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♯02【試写室から】河合宏樹監督作品『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』

試写室からいち早く新作映画のレビューをお届けする【試写室から】。第2弾は、小説家・古川日出男と仲間たちによって誕生した朗読劇「銀河鉄道の夜」を追った河合宏樹初監督作品になるロード・ドキュメンタリー『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』—

“私”を巻き込む「裁縫」の鎮魂歌。

東日本大震災以降、僕は意識的に「大きなものがたり」を求めている気がする。ほんの僅かな時間に全てを飲み込んだ3月11日の波濤は生まれた頃から進歩の一途をたどる「文明」や「文化」に揺るぎない信頼を寄せて不器用ながらも共に成長してきた者たちへの最大の裏切りだった。津波の後の荒廃した街は心象風景そのもので何に裏切られたのかもわからず呆然としながら現状をなんとか正当化しようと頭の中で犯人を探して感じる違和感は風邪を引いた時の気怠さのようで身体がずぶずぶと沈んでいく。

『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』に登場する小説家・古川日出男のインタビューは当時の自分の身体的な記憶呼びおこした。「自分の文章なのに『声』 に出せない文章があった」と言う古川氏の発言は彼の小説家という特殊な職業とは関係なく誰もが経験した失語感覚だと思う。古川氏がそんな時誰の文章なら『声』に出せるか考えてパッと思いついたのが「宮沢賢治」だったという。

もしかしたら僕の言う「大きなものがたり」とは震災直後でも誰かに向って発話できた「ものがたり」なのかもしれない。それが古川氏にとっては宮沢賢治だった。例えばそれは音楽でも同じことが言えると思う。古川氏と共にパフォーマンスライブをするロックバンドZAZEN BOYSのボーカリスト向井秀徳氏は震災直後、動画投稿サイトYoutubeに「ふるさと」を唄った映像をアップロードした。もしかしたら向井氏も「あの時」に向井氏が声に出して唄えた音楽が「ふるさと」だったのではないかと思う。

話はズレたけど、2014年に制作された河合宏樹監督作品『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』は震災によって喪失したものを正面から受け止めるような作品だった。

内容は古川日出男を中心に詩人・管啓次郎、音楽家・小島ケイタニーラブ、翻訳家・柴田元幸による宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の朗読パフォーマンスを追ったドキュメンタリーだ。作家として誰1人とっても遜色のないメンバーが「声」という生地を裁縫して1つの「ものがたり」を形成する朗読パフォーマンスは大きなパッチワーク・キルトのようで、観客を包みこむような暖かさと、時にその巨大さに恐ろしささえ感じられる。また、彼等4人の口からささやき、朗々と、時に叫ぶように発せられる賢治の言葉の粒に思わず「『ことば』は熱い」と胸を打たれる。

古川日出男氏がこの映画のコメント文章に「僕たちは「流れ去るもの」に向き合ってきた。」と書いていたが、熱狂的な公演の数々を生んだこの奇跡とも思えるようなメンバーが集まったのは、何もかもを流し去る波濤の巨大さに向き合うために用意された必然のような気さえする。それほど、彼等全員は真摯に震災を受け止めて、各地を巡業しながら被災地を目の当たりにしても流れ去るものに対して向き合う姿勢はぶらさない。

しかし、映画「ほんとうのうた」の見所は、朗読劇「銀河鉄道の夜」というプロジェクト自体が巨大な作品性を持っているにもかかわらず、河合宏樹監督によってさらに映画を観る観客をも裁縫して、その巨大さを無限のものにする点である。その鍵を握るのが古川氏達の巡業の地を再訪する舞台女優・青柳いづみさんの存在だ。

青柳いづみさんは朗読劇「銀河鉄道の夜」が走ったそのレールを2014年の「今」タイムラグをもって1人追走する。青柳いづみさんの存在は映画の中で彼等を追う私たちの代理的存在にあたり、再訪の地で1人「銀河鉄道の夜」を朗読する青柳いづみさんの声は、観客の声でもある。そのため気がついたら私たちは、朗読劇「銀河鉄道の夜」を通して「流れ去るもの」と向き合い、当時は声に出せなかった「ことば」を発して、「あの時」の感情をそっと静めている。この映画は「あの時」の私を沈める鎮魂歌なのだ。

最後になるが、学生時代に数々の演劇作品を制作してきた古川氏の演出力によって管啓次郎、柴田元幸、小島ケイタニーラブといった特権的な存在が輝きに輝く朗読劇「銀河鉄道の夜」の映像記録は必見の価値があるということも記しておかなければいけない。

河合宏樹監督作品『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』

7/19(土)より、ユーロスペースにて夜空をめぐるレイトショー

連日21:00~ 2週間限定上映 

他全国順次上映予定

■公式サイト

http://milkyway-railway.com/movie/

■イベント

・7/21(月祝) 公開記念舞台挨拶決定(上映前) 登壇:古川日出男、管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸、青柳いづみ、河合宏樹(監督)

・上映後トークショー付回あり。

・英語字幕付き上映回&スペシャル映像上映付回あり。

※上記詳細は随時HPにて発表いたします。

■特別鑑賞券

特別鑑賞券 1500円(税込・当日一般 1700円)

劇場、下北沢B&B、学芸大学SUNNY BOY BOOKSにて、 青柳いづみによる、宮澤賢治”永訣の朝”朗読CD付き特別前売り鑑賞券販売中。

『ほんとうのうた〜朗読劇「銀河鉄道の夜」を追って』
【概要】2011年12月24日、小説家・古川日出男が宮沢賢治のヴィジョンを震災後の視点から戯曲化した朗読劇「銀河鉄道の夜」が誕生した。詩人・管啓次郎、音楽家・小島ケイタニ―ラブ、翻訳家・柴田元幸と共に作り上げた声の舞台は、2年間を通し、東北はじめ全国各地をめぐり、土地ごとに変容をとげた。監督・河合宏樹は、2年間にわたって彼らの旅に同行し、独自の視点でドキュメントを続けた。さらに、朗読劇の観客である女優・青柳いづみが、彼らの訪れた東北に再訪するという新たな視点を加え、本作は構成されている。失われた人々への鎮魂と未来への希望。どこまでも続く線路の旅に伴走するロード・ドキュメンタリー。
監督:河合宏樹/撮影:森重太陽、新見知哉、渡邉有成、近江浩之、瀬川功仁/美術:サカタアキコ(Diet Chicken)/音楽:小島ケイタニーラブ/主題歌:ANIMA「サマーライト」from 『月も見えない五つの窓で』(WEATHER/HEADZ)/製作・宣伝:浦谷晃代(Diet Chicken)/宣伝美術:牧寿次郎/WEB:仮屋千映美/協力:朗読劇「銀河鉄道の夜」実行委員会
出演:古川日出男、管啓次郎、小島ケイタニ-ラブ、柴田元幸 、青柳いづみ
  • 『島村和秀(しまむら・かずひで)』
    LORDSHOW 舞台芸術部門 「そことここ」 Director、劇作家/演出家、(パフォーマ ンスチ―ム『情熱のフラミンゴ』主宰)、俳人。
    大学在学中より演劇作品を制作。また、サウンドアーティストの浜田洋輔と俳句と環境音を用いたサウンド作品『ヒッチハイク』で2011年AACサウンドパフォーマンス道場入選、2013年千代田芸術祭音部門「さいたまんぞう賞」 受賞。2012年に俳句集『電話を切るのが下手な人』を上梓。初監督作品『あおいちゃんの星座』を「前夜映画祭2014」で発表。