LOAD SHOW

A Rooted Soul. Vagabond Eyes.

映画の未来をいち早く
Be the first to witness the future of films

【連載】アジア映画の森の歩き方vol.3 タイ現代篇  第27回東京国際映画祭 国際交流基金アジアセンターpresents CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ(後編)

『コンクリートの壁』リー・チャータメーティクン監督 ©Mosquito Films Distribution

アート系とエンタメ系の中間にいる監督たち

石坂 あと、アート系とエンタメ系と二極化していますが、その中間の人たちというのもいます。今回上映する『コンクリートの壁』(13)のリー・チャーメーティクンは、アピチャッポン作品の編集マンとして有名な人です。だけど自分で監督すると、アピチャッポンの映画とは全然違って、ハリウッド映画みたいなんですよ。描いているのは1997年のアジア金融危機の時のタイの社会問題で、非常に骨太で面白いですね。
この人は、バンコクの郊外に、自分でポストプロダクションのスタジオを建てて、そこにアジア中のインディーズの監督が集まって彼に編集を頼む、というような形になっています。今年は何本か彼が編集を担当した映画が上映されます。コンペ部門のエドモンド・ヨウの『破裂するドリアンの河の記憶』(14)、「アジアの未来」部門の杉野希妃の『マンガ肉と僕』(14)の2本がそうです。
編集マンだった人が自分で撮るようになったということです。ユー・リクワイやリー・ピンビンのように国境を越えて活躍するようになってきていますね。
夏目 作風はハリウッド映画みたいということですが。
石坂 社会派娯楽映画ですね。
夏目 ああ、確かに社会派娯楽映画って、タイはあまりなかった気がしますね。
石坂 新しいですね。編集は、フワフワした感じで、それこそアピチャッポンみたいなんですが。
夏目 タイってそもそも検閲があったんで、社会派は難しいということではなかったでしょうか。
石坂 王室関係とか、セックス&バイオレンスとかね。確かにそのあたりは難しいですね。チャートリー殿下みたいな王族監督のほうが社会派だったりするわけ。そのなかではキワキワのところで頑張っています。ちなみにアピチャッポンは闘う映画人でもありますね。
夏目 アピチャッポンは隠喩で表現しているのでは。
石坂 そうですね。『FIREWORKS (ARCHIVES)』もラオスとの国境のお寺を撮っているだけなんだけど、まさにシークレット・メッセージみたいな映像が続きます。辺境のお寺自体に権力に対する抵抗のシンボルという意味が込められています。
もう一人、さきほど名前が出たコンデート・ジャトゥランラッサミーも、『手あつく、ハグして』は娯楽映画と言っていいと思いますが、その次の、これも大阪アジアン映画祭で上映された『P-047』(11)は、マンションの一室だけの話で、そこに泥棒に入ってのんびり過ごしている、というユルい話です。この人もGTH的な娯楽作品と、実験作品の間を行ったり来たりしているというか。そういう意味で中間の人だと思います。
今回上映する『タン・ウォン~願掛けのダンス』は4人の高校生が伝統舞踊に挑戦するという、爽やかな青春ものですが。
つまり、バンジョンを頂点としたエンタメ系とアピチャッポンを頂点としたアート系と、二極化しているようで実はいろんな回路があって通底しているというか。例えば『アタック・ナンバーハーフ』(00)のヨンユットも、今や大手のプロデューサーとなって若手を育てていたり。
8月にバンコクに行ったんですが、ニューウェーブが起きているという感じではないけれど、リーは自分のスタジオ作ってアジア中の作家の編集をしているし、オカマがバレーボールする映画を撮っていたヨンユットは今やプロデューサーと。いろんなニューリーダーたちが、新しいステージの仕事を非常にキチッとやっている気がしましたね。


タイ映画の魅力と日本との関係

夏目 さきほど、異形の人が普通に出てくるのが、タイ映画の良さだという話が出ましたが。
石坂 さっき話に出た『手あつく、ハグして』の主人公は、つまり言ってしまえばフリークスだけど、とても人間的なフリークス(?)なのです。もともとタイの人々がホラー映画好きなのは、幽霊の存在を信じている人が多いからですが、幽霊以外でも、森とか、雨とか風とか、人智を超えたものが出てくると、もうタイ映画の独壇場ですね。
夏目 今年はホラー作品はありますか?
石坂 『ラスト・サマー』(13/キッティタット・タンシリキットほか2監督)がホラーです。
夏目 ホラーも、どぎついものが結構多いんですが…。
石坂 これは青春ホラーです。あんまり怖くないかもしれません。
夏目 青春ホラーっていうのも珍しくないですか。
石坂 タイは青春ものが上手いですよね。台湾と並んで、無敵の青春映画王国といったところです。まぁ、作る方も観る方も若いというのがあるんでしょうけど。
夏目 『メナムの残照(2013年版)』(13/キッティコーン・リアウシリクン)を上映するんですね。太平洋戦争時のタイで、駐屯する日本兵とタイ人女性の恋愛話です。これは私も観ていますが、中国ではチャン・イーモウが撮った『ザ・フラワーズ・オブ・ウォー(金陵十三釵)』という南京事件を描いた映画が、渡部篤郎が出演しているにもかかわらず、日本では公開されていません。映画としてはメロドラマで、特に新味があるわけではありませんが、そうした他のアジア各国との日本および日本兵の描かれ方と比較すると、非常に面白いと思いますね。タイでは戦時の日本兵って、こういう描かれ方になるんだ、という。
石坂 侵攻ではなく駐屯なんで、その違いは大きいですよ。抗日運動の若者も出てきますけどね。
夏目 ラストシーンが印象に残っています。『戦場のメリークリスマス』(83/大島渚)みたいでしたよね。
石坂 これはもともと人気小説で、タイ人なら誰でも知っている物語で、4度目の映画化になりますが、ああいう演出ははじめてでしたね。日本兵を演じたナデート・クギミヤが、いまタイで一番人気のある俳優です。日本人の血が入っているわけではなく、育ての親が釘宮さんという日本人だそうです。1960年代の小説で、映画化は4回ですが、テレビでは8回くらいドラマ化されています。大体そのときどきのイケメン、美少女がヒーロー、ヒロインを演じています。
夏目 何千人も虐殺されたとか、そういうことがないので、みんな歓迎して観ることができるんでしょうか?
石坂 でも駐屯とはいえ軍隊がその国に居座るのはイヤですよ。そこで情を交わすというのは、結構微妙な話だと思いますけどね。
夏目 そんなに何度もドラマ化、映画化されているとなると、やっぱりタイの人々もメロドラマが好きなんだな、という印象を持ちますね。
石坂 日本繋がりでいうと、ノンスィー監督の新作『タイムライン』(14)も日本が出てきますね。佐賀県ロケなので、今年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭でジャパンプレミアだったんです。そんなに日本の話が重要なエピソードで出てくるわけではないんだけど、単純に今、日本ロケ流行っているんですね。ビザなしで来れるようになったのと、自治体、特に九州が誘致しています。北海道は『Love Letter』(95/岩井俊二)が大ヒットしたおかげでアジア中でユートピアのイメージだし。
夏目 この特集のなかでのイチオシはどれですか?
石坂 どれも粒ぞろいで、しかもバラエティに富んでいると思いますよ。あえて言うなら『コンクリートの雲』ですかね。それから『稲の歌』(14/ウルポン・ラクササド)は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『稲作ユートピア』(09)の監督の新作です。
夏目 ああ、観ました。不思議で、迫力のあるドキュメンタリーでしたね。
石坂 稲作三部作をやるというあたりが、小川プロの影響が絶対あると睨んでます。TIFFで上映しなかったら、来年山形でやったと思うけど。
「アジアの未来」部門ではタイ映画以外の映画を選んでいます。本数も昨年の8本から10本に増えたし、こちらも粒ぞろいです。ぜひこの機会にアジア映画を愉しんでください。


■第27回東京国際映画祭 10月23日(木)~31(金)
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他
■公式サイト
http://2014.tiff-jp.net/ja/
『コンクリートの壁』
監督:リー・チャータメーティクン
出演:アナンダ・エヴェリンハム、アピンヤー・サクンジャルーンスック、ジェーンスダー・パーントー、プラウィット・ハンステン
2013年/タイ=香港=中国/99分
©Mosquito Films Distribution
ストーリー:アピチャッポン監督『ブンミおじさんの森』などの編集技師として知られるリーの監督デビュー作。1997年、アジア金融危機の余波で自殺した父親。葬儀のためニューヨークから戻ったエリートの兄と、バンコクに暮らす弟。タイとアメリカを往還する物語に「経済」と「愛」が交錯する。
『タン・ウォン~願掛けのダンス』
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:ソンポップ・シッティアージャーン、シリパット・クーハーウィチャーナン、ナタシット・コーティマナスワニット、アナワット・パッタナワニットクン、ナッタラット・レーカー
2013年/タイ/86分
©Song Sound Production
ストーリー:『手あつく、ハグして』『P-047』のコンデート監督の近作。神様に願掛けをした4人の高校生が、チームを組んでタイ伝統舞踊を舞うことに。素人ダンサーたちが猛練習の果てに掴んだものは…。“タン・ウォン”とは踊りを始める前に構えるポーズのこと。
『ラスト・サマー』
監督:キッティタット・タンシリキット、シッティシリ・モンコンシリ、サランユー・ジラーラック
出演:ジラーユ・ラオーンマニー、スタッター・ウドムシン、ピンパカーン・プレークンナタム、エーカワット・エークアチャリヤー
2013年/タイ/93分
ストーリー:ホラー王国タイで昨年の大ヒットとなった、若手3監督による3話リレー式のオムニバス・ホラー。新進女優ジョーイがフェイスブックで「死にたい」とつぶやいたことがきっかけで、運命の歯車が狂いはじめる。『タン・ウォン~願掛けのダンス』のコンデート監督が本作では全編の脚本を担当している。
『メナムの残照(2013年版)』
監督:キッティコーン・リアウシリクン
出演:ナデート・クギミヤ、オラネート・D・カベレス、ニティット・ワーラーヤーノン、ペロン・ヤス、メーリーヤー・ムンシリ、クラポン・ブンナーク、テツノブ・タニカワ、スラチャイ・ジャンティマートーン、モンコン・ウトック
2013年/タイ/120分
©2013/M THIRTY NINE CO.,LTD
ストーリー:太平洋戦争中のタイ。駐屯する日本軍に反発しながらも誠実な海軍少尉・小堀に惹かれていくタイ人女性アンスマリン。運命のカップルはやがて結ばれるが、抗日活動に身を投じたかつての恋人がアンスマリンの前に現れて…。タイ人なら誰でも知っている物語、4回目の映画化。
『タイムライン』
監督:ノンスィー・ニミブット
出演:ジーラユ・タンシースック、ジャリンポーン・ジュンキアット、ピヤティダー・ウォラムシック、ノッパチャイ・チャイナーム
2014年/タイ/135分
© 2014 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
ストーリー:『ナンナーク』『ジャンダラ』のノンスィー監督の新作。母子家庭で育ったマットは母の意に反してバンコクの大学へ進学、そこで美しいジューンと出会う。ハートフルな物語に、唐津くんちなど佐賀県各地で撮影されたシーンが彩を添える。
『稲の歌』
監督:ウルポン・ラクササド
出演:プラヤット・プロムマー
2014年/タイ/75分
©Mosquito Films Distribution
ストーリー:『稲作ユートピア』(山形国際ドキュメンタリー映画祭09出品)で知られるウルポン監督の農村ドキュメンタリー最新作。広大な田んぼと稲の成長。折々の祭礼、歌、踊りの数々。とりわけクライマックスの手作り打ち上げ花火のシーンは圧巻! 日本の稲作文化と比較してみるのも一興。
  • 『石坂健治(いしざか・けんじ)』
    1960年東京生まれ。早稲田大学大学院で映画学を専攻。90~2007年、国際交流基金専門員としてアジア中東映画祭シリーズを企画運営。07年より東京国際映画祭「アジアの風」(13年より「アジアの未来」)部門プログラミング・ディレクター。11年開学の日本映画大学教授を兼任。共著に『ドキュメンタリーの海へ 記録映画作家・土本典昭との対話』(現代書館)、『ひきずる映画』(フィルムアート社)など。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。