LOAD SHOW

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映画で晩酌〜島村和秀の寄り道インタビュー〜

第3回ゲスト 池田千尋(映画監督)

一口のお酒で三言聞ける。美味しいお酒が道案内する、本日おすすめ映画話。

さすらいの俳人・島村和秀(LOAD SHOWスタッフ)がインタビュアーとなり、様々な映画関係者とその人の行きつけの料理屋で、普段語られることのない“映画の奥の細道”をたずねるインタビュー企画。第3回目ゲストは、『東南角部屋二階の女』(08)や昨年公開された『ミスターホーム』など、味わい深い映画を作り続ける池田千尋監督。池田さん行きつけの下北沢にあるタイ料理店「ティッチャイ」に、またまた島村和秀が吉田類ばりにフーテンのごとく訪れる。この日の島村はどこか様子がおかしかった。それもそのはず。島村は池田映画の大ファンだったのだ。酔わずにはいられない。居心地の良い店内で、美味しい食事とお酒、さてどんな素敵なお話が聞けるのでしょうか。
(下北沢駅南口から徒歩5分の所にあるタイ料理店「ティッチャイ」。店内はきらびやかな装飾で、目で楽しませてくれます。)
(店員さんは、とてもフレンドリーも接してくれますので、注文の際つい色々聞いてしまいます。)

ゴロゴロしてない、漱石の小説のような映画

島村:良い雰囲気のお店ですね。
池田:家がこの近くなんです。下北沢駅に向かう途中にあるので、よく食べに来ます。
島村:上京してきたから、ずっとこの辺に住まわれてるんですか?
池田:結構転々としてたんですけど、『東南角部屋二階の女』(08)を撮った後くらいからはずっとここです。なので、下北沢には7年前くらいから住んでるんです。
島村:おっと!お聞きしたい映画のタイトルが出てきちゃいましたね。お酒が来てから始めようと思ってましたが、早速始めちゃいましょう!今日のために池田さんに聞きたい事をたくさんメモしてきたんです。えーと(メモ帳を見て)、休みの日は何をされてるんですか?
池田:お、すごく普通な質問が来ましたね(笑)。休みの日は、ずっと家にいます!
島村:僕、『東南角部屋二階の女』と『ミスターホーム』をあらためて見て、夏目漱石の小説を思い出したんです。三角関係や、遺産相続が話題の中心にあったり、主人公たちが思う存分モラトリアムを過ごしていたりと、何か漱石っぽいなと。
ただ、ゴロゴロしてないところが違う。ゴロゴロしてても良さそうな雰囲気はあるんですけど、結構皆さん起きてらっしゃる。だから、池田さんって休みの日はゴロゴロしてないんじゃないかなって思ったんです。
池田:ゴロゴロしてます(笑)。私、家の中にいるのが好きなんです。WOWOWに加入してるので、撮りためた映画を観たり、料理をしますね。
島村:あら素敵。池田さんの映画は料理を囲むシーンも多いですよね。池田さんの映画を見て、もしかしたらご実家での食生活は充実されてたんじゃないかと推測していたのですが?
池田:逆なんです。
島村:えぇ!逆なんですか!?
池田:母親は料理が苦手な人で…。料理好きじゃないって明言してるくらいでしたから。それに、母親は塾を経営していて、夜も忙しかったので、小学校5、6年生頃から私が時々ご飯を作るようになったんです。ただ別に、料理を楽しむとかじゃなく、家事として必要だからやってた感じでしたね。
島村:それは意外ですね。
池田:ただ、父親がグルメだったので、良いお店に連れて行ってもらっていました。だから舌は妙に肥えてるんだと思います。その合わせ技で、食に対するこだわりがあるのかもしれません。
(飲み物と惣菜が運ばれる)
島村:なるほど…。おっと!タイミングよくお酒と料理が運ばれてきましたね。(パクチビールを見て)すごい量のパクチーが入っていますね。このビールはパクチーを飲むビールなんですね…。鍋みたいですね!さて、乾杯しましょうか。
池田:はい、では乾杯。
(独特な後味が人気のパクチビール)
島村:ぎょぎょ!イメージと全然違う。すごい爽やか!味は違いますが、モヒートのようです。夏に飲みたいビールですね。料理も食べてみて良いですか?(料理はタイ風さつま揚げ)
池田:もちろんです。
島村:美味い!さつま揚げにパクチーを添えて食べるのが新鮮ですね。池田さんはパクチー好きなんですか?
池田:好きです。実家が田舎なので、タイ料理とかインド料理みたいなエキゾチックなものを食べたことがなくて。だから東京来てハマったんです。今でも、美味しいお店を見つけるのが好きですね。
島村:僕も美味しい中華料理屋見つけるの好きです。店員さんが座ってる店を選べば、大体間違いはないですけど。
池田:へー、そうなんですか。こじんまりしたお店が大体美味しいって事ですかね?
島村:店が混むから疲れるんじゃないですかね。あ、じゃあ料理に関する質問をさせてください。これで池田さんの人となりがわかると思います。ここにお弁当が三種類あるとします。一つが海鮮丼、一つが唐揚げ弁当、もう一つが幕の内弁当。どれ選びます?
池田:私は、唐揚げ弁当選んじゃいますね。
島村:うわ…!
池田:どういう事ですか(笑)。
島村:池田さんの映画の食卓のシーンはテーブルいっぱいに料理を並べるじゃないですか?だから、池田さんは、幕の内弁当選ぶと思ってたんです。言わせてもらいますけど、唐揚げってパサパサしてるからご飯と合わなくないですか?
池田:これってなんの質問ですか?(笑)。私、お肉がめちゃくちゃ好きで、そのなかでも特に唐揚げが好きなんです。王様ですよ。体のためには、幕の内弁当が良いとは思うんですけど、でも唐揚げの誘惑には勝てませんね。
島村:僕は、ダブルパサパサゆえに唐揚げ弁当は食べないですね。海鮮丼は、ご飯が温かいのもいただけないし、どのタイミングで醤油かけるか分からないので敬遠します。だったら、刺身定食の方が良いんです。
いや実は、映画を見ていて、池田さんが選ぶ料理の数々に共感するところがあったんです。それで、池田さんは僕と食事に関する価値観が一緒かもしれないって思ってたんです。でも、自惚れでしたね(笑)。というか、段々、映画から離れていってますね。
池田:映画サイトですよね?(笑)
島村:すっかり忘れてました(笑)。でも、映画監督って食にこだわりある方が多いですよね?
池田:濱口竜介監督も、めっちゃ美味しいもの好きですし。食に貪欲な人は多いですよね。
島村:映画の中の料理って、監督の食に対する意識がもろに反映される気がします。だから、そういう映画的な?意味も込めて、この話は活かしていこうと思います(笑)。
(お店自慢のガパオライスが運ばれる)

ドッペルゲンガーの住処

島村:池田さん、突然なんですけど。ドッペルゲンガーっていると思いますか?
池田:私、そういう話題好きですよ。2ちゃんねるのまとめサイトで読み漁るくらいですからね(笑)。ただ、そこまで信じるタイプではなくて。
島村:池田さんの作品を見ていて、登場人物たちは全員ドッペルゲンガーなんじゃないかなって感じたんです。どの作品の登場人物たちも社会的なしがらみから離れた場所や環境にいる気がして、それがドッペルゲンガーたちの住処に感じたんです。
池田:それで言うと私が書く主要な人物は、全員私のドッペルゲンガーではあります。私を写したような登場人物がそれぞれ映画の中でどう生きていくのか?というのを考えるのがとても楽しいんです。
そういえば、ドッペルゲンガーじゃありませんが、生霊的なものとか、主人公の見る幻想で人物を登場させたりするのは結構好きでやるんですよ。
島村:失礼ながら未見なのですが、池田監督の『とんねるらんでぶー』(11)という映画のタイトルもそのような霊的世界を想起させますよね。
池田:あれはトンネルの向こうが死の世界っていう設定なんです。
島村:いやあ、是非見てみたいですね。池田さんの映画を見ていると、心の中を旅行しているような気持ちになれて好きなんです。
池田:こんなに褒められて、嬉しいです(笑)。
島村:池田さんのそういったアイデアは何が基にあるのでしょうか?
池田:子供の頃の体験や興味に基づいているんだと思います。私の育った町って海がすごい近かったんですよ。海の周りって夜になると真っ暗だし、すごく静かで、非現実的世界と繋がっているような神秘的な雰囲気があるんです。
それと人が死んだ後の世界に興味もあって。小さな頃から、怖い話とかも好きで。それで、中学生の時に祖父が亡くなった時にちょっとした心霊体験があったんです。それがずっと引っかかっていて。それで『兎のダンス』(07)という映画を撮ったんですよ。
島村:なるほど。池田さんは、ファンタジーを描いているという思いはありますか?
池田:明確にファンタジーに手を出した事はないと自分では思っています。いずれは、ファンタジーもがっつりやってみたいとは思ってるんですけど。私の作品はどっちかというと、まだ現実の世界にいる気がしています。やはり現実のコミュニケーションの中にある怖さとか不思議さとかに興味があるので。

「男の冒険」と「女の冒険」

島村:これはファンタジーと関係あるかわからないですけど、「女性の冒険」って何だろうって思うんです。男性の冒険って容易にイメージ出来るんですよ。でも、女性の冒険ってイメージが湧かなくて。ただ、池田監督の映画を見ていて、女性の冒険というのはもしかして家の中にあるんじゃないかなって思ったんです。
池田:確かにそういうところはあるかと。男性の冒険とかっていうと、外の世界を思い浮かべるんですけど、私にとって冒険っていうのは現実を生きてる中で、どうやって前に進むかっていう事に繋がっていくんだと思いますね。
島村:あと、作品を見て思ったのが、池田さんは男女が一緒に暮らす事について、どう思っているのかお聞きしたくて?
池田:確かに暮らしていますね、みんな。
島村:みんな一つ屋根の下で暮らしていますよね。
池田:人にも言われた事があるんですけど、家族がほしいっていう願望が多分すごく強いんだと思います。自分の父親は単身赴任していて、週に一回くらいしか帰って来ない人だったので、家族みんなで暮らした経験って記憶の中にほとんど無いんですよ。
だから、自分の家族を探したいっていう気持ちから一緒に暮らす設定が生まれてきてるんだと思います。ただ、いつも崩壊するっていうね(笑)。それだから、ヒトって結局一人で生きていくしかないよねっていう、当たり前の結論にたどり着くんですけどね。もちろん、親に対しては感謝してますし、関係が悪い訳でもないですよ(笑)。
島村:男女混合のルームシェアについてはいかがですか。肯定派ですか?反対派ですか?
池田:私は男女混合のルームシェアをする気はまったく無いです。恋人になって一緒に住むならありだけど。じゃなかったら、ルームシェアする意味が分からなくないですか?
島村:ほんとですよね!全く同感です!でもたまにいるんですよ。「俺、お前と一緒に住んでも絶対変な気起きない。マジで、絶対!」みたいな事を言う人が。そういう人達をチェストするために僕は生きていこうと思っています(笑)。
池田:(笑)。男女の友情って成り立つ事はもちろんあると思うんですけど、でも究極までつきつめたらやはりセックスがあると思うんですよ。だからぶっちゃけ、男女でルームシェアする意味が分からないです。
島村:ちなみに池田さんの作品はあまり性描写って無いですよね?
池田:『夕闇ダリア』(11)という映画は《性描写を描く》ことをテーマにして作ったんですよ。ただ、もっと上手く描けたはずだっていうのがあって、もう一回チャレンジしたいなとは思っています。日活ロマンポルノがすごい好きだったので。ただ、あの時代の映画を現代人でやるって、とっても難しいんですよね。現代に置き換えたら、ただだらしない人間に見えちゃうじゃないですか?でも、それをもっと深く探ることをいつかやってみたいです。

「悪」はどこにある?

島村:池田さんの映画の中には悪い人、つまり明確な「悪」がありませんよね。
池田:東京藝大で教えてくださった黒沢清監督からも、それがダメだって言われたんです。
島村:ダメとも言えるとも思いますが、それなのに物語として力強い継続力を持っているというのはとても凄いことですよね。
池田:脚本を書く時は、登場人物に感情移入をしようと決めてるんですよね。そうして、物語を作っていると表面上悪いやつだったり、物語上主人公の敵であっても、この人にはこの人の事情があるでしょみたいに思ってしまうんです。宮崎駿監督の『もののけ姫』(97)や『風の谷のナウシカ』(84)もそうですよね。敵だからって悪い人っていう風にはしたくないんですよね。それは日常生活でも心がけています。「いい人」に見えてる人の方が、悪い事してるかもしれないんですよ。
島村:それで言うと、『タイタニック』(監督:ジェームズ・キャメロン/97)のことを思い出します。『タイタニック』って主人公のケイト・ウィンスレットが2人の男に挟まれますよね。お金持ちで政略結婚することになっている男と、画家の卵のディカプリオ。図式的にはお金持ちの男が悪で、貧乏だけどロマンと美貌を持つディカプリオが正義。確かにお金持ちの男は鼻持ちならないやつで、財力でもって女性を手にしようとしている。
でも、よく考えればお金持ちって凄くないですか?具体的な財力を持つには、相当な努力の継続が必要だと思うんです。一方、まだ売れていない画家はポーカーで日銭を稼ぐやんちゃ男。それでもって、タイタニック号で偶然で出会った女性を横取りしている。もし僕がお金持ちの男の立場だったら、地獄の底まで追いかけて…。
つまり何が言いたいかというと、僕はそういう野放しにされている調子乗った画家をハントするために美大に入ったということです(笑)。
池田:(笑)。
島村:別の視点から見ればお金持ちの方が、よっぽど誠実っていうか大人だと思うんですよね。ケイト・ウィンスレットはお金持ちとの関係に嫌気がさしてるものだから、ディカプリオとの関係を純愛とかって美談に差し替えてしまう。だから女性って怖いんだよな(笑)。
池田:そういう意味では、あの人は裏切られたからああいう行動取った訳ですよね。すごい悪いやつみたいに描かれてますけど。
島村:そうなんですよね。そう思うと悪って何だろうってなります。
池田:私は人を殺すってどういうことなのか考えることがあります。『人コロシの穴』(02)はそのことを考えて作りました。クシシュトフ・キェシロフスキ監督作品『殺人に関する短いフィルム』(88)っていう映画を観た時に、殺すってこういう事かって感じがして。それで自分なりに考えて作品にしてみようっていう気持ちになったんです。実録ファイルみたいなのもよく読むんですが、その度に何でそんな悪い事をしてしまったんだって、考えちゃうんです。

監督としての自覚を持った、これから

島村:今後はどんな映画を作っていきたいですか?
池田:最近になって、先の自分のビジョンが持てるようになったんです。というのも、ちょっと前までは脚本を書いても、現場でも手グセみたいなのでこなしてしまうところがあって、そんな自分を乗り越えないといけないと思っていたんです。そしたらこの前の現場で初めて、そんな自分を超えて監督になれたって実感を持てたんです。一つの段階をやっと越えられたような感じがして。
島村:それってどんな感覚なんですか?
池田:監督としてしっかり意志を伝えるということですね。私、人に好かれたいっていう想いが凄い強いから、嫌われたくないっていう感情に左右されてしまうことがあったんです。でもこの間、そういう理由での妥協を一切しなかったんです。
自分がやるって言って、多くの人とお金を引っ張ってここまで大きくなった現場を、そんな些細な理由で曲げる訳にはいかないって考えるようにしたんです。
それだからやっと次の段階へ進み出したなっていう実感があります。今後は、オリジナルの脚本を出したら撮らせてもらえるような監督になりたいですね。「池田千尋なら撮らせてあげる」って言われる監督にならないといけないと思ってます。
島村:なるほど。ますます進化を続ける池田監督の新作、楽しみにしています!最後に、男のセクシーって何だか教えてください。
池田:難しいですね。顔形じゃなくて、セクシーって内面の魅力を持っているかどうかなんですよね。
島村:やっぱ人間、中身ですね!僕も頑張れそうです!ありがとうございました!
タイ料理店「ティッチャイ」
住所:〒155-0032 世田谷区代沢5-29-8
電話番号:03-3411-0141
営業時間:[火]18:00~22:30(L.O)/[水~日・祝]12:00~14:30(L.O)、18:00~22:30(L.O)
定休日:月曜・不定休あり
池田千尋監督最新作『先輩と彼女』
2015年 秋 公開予定! (※詳細情報は後日掲載)
■公式サイト
http://senpaitokanojo.jp
聞き手・構成: 島村和秀
構成・写真: 川邊崇広
  • 『池田千尋(いけだ・ちひろ)』
    1980年北海道生まれ、静岡県出身。映画監督、脚本家。映画美学校修了制作作品である『人コロシの穴』(2002)が2003年カンヌ国際映画祭・シネフォンダシオン部門に正式出品される。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域2007年修了。劇場公開作品に『東南角部屋二階の女』『とんねるらんでぶー』『夕闇ダリア』などがある。昨年は、K’s cinemaにて『ミスターホーム』が公開された。また舞台の作演出も手がけ、『東京の空』『東京の歌』が上演され好評を博した。年内に劇場公開作品が2作品控えている。
  • 『島村和秀(しまむら・かずひで)』
    LORDSHOW 舞台芸術部門 「そことここ」 Director、劇作家/演出家、(パフォーマ ンスチ―ム『情熱のフラミンゴ』主宰)、俳人。
    大学在学中より演劇作品を制作。また、サウンドアーティストの浜田洋輔と俳句と環境音を用いたサウンド作品『ヒッチハイク』で2011年AACサウンドパフォーマンス道場入選、2013年千代田芸術祭音部門「さいたまんぞう賞」 受賞。2012年に俳句集『電話を切るのが下手な人』を上梓。初監督作品『あおいちゃんの星座』を「前夜映画祭2014」で発表。