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【連載】アジア映画の森の歩き方vol.3 タイ現代篇  第27回東京国際映画祭 国際交流基金アジアセンターpresents CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ(前編)

『36のシーン』ナワポン・タムロンラタナリット監督 ©Very Sad Pictures

新しい世代が沸き立つタイ

夏目深雪(以下夏目) 連載「アジア映画の森の歩き方」、第3弾は、ちょうど今月23日から開幕される東京国際映画祭(以下TIFF)でタイ特集「国際交流基金アジアセンターpresents CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ」をやるので、それに合わせてタイの現代篇です。石坂さんのTIFFアジア部門プログラムディレクターとしての本領を発揮して、これからTIFFで上映する作品に絡めてタイの現代映画を浮かび上がらせようという豪華な企画です。歴史篇は石坂さんが書籍『アジア映画の森-新世紀の映画地図-』(作品社)で、「タイ映画総論」をお書きになっているので、そちらをお読みください。
今年から始まった国際交流基金アジアセンターとのコラボで、8本のタイの新作映画を上映するとのこと。そもそもタイ特集をしようと思ったのはどういうことだったんでしょうか。
石坂健治(以下石坂) いま東南アジアでニューウェイブ的に沸き立っているのはフィリピンですね。シネマラヤ映画祭がずっと定評があって、その影響を受けてシネマワン・オリジナル・デジタル映画祭というのが始まって、そこで助成した作品『SHIFT 恋よりも強いミカタ』(13/シージ・レデスマ)が、今年の大阪アジアン映画祭のグランプリでした。
それから、静かに力を蓄えているのがインドネシアですね。


タイは10年前くらいに“タイ映画ルネッサンス”といわれるニューウェイブが巻き起こって、その時に出てきた人たち、ノンスィー・ニブミット(『ナンナーク』)、ウィシット・サーサナティヤン(『快盗ブラック・タイガー』)、ペンエーグ・ラッタナルアーン(『地球で最後のふたり』)、ヨンユット・トンコントーン(『アタック・ナンバーハーフ』)らが、いまではプロデュースの側に回り、若い世代を育てています。ですので、次の世代がそろそろ…という頃ですね。そのあたりをいち早く摑まえようということで、今年はタイを特集することにしました。
夏目 そろそろ次の爆発が…ということですね。具体的には、『アジア映画の森』刊行の頃から2年半経っていますが、どのような変化があったんでしょうか。
石坂 アピチャッポン・ウィーラセタクンが『ブンミおじさんの森』(10)で東南アジア初のカンヌ映画祭パルムドール受賞者となり、国際的な知名度としては頂点に立ったので、彼に憧れて映画を撮り出す若い世代の層はかなり厚くなっています。ただ、アピチャッポン自身はインスタレーションなどに集中していて、長編映画からは少し離れていますね。
夏目 ちょうど東京でも10/4(土)まで根津の画廊SCAI THE BATHHOUSEで個展『FIREWORKS (ARCHIVES)』を開催していましたね。素晴らしかったです。
石坂 6月に京都市立芸術大学ギャラリーでやった個展『PHOTOPHOBIA』から映像インスタレーション『FIREWORKS (ARCHIVES)』を中心に持ってきたものでしたね。

バンジョン・ピサンタナクーンを頂点としたエンタメ系

夏目 ただ、この間『愛しのゴースト』(12)のバンジョン・ピサンタナクーンにインタビューしたんですけど、アピチャッポンを意識している感じはなかったですね。バンジョンのようなエンタメ系と、アピチャッポンのようなアート系と、二極化しているのでは。
石坂 そうですね。エンタメ系、メジャー系ね。それはそれでキチッとやって儲かって、上手く回ってますね。プラッチャヤー・ピンゲーオの『マッハ!』(03)『トム・ヤム・クン!』(05)を製作したサハモンコン社と、バンジョンの『アンニョン! 君の名は』(10)などを作っているGTH社、この2つの大きな製作会社がとくに元気です。
今年の「CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ」でも、GTH系の監督の作品をいくつかやります。『タン・ウォン~願掛けのダンス』(13)は、『手あつく、ハグして』(08)のコンデート・ジャトゥランラッサミーの作品ですし、『先生の日記』(14)は『フェーンチャン ぼくの恋人』の共同監督の1人、ニティワット・タラトーンの作品です。
夏目 『手あつく、ハグして』は2009年の大阪アジアン映画祭で上映した作品ですね。生まれながらに腕が3本ある青年が、切除手術を受けに旅に出、そこで1人の女性と出会い…という話です。奇想天外さと、瑞々しい温かさが同居していて、不思議なテイストの面白い作品でした。なかなか他の国からは出ない映画だと思います。
石坂 異形の人が普通に同居しているというね。『ブンミおじさんの森』でも死者と猿男と生者が一緒にご飯食べていたでしょう。
バンジョンはすごいね。『愛しのゴースト』、ボロ儲けでしょ。歴代タイ映画興行収入トップ10(※1)を見ると、ダントツですね。2位から5位はチャートリー殿下の歴史ものなんですけど、これは学校動員があるんで。『愛しのゴースト』はそんなものないのに、倍以上の興行収入でダントツ1位です。
夏目 『愛しのゴースト』は単体で観てしまうと、あまりその画期性が分からないかもしれません。ただノンスィー監督の『ナンナーク』(99)や他の「メー・ナーク・プラカノン」ものとは、ナークの造形からして違います。それらのナークは「幽霊だった」というオチがおかしくないような造形なわけで、非常に可愛らしいけれども幽霊にも見える、という『愛しのゴースト』のナークの造形は画期的だと思います。「歴史をひっくり返すようなエンディングだった」と監督自身が言っていましたが、非常にクレバーな監督だからこそできたのでは、と感じました。


次作はチャウ・シンチーのプロデュース作品とのことです。長編第1作目がホラー、2作目がラブコメ、そしてそれらを融合した形で歴史的怪談のリメイク、とジャンルの幅広さも凄いし、着実に実績を積んでいて、名実ともにエンタメ・メジャー系の頂点に立っていると言っていいのではないでしょうか。


アピチャッポン・ウィーラセタクンを頂点とするアート系

石坂 アート系の方に話を戻すと、『アジア映画の森』でも私は「タイのアントニオーニ」と書いた、『ワンダフル・タウン』(08)のアーティット・アッサラットがまずいますね。アメリカ帰りの、“作家の映画”を撮る監督です。その後に来るのが去年TIFFで『マリー・イズ・ハッピー』(13)を上映したナワポン・タムロンラタナリット。今年紹介するのはその前の作品なのですが、『36のシーン』(12)という作品を上映します。
夏目 『マリー・イズ・ハッピー』は昨年観ましたが、アピチャッポンやアッサラットとはちょっと違う気が私はしましたが…。410通のツイートが映画を牽引していくという話でしたが、そのツイートの使い方が捻りがないというか…。ガーリーで可愛い映画ではありますが、どちらかというとエンタメ系に入るような気がしました。
石坂 確かに、ユルいことはユルいです。今後どちらにいくかは分からないかもしれません。でも新しいメディアを取り込んでいるし映画の作りとしては実験的ですよね。単純なメジャー系とも言えないのでは。
『36のシーン』もユルいんですけど、撮り方は実験的です。1、2と番号が出てきて、つまり36のシーンで恋の顛末が描かれるんですね。ユルい実験映画というか。
夏目 ユルい実験映画…。まぁ確かに、アピチャッポンも、ちょっとユルいところが魅力だったりしますけど。
石坂 アピチャッポンの場合は、アメリカでギンギンの実験映画を学んできて、タイに帰ってきたら「こんな豊かな物語があったんだ」ということですよね。そこでああいった化学反応が起きていると思うんですが。この人はもうちょっとニューメディア、SNSの世代ですよね。
夏目 でもこの『36のシーン』は、特にSNSは出てこないんですよね。どこが新しいんでしょうか。
石坂 一つには、やっぱりデジタルの世代になって、えんえん長回しできるようになった。フィルムの世代って、長回しってお金がかかるから決意がいるわけなんですよ。
夏目 これは映画作りに関する話ですか?
石坂 映画スタッフのカップルの話ですね。
夏目 そうするとやはり、映画に対する自己言及とか、そんな感じですか。
石坂 そうそう。映画についての映画の、デジタル世代からの発信ですね。そして次作になる『マリー・イズ・ハッピー』がツイートを画面に載せちゃう、みたいなところまで来たので、次どうするのかな、と楽しみな人です。

(後編に続く)

(※1)歴代タイ映画興行収入トップ10(2014年4月現在)

① 愛しのゴースト(2013)監督:バンジョン・ピサンタナクーン★

② スリヨータイ(2001)監督:チャートリーチャルーム・ユコン殿下

③ キング・ナレスワン序章~アユタヤの若き英雄誕生~(2007)監督:チャートリーチャルーム・ユコン殿下

④ キング・ナレスワン2~アユタヤの勝利と栄光~(2007)監督:チャートリーチャルーム・ユコン殿下

⑤ キング・ナレスワン3~海戦~(2011)監督:チャートリーチャルーム・ユコン殿下

⑥ トム・ヤム・クン!(2005)監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ★

⑦ ATMエラー(2012)監督:メート・タラート

⑧ バーンラジャンの戦い~11人の勇者(2000)監督:タニット・チッタヌクン

⑨ ナンナーク(1999)監督:ノンシー・ニミブット★

⑩ バンコク・トラフィック・ラブ・ストーリー(2009)監督:アディソン・トリーシリカセーム

※★は日本で一般公開されたもので、それ以外は映画祭上映。①⑨は怪談「プラカノーン運河のナーク夫人」の映画版。とくに①は10億バーツ(≒33億円)を叩き出してメガヒット。これは②の3倍以上の売り上げというから凄い。②③④⑤はロイヤル・ファミリーの映画監督チャートリー殿下による歴史絵巻。⑥はトニー・ジャー主演。⑧は18世紀アユタヤ王朝のビルマ戦争もの。⑦⑩は新興勢力GTH製作のラブストーリー。
■関連記事 『愛しのゴースト』バンジョン・ピサンタナクーン監督インタビュー
http://culture.loadshow.jp/interview/banjyon/
■第27回東京国際映画祭 10月23日(木)~31(金)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他
■公式サイト
http://2014.tiff-jp.net/ja/
『先生の日記』
監督:ニティワット・タラトーン
出演:スクリット・ウィセートケーオ、チャーマーン・ブンヤサック
2014年/タイ/110分
©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.
ストーリー:山と水に囲まれた僻地の小学校に赴任した青年教師ソーンは、学年の違う4人の児童を受け持つ。職員室に残された前任の女性教師エーンの日記を読むうちに、ソーンは会ったこともないエーンのことが気にかかりはじめる。ニティワット監督は『フェーンチャン ぼくの恋人』の共同監督のひとり。
『36のシーン』
監督:ナワポン・タムロンラタナリット
出演:コラミット・ワッチャラサティアン、ワンロット・ルンカムジャット
2012年/タイ/68分
©Very Sad Pictures
ストーリー:ロケーション・ハンティング係の女性と美術担当の男性――映画スタッフの男女の恋の行方が、ワンシーン・ワンショットによる36の場面で綴られる、新感覚のインディーズ作品。大量のツイートが画面に溢れる『マリー・イズ・ハッピー』(TIFF13出品)で話題を呼んだナワポン監督の長編デビュー作。