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#01【映画祭レポート】 第23回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(2014.7.12-21)

『アニタのラスト・チャチャ』

当事者ではない楽しみ方・関わり方を模索する

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(以下TIL&GFF)はいつも惹かれるのだが、時間のなさやいろんな理由をつけて及び腰になる映画祭である。それは私がLGBT(※1)の当事者ではないからだろう。当事者であること――東日本大震災と原発事故後、首都圏に住む人間ほど当事者性について敏感になった人種はないのではないか。われわれが3.11を、そして3.11後を語ることができるのか。東日本大震災は自然災害だが、原発事故は人災の側面が強く、福島で作られる電気を使用するだけだったわれわれ首都圏に住むものはその人災の遠因を作った存在であるとも言える。

こじつけのように聞こえるかもしれないし、気が滅入る思考回路かもしれないが、そんな言説にも実はLGBTの問題を考えるヒントはある。つまり、LGBTの当事者でないからといって、その問題に全く関わっていないとは言えないのだ。LGBTは20人に1人存在すると言われる。クラスが40人だったら2人はいる計算だ。あなたはその2人を思い浮かべることができるだろうか? 自然と彼らが口を噤んでいたことに、自分の責任は全くないと言えるだろうか?

TIL&GFFはLGBT当事者の年に一度のお祭りであると同時に、われわれに当事者と当事者でない者との境界線を意識させ、それを溶解させる機会、とまではいかなくても、少なくともどのようにしたら溶解できるのか、を考えるヒントをくれる機会となるだろう。

『朗読劇 8-エイト-』

まず私のTIL&GFFは公式コラボイベント公演の『朗読劇 8-エイト-』から始まった。今年のTIL&GFFに強く惹かれたのは、このコラボイベントがあったことが大きい。同性婚を禁止するべく、カリフォルニア州憲法の改正を求めた提案、Proposition 8(提案 8 号)。2009年、二組の同性カップルがこの提案への抗議から、カリフォルニア州を提訴した。この歴史的裁判を、映画『ミルク』でアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラックが脚本化。2011年の初演以来、世界各地で上演されてきた本作を、鳥公園の西尾佳織演出で朗読劇として上演するというもの。

同時にこの裁判のドキュメンタリーも上映されるという。LGBTにとって歴史的な事象を、演劇・映画両方で多面的に表象するというのは面白いと思った。さらに、鳥公園の西尾香織は短い演劇を一本観たことがあるだけだが、とても強い印象を受けた劇作家である。女性二人の会話劇であるその「蒸発」という作品は、「女性のホモソーシャル」と言ってしまうと語弊があるが、同性愛ではない女性同士の閉鎖的な愛憎関係を生々しく描いて衝撃的であった。

「8-エイト-」は、LGBT当事者であればその提案の酷さと法廷で晒し者にされることに憤りを、被告が追い詰められていく過程にカタルシスを感じるであろう、意義深いではあろうが単純な戯曲だ。いかにも西尾らしく、その「LGBTの権利の奪還」という太い幹を異化させていくような仕掛けが冒頭から感じられた。まずこの上演は朗読劇なのだが、朗読劇とはいっても、よくあるリーディング公演のように役者が戯曲を読むというスタイルではなく、台本は「裁判資料」である、という設定になっている。よって、俳優たちがそれを見ながら話すことに違和感がない。

最も西尾らしいと思ったのはジェンダーの揺らぎで、ウォーカー裁判長と被告側の弁護士クーパー、通常であれば男性が演じるであろう(トークで確認したが、やはり戯曲では男性だそう)2人を女性が演じている。他にも戯曲では男性であるのに女優に演じさせる、またはその逆という仕掛けがいくつかあったそう。

結果的には裁判長を演じた西山真来、提訴したレズビアンカップルの一人を演じた兵藤公美など女優の毅然とした美しさが目立った芝居であり、結果的に明らかな勝者は(またクーパーを演じているのも女性であるので、敗者もではあるが)女性である。この配役で男性優位主義への抵抗、それへの目配せがないとは言えないと思う。LGBTという性的なマイノリティの抵抗の物語が、男性優位主義への異議申し立てと融合するというのは、先日も議員のセクハラ発言で話題を醸した日本の状況を反映していると言えなくもない。私が女性であるということも勿論関係しているのであろうが、女優たちの競演を愉しみながら、彼女ら「抵抗者」「改革者」が勝利するラストシーンはなんとも言えない爽快感に満たされた。

トークで西尾は、実際のところ、この戯曲を「つまらない」と思い、「当事者ではない自分が、そのまま寄り添うわけにはいかない」とこのような演出になったということを語っていた。この上演はTIL&GFF側から依頼が来たものだが、「こうなってしまって映画祭の人も困っているんじゃないか」と西尾は笑った。西尾が自分の感覚や考えを貫いた本上演は、確かにLGBT当事者の方の中には違和感を持つ人もいるかもしれない。が、当事者でない西尾が「自分の感覚や考えを貫いた」ということは当事者/非当事者の境界線を溶解させる一手である、と言うこともできるのではないだろうか?

『アゲンスト8』

2014年サンダンス映画祭監督賞(米国ドキュメンタリー部門)を受賞している『アゲンスト8』(ベン・コトナー、ライアン・ホワイト監督)は、実際の裁判の顛末をドキュメンタリーとしてまとめている。「朗読劇 8-エイト-」とは対照的に、この裁判にまつわる諸々を客観的に理解するのに最適な映画であった。登場するゲイ、レズビアンカップルの自然な姿も、日本はニュースやドラマなどのテレビ番組では登場自体ほとんど無いに等しいので、LGBT当事者以外には興味深いものであろう。そして何よりもブッシュ対ゴアの大統領選では敵同士であった弁護士テッド・オルソンとデヴィッド・ボイスが味方についてくれたという事実が、白馬の騎士が突然現れたような高揚感を観客に与える。

演劇と映画が大きく違うのは、映画は情報量が多く、アメリカの状況が、監督が伝えたいもの以外にも自然と伝わってくる点だ。確かに、西尾がそう考えたかどうかは分からないが、戯曲をそのままの形で上演してもLGBT当事者以外に共感できるものとなったかどうか。映画の場合は、その多大な情報量を拾っていくうちに観客はアメリカの状況を理解し、自然と抵抗者であるゲイ、レズビアンカップル、そして白馬の騎士であるテッド・オルソンに感情移入することができる。そして長い時間をかけて勝ち取った勝利に酔いしれる。結果的に、上演されている「今ここ」を否応なく吸収してしまう演劇と、情報量の多さと正確さで登場人物の身になり切ることができる映画の装置の違いを実感するとともに、この歴史的事象をその二つの装置を使って多面的に照射しようとした映画祭側の意図は予想以上の効果を挙げていたと言えるだろう。

『湖の見知らぬ男』

アラン・ギロディー監督の『湖の見知らぬ男』は、ハッテン場となっている湖のほとりで、男性同士の殺人事件が起こり…という話。この作品は昨年のカンヌ映画祭で「ある視点」部門監督賞を受賞しているだけでなく、「カイエ・ドュ・シネマ」の映画ベスト10で第1位に輝いた。その触れ込みが利いたのか、決して狭くはないスパイラルホールは立ち見が出るほどの盛況ぶり。いつも他の映画祭で見かけるようなシネフィルの顔も認められ、おそらくこの作品だけ観に来る非当事者の映画好きが客席の多くを占めている印象だった。

だが、ハッテン場が赤裸々に描かれるこの作品が始まった途端、会場はTIL&GFFらしい空気に包まれた。気にいった男性にはカマをかけて、草叢に入り込み行為に及ぶ…、殺人事件が起こるのは中盤もかなり過ぎてからなので、この映画はそれまではその単純な反復で成り立っているのだが、駆け引きや嫉妬やセクシュアルなユーモアが現れる途端、会場には低い笑い声が響く。そしてハッテン場を描くことにかまけていた映画が終盤、急にB級スプラッターのような趣を垣間見せ始めた途端、会場は爆笑で包まれた。

フランスの権威ある映画批評誌「カイエ・ドュ・シネマ」で第一位というのはよく分からない、というのが鑑賞後の私の率直な感想だ。だが、ハッテン場という未知の世界が赤裸々に描かれ、際どいシーンも含め会場が一体となって笑いで受け止めた経験は得難い体験だったと言えるだろう。

『レインボー・リール・コンペティション』

レインボー・リール・コンペティションでは “日本発”のセクシュアル・マイノリティをテーマにした作品を公募し、セレクトした4つの作品を上映したあと、観客の投票によって受賞作品が選ばれる。参加するのは初めてなのだが、実際にその場で観客が投票し、その後すぐ発表するシステムは、審査員が存在しないからできることなのだろうが、スピーディで好感を持った。

4つの作品は上映順に二人の女子学生の間の愛憎を耽美的に描いた『キユミの詩集 サユルの刺繍』(杉田愉監督)、デュオを組む青年の間の愛情の芽生えを描いた『エソラ』(田中昭全監督)、確執のある父親を看取るレズビアンカップルを描いた『Keepsake(青い鶴)』(デビッド・チェスター監督)、サラリーマンの青年と男娼の青年の愛情と友情を描いた『笑顔の向こう側』(佐島由昭監督)。

レズビアンが登場する二作品は、『キユミの詩集』はリアリティを、『Keepsake』は魅力を感じることができず、これは二作品とも男性監督であるが故、理解やキャラクターの肉付けの仕方に問題があったのではないかというのが率直な感想だ。対して監督自身ゲイだという『エソラ』は、キャラクター造形にリアリティがあり、好感の持てる作品であった。が、ラストに上映された『笑顔の向こう側』は、監督はノンケであるが、ゲイコミュニティに徹底した取材を行ったというだけであって、リアリティがあるだけでなく、LGBT映画という特殊性に甘えない完成度の高い映画に仕上がっていた。

結果は、『笑顔の向こう側』が受賞。賞金10万円のほか副賞を受理した。

『アニタのラスト・チャチャ』

クロージング作品は、今年の大阪アジアン映画祭でスペシャル・メンションを受賞したフィリピン映画『アニタのラスト・チャチャ』(シーグリッド・アーンドレア・P・ベルナード監督)。軍人のアニタが懐かしいハーモニカのメロディにのって故郷での過去を回想する。女らしい服を着るのが嫌いで、男の子のような恰好をしていた少女時代、アニタは外国から10年ぶりに絶世の美女となって戻ってきたピラルに恋をする。グラマラスな大人の女性に同性愛的な思慕を抱く経験は、レズビアンならずとも女性ならみな持っているのではないだろうか。大人の女性になることへの憧れと戸惑い。そんな思春期の揺らぎはLGBT当事者以外にも共感度が高い。

しかもこの映画が優れているのはそんなアニタの内面だけではなく、グラマラスな肉体と美貌を持つピラルの内面も踏み込んで描いていることだ。一見のどかである田舎が、夜見せる顔は、決して女性に優しいものではなかったという事実。暗い淵に陥ったピラルのその後を明確に描かず、故郷に戻ったアニタと回想時のままの若く美しいピラルが再会する幻想シーンに涙を誘われる。LGBT当事者であるアニタだけでなく、全ての女性に対する讃歌となっている、爽やかで温かい映画であった。

果たして、当事者/非当事者の間にある境界線は溶解しただろうか? でも何か微かではあるものの、掴んだような感覚がある。自分にはピンと来ない、実感として分からない事象を誤解しないように理解するということは、そんな微かな感覚を積み重ねていくことなのかもしれない。

(※1)LGBT…性的少数者を限定的に指す言葉。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性の不一致)の頭文字をとった総称であり、他の性的少数者は含まない。
第23回東京国際レズビアン & ゲイ映画祭
2014/07/12(土)~7/18(金) @ユーロスペース
2014/07/18(金)~7/21(月・祝) @スパイラルホール
『リーディング公演「8 -エイト-」』
脚本:ダスティン・ランス・ブラック/演出:西尾佳織[鳥公園]/翻訳・ドラマトゥルク:岸本佳子[空(utsubo)]/舞台監督:木村光晴/演出助手:福島真(東京のくも)、加藤健太、実島崇之/衣装:サバヲ/制作:萩谷早枝子/広報:樋口康/企画:長津結一郎/小此木紀子
出演: 稲毛礼子、兵藤公美[青年団]、松村翔子、内海正考、遠藤麻衣[二十二会]、呉城久美[悪い芝居]、黒川武彦、武田有史、西山真来、根本大介、野津あおい[サンプル]、葉丸あすか[柿喰う客]、宮崎裕海
『アゲンスト8』
原題:The Case Against 8/監督:ベン・コトナー、ライアン・ホワイト/2013年/アメリカ/112分
ストーリー:2008年11月、カリフォルニア州で結婚を男女間に限定する州憲法修正案「提案8号」が通過し、一度は合法とされた同性婚が再び禁止されることに。この「提案8号」が人権侵害であるとして州を提訴したのが二組の同性カップル。ブッシュ対ゴアの大統領選では敵同士だった弁護士テッド・オルソンとデヴィッド・ボイスを味方につけ、彼らはかつてない闘いに挑む。2014年サンダンス映画祭監督賞(米国ドキュメンタリー部門)受賞。
『湖の見知らぬ男』
原題:L’inconnu du lac/監督:アラン・ギロディー/ 2013 年/フランス/100 分
ストーリー:男たちが集う湖のほとりのハッテン場で、フランクはミシェルと出会う。魅惑的なミシェルに惹かれていくフランク。そんな時、フランクはある殺人事件を目撃する。ミシェルが犯人なのでは…という不安を抱えながらも、フランクは自らの欲望を抑えられなくなっていく。2013 年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞受賞。フランスの権威ある映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」の2013 年映画ベスト10 で第1 位に輝いた。
『レインボー・リール・コンペティション』
受賞した佐島由昭監督と司会のマダム・ピロガネーゼ
『キユミの詩集 サユルの刺繍』 監督: 杉田愉/2010年/日本/30分
『エソラ』 監督: 田中昭全/2013年/日本/25分
『Keepsake(青い鶴)』 監督: デビッド・チェスター/2013年/日本/15分
『笑顔の向こう側』 監督: 佐島由昭/2013年/日本/43分
『アニタのラスト・チャチャ』
クロージングイベント開催! : 原題:Ang Huling Cha-Cha ni Anita/監督:シーグリ ッド・アーンドレア・P・ベルナード/2013 年/フィリピ ン/112 分
ストーリー:軍人のアニタは父の形見のハーモニカを吹きながら、少女時代を回想する。口うるさい母やデキ婚をする従兄と共に田舎で暮らす12 歳のアニタ。ある日、10 年前に村を出ていったピラルが絶世の美女となって戻ってくる。ピラルにひと目ボレしたアニタは「あの人と結婚する!」と友達の前で宣言するが、ピラルには忘れられない昔の恋人が…。大人の女性と少女の恋というユニークな物語をコメディタッチで描く。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。