダンス映画祭で上映された『Spring』、2本の短編で大きく注目される。2013年にはスクリーン・デイリー紙が選ぶ【明日のスター】に選ばれるなど次世代を担う才能と期待されている。