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【連載】アジア映画の森の歩き方vol.2 韓国 現代篇(岡本敦史×夏目深雪) 

『サスペクト 哀しき容疑者』9/13(土)新宿武蔵野館他全国順次公開

韓国映画の最近の動向--残虐路線を抜けて

夏目 韓国の現代篇は、韓国映画に造詣の深い映画ライターの岡本敦史さんをお迎えして、公開中、或いはこれから公開する映画を中心に、最近の傾向を見ていきたいと思います。


最近の韓国映画はいかがですか? やっぱり、一時期の盛り上がりからは落ち着いてしまっていた感がずっとありましたが、『怪しい彼女』(14/ファン・ドンヒョク)を観てね、「おっ、これはなんか来てるのかな」と。久々に韓国映画らしい狂った良さがあった映画だった気がします。
岡本 パク・チャヌクとかキム・ジウンがハリウッドに行っちゃって、しばらくは不在の淋しさがありましたよね。
夏目 パク・チャヌクのハリウッドデビュー作である『イノセント・ガーデン』(13)もねぇ…。
岡本 あれはあれで、結構好きでしたけどね。でも手習い感はありますよね。「まあ最初だからこんなもんだろう」的な。
夏目 キム・ジウンはハリウッドに行って頑張ってほしい、と岡本さんは『アジア映画の森――新世紀の映画地図』(作品社)で書いてましたけど。
岡本 本人の資質には一番合ってると思います。中身も後味もスカッとした娯楽作を撮れる人なので。
夏目 ガンガンやってるんですかね?
岡本 去年、カン・ドンウォン主演の『X』(13)という短編を撮って、釜山映画祭でお披露目されてました。3面スクリーン上映方式の試作品なんで、地に足のついた企画じゃないですけど。
夏目 そもそもなんで彼らはハリウッド行ったんでしたっけ? 韓国だと厳しいからということ?
岡本 というよりは、いろいろ活動範囲を広げたいということだと思いますよ。


その辺のベテランどころが国内からいなくなっちゃって、その穴を誰が埋めるんだろう? という気がしてたんですが、最近ちょこちょこコンスタントに面白いものはでてきていますよね。
夏目 今回取り上げるのは、サスペンスやアクションが中心なんですが、それはもともと韓国ってそこが得意分野ですよね。ただ、韓国映画の専売特許とも言える、パク・チャヌクやキム・ギドク、キム・ジウンが作り上げたいわゆる「残虐路線」とは違う、クオリティの高さと方向性を持ったものが、今年の後半になってガンガンガン、と日本で公開されると思います。
岡本 あちらのリアルタイムでいうと、昨年から今年前半にかけて公開された作品ですね。わりと、国の情勢が不安定だと、それに対応して面白い映画が出てくるということがあると思うんですよ。ブッシュ政権の末期に『ダークナイト』(08/クリストファー・ノーラン)が出てきたりとか。それでいうと『テロ,ライブ』(13/キム・ビョンウ)なんか、まさにそういう感じがしますよね。
夏目 あれ、ちょっとセウォル号沈没事件を思い浮かべませんでした?
岡本 時期はズレてますけど、思わず時代の空気をすくっちゃった感はありますよね。政府への不信感とか、ピリピリした感じは、韓国の現状を反映しているんだと思います。


逆に、現状がそうだからこそ、ピリピリしたものを観たくない、という国民感情もあるとは思う。取材で聞いた話なんですが、セウォル号事件などの影響もあって「残虐なものを観たくない」という気分が韓国の人々にあったのか、『泣く男』(14/イ・ジョンボム)や『ハイヒール』(14/チャン・ジン)といった期待作がこけた、と。TVでの宣伝活動などが自粛されたことも大きいらしいですが、それだけでもなさそうです。


ただ一方では、『鳴梁』(14/キム・ハンミン)という海戦ものが大ヒットしたりしているんですけどね。『グエムル-漢江の怪物-』(06/ポン・ジュノ)の興行成績を抜いたとか。16世紀末に朝鮮王朝の水軍を率いた李舜臣が、わずか十数隻の船で300隻を超える豊臣秀吉率いる日本軍に戦いを挑んだ「鳴梁海戦」を描いた映画です。


現代劇のアクションではなく、時代劇だったらまだ気にせず受け入れられる、ということかもしれません。タイミング的に、セウォル号の事件を見越していたわけではないので、偶然なんでしょうが、実際に今、時代劇のアクション映画がたくさんあって。それが軒並みヒットしている。


あとは『ソウォン/願い』(13/イ・ジュンイク)や、『弁護人』(13/ヤン・ウソク)といったヒューマンドラマも当たってますね。

「超絶・全部盛り」アクション映画――『サスペクト 哀しき容疑者』


9/13(土)新宿武蔵野館他全国順次公開

夏目 韓国って、香港ほどアクションの傑作が多くはない気がします。アクションとしての完成度よりは、どれだけ残虐かという「残虐度」に走る映画が多いかな、と…。でも、『サスペクト 哀しき容疑者』(13/ウォン・シニョン)ははっきり言って度肝を抜かれました。


韓国アクションの強みは、ドラマの厚みと俳優のよさかな。この映画もコン・ユがイメージと正反対の役を演じているのがいいですよね。さらに、南北問題がドラマに絡んでくると、やっぱりグッとドラマに厚みが増すんですよね。この映画は主人公が北朝鮮特殊部隊の元工作員です。だからジェイソン・ボーンシリーズの亜流といってもいいんですよね。
岡本 そうそう。撮り方もすごく意識してると思いますよ。
夏目 でも元CIA工作員と、元北朝鮮特殊部隊工作員ではやっぱり重みが違う。そのへんが韓国映画の強みですね。一つひとつのアクションに、南北格差問題や、国家分断の悲しみが、貼りついて、重みになっているわけですよ。キック一つとっても、重みが違うというか。


さらに、この映画もアクションそのものも凄い。この映画のアクションは、一つ一つ、緻密に考え抜かれた凄味があると思いました。
岡本 確かにアクションを見せるということに特化してやっているな、と思いました。しかもそれを数珠繋ぎにして、137分ひたすらこれでもかと見せていく。


ソン・ガンホとカン・ドンウォンが共演した『義兄弟 SECRET REUNION』(10/チャン・フン)という映画で、冒頭に市街地を舞台にしたすごいカーチェイスがあったんですけど、『サスペクト』はそれを全編やってるような感じがしました。地形とか、建築物とかをすごく生かしてやっているし。


韓国映画って、90年代後半にいちどリセットされて、そこから再スタートしているところがあるので、香港映画みたいに歴史があるわけじゃない。最初はひたすらパクってパクってパクりまくるところから始めて、『シュリ』(99/カン・ジェギュ)や『ベルリン・ファイル』(13/リュ・スンワン) の武術監督をやったチョン・ドゥホンとかが一所懸命蓄積してきたようなところがある。


その中で、近接格闘アクションを前面に押し出した『アジョシ』(10/イ・ジョンボム)は、一つの答えを出したのかなと。ただ、それも答えの一つでしかない。イ・ジョンボムの新作『泣く男』はまだ観れていないんですけど、今度はガンアクションに特化しているらしくて。そういう貪欲さは最近の韓国映画にひしひし感じます。で、『サスペクト』は全部盛り。
夏目 そうそう、全部盛りっていう形容詞がぴったり。またコン・ユがいいですよね。なんか『トガニ 幼き瞳の告発』(11/ファン・ドンヒョク)を引きずっているところがいいのかも。
岡本 そうですね。ひたすら傷ついて、影を背負うキャラ。痛々しいのが似合いますよね。
敵役の顔もみんないい。キム・ソンギュンは『悪いやつら』(12/ユン・ジョンビン)でデビューした、わりと遅咲きの人なんですけど、今一番注目されている脇役じゃないですか。
夏目 確かに凄味がありましたよね。コン・ユと不思議な友情関係になるパク・ヒスンもよかったなぁ。
岡本 パク・ヒスンもアクの強い人なんで、正直使い勝手はよくないんじゃないかと思うんですけど、ハマると素晴らしい。ウォン・シニョン監督の前作『セブンデイズ』(07)にも出ているんで、いいコンビなんでしょうね。情報局のエリート幹部を演じたチョ・ソンハもよかったし。キャラの濃い役者が、キャラの濃い役をやって、全員ぴったりハマッてる。プラス、アクションでもとことん魅せる。
夏目 そう。『新しき世界』(13/パク・フンジュン)も『悪いやつら』もみんな脇役までキャラが立ってるのが韓国映画のよさですよね。そんなに脚本的に何か新しい話とか、そういうことではないんだけど、惹きこまれます。韓国の俳優さんって本当に、情緒を出すのに何のてらいもないというか。
岡本 コン・ユなんて、いまにも血の涙が溢れてきそうな芝居してますしね。


ウォン・シニョン監督は作風にバラつきのある人で、デビュー作の『鬘(かつら)』(05)はホラー、日本未公開の2作目『殴打誘発者たち』(06)は暴力満載のブラックコメディで、『セブンデイズ』はサスペンス。前作あたりから思ったんですが、韓国のトニー・スコットになろうとしている人なのかな?
でも『サスペクト』は彼のそういうところが一番いい形で出たのかな、と思います。
#02に続く
『サスペクト 哀しき容疑者』
監督: ウォン・シニョン 脚本:イム・サンユン
出演:コン・ユ、パス・スンヒ
韓国映画/2013年/137min./カラー/Dolby Digital SRD
配給:ツイン
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