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ギヨーム・ブラック監督『女っ気なし』『遭難者』ティーチイン採録

フランスで『女っ気なし』『遭難者』が新人監督の作品としては異例のロングランとなり、ヌーヴェル・ヴァーグを継承する新しい才能の出現と高く評価されたギヨーム・ブラック監督。新作『やさしい人』のプロモーションで来日し、9月5日にユーロスペースにて『女っ気なし』『遭難者』が特別上映されたあと、ティーチインが行われ、会場からの質問に答えた。

私の映画はできるだけカメラや演出や、作っているという雰囲気を消し去るように心がけた映画で、俳優や場所を中心に描かれています。カメラや私の存在はできるだけ観ている人が忘れてしまうような映画です。

主人公のシルヴァンの来ているTシャツが、『スタスキー&ハッチ』のベン・スティラーだったり、部屋に『イージー・ライダー』のポスターが貼ってあったり、パソコンのデスクトップが『ハングオーバー!』だったり。あれは監督が好きなものなのか、それともシルヴァンの性格づけとしてやったものなんでしょうか。
ブラック:私自身と、シルヴァンと半分ずつですね。私自身、アメリカ文化にたいへん影響を受けています。よくジャック・ロジェ、エリック・ロメール、モーリス・ピアラと比較されるんですが、私自身はアメリカのコメディもとても好きです。自分の中心はあってもそこから外すようなことが好きで、この主人公はフランスの田舎に住んでいるんですが、閉鎖的なところにいながら、『イージー・ライダー』のポスターが貼ってあるというのは皮肉でもある。『イージー・ライダー』はジャック・ニコルソン演じる主人公が自由にバイクで駆け回る映画です。狭い閉鎖されたところにいながらも、そういうものに夢を見ている、そして主人公と自分を同一視している、それが面白いと思いました。私自身『ハングオーバー!』シリーズも大好きですが、シルヴァンはちょっと太った主人公と自分を同一視しています。
シルヴァン役のヴァンサン・マケーニュが監督の作品にはよく登場しますが、監督として、彼の魅力とは何でしょうか。
ヴァンサン・マケーニュ(『やさしい人』から)© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
ブラック:逆にあなたに聞きたいんですが。彼の魅力は何でしょうか。
最初はインパクトのある見かけだと思ったんですが、作品を観ていくと、愛らしくユーモアのある方に感じました。
ブラック:ヴァンサン・マケーニュは他の作品にも出演しているし、来日したこともあるので、本人に逢ったことがある方もいるかもしれません。彼はシルヴァンとは全然違うタイプです。ですので、いろんな作業をしてシルヴァンの像を作り上げていきました。それは服装だったり髪型だったり。撮影時に太ってもらい、歩いたり話したりするリズムも、ゆっくりにしてもらいました。実際は、彼は早口でものすごくよく喋ります。この映画の中では、シャイで女性には奥手という役柄ですからね。
おっしゃるように、身体的にはどちらかというと恵まれていないというか(笑)、かっこいいタイプの男性ではないと思います。ただ見方によっては、彼がかっこよく見える瞬間というのもあります。魅力的かどうかはっきりしないところも彼の魅力ではないでしょうか。私が一番彼の魅力だと思うのは、彼の眼差し、あのやさしい眼差しです。
さきほどエリック・ロメールやジャック・ロジェとよく比較されると仰っていたんですけど、役者さんに対する眼差しがトリュフォー的だな、と思ってその温かさに感動しました。今日本でも注目されていて、よくヌーヴェル・ヴァーグの作品と比較されるグザヴィエ・ドラン監督のことをどう思われますか。
ブラック:役者への視線がトリュフォー的だとおっしゃられたことに対して、驚いています。というのは、私が役者と結んでいる関係は、トリュフォーのそれとは違うと思うんですね。トリュフォーの映画はすべて観ていますが、好きなものもありますが嫌いなものもあります。彼の映画の中では、役者たちがみな演技をしていると思います。ジャック・ロジェやモーリス・ピアラの作品では、俳優たちはそこにいるだけなんです。どちらがいいとは言えないと思いますが、私が重要視しているのは、役者たちが「ただそこにいる」、そのことによってリアリティを引き出すことなんです。映画は、フィクションとリアリティの両方の要素があると思うんですが、その境界線をできるだけ低くすること、それが私の求めていることです。そのために、素人の俳優をプロの俳優と一緒に使ったりしています。そこがトリュフォーとの違いだと思います。
トリュフォーやジャック・ロジェ、モーリス・ピアラなどの名前を挙げて較べていただくのはたいへん光栄なことだと思います。ただ比較をしていても話は始まらない、とも思うのですが…。


グザヴィエ・ドランに関しては、私はたいへん尊敬しています。彼は25歳くらいですよね。25歳なのに、既に5本の長編を撮っています。私は35歳ですけれど、いまだ1.5本、あるいは2本しか映画を撮っていません。あんなに若いのに、あんなにたくさんの映画を撮っているなんて!
ただ、彼の映画に関して言うと、私が好きなのは彼の処女作、『マイ・マザー』だけです。彼の映画のスタイルは、私のそれと正反対だと思います。私の映画はできるだけカメラや演出や、作っているという雰囲気を消し去るように心がけた映画で、俳優や場所を中心に描かれています。カメラや私の存在はできるだけ観ている人が忘れてしまうような映画です。グザヴィエ・ドランの映画に関しては、カメラの存在や編集の跡を感じるような、それが悪いとは言いませんが、私のスタイルとは反対だと思います。
カメラの存在をできるだけ排除し、場所や俳優を重視した映画作りをしているとのことです。今回の映画では、閉鎖的な場所がシルヴァンの性格を現しているような気がしました。脚本を書くうえで、シルヴァンのキャラクターとああいった場所、どちらが先だったんでしょうか。
ブラック:たいへん興味深い質問だと思います。今回は、オルトの街から決めました。この場所を撮りたいと思ったんです。『女っ気なし』と『遭難者』の、このシルヴァンという登場人物はこの街から生まれたんです。シルヴァンとこの街はお互いに似たところがあり、鏡のような存在です。シルヴァンもこの街も、両方とも見捨てられている。オルトは海辺のとても美しい街なんですが、最近あまり人が来ない。近づいて行ってみないとその良さが分からないという、それはシルヴァンにも言えることだと思います。
映画を作るにあたって一番大切にしていることを教えてください。
ブラック:とても難しい質問ですね。映画を撮ってよかったな、と思うのは撮り終わってからなんです。なぜ映画を撮るのが素晴らしいことか、例えばその答えが最初からはっきり分かっていたら、映画の中で語ることが多すぎてしまうと思います。私はこの映画は34歳、決して映画監督として若いとは言えない時に撮りました。この映画は、私のこれまでの人生を振り返るような内容になっています。自分の青春にさよならを言うような、そういう意味合いもあると思います。私は若い頃、もてなかったし、恋愛で上手くいかないことが多く、なかなか女性といい関係が築けなかった。この映画では、そういう私の思春期を、ある意味で語っています。この映画が終わった時に、また私の人生もそこから新しい章が始まったんです。不思議なことに、この映画を撮り終わってから、私は彼女ができました。今は家族として一緒に暮らしています。
会場一同笑
ギヨーム・ブラック監督『やさしい人』
10月25日(土)、ユーロスペースほかにて公開 全国順次ロードショー
取材・構成: 夏目深雪
『遭難者』
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ジュリアン・リュカ、ヴァンサン・マケーニュ、アデライード・ルルー
2009年/フランス/カラー/25分/DCP/1:1.85/5.1ch
ストーリー:フランス北部の小さな港町オルトで、自転車がパンクしたリュック。それを見た地元の青年シルヴァン。シルヴァンはリュックを助けようとするが…。
『女っ気なし』
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー、ロラン・パポ
2011年/フランス/カラー/58分/DCP/1:1.85/5.1ch
ストーリー:夏の終わり。地元の青年シルヴァンが管理するアパートを、ヴァカンスに来た母娘が訪れる。明るくて奔放な母と少し内気な娘。3人は海水浴や買い物をして仲良く過ごしていたが、やがてヴァカンスの終わりが近づき…
『やさしい人』
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ
2013年/フランス/フランス語/100分/DCP/カラー
© 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA
ストーリー:ブルゴーニュ地方の静かな町トネール。ミュージシャンのマクシムは、殺伐としたパリの生活から逃れ、実家に戻ってくる。しかし、独り暮らしを楽しむ父親のクロードとは、どこかぎこちない雰囲気。そんな中、地元の情報紙のレポーターとして取材に訪れたメロディに、マクシムは心を動かされる。自分が失いつつある若さを持つメロディの笑顔は、マクシムの心の隙間を埋めるのに充分、魅力的だった。急接近する2人だったが…。
  • 『ギヨーム・ブラック(Guillaume Brac)』
    1977年5月11日 生まれ。配給や製作の研修生として映画にかかわった後、FEMIS(フランス国立映画学校)に入学。専攻は監督科ではなく製作科だが、在学中に短篇を監督している。2008年、僅かな資金、少人数で映画を撮るため、友人と製作会社「アネ・ゼロ」(Année Zéro)を設立。この会社で『遭難者』『女っ気なし』を製作。2013年、長篇第一作『やさしい人』が、第66回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品される。なおロカルノ国際映画祭では本篇106分だったが、その後、監督自らの手で100分に再編集され、2014年1月にフランスで劇場公開された。