LOAD SHOW

A Rooted Soul. Vagabond Eyes.

映画の未来をいち早く
Be the first to witness the future of films

#08 【映画祭レポート】福島映像祭2014(9/20-26) (後編)

『〝自主避難〟~原発事故から3年・家族の苦悩~』

第51回ギャラクシー賞奨励賞を受賞した毎日放送制作のこの作品は、2014年3月に製作された。原発事故から3年。復興のかけ声のもと、いまだに4万8千人が福島県外で避難生活を送っている人々にスポットを当てる。なかでも、避難対象区域外から避難した人たちは「自主避難」と呼ばれ、賠償や補償の面で大きな差がつけられている。子供たちの被爆を避けたいという思いで県外に自主避難した人々だが、「神経質すぎる」「お金があるから逃げられる」などと非難の対象にされることも少なくない。

この作品では二つの家族が登場する。郡山市に一人医師の夫を残し、大阪市に母子避難中の主婦・森松明希子さんの家族。もう一つの家族は、福島市に残り、妻子を新潟県に避難させている大学教員・荒木田岳さんの家族。両家族とも「自主避難」のため、避難先での住宅費や生活費・たまに会うための交通費がかさむなか、なんとか綱渡りで生活を続けている。幼い子どもがいる家庭が、先の見えない状況のなかで、こんなにも負担を強いられているということがひしひしと伝わってくる。

特に身に沁みるのが、両家族とも比較的夫が社会的地位があり、裕福であること。両家族の後ろには、子どものことを考えれば避難したいが、できない家族がいくつもあるであろうこと。「自主避難」者は、慣れない土地での生活の大変さがあるが、被災地に残されたものもまた、避難しない、できない方々の目を気にし、彼らに罪悪感を持ちながら生活しなければならないのだ。

そんな状況がリアルに伝わってくるからこそ、終盤の森松明希子さんが「避難区域外からの自主避難には、被ばくを避ける人として当たり前の権利が認められていない」と訴訟の原告になる姿には希望を貰える。大学教員・荒木田岳さんもまた、学生に向かって、根気よく福島の現状を、矛盾を訴える。けっして声高ではないものの地道な被災者の方々の闘いぶりに感銘を受け、陰ながら拍手を送りたくなるような力作であった。

『東電テレビ会議 49時間の記録』

昨年の「福島映像祭」ではじめて劇場公開し、話題を呼んだ『東電テレビ会議 49時間の記録』。原発事故当時、東京電力本店の2階にある非常災害対策室と福島第一、第二、柏崎刈原発非常災害対策室、オフサイトセンターの間を結んだテレビ会議の様子をそのまま録画した映像を指す。

原発事故後、2011年の5月、この映像記録の存在が知られてから、フリーランスを中心に公開を求める声があがったが、東電は「社内資料だ」と公開を拒んだ。2012年の6月28日に、朝日新聞が、東電株主代表訴訟原告団がテレビ会議映像を証拠として東京地裁に保全を申し立てる方針であると報道。それ以後も、公開を拒否する東電の姿勢を批判した枝野幸男経産大臣の単独インタビューを掲載するなど朝日はキャンペーンを展開し、それが功を奏したのか8月6日、東電は加工映像を部分開示。開示対象は報道に携わる者だけで、取材時の録音や録画は禁止という取材・報道規制を敷き、「名ばかり公開」と批判された。この部分開示以降、追加開示を経て現在では3月11日から計一か月分の加工映像をジャーナリスト向けに開示。一般へもインターネットを通じて一部を開示している。

あくまで東電の主張によるとだが、もともとの映像自体が部分的にしか存在しない(地震発生直後の初動や1号機爆発が起きた3月12日、撤退問題が浮上し菅総理が東電の乗り込んだ15日の深夜から明け方、プラントから衝撃音が聞こえ、高濃度の放射能が広がった15日の昼間の様子は存在しない)。また「社員のプライバシー」を守るとの名の下、人物にはモザイクが入り、音声の固有名詞にはピー音が入る。 かようにもともと非常に不完全なものではありながら、OurPlanet-TVが膨大な量の画像を前編1時間47分、後編1時間39分、計3時間26分にまとめた。細切れなうえ、誰が発言しているか分からないので、なるべく状況が分かるように、基本的な情報を挿入している。

会場は満席で、異様な熱気のなかいよいよ作品を観始めた。もちろん編集・加工されているというのはあるのだろうが、観始めて驚くのは、不謹慎を承知で言わせて貰えばその見応え、ドキュメンタリー映画としてのレベルの高さである。

緊迫した空気のなか、次々と危機的な状況が明らかになっていく。泥縄式になっていかざるを得ない対応、東電本社と現場の温度差。一大事なのに妙にゆっくり喋るのが空恐ろしい本社のお偉いさんたち、ついにキレて怒鳴る吉田所長。もちろんニュース報道などや映画などの知識がもともとあることが大きいのだろうが、ひしひしとこの大惨事の原因の一つが肌で伝わってきたような気がした。

日本全体に甚大な被害と影響を与え、今も多くの人がこの悲惨な事故によって苦しんでいることを考えると、地上波のゴールデンタイムに放送し、お茶の間でみんなが視聴できる日が来ないものか。そんな風に願ってしまう。

福島第一原発2号機元運転員の井戸川隆太さんが語る原発事故

上映後のトークには、福島第一原発2号機元運転員である井戸川隆太さんと、OurPlanet-TVの白石草さんが登壇。井戸川さんは作品を観た感想として「みなさんも思われたと思うんですけど、やはり東電の上層部の対応がお粗末だったのかな、と。現場にいた人間としても、本当にそれをやっていいのか、曖昧な指示が来たり」と語った。

「事故発生時の現場はどんな感じだったんですか?」という白石さんの質問に、井戸川さんは「11日は非番でした。実家にいたので、自分の身の安全を確保して、親の安否を確認して。それから、福島第一原発に向かいました。どうも、津波と一緒に走っていたみたいですね。原発は高台にあるんですが、私が原発に入った途端に、大きな波が来たみたいでした」と答えた。

「中央操作室に行こうとしたら、先輩に止められて。暗くなってから、やっと行ったんです。もうその時は電源喪失していて。われわれは電力がなくなる状態も訓練はしているんですけど、それは一時間かそこらのことで、こんなに長く電源を喪失する状態というのは想定していなかったので、恐怖を覚えましたね。」と話す井戸川さんに、白石さんが「真っ暗だったわけですよね。その晩はどんな風に過ごされたんでしょう」と聞くと、「初期対応は、みなさん今観て頂いたと思うんですけど、本店は何にも考えていないですね。線量もあがってきて。最悪、死も覚悟しました」と怒りを露わにした。

「時間が経つにつれて、だんだんやれることもなくなっていった。いい例えではないかもしれませんが、我々は戦場の最前線にいて、武器が枯渇しているのに補給が来ない状態でした。」と話す井戸川さんに、白石さんも「私もこの映像を全編観た時、太平洋戦争の南方戦線というか、日本軍の補給が絶たれた状態をイメージしました」と応じた。

そのうち一号機が爆発した。井戸川さんは「私はその時床で寝てたんです。何かが爆発して、衝撃音で起きた。でも最初は、爆発するとしたら発電機じゃないかということで。われわれも、どうなってるか分からないんですよ。パラメーターも見れないし。本店が、どうなってるんだ、どうなってるんだ、と聞くんですけど、それはあんまり言ってほしくなかったです。われわれがどうなってるか一番知りたいんですよ。」と爆発当時のことを語った。「一号機が爆発して、最小限の4.5人を残して、若い人たちは免震棟の方に避難したんですね。でも、結果的に言えば、退避した時一番被爆したんですね」と井戸川さんが苦笑交じりに語ると、会場からも笑いが起こった。

「ただあの場にいたらそのまま死ぬんじゃないかという恐怖心がすごく強くて。退避しろと言われた時は正直ホッとしました」とその時の恐怖を生々しく語る井戸川さんは東京電力を2012年1月に退社した。理由は「東京電力だから」、上層部の考え方についていけなくなったからだという。

福島を見つめる視線の複線化、その重要性

7日間に渡って開催された「福島映像祭」。ドキュメンタリー・フィクションともに映画作品は、ただただ被災地に、被災者の方々に、カメラを向けるしかない、あるいはやむにやまれぬ衝動で映画を作り上げた、というところからの変化が如実に感じられた。『物置のピアノ』の生き生きとした生命力、『無知の知』の猪突猛進の行動力とユーモア、そうしたものとともに震災や原発が語られるということが、映画の豊かさとなって表出されているのは、喜ぶべきことであろう。

また、一方で『〝自主避難〟~原発事故から3年・家族の苦悩~』を観れば、いっこうに小さな子どもを抱えた家庭の苦悩は解決していない。また『東電テレビ会議 49時間の記録』を観れば、このような惨事を生み出した原因の一つでもある「原発安全神話」、東京電力の体質が肌で感じられるにもかかわらず、原発問題もまったく解決の兆しはない。過去の映像を検証すること、被災地の現実・現在を追うことの大切さも身に沁みた。

私は上映された作品のうち、半分あまりの作品しか観ることができなかったし、イベントもほとんど行けなかった。それでも、ポレポレ東中野の受付廻りにて多くの人々が会場を待つ姿に、福島と東京は実際の距離はもちろんあるものの、志のある人びとによって、その距離も、そして年月の風化も乗り越えることができるのではないか、そんな風に思った。

『〝自主避難〟~原発事故から3年・家族の苦悩~』
制作:毎日放送
ディレクター:津村 健夫/プロデューサー:大牟田 聡
初回放送日:2014年3月16日
(c)MBS
ストーリー:福島第一原発の事故の発生から3年。復興のかけ声のもと、いまだに4万8千人が福島県外で避難生活を送っている。なかでも避難対象区域以外から避難した人たちは「自主避難」と呼ばれ、賠償や補償の面で大きな差がつけられている。子供たちの無用な被曝を避けたいという思いで県外に自主避難した人々だが、「神経質すぎる」「お金があるから逃げられる」などと非難の対象にされることも少なくない。放射線の線量計があちこちに設置された「異常な状況」が「日常」になりつつある福島の現状と、そのことに違和感を覚え、声を上げ始めたふたつの家族を追い、原発事故の先の見えない影響と心の傷を追う。第51回ギャラクシー賞奨励賞受賞。(毎日放送/50分)
『東電テレビ会議 49時間の記録』
製作:OurPlanet-TV
2013年/206分/日本/DVD
写真提供 東京電力株式会社
ストーリー:1号機が爆発、3号機の原子炉水位も低くなり、刻々と近づくメルトダウン。本店の調達が後手に周り、バッテリー、ガソリン、水、食糧が不足する現場。打つ手打つ手が、ことごとく失敗する中、2号機、4号機にも危機が迫る様子。そして、ついに、作業員退避の検討がはじまる―。2011年3月12日から15日までの3日間、福島第一原発で何が起きていたのか。東京電力が一般向けにインターネット公開した映像をもとにまとめた報道ドキュメント。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。