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♯01 【試写室から】 ファン・ドンヒョク監督作品『怪しい彼女』

試写室からいち早く新作映画のレビューをお届けする第一弾は、『サニー 永遠の仲間たち』での高校生役が初々しかったシム・ウンギョンが七十歳のおばあちゃんの心を 持つ二十歳の少女を演じる痛快歌謡ムービー!

おばあさんの心を持つ二十歳の少女――彼女を中心に巻き起こる騒動は、ジェンダーや世代、全ての「差」を融合させ、なしくずしにしてしまう新たな映画の魅惑を創出している。

アジア映画についての本を二冊も編集したせいか、「最近の韓国映画ってどう?」などと聞かれることも多い。だが、キム・ギドク、ポン・ジュノ、パク・チャヌク…と名前を呟くだけでもその時代の高揚が蘇ってくるような、やはり2000年代の、国内マーケットの膨大な膨らみを主な理由とする、興行成績とともにクオリティもそれまでにない高さを保っていたあの興隆からは落ち着いてしまっている印象だ。
先に挙げた三人にイ・チャンドンを加えれば、「韓国映画監督四天王」とでも呼べるのだろう。特徴的なのはその「残虐路線」で、それはキム・ギドクやパク・チャヌクらの映画のように実際に映画内で残虐な暴力がふるわれるだけでなく、イ・チャンドンの映画のように前科者と身障者の恋愛(『オアシス』)といった、「エグい」設定で人間の根源を問い直すものも含まれるだろう。
四天王といえば「韓流四天王」の方を思い出す人も多いかもしれない。韓流四天王とは2004年前後に日本で起こった韓流ブームの際に日本で名づけられたものだという。具体的にはペ・ヨンジュン、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、ウォンビンの4人。こちらも名前を挙げるだけで女性の映画ファンならクラクラするだろう。甘い『冬のソナタ』のテーマ音楽が流れてくるかのようだ。
何故そんな復習をしたのかというと、これまでの「韓国映画」はつまり「男」の映画だったのではないかということを言いたいのだ。残虐路線を進化させていった「韓国映画監督四天王」も、日本の女性たちを熱狂させた「韓流四天王」も、主人公となって映画を牽引するのはヒーロー、男性である。一方に「韓国映画監督四天王」たちが作るアクション映画や暴力描写を含んだシリアスなドラマがあり、一方には「韓流四天王」たちが牽引する記憶喪失や事故といった不幸がてんこ盛りのラブロマンスがある、としよう。その両極を男たちが牽引するとしたら、女たちの仕事はあくまでその不幸さで映画を彩り、その深度を増加させること。「悪い男」に翻弄させられる若い女性(『悪い男』)、少女殺害容疑で逮捕された知的障碍のある息子のために奔走する母(『母なる証明』)、恋人でありながら娘でもあるというブラックホールのような存在となり男を狂わせる女(『オールド・ボーイ』)。もちろん、『親切なクムジャさん』という、女性が主人公の復讐劇のような例外はある。でも、それが映画として成功していただろうか? と考えれば、むしろその男性主体の図式の強固さがはっきりするだろう。

もちろん、その図式から零れ落ちるものはある。2003年に日本公開されヒットした『猟奇的な彼女』は、愛らしいルックスに反して短気で乱暴な言動のギャップが新鮮な「彼女」に大学生のキョヌが振り回される話だった。「彼女」が「ぶっ殺してやる」と怒鳴り、男を蹴りあげる姿に胸がすくような想いをしたのは、何も女性だけではないだろう。そして2012年に日本公開されこちらもヒットした『サニー 永遠の仲間たち』。元女子高生仲良し7人組「サニー」のメンバーたちが25年ぶりに再会を果たし、会社社長、専業主婦、水商売とそれぞれの道を歩みながらも変わらない友情を確認する…という話。時折フラッシュバックで挟まれる高校生時代のエピソードに目を潤ませながらも、娘のいじめっ子相手に昔ながらに「タイマン」はりに行った学生服姿のナミに胸が高鳴ったのも、これも女性だけではないだろう。

前置きが長くなってしまった。つまり、長らく続いた韓国映画の興隆のあいだ、男たちのドラマの刺身のツマとして主体性を奪われていたからこそ、「彼女」やナミのキックはこんなにも私たちの胸を高鳴らせるのだ。そのキックは彼女らが、「映画を取り戻す」一撃となって、後から効いてくるだろう。
そこで登場したのが、さらに強力な一撃を喰らわせる、ファン・ドンヒョクの新作『怪しい彼女』だ。試写状のキャッチコピー「口を開けば罵詈雑言。キュートな彼女は70歳のおばあちゃん?」を目にした時は、キワモノ映画を想像してしまった。ところが蓋を開けてみれば、『猟奇的な彼女』『サニー 永遠の仲間たち』をさらにパワーアップしたような快作だった。
物語は、口汚く嫁を罵る毒舌で闊達なおばあちゃん、マルスンの日常を描くことから始まる。マルスンは女手一つで苦労して息子ヒョンチョルを育て、ヒョンチョルが国立大学の教授になったのが自慢である。孫の一人である、髪を金髪に染めアマチュアバンドの活動にいそしむジハも可愛くて仕方がない。だが、ヒョンチョルの嫁は、ジハの教育にまで口を出すマルスンのせいで、ストレスで入院してしまう。
施設行きの話まで出て、居場所をなくしたマルスンは、街角で「青春写真館」という写真館を見つけ、遺影のつもりで撮影してもらうことにする。メイクをしたマルスンに「私が50歳若くしてあげますよ」と言う店主は、シャッターを切る。そして店を出たマルスンは、なんと本当に50歳若くなっていたのだ!
見た目は20歳で中身は70歳――このギャップがここからの面白さの大きな要素となっている。女性が年を重ねるにつれ女性らしさを失っていくのは、女性ホルモンの減少により中性化していくせいだという。若くなったマルスンの和風オードリー・ヘップバーンのような愛らしい美貌と、見知らぬ他人にも説教をし、物怖じも恥じらいもなくズケズケと自分の思ったことを言う言動のギャップは、『猟奇的な彼女』の「彼女」を彷彿とさせる。
そして、この映画のもう一つの成功要因は「歌」であろう。実は歌が上手かったマルスンは、老人会でその美声を披露し、バンドのボーカルを探していた孫のジハ、テレビ局のイケメンプロデューサー、スンウの双方に惚れ込まれる。マルスンは自分が祖母だということを隠しジハのバンドのボーカルとして歌うことになり、テレビ出演まで果たすのだ。『サニー 永遠の仲間たち』でも「サニー」を始めとした70-80年代の洋楽ヒットナンバーがその時代の空気を濃厚に現していたが、この映画でマルスンが歌うのは、いずれも70年代の韓国の国民的ヒットナンバーだそうである。知っているわけでもないのになぜか私たちにとっても懐かしいそれらの曲をマルスンが熱唱しているあいだ、妊娠中に夫が炭鉱労働者としてドイツに渡り、後に死亡通知のみを受け取り、拾い食いをしてでも幼い息子と二人生きていかなければいけなかったマルスンのつらく厳しい過去がフラッシュバックで雄弁に語られる。
『サニー 永遠の仲間たち』よりもその歌の使い方がさらに進化していると思わせるのは、洋楽でないからこそ、歌が歌詞としてメッセージを持ち、それがマルスンが持つ、そして物語の持つメッセージと合致していることだ。愛らしいマルスンが歌い、踊るシーンはこの映画の見どころの一つであろう。それはあり得るべきではないことが起きている奇跡と、消えてしまうのではないかという儚さの双方を感じさせ、私たちの胸を震わせる。

おばあさんの心を持つ二十歳の少女――彼女を中心に巻き起こる騒動は、ジェンダーや世代、全ての「差」を融合させ、なしくずしにしてしまう新たな映画の魅惑を創出している。男が女であり得り、子どもが老人であり得るのが、映画の魔力ではなかったか――そんな咆哮が聞こえるような、美しく狂暴な映画がまた、韓国映画の一つの扉を開いたことを素直に喝采で迎えよう。
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『怪しい彼女』
7月11日(金) TOHOシネマズみゆき座ほか 全国順次ロードショー!
監督:ファン・ドンヒョク
出演:シム・ウンギョン、ナ・ムニ、ジニョン(B1A4)、イ・ジヌク、ソン・ドンイル
2014年/韓国/125分/カラー/ビスタ/5.1chサラウンド/日本語字幕:久保直子/原題:수상한 그녀
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■公式サイト  http://ayakano-movie.com/
  • 『定者如文(じょうしゃ・ゆきぶみ)』
    兵庫県神戸市出身。映画少年だった幼少期、バイクに溺れた10代、旅行に彷徨った20代前半を経て26歳で大阪芸術大学映像学科に入学、30歳で卒業・上京し東京藝術大学映像研究科第一期生として過ごし31歳で映像業界へと進む。その後映像業界で数々の現場をこなし東京で過ごした10年のキャリアの集大成として本年度の文化庁新進芸術家海外研修制度を利用してアメリカへと渡る予定。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。