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濱口竜介監督作品『何食わぬ顔(short version)』レビュー

これは推測だが、濱口作品のファンは、今のところ男性のほうが多いんじゃないかと思う。

男性心理が、時に感傷的に、時にドラマティックに、そして時に情けなく映し出され、「あの時の傷の甘いうずき」に酔わせてくれる。

「これは、俺のことだ」と引き寄せる男性も少なくないんじゃないだろうか。

ただ、それ以上に、女性の描き方に強い引力を感じるのだ。

「女性が好きになりにくい女性を、魅力的に撮る」のが非常に上手いのだ。

この『何食わぬ顔』の育子然り。

劇中彼女は、友人の濱口が中学時代に同級生を傷つけた話に嫌悪感を示し、自分が 連れてきた地元の男友だちを置き去りにしたまま帰ってしまう。

しかも、彼女に思いを寄せる岡本とともに。

このとき、この映画を観ている女性は思うはず。

「いやー、人の行為を責める前に、自分の行動を見直したほうがいいよ」-。

男性を前にした女性の正義がいい加減な基準であることは、女性には明白。

私も、確かにそう思った。
でも、それだけに彼女を思わずにいられない時間がそこに生まれる。

「男性の正義の視力を心地よく曇らせる『媚薬』って何だろう」。

「この子のどこが、そんなに魅力的なんだろう」。

そう思った次の瞬間、冒頭で岡本に告白されたときに見せた彼女の笑顔が頭のなかでフラッシュバックする。

彼女の荷物を取りにいく岡本をカメラが延々と追うとき、「今、育子はどんなふうに岡本を待っているんだろう」と、想像してしまう。

まんまと、濱口監督の術中にはまっているのだ。

この作品には、育子と対照的な「一途に思う女性」里恵が登場する。

バランス取れているな、と思わせつつも、やっぱり「男性が惹かれる女性」として描かれているのは育子。

ここでいう男性とは、濱口監督のこと。

塚本晋也やリュック・ベッソン、宮崎駿、ウディ・アレン…。

彼らが起用する女優や描く女性に一貫性が観られるのと同様、濱口監督にもミューズが存在するんだと思う。

もしかしたら、彼女たちが物語を回しているのかもしれない。

そう考えると、『永遠に君を愛す』(09)は、「女性が好きになりにくい女性」だけで勝負した作品ともいえる。

『何食わぬ顔』には、高評価を得た『PASSION』(08)前夜のようなベースを感じる。

クラッシュしない『PASSION』とでも言おうか。

ただ、『PASSION』までにすさまじい進化が遂げられたことは明らか。

この間の濱口監督に何が起こったのか?
個人的には、そこに激しく興味を掻き立てられる。

というわけで、「実は女性ファンの比率も低くないんじゃないか?」と、何食わぬ顔で冒頭の推測をひっくり返します。

『何食わぬ顔 (short version)』
2003年/43分/8mm/カラー
ストーリー:浪人生の松井は、予備校の夏期講習の為に東京へ出て来た。同じ予備校に通う里恵もたまたま日程が一緒だ。松井にはほかに本当の目的があった。一足先に東京へ出てしまった同級生の育子に会うこと。育子に会う約束を取りつけるも、彼女には他の男たち(岡本、濱口)との先約があった。一方、里恵も松井をデートに誘うが…。どこまでもすれ違い続ける5人の心。彼らの日常的非日常。「みんなの顔がとても好きでした(自分除く)」(監督談)