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#06【映画祭レポート】第9回UNHCR難民映画祭記者会見+上映会(9/9)報告

UNHCR駐日代表のマイケル・リンデンバウアー氏とプロジェクトマネージャーの今城大輔氏

9/9(火)、今年で第9回を迎えるUNHCR難民映画祭の記者会見が行われ、同映画祭で上映予定のイタリア映画『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』が上映された。難民映画祭は難民・国内避難民・無国籍者の置かれた状況に理解を深めてもらうことを目的とし、難民をテーマとした映画の上映を無料で行っている。今年は東京だけでなく、札幌、西宮でも開催される。

UNHCR駐日代表のマイケル・リンデンバウアー氏から難民の状況と、映画祭の開催意義について

紛争、迫害、人権侵害によって家を追われ保護を求める人の数は増え続け、2013年末時点で第二次世界大戦後、初めて5100万人に上ったとのこと。

UNHCR駐日代表のマイケル・リンデンバウアー氏からそのような難民の状況と、映画祭の開催意義について説明があった。

「本日上映する今年の映画祭のオープニング作品『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』は、紛争を逃れるため、避難を余儀なくされた人々を描いています。その逃避行がいかに衝撃的で悲劇的なものであるか、ということを皆さんに知って頂くために、本日この映画を上映します。
今年のラインナップのなかで、『金の鳥籠』という作品がありますが、これはグアマテラの未成年者が貧困や暴力から逃れるために、祖国を離れざるを得ないということを描いています。この映画も非常につらい現状を描いている作品です。
2つの作品はドラマではありますけれど、同時に日々実際に起きている現実でもあります。テレビや新聞のニュースでそういった出来事の概要を知ることはできますが、実際に現場で何が起こっているのかをみなさんに知って頂きたいと思います。
地中海を渡って多くの難民が移動するなか、数多くの人たちが海に消えてしまっている現実があります。多くの難民が海を渡ろうとしますが、彼らの違法渡航を手助けする業者によって、なんとか海を渡ろうとしても、非常に残念なことですが、多くの難民がその旅程にて、暴力を受け場合によっては殺されてしまうという現実があります。そして加害者は罰せられることはありません。
映画を通じて、5000万人以上もの人々がこういった現実に置かれていて、彼らは助けを求めているということを知って頂きたいと思います。」


プロジェクトマネージャーの今城大輔氏から今年のラインナップの特徴について

「今年の傾向は、アラブの春以降の中東、それからアフリカ諸国の様々な危機を題材にした映画が多かったことです。100以上の候補作品から13本を選んでいますが、舞台となった国々のことを考えると、非常にバラエティのあるものになったと思います。
具体的に申し上げますと、避難民を生み出す側の国が、シリア、トルコ、アフガニスタン、ブータン、ネパール、リビア、南スーダン、フィリピン、グアテマラ、メキシコ、チェチェン。
または受け入れる側、避難民が流入していった国々は、オーストリア、アメリカ、オーストラリア、カナダ、スイス。
フォーカスしたテーマでいうと、まず一点は、シリア危機ですね。次に、中長期的な課題を描いた作品、つまり紛争後の開発の問題であったり、内戦後の人々の和解、それらにおけるスポーツや文化の役割というテーマを描いたドキュメンタリーがあります。
また、さきほどUNHCR駐日代表からも話がありましたが、中南米において、貧困や暴力から逃れようとする未成年者を題材にした映画もあります。
最後に、弱者という意味では同じである、セクシャルマイノリティであることによって祖国から迫害を受ける人々を描いた映画も取り上げています。


具体的に上映作品を観ていきますと、まず『スケーティスタン』というドキュメンタリーがあります。紛争によって荒廃したアフガニスタンのカブールで、子どもたちにスケートボードをやる機会を与えようという、プロ・スケーター集団が立ち上げたプロジェクトを追っています。
また、『無国籍を生きる』という作品がありますが、これはなかなか日本では紹介されない、無国籍者と呼ばれる人々を扱っています。フィリピンのミンダナオ島出身で、マレーシアに住んでいる人々です。
『FCルワンダ』は、内戦後のスポーツの果たす役割を考えさせるドキュメンタリーとなっています。ルワンダ虐殺から20年が経つんですが、虐殺の犠牲となった世代の次の、プロのサッカー選手となった子供たちがいて、彼らを題材としています。」


UNHCR駐日事務所の守屋由紀広報官からシリアの現状について

『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』の上映前に、UNHCR駐日事務所の守屋由紀広報官からシリアの現状の説明があった。 映画の舞台はますます泥沼化していくシリア。信仰深い姉妹が主人公で、妹の夫がシリア政府軍を脱走し、自由シリア軍に参加したことから、姉妹はトルコ国境に向け逃避行することになる、という内容。
「シリア危機は、アラブの春の流れを受けて、2011年の3月、奇しくも日本でいうと東日本大震災の頃から起きている悲劇です。

シリアの国内は戦闘状態が続き、650万人以上の人々が家を追われています。一回避難すれば終わりというわけではなく、ありとあらゆるところで問題が起こっているので、2度3度、多い人になると10回以上、国境を越えるまで避難しなければいけないというようなことになります。
今、周辺国の負担というものが大変なものになっていて、300万人のうち、100万人以上はレバノンに逃れています。レバノンはもともと国民の数が400万位のところに避難民が100万人以上、その負担がどれだけのものなのか。しかも不安定な地域においてこれだけの人々を受け入れるということがどういうことなのか。国際社会が解決しなければいけない問題として、われわれももっと国際世論に訴えていきたいと考えています。」

『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』

『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』はのっぴきならない緊張感のなか、始まる。信仰深いシリア人姉妹、フィテマとアヤ。ファティマの夫がシリア政府軍を脱走し、自由シリア軍に参加したことから、姉妹は身の危険を感じトルコ国境に向け最小限の荷物を抱え出発する。知人の中年男の手配で、同じく政府軍に狙われる危険がある一人の男が運転役を務め、姉妹を送り届けることになるのだが、早くも旅の初盤で中年男があっさりと原因不明の死を遂げる。

運転役の男はなんと姉妹を置いて金だけ取り、立ち去ろうとするのだが、その姿を姉妹が辛くも見咎め、3人は車で旅立つこととなる。

だがテロリストと疑われる危険からニカブを取れと命令する男と宗教上の理由で絶対に取らないと拒否する姉妹の間で早くも争いが起きる。そうこうしているうちに政府軍の車が近づいてきて、3人は車を捨てて徒歩で移動することを余儀なくされる。

3人はなんとか力を合わせて逃避行を続けるが、政府軍に見つかってしまい、マヤが捕らわれてしまう。

…というように、たたみかけるように、観客の想像を超えた事態が姉妹を襲い、姉妹の置かれた容赦のない現実を観客にも体感させる。

この映画には様々な問題が提示されている。まず避難民とならざるを得ない人々、特に女性の現実(ファティマがマヤが捕らわれてしまった後、男に「捕えた女たちに兵士が何をするか知ってる?」と淡々と聞くことに胸を抉られる)。中東の地域の人々の宗教と9.11後の偏見の問題(テロリストと疑われ拷問されレイプされたマヤの過去を明かしながらも、決してニカブを取ろうとはしない姉妹)。

あるいは、この映画で男が良人ではなく、利己的な男として描かれているのはとても効果的だ。避難という非常事態に陥った時に、女性や子供といった弱者を助けるべきだという平時であればこの男ですら守るであろう人道的側面と、保身との兼ね合いで男は常に揺らぎ、その揺らぎを観客も体感することとなる。

甘さのない冷徹な描写は観客にシリアの現実、避難民の現実を知らしめ、脇に冷や汗をかかせるに十分である。装備した政府軍と反政府軍が混在する野原に身一つで放り出された避難民を描くことで、人間とは一体どういう生き物なのかを問い、その考察が映画を深みのあるものにしている。ぜひ鑑賞してほしい重量級の作品である。
第9回UNHCR難民映画祭
東京:10/4(土)・10/11(土)~10/19(日)
北海道 札幌:10/12(日)
兵庫県 西宮:10/25(土)~10/26(日)
■公式サイト
http://unhcr.refugeefilm.org/2014/
『ボーダー~戦火のシリアを逃れて~』
監督:アレッシオ・クレモニーニ
イタリア/2013/95分/ドラマ