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【連載】アジア映画の森の歩き方vol.2 韓国 現代篇(岡本敦史×夏目深雪) 

『テロ,ライブ』8/30(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

時代を映し取るリアルタイム・メディア・サスペンス『テロ,ライブ』

夏目 『テロ,ライブ』(13/キム・ビョンウ)はすごく完成度の高い作品ですよね。映画の98分が本当の98分になっていて、そのなかに詰まっている内容の濃さといったら…。この映画は、メディアの倫理の問題を扱っています。それを、こういった実況中継のサスペンスで扱うというのが面白いですね。ちゃんと映画的に見せている。そもそも、メディアの倫理の問題を扱うっていうのも、アメリカ映画なんかじゃよくありますけど、韓国映画では珍しいんじゃないかと思います。
岡本 ここまでのはなかったですよね。しかも、後半30分でまた全然違う話になりますからね。
夏目 そうそう。主人公は、ある事件がきっかけでテレビキャスターからラジオ局に左遷になった男です。彼はラジオ放送中にテロ予告の電話を受け、それが本物だと分かると、その独占放送を条件にテレビディレクターと交渉をし、自分がキャスターに返り咲くんです。
この男は、自分の出世のことしか頭にない利己的な人間として描かれています。
岡本 途中まではね。
夏目 そう、だからこそ、最後の行動には心打たれるんですよね。
シナリオが完成したのは2009年のことなので、もちろん反映しているわけがないんですが、このラストの終末観というのはセウォル号沈没事件を彷彿とさせます。韓国の現代社会の暗部を、映画が嗅ぎつけて映像化したようで、「先取りする」映画の、メディアとしての映画の面白さを感じました。
岡本 韓国の映画人は、社会を投影する写し鏡としての役割を、本当に強く意識して一所懸命やりますよね。何かしら社会問題を絡めないと映画じゃないみたいな、そのくらいの意識でやってると思うんですよ。
夏目 でも一方で韓流ドラマは歯が浮くようですよね。
岡本 どっちかなんですよね。夢を見るか、現実を突きつけるか。中間がないというか。ただ夢を見ているようでも、どこかにすごく重い現実を忍ばせたりしますけどね。『ウェディングキャンペーン』(05/ファン・ビョングク)という映画は、嫁不足に悩む農村の独身男がウズベキスタンの嫁探しツアーに参加するという、牧歌的コメディとして始まるんですけど。ラストでは、日本領事館に脱北者が駆け込んだ事件の記録映像を再現してたりする。やっぱり韓国映画ってそういうことするんだ、と思いました。


『テロ,ライブ』にもそういう精神を感じます。しかも、問題提起のさらに先へ行って「国家を撃つ」みたいなところまで突き抜けてみせる。そこまでやってしまう、その心意気が韓国映画の美徳だなあ、と。日本映画じゃそこまで期待できないじゃないですか。


映画としても巧みですし、いかにゾクゾクさせるかみたいな演出が、すごく考え抜かれている。ジョン・カーペンターの映画を観てるようなワクワク感がある。そういう映画としての小気味よさもあり、社会性もあり、あと役者の色気もすごい。
夏目 ハ・ジョンウね。もちろんハ・ジョンウが演じたからこれだけの映画になっているとは思います。ただ私はハ・ジョンウに驚くというよりは、監督に驚きました。まだこれが商業作一本目なんですよね。
岡本 『ファイトクラブ』(99/デヴィッド・フィンチャー)は、見ていて必ず思い浮かぶと思いますけどね。リアルタイムものも『ニック・オブ・タイム』(95/ジョン・バダム)とかあるので、アイディア自体はそう新しいものではない。
夏目 でもリアルタイムものってあんまり緻密な感じにならないことが多いじゃない? この映画はメディアの倫理の問題だけでなく、それこそ「国家を撃つ」ところまで、問題を並行して扱っているところがすごいと思います。
岡本 だんだん犯人の正体が明らかになっていくところの見せ方も巧いですね。
夏目 テロ対策で途中から来る女性が全然役に立たないところとか、小技もきいてるし。エラそうな役人があっさり殺されちゃったり。
岡本 ああいうところも、パンチがきいてますよね。映画好きの心をギュッと鷲掴みにします。

これから公開する映画-多様で新たな方向性

夏目 これから公開する映画で面白いものはありますか?
岡本 公開はどれもまだ正式には決まってないと思うんですけど、いくつか韓国で観てきて面白かったものはあります。まずはなんといっても『悪いやつら』のユン・ジョンビン監督の新作『群盗:民乱の時代』(14)ですね。これはプチョンの映画館で字幕もなしで観たんですけど、ハ・ジョンウとカン・ドンウォンの共演作です。ほかにも味のあるオヤジ俳優がひっきりなしに出てきて、たいへん目の保養になりました。要は、貴族社会の末期の頃の話で、民衆を抑圧する両班(ヤンバン)に対して、義賊を名乗る群盗が反旗を翻すという話。ハ・ジョンウが演じているのが、当時すごく身分の低かった屠畜業をやっている男で、これが盗賊団に入って貴族と戦うわけです。もう時代考証とか関係なく、ひたすら娯楽作として、マカロニウェスタン調で描いている。これは本当に面白かったですね。


あとは去年の釜山国際映画祭で観た『ハン・ゴンジュ』(13/イ・スジン)。韓国で実際に起きた「密陽女子中学生集団暴行事件」を題材にしています。
夏目 『ポエトリー アグネスの詩』(10/イ・チャンドン)や『ビー・デビル』(10/チャン・チョルス)のモチーフになった事件ですよね。
岡本 つまり、集団暴行の被害者だったはずなのに、加害者の親とかが押しかけてきて告訴の撤回を迫ったり、メディアに実名をさらされたりして、立場が逆転していく。韓国でも大きな社会問題として報道されました。
『ハン・ゴンジュ』は、その事件の被害者となった女の子を主人公にして、おそらく初めて当事者の内面を真正面から描いた作品です。


ただ、最初はそういう映画だとは思わない。とある高校に、無口でミステリアスな転校生がやってきて、どうも音楽が好きらしいとか、一緒にバンドやろうよ、みたいな普通の青春映画として始まっていく。だけどあるきっかけで、その女の子は実は…ということが分かってしまう。そこからひどい話が始まるんですけどね。作りとしてすごく巧い。それでいて、最後まで女の子の思春期を描いた映画としての瑞々しさも失わないんです。
夏目 『ビー・デビル』なんかとは全然違うんですか?
岡本 あれは事件の状況そのものの禍々しさに焦点をあてたような映画でしたけど、『ハン・ゴンジュ』のほうは「そうじゃないだろう」という視点から、個人の内面を中心にして描いた映画ですね。そうじゃない描き方という意味では『ソウォン/願い』と似てます。
夏目 そうじゃないだろう系。
岡本 そうそう。今年の4月に韓国で公開されて、大ヒットしたんですよ。インディペンデント系では『息もできない』(08/ヤン・イクチュン)を上回るくらいの反応があった。
プチョン・ファンタで観たものだと、わりとベタなコメディですけど『わたしの恋愛の記憶』(14/イ・グォン)は面白かったです。男運の悪いヒロインが、ようやく彼氏と婚約までこぎつけるんだけど、あるきっかけで彼氏の知られざる正体を発見してしまう…後半30分、いきなりホラーになっちゃうんです。小品だけど、よくできてると思いました。
夏目 でもお話を聞いていると、本当に、残虐路線からは抜けてきたような気がしますね。『テロ,ライブ』だって、本来は陰惨な気分で終わってもいいはずです。ハッピーエンドじゃないんだから。でも、陰惨な気分にならないところが素晴らしいと思います。
岡本 メディアや国家に対する不信感、それを破壊するアナーキズム、その清々しさですよね。そこがちゃんと説得力をもって描かれているから。
でも残虐路線が薄くなっていくと、ナ・ホンジンとかどうするのかな? と思いますけど(笑)。
夏目 確かに(笑)。本日はどうもありがとうございました。
構成: 夏目深雪
『テロ,ライブ』
監督・脚本:キム・ビョンウ
出演:ハ・ジョンウ/イ・ギョンヨン
2013/韓国/98min/カラー 配給:ミッドシップ、ツイン
(C) 2013 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
  • 『岡本敦史(おかもと・あつし)』
    1980年生まれ。ライター。雑誌「TRASH-UP!!」「映画秘宝」「アニメスタイル」のほか、「アジア映画の森――新世紀の映画地図」(作品社)などに執筆。現在は「映画秘宝」編集部に所属。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。