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【連載】アジア映画の森の歩き方vol.2 韓国 現代篇(岡本敦史×夏目深雪) 

『さまよう刃』9/6(土)より、角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他にてロードショー

復讐しない新しさ――『ソウォン/願い』


新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田公開中ほか全国順次公開

夏目 パク・チャヌクの復讐ものに代表されるように、韓国は復讐ものに優れた作品が多い。これはある程度意識的に商品化されたものでありながら、やっぱりそれだけ人々に受け入れられたということは、過去の歴史を背負った現代韓国の「気分」を投影したものでもあるとも言えますよね。
岡本 やっぱり「情念」の国っていうことですよね。
夏目 『ソウォン/願い』は、さきほど韓国で当たったという話でしたが。確かに新しい感じはしましたよね。8歳の女の子が登校途中にレイプされてしまうという痛々しい実話をもとにした話ですが。お父さんが、今までの韓国映画だったら絶対復讐にいきますよね。
韓国で当たったというのは、やっぱりもう、「復讐ばっかりしててもしょうがないでしょ」みたいなところもあるのかな?
岡本 保守的・好戦的な政治の風潮に対して嫌気がさしているところもあるかもしれませんね。監督のイ・ジュンイクは政治的な人なので。『王の男』(05)も、時代劇なんだけど現代社会のカリカチュアになっていましたよね。
夏目 『王の男』はよかったですよね。
岡本 『ソウォン/願い』は、脊髄反射で復讐に走ったりしないで、家族のあり方とか、社会のあり方についてもっと考えようぜ、みたいな方向にいくじゃないですか。
夏目 私は従来の韓国映画らしい家族映画かな、と思ったんですけど。
岡本 もちろん、家族のドラマもあるんですけど、周りの人々のドラマも丁寧に描かれていましたよね。カウンセラーや、被害者の少女の同級生、そのお母さんたちが、どう反応し、どうケアするか、どう受け入れていったらいいか、ということがきちんと描かれていた。傷ついた弱者を受け入れる社会の在り方とはなにか? ということを考えさせる話になっていたと思います。
そういう話が広く受け入れられて、興行的にも内容的にも好評を得たというのは、そういう風に物事を考えたい、考えさせてくれるドラマが観たい、という韓国の人たちの気持ちがあるんじゃないですかね。
夏目 でも私はあの前半の壮絶さがやっぱりね…。スクリーンを見ていられませんでした。他の国ならあそこまでの描写はやらないですよね。そこは韓国映画らしいところです。ただ一方で、後半の家族愛の話も韓国映画ならではではあるんだけど…。
岡本 容赦のないところと、優れたドラマのところと、両方あるのが『ソウォン/願い』のよさかな、と思いますね。
夏目 ああ、いいところがドッキングしてるんですね。
岡本 僕はイ・ジュンイクって韓国映画の良心だと思っていて。『ラジオスター』(06)や『楽しき人生』(07)など、現代劇の日常系ドラマが本当に巧い人なんですよ。


一方で時代劇も撮り続けていて、それは一貫して現代社会の諷刺なんです。昔の韓国映画って、軍事政権が長かったので、暴力的な政治に対して民衆が声をあげるという話をダイレクトに描けなかった。だから、ずっと時代劇を通して描いていたという歴史がある。『内侍』(68/シン・サンオク)とか『守節』(73/ハ・ギルジョン)とか。イ・ジュンイクがやっていることって、それのやり直しなんですよね。


常に社会にコミットしていくという意味で、非常に志の高い監督だと思います。ただ、数年前に撮った『バトルフィールド・ヒーローズ-平壌城』(11)という時代劇コメディがこけちゃって、引退宣言して2年ぐらい監督をやめてたんですよ。それが『ソウォン/願い』で復活してくれて、めちゃめちゃ嬉しくて。


確かに前半の痛々しさは壮絶ですよね。イ・ジュンイクも、あそこまでの描写は今までしたことがないと思います。今回は覚悟が違うのかな、と。
それでいて泣かせますしね。毎回ボロ泣きさせられますけど、今回のあの泣かせ方はちょっと凄いな、と思いました。
夏目 確かに。後半、試写室が啜り泣きで満ちていました。
岡本 なのに、演出に気取りがないし。あんなに演出力がある人って、韓国映画界でもほかにいないんじゃないかと。
夏目 復讐しない新しさを提示したということもありますね。
岡本 キャッチコピーが「幸せに生きていく それが最大の復讐」ですからね。
夏目 パク・チャヌクが追及したような、復讐する人が走り抜けていく映画美とは全く違う方向ということですね。
岡本 実際にこういう事件が起こったら、まあリアリズムで考えたら『ソウォン/願い』のような話になるわけじゃないですか。やりきれない、行き場のない感情に見舞われる話だとしてもね。だけど、それでも映画になるんだ、ドラマになるんだ、ということをガツンと示した映画だと思います。
夏目 復讐なんかしなくてもドラマは成立すると。
岡本 それこそがドラマだろう、ということではないですか。人の営み、というものがドラマなのだと。

被害者と加害者の対峙――『さまよう刃』


9/6(土)より、角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他にてロードショー

夏目 『ソウォン/願い』は復讐にいってもおかしくないようなシチュエーションで、でもいかないことを提示したのが新しかったということでした。『さまよう刃』(14/イ・ジョンホ)は、復讐はするんですけど、復讐ものを新たな方向性に開いているのではないかと思います。


『さまよう刃』は原作が東野圭吾のベストセラー小説です。ただ原作から結構変えてるんですよ。中学生の娘をレイプされて殺された父親が、その犯人である少年に復讐するという基本的なストーリーはもちろん同じです。中盤以降、父親は長野のペンションに泊まっているらしい少年を探すために長野に移動するんですが、原作は、父親が宿泊しているペンションで働く女性が、宿泊客がその父親で指名手配犯だということに気付いてしまって、匿うんですね。映画には、その女性自体が出てきません。そういう余計なドラマを削ぎ落としている。
あと、バスの中で、父親が犯人の少年らしき人物と偶然逢って、言葉を交わすシーンがあるじゃないですか。あそこがとてもいいシーンなんですね。憎むべきものが、そういうレッテルを取ると、全く普通の少年なんだという。あのシーンも、原作にはありません。


ラストも、起こったことはそう変わらないんですけど、位置づけが違うんですよ。匿ってくれた女性への思慕が前面に出ている原作に較べ、その女性が出てこない分、父親と少年の対峙が強調され、被害と加害の問題が前面に出ています。「被害者が加害者を赦すことができるのか」という、永遠の命題について、映画の方ではある答えを出している。小説には、そういうニュアンスはありません。
すごくソリッドに削ぎ落としていて、哲学的な命題を浮立たせている。巧いなぁ、と思いました。


監督はイ・ジョンホ監督で、『ベストセラー』(10)の監督だと聞いて、腑に落ちました。『ベストセラー』も緻密な構成の作品で、デビュー作にしてはなかなか秀作でした。
『さまよう刃』が優れているのは、ずっと復讐に突き進んでいた復讐者が、バスで少年に逢ってしまってから迷いを見せます。そしてその後の復讐者の変化をていねいに追って、最後には、被害者が加害者を赦すことができるのかという非常に重い問題に、この映画なりの答えというか、可能性を提示していることだと思います。
岡本 日本版『さまよう刃』(09/益子昌一)が駄目だったので、それがいい反面教師になってるんじゃないかと思います。ペンションの女性とのドラマとか、本当にそういう余計なことをえんえんとやって。2時間のドラマでそんなエピソードを無理やり挟みこんでも、停滞するだけじゃないですか。小説と映画は流れる時間が違うのに。
夏目 でもペンションの女性って、小説だと結構重要人物で、半分くらい出てくるんですよ。結構バッサリやったな、と思ったんだけど。この映画は、監督が脚本も書いてるんですよね。『ベストセラー』も脚本がよかった覚えがあるので、監督が脚本も巧い人なんですね。
岡本 バッサリやったことで、女っ気は見事になくなってましたけどね。その辺り潔いな、と思いました。
あと、携帯電話の使い方もちゃんと今っぽく、リアルにディテール細かくやっていて好感がもてます。
夏目 役者もいいですね。父親役のチョン・ジェヨンもいいんですが、刑事役のイ・ソンミンもよかったです。原作だと単に狂言回しみたいな感じなんだけど、イ・ソンミンが演じることによって少年法のおかしさとか、結局少年を守るために動くことになる刑事の哀しみとか、深みが全然違います。
岡本 韓国は日本のミステリー小説の映画化が続いてますね。同じ東野圭吾の『容疑者Xの献身』、宮部みゆきの『火車』、乃南アサの『凍える牙』。日本のミステリー小説の翻訳版が実際、韓国国内で売れてるんですよね。
夏目 ああ、日本みたいに売れてる小説を映画化すればいいという発想なんですか。
岡本 たぶん、そうなんでしょうね。あと、韓国のミステリー小説って、日本ほどジャンルとして層が厚くないと聞いたことがあります。キム・ソンジョンの『最後の証人』とかありますけど。
…それにしても地味で渋い映画ですよね、『さまよう刃』。ちょっと心配になるくらい。
夏目 え、でも日本ではベストセラーの映画化だし、お客さん入らないかしら。
岡本 韓流スターも出てないし…。
夏目 ええっ。こういう映画に当たってほしいですよね。
岡本 もちろんですよ! 当たってくれたら本当に嬉しい。希望がもてます。
#03に続く
『ソウォン/願い』
監督:イ・ジュンイク
出演:ソル・ギョング/オム・ジウォン/キム・ヘスク/キム・サンホ/ラ・ミラン/イ・レ
韓国/2013年/韓国語/カラー/123分/DCP上映/原題:소원/HOPE/
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『さまよう刃』
監督・脚本:イ・ジョンホ/原作:「さまよう刃」東野圭吾(朝日新聞出版)
出演:チョン・ジェヨン、イ・ソンミン、ソ・ジュニョン、イ・ジュスン、イ・スビン
2014年/韓国/韓国語/122分/原題:방황하는 칼날
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