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ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2014(6/21-7/4)によせて

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの映画 欺瞞の世界を白日に晒す、あまりに過激な作品群

理想を言うなら一年中ファスビンダー映画だけ上映している劇場がほしい。37年の生涯で生み出した映像作品は40本以上、劇場映画、テレビ映画、舞台劇の収録、ドキュメンタリー、テレビショー、そして連続テレビドラマ。さらに出演作、仲間の作品(シュレーター、シュミット、シュレンドルフ、ウリ・ロメル…)、影響を受けた作品(サーク、ゴダール、ストローブ、ナチ映画…)まで含めれば、ファスビンダー専門劇場は十分に実現可能だ。という妄想(本当に?)はそのくらいにして、せめて年に一度はファスビンダー祭りということで6月21日より2週間にわたってオーディトリウム渋谷で彼の16作品が一挙上映される。だがこれだけ並べても全作品の約3分の1足らずである。たぶん目当てのあの作品が入っておらず口惜しい思いをしているファンの方々も少なくないだろう。次にご期待ということで。

今回の布陣は、2002年の『ベルリン・アレクサンダー広場』最初の字幕付き完全上映を行ってから12年間における日本のファスビンダー歴を概観するプログラムである。しかもいくつか初公開作が含まれている。ファスビンダー初のカラー映画『リオ・ダス・モルテス』は、まさに彼がニューシネマの旗手として登場した事実を鮮烈に思い出させてくれる。映画を作りたいのに方法がないと嘆いている者たちを尻目に、金とチャンスは簡単に手に入るんだと言わんばかりに自分の夢を追ってゆく男たちを主人公にした快作だ。これほど等身大の「政治的」映画は他に見たことがない。

また若きファスビンダーが共同体の夢を追っていた「アンチテアター」時代最後の映画『アメリカの兵隊』は、ギャング映画のイミテイションとして『愛は死より冷酷』と『悪の神々』との3部作をなす。ここではヴェトナム戦争帰りのアメリカ兵が警察と結びついた非情な殺しのビジネスを遂行する物語が展開するが、ここに胚胎された政治的主題がまるで映画の表層に現れてこない。だが技巧的にはこれまでになく冴えた映画なのだ。まるで心ここにあらずのファスビンダー演出、この空疎さは一体何なのだろう。おそらく映画の製作が丁度彼がイングリット・カーフェンと結婚した時期であることも関係するのだろう。作中に登場するバーは、実際に彼らが結婚披露パーティをした場所だという。とするとイングリットの衣装は本物の花嫁衣装だったのか。だがファスビンダーが本当に結ばれたかった相手はこの映画には出演せず、ただ結末で歌声を聴かせるだけである。

だからファスビンダーが夢見た最高の主役コンビによる作品こそ『ホワイティ』だったはずだが、信じがたい形で無残な結果に終わった。夢は実現せずすでにして廃墟となってしまった。まさにそのいびつな仕上がりだからこそ見るべき価値がある。

ファスビンダーほど自分に正直に映画を撮り続けた作家はいない。もちろん欺瞞や気まぐれや投げやりも含まれているが、確かなことは彼が映画の中に取込んだ要素は全て彼自身につながるものだったことだ。自分にとって無関心な主題は決して取り上げなかったからこそ、その全作品は1人の人間の全体像を示し、しかもそれが彼の生きた時代の鏡像となる。その歪みや欠如すらファスビンダーという類まれなる作家とその時代のドキュメントなのだろう。そしてその鏡は現代の観客に対して開かれている。

ファスビンダーは続けて観ることで面白さと発見が増幅してゆくタイプの作家である。長編デビュー作『愛は死より冷酷』を皮切りに男2人と女1人の構図が様々に変奏されているのがわかる。『リオ・ダス・モルテス』から『四季を売る男』、『マリア・ブラウンの結婚』へ、また同性ヴァリエーションとして『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』と『自由の代償』を経て、『ベルリン・アレクサンダー広場』において最大限の深化に至る。ある意味で同じ物語を語り続けたが、単なる反復に終わったことは一度もない。それぞれの物語と登場人物が乱反射しあい、しかも全てが水脈化で繋がっている。『あやつり糸の世界』の鏡は『マルタ』を閉じ込める迷宮となり、やがては『不安が不安』のように日常そのものを引き裂く。とにかくファスビンダー未体験の人はどの作品からでも構わない、この世界に一歩踏み入れてほしい。そこから全てが始まるのだから。  
『ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2014』
日時:2014年6月21日(土)-7月4日(金)(14日間)
会場:オーディトリウム渋谷
公式サイト:アテネ・フランセ文化センター http://www.athenee.net/culturalcenter/program/fa/fassbinder2014.html
オーディトリウム渋谷 http://a-shibuya.jp/archives/9745
  • 『渋谷哲也(しぶたに・てつや)』
    1965年生まれ。ドイツ映画研究者。東京国際大学准教授。著書に『若松孝二 反権力の肖像』(共著/作品社)、『ファスビンダー』(共著編/現代思潮新社)、『ベルリンのモダンガール』(共著/三修社)等。映画字幕としてライナー・ヴェルナー・ファスビンダー作品、『怪人マブゼ博士』等を手がける。トーマス・アルスランやレナーテ・ザミ等未公開ドイツ映画の上映企画も行う。