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『xxx(KISS KISS KISS)』矢崎仁司監督インタビュー

2015年9月5日(土)より、新宿K’s Cinemaで都内独占公開!

『ストロベリーショートケイクス』、『スイートリトルライズ』、『太陽の坐る場所』など、登場人物の心の機微を丁寧に繊細に描いてきた矢崎仁司監督。原作・小池真理子『無伴奏』が公開を控える中、小規模ながらも挑戦的で個性あふれる宝石箱のような短編集『xxx(KISS KISS KISS)』が公開される。今回、脚本家の方々からお預かりしたメッセージを中心に、作品の魅力、現場の裏話、矢崎監督のこだわりについて等々、矢崎作品ファンは勿論、映画を志す若者たちにも必見な内容となっている。作品公開にあわせて矢崎監督の過去作品もK’s Cinemaにて上映される。こちらも見逃せない!

-一年間の本打ち-

今作は、5人の脚本家の方々が描く「キス」をテーマにした短編集となっています。5作品それぞれに個性的なキスシーンがあり、登場人物の世代や関係性も様々で、贅沢な時間に浸りました。企画の始まりは、脚本家ユニット《チュープロ》の方々からの持ち込みだったのですか?
矢崎:そうですね。その前に、映画24区で『1+1=1 1』(2012年)という映画を撮った時に脚本を担当してくれたのが、チュープロの中心メンバーの武田知愛さんだったんですね。その関係で、武田さんも僕に話やすかったと思うんですけど、脚本家集団を作って「キス」をテーマに脚本を書いていて、何とか映画にしたいという話を聞いたんです。
最初の脚本は、僕じゃなくてもっとこういう作品を上手く撮れる監督がいるだろうなと思っていたので、せめてシナリオに対しての僕なりの意見だけでもというつもりでメンバーに会いました。そしたら、また書き直して持ってきて、撮ってくれないですかとも言われたので、それからは本格的に自分が撮る前提で定期的に集まって脚本の打ち合わせをしていたんです。脚本が5作品完成するまでに大体一年間位を要しましたね。
全体の撮影期間は大体どの位だったのでしょうか?
矢崎:6月の終わりから9月の頭までだったので、一夏という印象ですかね。

-物語の上を人が歩くのではなく、人が動くから物語が生まれる-

『儀式』
今回のインタビューに合わせて、脚本家の方々から矢崎監督へのメッセージをお預かりしています。メッセージを中心に1作品ずつ、お話をお伺い出来ればと思っています。最初の作品は、武田知愛さんが脚本を書かれた『儀式』です。武田さんからの最初のメッセージをお渡しします。
武田知愛より(『儀式』脚本執筆)

普段から言いたい放題で申し訳ございません。私が脚本を書けなくなっても、飲むときは誘っていただけますでしょうか。なにとぞよろしくお願い申し上げます。


矢崎:(笑)。
書けなくなってもと仰っていますね。いかがですか?
矢崎:いや、あの方は書き続けますよ。それと、お酒を飲みながら話すアイディアが脚本に良い作用をするので、彼女とは飲み続けますよ(笑)。
武田さんとは、『1+1=1 1』でもご一緒されていますが、今作『儀式』は武田さんの色がより濃く出された印象はあったのでしょうか?
矢崎:そうですね。これまで自分が撮ってきた作風とは違う、新しい石が飛んできたなという印象がありましたね。『1+1=1 1』の時に2週間位詰めて脚本執筆をやってもらっていた時に感じた事は、本当にタフでめげない人だなと思いました。そこが、シナリオライターとして凄い所だなと感じました。それで『無伴奏』の脚本もお願いしたわけですけどね。
シナリオに対して闘わせたような事があったのですか?
矢崎:彼女が今まで勉強してきたシナリオの作り方と、多分まったく違う作り方を僕が求めるので、それを面白がってやっていたようでした。
どの様に違うのでしょうか?
矢崎:ストーリーに走っていくのをやめてもらったんです。普通は、ストーリーが上手く運ぶような書き方を求められると思うのですが、僕はそれよりも人が見たいんです。なので、物語の上を人が歩くのではなく、人が動くから物語が生まれるようなシナリオを書いてくれとは言いました。そういった『1+1=1 1』の経験を踏まえて、『儀式』は僕への挑戦状みたいな感じだったのかもしれませんね。
赤い風船や黄色い毛糸など象徴的なアイテムが沢山出てきますね。具体と抽象の狭間にいるような感覚になりました。武田さんがシナリオに描いた世界観を具現化していく上で、撮影の際に気を付けた点などありますか?
矢崎:とにかく変な脚本だなというのがあって(笑)。これをどう画にしようかは悩みましたね。非常に面白かったのは、撮影の時に俳優の松本若菜さん(兎雨子役)や加藤良輔さん(晴日斗役)を撮っていて、いよいよ後半、部屋に入るシーンだというのに、僕が撮れなくなってしまったんですよ。
今まで撮ってきた流れの中で、このラストシーンは撮れないと思って、どうしたらいいだろうと俳優さんに相談したら、二人がアイディアを出し合ってくれたんです。それは、救われましたね。
どういったアイディアだったのでしょうか?
矢崎:シナリオでは携帯電話で話している所があるんですけど、部屋に入って二人を撮る自信がないから、ドアの外のシーンのテイクを重ねて粘ってたんですよ。そしたら、若菜ちゃんと加藤さんが「家の中に入ってみませんか?」って。自分たちが考えた芝居を見てくれって言ってくれたんです。それでリハーサルで動いてもらう内に、お弁当を食べたりと色んなアイディアが生まれて、結果的に良いシーンが撮れたんです。
そうだったのですか。特にキスシーンが凄く印象的で、その前の口笛を兎雨子が練習するシーンがとても可愛らしいのですが、彼女の口笛をする姿は晴日斗の唇を吸い寄せるような不思議な魅力があると感じました。それでは、武田さんからの二つ目のメッセージです。

約一年間の本打ちを経て、いざ現場へ挑んだのですが、現場を見学するのと実際に体験するのとでは雲泥の差がありました。ト書きは各部への挑戦状だと思って書きなさいといわれてた意味が分かりました。そして今回の脚本はいわば矢崎監督に向けてのラブレターでもあったのですが、お分かりいただけましたでしょうか。セミオールを観たときは全身の血が滾りました。紙面上の人物が確かに息づいていました。生きていました。私達のようなものの脚本を、具現化していただき、本当にありがとうございました。

脚本がラブレターのようなものとありますね。
矢崎:そうですね。そういう意味では、皆が僕を監督として選んでくれたという所から既にそういうラブレターを受け取っていたんだなと思いますね。武田さんが言うト書きについてですが、良いシナリオというのは各パートの人が自分なりに読める脚本だと思うんですよね。だから、あるイメージの説明書にならないようにとは言ってきましたね。撮影部が読んでも、俳優部が読んでも別の読み方が出来るもの、読んだ人数分だけ映画が出来るような脚本が一番良い脚本だと思っているんです。彼女はそこに挑戦してましたよ。

-街そのものがセット-

『背後の虚無』
それでは、次の『背後の虚無』の朝西真砂さんからのメッセージです。
朝西真砂より (『背後の虚無』脚本執筆)

俳優さんへの接し方がそれぞれで、そこが意外でした。あとガードレールを撤去したのを見たときは、びっくりしました。それも含め、完成版をみたとき、シナリオの活字が生身の人の動きや声になることに感動を覚えました。


矢崎:ガードレール? 知らないです。朝西さんの勘違いだと思いますよ。溝口健二監督みたいに電柱切れなど言ったことないですよ(笑)。撮影所を知らない僕らは、街がセットだと思って撮ってますから、セットは大切にしますよ。邪魔なものをちょっと動かしたりはしますけど、基本的に街の人に映画文化を浸透させたいと、道で絵を描いたり歌を唄ったりしてるのと同じですよって、ね。
今作の夏生の繊細さや透明感が凄く魅力的でした。また、タイトルが作品にマッチしていて、タイトル出しのバイクに乗って後ろを向くカットで鳥肌が立ちました。
矢崎:ありがとうございます。『オートバイ』(原題:La Motocyclette/作者:アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ/63年)という小説の中に、「背後の虚無」という言葉が出てくるんですよ。オートバイを走らせるという事は街を背後の虚無に葬る、みたいな文章がずっと引っ掛かっていて、オートバイの話を撮るとなった時にこのタイトルを付けたいと思って、僕の判断で付けました。
朝西さんからのもう一つのメッセージです。

なぜ、寝顔を見られるとものすごく怒るのですか?

矢崎:これはですね、撮影期間中は合宿みたいにして過ごしてたんです。それで、僕が寝ていた所が皆で朝ごはんを食べる部屋でして、朝ごはんで皆が来る前に起こしてくれって頼んでたんですよ。でも、何回か呼びかけてくれたけど、起きなかったらしくて。目が覚めたら、皆が朝ごはんを食べているんです。それで、皆に寝顔を見られた事に物凄い腹が立って、「起こせって言ったろ」って怒っちゃったんです(笑)。
何かね、眠るって僕の中でかなり罪悪感があって、昔から電気点けっぱなしで本を読みながら、気が付いたら眠っているみたいな習慣があるんですね。だから、寝ている姿を見られるのが嫌なんですよ。クランク・アップした日くらいかな、電気消して「さあ、眠ろう」っていうのは。
皆さんに寝顔についてふれられたりしたんですか?
矢崎:いや、全然誰もふれてこなかったですね(笑)。撮影が終わって、打ち上げで部屋飲みしていた時に僕が割と早くに眠ってしまったんですけど、そういう時は全然気にもしないんですけどね。撮影中の時だけかなりイライラしてしまいましたね。

-映画監督の方向に行かなかったら庭師を目指していた-

『さよならのはじめかた』
『さよならのはじめかた』は、ヘンリー・ミラーの「描くことは再び愛すること」という引用が出てきますが、この言葉が最後の浩一の庭を見つめる表情にも結びつき、生と死を静かに穏やかに見つめた感動作でした。
矢崎:引用に関しては、僕はヘンリー・ミラーの絵が好きで、画集の言葉からシナリオに付け加えましたね。捨てるつもりで若いころ着たワンピースを洗った絵画教室の先生の綾子がスケッチ・ブックに描くという事は、もう一度そのワンピースを愛するという事なのかなと思ったんです。
そうでしたか。脚本家の中森さんからのメッセージをお渡しします。
中森桃子より (『さよならのはじめかた』脚本執筆)

映像の方なのに、文字の力を信じていることが意外でした。「たとえほんの少しの直しでも必ず頭から書き直せ」と何度も怒られました。天邪鬼なわたしは渋々だったのですが、やってみると本当に歪みやアラが見えてくるもので……不思議ですね。すみません、もうコピペはしません(笑)

矢崎:コピペは禁止しましたからね(笑)。
コピペというのは、前の稿の直しのない部分をそのまま移すという事ですか?
矢崎:そうです。シナリオを一つの作品として見た時に、途中を直したら全部が崩れるはずなんですよ。だから、そこを直すのなら頭から書かないとダメなんですよね。直す所を意識して、頭から書くと必ず他の部分も変わってくるはずなんです。
早い段階でこういったご指摘をされたのですか?
矢崎:そうですね。誤字脱字があるのに、それが直ってなかったのですぐ気付きましたよね(笑)。そんな事では良いものは生まれないよ、という事は言いましたね。
もう一つ、中森さんからの質問をお預かりしています。

もし映画の道を選ばなかったとしたら、何をしていたと思われますか?

矢崎:庭師ですね、アルバイトで造園会社に2年位いたんですけど、それは物凄く面白い体験でした。造園の際に、一つの石の面積の半分以上を庭に埋めるんですよ。そんなに埋めるのなら、もっと小さな石を持ってきて埋める部分を少なくすれば良いのではと思う訳ですよね。でも、埋める部分が大きいと、見えている石自体が大きく見えるって言うんですよ。見えすぎると、そのままの大きさで、見せない部分が深く人の気持ちに届くみたいな、なんか映画に通じるものがありますね。すごく勉強になりましたね。
昔の名のあるお坊さんや武将というのは、死ぬまでに一度は庭を作っているという話を聞いていて、自分も庭を作ってみたいなというのがあって、映画監督の方向に行かなかったら庭師を目指したいと思っていましたね。
今作も庭が重要な形で出てきますね。庭の手入れをしている綾子がすごく印象的でした。浩一の庭を見つめる最後の表情も素晴らしいですね。
矢崎:塚田美津代(綾子役)さんも中丸新将(浩一役)さんも、本当に良い表情をしてくれましたね。最後のシーンは、撮影の時もまだ僕自身どういう風に見せるか迷っていて、それを中丸さんにも正直に伝えていたんです。玄関で新聞を取った後に、いつもは見ない綾子の絵を見たりと、そういう動きはお願いしました。おそらく中丸さんの中で、最後は綾子のいない日常という感覚で、あのような表情をしてくれたんだと思います。

-台風による撮影中断-

『いつかの果て果て』
『いつかの果て果て』は、5作品の中では少し毛色の違ったフォトジェニックで妖艶な雰囲気を醸し出した作品でした。脚本家の五十嵐さんからのメッセージです。
五十嵐愛より (『いつかの果て果て』脚本執筆)

撮影現場はとにかく戦場のようで、普段の菩薩のように優しい矢崎監督からは想像もつつきませんでした。おまけにあまり食事を召し上がらなくなるので、どんどん痩せていかれて心配になりました。撮影の石井さんとは、まるで恋人のような好敵手のような、絶妙な間柄なのだとわかり微笑ましかったです。アクション映画がお好きということも意外な一面でした。

現場では、まるで別人のような厳しさもあるという事なのですか?
矢崎:普段とはかなり変わるみたいですね。自分ではいつもと変わらないつもりなんですけど。僕は怒鳴ったりする現場は本当に嫌いで、そういう事はしないのですが、かなりイライラした表情になっている事はあると思います(笑)。何か一瞬、みんな邪魔しているように見える事があったりするんです。そんな訳ないんですけどね。でも、基本は静かな現場ですよ。静かに怒っています(笑)。
アクション映画は、どういったものがお好きなのでしょうか?
矢崎:トニー・スコットの映画が大好きですね。憧れるんですよね。自分にこんなの撮れるか分からないけど、撮ってみたいなって思うんですよ。日頃、家で観る作品もアクション映画が多いんです。
矢崎監督が撮られるとしたら、どういったアクション映画になりそうですか?
矢崎:『不倫純愛』(2010年)でフィルム・ノワールを試したんですが、フィルム・ノワール的なアクション映画を作ってみたいと思っているんですよね。
五十嵐さんからの二つ目のメッセージです。撮影を中断してしまうトラブルがあったと書かれていますが。

脚本のせいでもありますが、途中で撮影が中断し、どうなってしまうんだろうかと。完成版は観てないのですが、セミオールを観たとき、映像に命が宿っていることを感じ、圧倒されました。やはり矢崎さんは、すごい映画監督だなと感服いたしました。

矢崎:台風11号が来たんですよ。台風が来るけど、エキストラを呼んでしまっていて、渋滞シーンで車30台位の中を娼婦が自転車で走ってきてセールスマンに声を掛けられるという冒頭のシーンを撮るつもりだったんですが、雨が降り始めてきてしまって、リハーサルだけやって中断したんです。
ただ、撮影が後日になると、同じエキストラの方にまた車で来てもらえる保証がなかったんです。なので、一回仕切り直しにしようという事で、一番最後の撮影になったんですよ。脚本もその間、渋滞シーンは二度と撮れないといった理由もあって書き直してもらいました。結果、作品としては台風が来て中断して良かったかなと、いまは思っていますけどね。
内容自体も変更せざるをえない状況だったのですね。
矢崎:そうですね。面白いシナリオだなと思っていて、ラストシーンだけをずっと書き直してもらっていた一年間だったんですね。台風の後は、大きく変更をしてもらったので、登場人物を削ってもらったり、短い期間に撮れるようなシナリオに変えてもらいました。本来、五十嵐さんがやりたかった事とずれてしまっているんだろうと思います。
シナリオを削る段階で、僕がやってみたいなと思っていた事をシナリオの中に入れてしまったんですよ。『マルホランド・ドライブ』(監督:デヴィッド・リンチ/2001年)を観た時に感じた、死んだ本人が死んだと気付いていないのでは?といった要素を加えてみた訳です。
もともと五十嵐さんが書いていたラストはどのようなものだったのでしょうか?
矢崎:数ヶ月後の娼婦の生活が描かれていました。シナリオを大幅に変えてしまって、五十嵐さんには本当に申し訳なかったです。
五十嵐さんも撮影現場には常にいらっしゃったのですか?
矢崎:チュープロのメンバーは皆、現場に来てくれてました。リヤカーに手作りのおにぎりやサンドイッチを積んで撮影現場に運んでくれたり、美味しい夕食を用意してくれたり、本当に感謝しています。

-生身の人間を目の前にすると、必要の無くなる台詞-

『初恋』
最後の作品の『初恋』のキスシーンは、直球で清々しさを感じました。脚本家の大倉さんからのメッセージです。
大倉加津子より (『初恋』脚本執筆)


監督は怖いと聞いていましたが、本打ちの一年間はとても穏やかで、仙人のような方でした。しかし撮影が始まると、鬼のようになられて、もちろん温かく優しさがこもった鬼なのですが、非常に驚きました。私達は撮影現場を体験するのは初めてだったので、最後まで色々ご迷惑をおかけしました。父親のような存在でした。

脚本家の方々が現場を客観的に見られてるから、余計に感じる事ではあるんでしょうね。
矢崎:そうでしょうね。でも、現場ってそういうものですよ(笑)。天気に左右されたり、音で言えば飛行機や工事の音だったり、光で言えば日が沈んでしまうとか、色々障害が出てくるんですよ。ピリピリする事はあっても、鬼みたいな事はそんなにはないと思うんですよね。現場で一番しかられるのは、僕のような気がしますよ(笑)。
脚本の打ち合わせの際は、喧々囂々とされる事はないのですか?
矢崎:表現する事って、凄くナイーブになる訳ですよ。そこに対して「何だよ、これ」とか言っていたらモノは生まれないと思うんです。表現者をリスペクトして話していて、声の大きさとか言い方についても気を付けています。だからか、お酒を飲める場所でやっと、少し言いやすくなるかなっていうのはありますね。そういう感じだから、逆に現場での僕の態度にびっくりするのかもしれないですね。
タイトなスケジュールの中でやる訳ですから、焦りも出てきますよね?
矢崎:大概の現場では、現場でモノを想像するな、消化するのが精一杯だって言われるんですよ。今回は、誰かがプロデューサー的にダメ出ししてくる現場ではないので、悩んでも良いんじゃないかなという意識でやってはいましたね。『初恋』の現場では、川野直輝さん(トムラ役)、吉田優華さん(京子役)とも色々話してやりましたし、シナリオになかったシーンで京子がおしっこするシーンをクランクイン初日に付け加えましたしね。
そうだったんですか。最後の方で、アパートを出て、外で京子が部屋の中から見ているトムラに軽く踊ってみせる所はシナリオにはあったのでしょうか?京子がとても魅力的に映っていました。
矢崎:シナリオには踊るとは書いてなかったかもしれないです。窓から去っていくのを見ている、くらいだったかと思います。踊る所は、ハワード・ホークスの『脱出』(1944年)で、最後ローレン・バコールが踊ってみせるんですよね。それが、凄い素敵でね。ここで使える、って思ったんです(笑)。多分、湿っぽくしたくなくて、別れのじゃんけんとか踊るとかは撮影中の思いつきだったと思います。
夏の雰囲気と相まってか、作品全体が直接的ではないですが、すごくエロチックな雰囲気を醸し出していて魅力的でした。役者さんが活き活きと演じられているように見えました。
矢崎:本当そうですね。川野さんと出会えた事は嬉しかったですね。川野さんとは今年の春、山梨の桜の下でお酒を飲みましたよ。これからも一緒にやっていきたいなと思える俳優さんですね。
続いて、大倉さんからの二つ目のメッセージです。

セミオールを観てやっと、わたしたち脚本家に矢崎監督が求めていたことが分かった気がしました(遅いのですが)

矢崎:それは嬉しい事ですけどね(笑)。生身の人間を目の前にすると、必要の無くなる台詞っていっぱい出てくるんです。でも、シナリオ上では机の上で考えているから、どうしても台詞も多くなる訳ですよね。台詞が必要なくなっていく瞬間を目の当たりにしたから、そう感じているんだと思いますね。でも、シナリオの段階ではそういった台詞はあって良いと思うんです。
大切なのは感情の流れなので。これから撮るワンカットで、俳優はいま悲しいのか、などをスタッフ全員が知っているというのが大切で、悲しいっていう事さえスタッフ全員が知っていれば、踊ろうが走ろうが、感情や空気を映し撮ることができるんだと思います。
『初恋』では、役者さんが役に対して悩まれる事はあったのでしょうか?
矢崎:割とストーンと腑に落ちていた感じがしますね。川野さんも優華ちゃんも役を鷲掴みにしていた感じでしたね。

-理解するような映画ではなく、もっと感じてほしい-

矢崎監督の作品では、真上から撮られる事が多いですよね?カメラワークというのは、現場で自然と生まれてくるものなのですか?
矢崎:そうですね。『スイートリトルライズ』(2010年)の時は、意図的に成瀬巳喜男を勉強したいと思っていたので、珍しくカットをきちんと割ってから撮影に挑みましたけど。でも、やはり俳優さんにもっと自由に動いてもらって、その中で見たい表情、見たい姿を撮っていく方が僕には合っているなと思ったんです。僕は、現場でモニターを一切見ないので、撮影の石井(石井勲)さんがどんな風に切り取っているのかを、後でラッシュで観るのを楽しみにしているんです。
最後に今回の5作品はそれぞれに色があり、個性が違った仕上がりになっていますが、全体通してどのように観客に見てもらいたいと思っていますか?
矢崎:いまって、わかりやすい映画が多いんですが、僕が映画を観始めた頃って「わからないけど、なんか引っ掛かるな」という様な映画が後々、自分にとって力になっていたんです。理解するような映画ではなく、もっと感じてほしいなと思って常に作っているんですね。そういった意味では、この5本はお得感があるというか、色んな映画体験が出来ると思っています。だから、5本まとめて映画館のスクリーンで観た時に、映画史を旅したような感覚になってもらえたら嬉しいですね。
矢崎仁司監督作品『xxx(KISS KISS KISS)』
2015年9月5日(土)より、新宿K’s Cinemaで都内独占公開
上映時間:
《9/5(土)~11(金)、19(土)~25(金)》 12:30、18:00
《9/12(土)~18(金)》 12:30、15:45、19:00(9/13(日)、14(月)、16(水)は12:30、20:00)
《9/26(土)~10/9(金)》 20:00
■公式サイト
http://filmbandits.net/xxx/
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■公式Twitter
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取材・構成・写真: 川邊崇広
『xxx(KISS KISS KISS)』
●監督:矢崎仁司(『三月のライオン』、『ストロベリーショートケイクス』、『太陽の坐る場所』)

●撮影:石井勲(『不倫純愛』、『なにもこわいことはない』、『チョコリエッタ』)

●照明:大坂章夫(『青春☆金属バット』、『ストロベリーショートケイクス』、『人生、いろどり』)

●編集:目見田健(『青二才』、『タイガーマスク』、『マリア狂想曲』)

●音楽:田中拓人(『オカンの嫁入り』、『そこのみにて光輝く』)

●助監督:古畑耕平 ●キャスティング:横山千賀、斎藤緑

ストーリー:『儀式』、『背後の虚無』、『さよならのはじめかた』、『いつかの果て果て』、『初恋』“キス”で繋がれたこれら5つの掌編にて構成。

5つの物語の詳細は下記。

『儀式』
◇出演:松本若菜、加藤良輔、林田麻里、深谷由梨香、辻京太、松田将希、牛丸亮、川俣しのぶ

◇脚本:武田知愛

ストーリー:『儀式』図書館で働く兎雨子(松本若菜)。今朝もまた同棲相手の晴日斗(加藤良輔)と喧嘩した。一緒に暮らすうちに何かを失ってゆく。たとえば希望、信頼、そして熱情―。 「もうおしまい」。いつもそう思うのに、まるで絡まったまま、ほどけない二人の恋。今度はサヨナラか、仲直りなのか、かかってくるまで分からない声の儀式が、また静かに始まるー。
『背後の虚無』
◇出演:柿本光太郎、安居剣一郎、樋井明日香、前野恵、志水季里子、長澤洸青、佐野大輝

◇脚本:朝西真砂

ストーリー:東京の大学に通う夏男(柿本光太郎)は、幼馴染の成生(安居剣一郎)に秘かに思いを寄せていた。夏になると故郷・山梨に帰郷し、運転代行業で働く成生を手伝って、ひと夏を共に過ごすのが、夏男のささやかな幸せだった。老いた母と地元で暮らす優しい成生。この友情が終わるのは、自分が告白したときだろう。そう堪えてきた夏男に、ある日突然訪れた虚無とはー。
『さよならのはじめかた』
◇出演:中丸新将、塚田美津代、涼香

◇脚本:中森桃子

ストーリー:妻は毎朝、庭に水を撒く。夫は新聞を取りに玄関へ出る。知人の葬式に出掛けることが日常になった。緩やかに穏やかに近づく別れの跫音。妻・綾子(塚田美津代)が自らを蝕む病の正体を知ったその日、バス停で出会った少女・明里(涼香)。彼女の言葉が、綾子と浩一(中丸新将)夫婦の心を小さく揺らす。 古いカメラの「眼」の底に残る風景とは……。
『いつかの果て果て』
◇出演:荻野友里、草野康太、海音、木村トモアキ

◇脚本:五十嵐愛

ストーリー:路上で春を売る美玖(荻野友里)の毎日。昨日も今日もその先もー。美玖はあこぎな商売で、常にトラブルを抱えていた。その日も追ってきた客の男、安川(草野康太)の前で、また別の客とトラブルを起こす。その様子をじっと見る目、まっすぐ延びる道に一人の少女(海音)が佇んでいた。不思議な視線に惹かれるように川にたどり着く美玖と安川。どこかに続く川の中、闇が3人を満たしていく。
『初恋』
◇出演:川野直輝、吉田優華、榎亮太郎、田中夢、山本将宏、初見弘貴、山田寛幸

◇脚本:大倉加津子

ストーリー:トムラ(川野直輝)は心血注いだ金魚屋の経営に失敗、抜け殻のような現実逃避の日々を送っていた。そこへ突然、高校時代の同級生・京子(吉田優華)が現れる。初恋相手との再会に動揺を隠せないトムラ。そんな気持ちを知ってか知らずか、大人びた京子は気ままに泳ぐ金魚のように、トムラの心に波紋を作る―。
  • 『矢崎仁司(やざき・ひとし)』
    山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科に入学。在学中の1980年、『風たちの午後』で監督デビュー。1992年、『三月のライオン』でベルギー王室主催ルイス・ブニュエルの『黄金時代』賞を受けるなど、国際的に高い評価を得る。1995年、文化庁芸術家海外研修員として渡英し、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。主な作品に、『ストロベリーショートケイクス』(2006年)、『スイートリトルライズ』(2010年)、『不倫純愛』(2011年)、『1+1=1 1』(2012年)、『太陽の坐る場所』(2014年)などがある。2016年には、原作・小池真理子『無伴奏』が公開を控えている。