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『濱口竜介レトロスペクティヴ』回顧録 vol.5

7/30(月)『PASSION』質疑応答 | サンセバスチャン国際映画祭、東京フィルメックスなど映画祭を中心に世界中で上映が行われてきた『PASSION』。上映後の質疑応答では熱のこもったやりとりが続いた

7/30(月)の模様を振り返ります。『濱口竜介レトロスペクティヴ』では連日の様にゲストをお迎えし、トークセッションが開催されておりましたが、それ以外の日程におきましても毎夜濱口監督が登壇し、質疑応答が行われておりました。

『PASSION』は東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作として発表され、サンセバスチャン国際映画祭、東京フィルメックスなど映画祭を中心に世界中で上映が行われてきた作品ですが、いわゆる劇場公開をされたわけではありませんから、制作から4年が経ったいまも十分に見られているとは決して言えません。

今回のレトロスペクティヴでも大勢の観客の皆様にお越しいただき、また質疑応答の熱気を感じるに、そう遠くない将来の劇場公開を期待したい、そんな気持ちを抱きもしました。 そのような気持ちは日韓合作『THE DEPTHS』に対しても同様に抱いておりますが、何より今後撮られるであろう最新作が日本全国、世界中で公開されることが待ち遠しいことはいうまでもありません。

以下質疑応答の内容をご紹介いたします。

質問:最近ジョン・カサヴェテスのレトロスペクティヴで見たばかりなのですが、『アメリカの影』に少し似ているなという気がしました。撮影にあたり『PASSION』のシナリオというのは完全に出来上がったものとして存在していたのでしょうか?
濱口:カサヴェテス監督は最も好きな監督のひとりですから、当然影響は受けています。ただ、『アメリカの影』はそんなに頭にありませんでした。脚本に関しては一字一句書いていますが、一番参考にしたのはカサヴェテスの『フェイシズ』です。『フェイシズ』の構造を参考にしたところがあります。
質問:最初のシーンが猫のお墓からはじまったり、結婚の話をカホ(河井青葉)の母親にするときもお墓の近くだったりします。そうしたことに何か意味合いがあるのでしょうか?
濱口:冒頭は何かの死からはじめたいと思っていました。これはまたカサヴェテスなんですが、『ハズバンズ』という作品を意識していました。『ハズバンズ』では4人の親友のうちひとりが死んでしまい、そのお葬式から話がはじまります。そうして3人の男達の馬鹿騒ぎが繰り広げられることとなるわけですが、『PASSION』に関しては人の死を扱う映画ではないなというのもありましたので、折衷案ではないですが、猫の死からはじめることを選びました。もちろん占部房子さん演じるタカコにとっては家族を失うにも等しいものではあるのですが、そのような形となりました。結婚の話をするシーンに関しては、ロケーションがたまたまそうであったので、撮っておこうという程度のことでした。ただ、なにか意味を持ってくれればなという曖昧な気持ちは抱いていたと記憶しています。
質問:すごくシリアスな映画だと思っていたのですが、非常に笑えるシーンが多くて、それがどこまで狙ったものなのか、どこまで意識的なものであったのかということと、主人公のトモヤ(岡本竜汰)のキャラクターが画期的といいますか、喋り方も『~だ』という断定調でリアルに聞こえないところもあったりするのですが、そうしたこともわざとやっておられるのか、キャラクター設定について解説をお願いできればと思います。
濱口:笑いが起きるということに関しては、一番最初に上映した頃から起こっていました。東京フィルメックスで上映していただいた際も笑いが起こっていたと記憶しています。ただ、残念なことに必ずしもわざとやってないというところがあります(笑)別に笑わしてやろうと思って脚本を書いているわけではなく、ただ、常軌を逸しているなということくらいは分かって書いてはいるんですけど(笑)
会場:(笑)
濱口:それが笑いに転化するものなのかはちょっと分からないまま。ただ自分も映画を見ていて、笑うことによってしか受け入れられないようなことが結構あります。ですから笑われるということがネガティヴなことだとは思っていなくて、笑ってもらえるならそれはそれで観客が映画と関わろうとしてくれていることなんだと受け止めています。話し方に関しては、脚本が書き言葉的なのかも知れませんが、それはそういう台詞が必要だと思って書いてますね。
質問:フィルメックスの際にはじめて拝見しまして、本当に面白くて今日3回目なんですけど(笑)
濱口:ありがとうございます(笑)
質問:印象的なシーンはたくさんあるのですが、その中でもやはり本音ゲームのあとのシャワー室のシーンが印象的です。あのシーンではタケシ(渋川清彦)が怒りながら無理矢理タカコをシャワー室に連れ込み、タカコはそれに抵抗をしますが、最終的にはもつれあいながらのキスシーンへといたります。あの感情の飛び方といいますか、どのようにして思いつかれたのでしょうか?
濱口:ええ、不可解ではありますよね。どうやって思いついたかですが、そうですね、脚本の書き方のせいかもしれません。『PASSION』は40シーンくらいあるんですが、まずざっくりと柱書き、つまりシーンを並べて、大きな流れを決めます。そして各シーンで起きることを埋めるようにして書くわけなんですが、実際書いていると果たしてこんなこと起きるんだろうか、いや起きないよね、というのがあったりするわけです。それを1シーン1シーン越えて行くわけです。例えばあのシーンでは、「トモヤがタカコを口説くが、最終的にタケシとタカコが結ばれる」ことだけ決まってるんです。それでも、どうしたらこんなことが起こるだろう、彼らはどんなことを考えてるんだろうということを僕が知るために「本音ゲーム」を始めてみたりします。そういう流れの中で、こんなこと、起こらないだろうということにたどり着いたりすることがあるんですね。あのシャワーシーンはその結果です。タケシというキャラクターのイライラと観客のイライラが同調すれば、ああいうことが起きても、心の何処かで納得してもらえるんではないかと思ってました。そういう風に書いてます。
質問:キャスティングはどのようにして決められたのでしょうか?
濱口:メインの5人についていいますと、カホ役は河井青葉さん、タケシ役は渋川清彦さんですが、お二人とは以前にもお仕事をしたことがありまして、そのときに上手くできなかったなという思いが少しあったんですね。この人たちとはもっと色々やれたはずなのにと。ですからお二人に関しては最初から一緒にやりたい、出てもらえたらいいなと思って脚本を書いていました。それで結果出ていただけたと。ケンイチロウ役の岡部尚さんに関しては、以前から知ってはいたんですが、一緒にお仕事をしたことはなかったので、オーディションを受けていただいた後に出演していただくことになりました。タカコ役の占部房子さんとトモヤ役の岡本竜汰さんには面識がありませんでしたが、お二人ともオーディションでお会いしてお願いをしました。もともとタカコという役はひとりだけ年下の設定だったんですが、占部さんにどうしても出て欲しくなって、合わせて少し年上の設定に書き直したりもしました。トモヤ役に関しては最後まで決まらなくて、オーディションを繰り返していたんですが、岡本さんに関しては単純に格好良すぎるな、という思いもあったんですが、いざ話してみたら楽しくお話ができたという記憶が強くあってですね。最終的にはそのことが一番大きかったです。キャスティングに関しては、ちゃんと話ができたなという感覚があったときにお願いをしているような気がします。
質問:この話を思いついた、例えば身近なきっかけのようなものはあったのでしょうか?また、思い入れの強い、あるいはご自身に近いキャラクターがいるとすれば誰になりますでしょうか?
濱口:今にして思えば色々反映されているなとは思うんですが、自分に近いキャラクターというのは、ある意味3人の中にはいないとも思いますし、3人の中にそれぞれ振り分けられているとも思います。それぞれのキャラクターが担っている性質があり、それに従って脚本を書いているわけですが、その中で振り分けていたということです。似たようなエピソードが実生活であったかというと、あるわけないですね(笑)
会場:(笑)
濱口:例えば女性とお付き合いしたり別れたり、そういったことは普通にあるわけですが、それが色濃く影を落としているかと言うと分からないですね。もしかしたら10年後には、やっぱりあれが原因だったなとか思うかも知れませんが…、そんなにですね、自分語りとしてやったつもりはありません。じゃあどうやって思いついたのかということなんですが、男女5人とか6人の話がずっとやりたかったんです。何でかは分かりませんが、単純に好きなんですね。『PASSION』を撮影していた当時は、男女2人などの物語は苦手だなと思って二人の関係をじっくり描くようなことに興味が持てませんでした。一方で男女5人のような関係だと凄くスピードが出るなと思っていました。『PASSION』の構成ですと、裏で何かが起きているという感じがあると思うんですが、例えば本音ゲームの裏では、カホとケンイチロウは別のところにいるし、二人が埠頭を歩いているときには、他の3人はそれぞれ何かしているんだろうし、と言った具合に、書かなくても何かがあり、脚本が自然とスピードを持てるような気がします。僕自身そういう映画が好きですし、そうしたやり方を選んだということですね。
質問:ラストのソファーのシーンですとか、カホとケンイチロウの埠頭でのシーンですとか、いわゆる長回しのシーンでは、役者さんの動きなどに関してどれぐらいの演出をされているのでしょうか?
濱口:他のシーンに関しては、基本的にリハーサルをやって出てきた動きに対応してカメラを決めていたりするんですが、埠頭のシーンに関しては一番段取りっぽくやっています。ここで止まってここで肩を抱いてください、キスをしてください、彼女を見送ってください、という具合に凄くマーキングされて撮影していることになります。そうやってガチガチに決めたのは不本意ではあったんですが、制作体制的にそうしなければ撮り切れない事情がありました。ラストのソファーのシーンに関しては、ここに座るということは決めていますが、例えば顔の向きですとか、僕の方から指示はしなかったです。ただ、現場で見ていて、本当はこっちに顔を向けて欲しいと思っていた方向に、奇妙ではありますが、全部顔を向けてくれたということはありました。それには、こういうこともあるんだなと正直驚きましたね。
質問: ちなみに何テイクくらい撮影されたのでしょう?
濱口:埠頭のシーンは2テイクやっています。本当はマジックアワーを1テイク目で狙っていました。夜が明けてくる瞬間ですね。2テイク目は建物の影から太陽が出てくる時間を狙っていました。最終的に2テイク目のトラックが横切るシーンが決め手にはなったのですが、1テイク目は光は本当に綺麗だったんですね。今でもあの1テイク目、どっかに残ってないかな、と思うことがあります。ただ、これは僕がマーキングしたせいで、役者さん二人の動きが固かった印象もあり、2テイク目を選びました。ラストのソファーのシーンに関しては5テイクくらい撮影したと思いますが、最後まで行ったのは使用した5テイク目だけでしたね。
質問:作品が完成した後、これはいけるなという感触は持たれましたか?
濱口:正直わからなかったですね。ただ完成後、学内で試写があったのですが、上映後に拍手が起きたんです。それまでなかったようなことでしたから、もしかしたらいけるのかも知れないという気はしました。今回こうした形で過去作の上映がおこなわれているわけですが、この『PASSION』という作品は、尺も含め、撮り方、脚本、など、僕個人としては観客の皆さんにとって一番受け入れやすい作品なのではないかと思っています。勿論テーマや描き方の点で受け入れ難いという方もいらっしゃると思いますが。その為の努力をそれまでの作品のなかでも一番していると思いますし、もしかしたらそれ以降を考えてもそうであるかも知れません。ですから、「いける」というより「いってもらわなければ困る」という意識は持っていたように思います(笑)

次回は7/31(火)におこなわれた、瀬田なつき監督とのトークセッションの模様をお届けしたいと思います!