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『濱口竜介レトロスペクティヴ』回顧録 vol.7

まさに二人三脚だったという原プロデューサー(写真左)と濱口監督。

現在、関西の劇場5カ所で「濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai」が行われている濱口竜介監督。昨年の夏、オーディトリウム渋谷にて開催された「濱口竜介レトロスペクティヴ」、8/6(月)の『THE DEPTHS』上映終了後、同映画でプロデューサーを務めた原尭志さんがゲストとして登壇しました。その際の質疑応答の様子をご紹介いたします。
「濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai」での『THE DEPTHS』上映は残すところ京都シネマで7/16(火)19:00〜の1回のみとなりました。この機会をお見逃しなく!
濱口:みなさんご覧いただきましてありがとうございました。急遽なんですけれども、日本側のプロデューサーを務めてくれた原尭志さんにご登壇いただきました。これからQ&Aをはじめたいと思いますが、僕とはちょっと違う視点で話せる方なので、制作の裏側なんかをお話いただければと思います。よろしくお願いします。
ではご質問がある方いらっしゃいますか?
会場:撮影は日本と韓国のどちらでおこなわれたのでしょうか?
濱口:基本的に撮影は全て日本でおこないました。原さん、制作の分担はどうでしたっけ?
原:プリプロ、撮影、編集、整音は日本でおこない、カラコレやDCP素材の作成など、ポスプロ作業の一部分のみ韓国でおこなわれました。

  ※プリプロ…プリプロダクションの略。撮影前の準備作業の総称。脚本、ロケハン、スタッフ・キャスト集めなど

  ※カラコレ…カラー・コレクションの略。映像の色彩を補正する作業

  ※ポスプロ…ポストプロダクションの略。撮影後の作業の総称。アフレコ、カラコレ、映像・音楽の編集など

濱口:作業終盤に韓国でキム・ミンジュンさんのアフレコ作業があって、そのまま最終的なポスプロに入っていった感じでしたね。
会場:蛍光灯の色味が日本でなじみのある色味と違う印象だったんですが、それはやはり撮影監督が韓国の方ということと関係があるんでしょうか?
濱口:これは不思議なんですけど、照明は日本の後閑(健太)さんという方なんですけど、カメラマンはヤン・グニョンさんという韓国の方で、彼女が撮ったらたしかに日本の画とは何か違うな、と思いました。
会場:特にスタジオシーンでの蛍光灯が緑っぽい感じがしました。日韓で色味の特徴の違いについてのやりとりはあったのでしょうか?
濱口:それはあったと思います。最終的にカラコレは韓国でやっていますので、その影響は大きくあると思います。カメラマンのヤン・グニョンさんが韓国でカラコレしたものを日本で確認するというという流れでやっていました。
会場:この物語を撮ることになった経緯を教えてください。
原:もともと僕は東京藝術大学大学院の映像研究科の製作領域というところにいまして、そこでは韓国国立映画アカデミー(以下、KAFA)という映画学校のプロデューサー・コースの学生と毎年ワークショップをやるんですね。その中で企画コンペというものがありまして、両校の学生が企画を持ち込んで、外部から参加されたプロデューサーさんや脚本家の方に読んでいただいて、ここがいいとか悪いといった話をするんですけど、ある年に最優秀企画賞のようなものに選ばれた韓国側の企画を実際に映画化しようということになりまして、その企画が『THE DEPTHS』の元になる企画でした。その時点でストーリーのひな形自体はできていたんですが、日本で撮るということは決まっていなかったですし、どちらの国の監督でやるのかも決まっていませんでした。そこから僕らと韓国のプロデューサーを交えて企画を詰めていったんですが、撮影に入るまでにだいたい1年くらいかかりましたね。
濱口:僕の記憶だと、このお話をもらったのは2009年6月で2010年の3月に撮影に入ったと記憶しています。企画自体はいつ決まったんですか?
原:2008年の夏でしたね。もう4年前になりますか。実際に企画が動き出したのは2009年の4月からでしたが、その時点で監督と脚本家を日本側から立てて、それぞれの国から主演の方を選ぼうということは決まっていました。ただ、その周りにあるものをどのようにくっつけていくかということに時間がかかりましたね。
濱口:もともとペファンというカメラマンがリュウという少年を日本で発見するけれど、2人は最後まで一緒にいられないというような大筋はできていたんですが、最終的に日本でかなりの回数やり取りをして脚本を仕上げました。非常に大変だったなという記憶があります。
会場:男性同士のキスシーンがありますが、普通のキスシーンと演出の違いはありましたか?
濱口:これはですね、本当に正直な話、男性同士のキスシーンの方がずっと撮りやすかったです。これはなぜだかわからないんですけど、単純に言いやすかったっていうのがあるかもしれません。相手が女優さんですと、ここはお2人の間合いでみたいな感じになってしまいますから。
原:そうですね。これはこういうもんなんです、っていう飛び道具的なスピード感がありましたね。
濱口:それをちゃんと役者ひとりひとりに、こういう感じで、というふうにすごく言いやすかったという記憶がありますね。今後もこうしたいな、という欲はありますけど。
会場:韓国での上映はおこなわれたのでしょうか?
原:はい、韓国ではすでにソウルと釜山の2都市で上映されています。
会場:韓国と日本で観客の反応の違いはありましたか?
原:僕は現地の劇場での上映に立ち会っていたわけではないので、ダイレクトな反応を味わったわけではないのですが、後々聞くと「なんでそうなったのか?」「なんでそういうことになってしまうのか?」と。
濱口:ええ(笑)
原:それで、論理的な説明を求められてしまうわけですが、日本というのはニュアンス文化があると言いますか「かくかくしかじか…こういうもんなんだよね、、」と言えば、「わかるわかる」と容易に壁を乗り越えられる瞬間がありまして。
会場:(笑)
原:でもそれは悪い意味ではなく、真摯に「何故そうなっていくのか?」という問いがあったと聞きますね。
濱口:脚本作りの過程も本当にそういう感じでしたね。「なんでこうなるんだ?」っていうことをひたすら問われながら、まあそれはそうですよね、と。
原:まあ、そうなってみた方が豊かな気持ちになれるかもしれませんよ、ということもありつつ。
濱口:本当にそうだと思います。こうなった方がより豊かになるような気がするからこうする、っていう。
原:それは脚本作りにすごく重要に関わってきたところで、やっぱり韓国の方は因果関係をすごくはっきりさせると。もちろん僕らにもその感覚はありますけど、僕ら以上にあったと思います。
濱口:そうですね。脚本を書いていてカメラマンの方に「あなたたちはいつも本当にこんな脚本で撮っているの?」っていうことを言われて。つまりそれは韓国の脚本だと、もっときちんと説明されているということです。多分小説みたいなレベルで説明されていると思うんですけど。「こんな行間ばっかりで映画ができるの?」って言われてですね。ま、できたと。
原:できたと。できてしまったと。
会場:(笑)
濱口:そういえば、今日は原尭志プロデューサー28歳の誕生日なんですよね。
会場:拍手
原:あ、なんかすみません、ありがとうございます。
濱口:原君は当時25歳か。本当に色々大変だったと思いますけれど。まあでもこういう形でちゃんと映画に辿り着いたんで嬉しいですね。せっかくの機会なので、あとお一方、質問をいただけたらと思うんですが。
会場:物語自体はゲイのお話ですが、役者さんたちは抵抗感をもったり、「私ちょっとできません」みたいなことはありませんでしたか?
原:それはなかったですね。ただ、韓国はゲイの文化や同性愛的な描写に対して、日本とは違う価値観を持っているので、そこは危惧していたんですが、結果全然問題なかったですね。
濱口:そうですね、そのことに関して主役のキム・ミンジュンさんが違和感を示されたことはないですし、日本側の石田法嗣君もそのことに関して何かを言ったことはなかったですね。撮影後は多少ありましたけど(笑)。「ハンバーガーを口に入れてキスするのとかほんとつらかった」ということを言ってましたけれども。
会場:(笑)
濱口:まあでも、お二人とも真摯にやっていただきましたね。色々大変な現場だったんですけど役者さんに引っ張ってもらえたというのが率直な印象です。
原:そうですね。
濱口:ということで、本日はこれくらいにしようかと思うのですが、せっかくなので原君の方から何か一言どうぞ。
原:本当に未だに制作時は大変だったことを思い出します。でも、ここまで長期間監督と二人三脚で向き合った企画って今までなかったので、そのほとばしりみたいなものをぜひ観ていただけたらと思います。
濱口:本当に原君が現場の心の支えであったというところがありました。ありがとうございました。
原:こんな壇上で(笑)
濱口:皆さんご覧いただきありがとうございました。
会場:拍手
「濱口竜介プロスペクティヴ in Kansai」公式サイト→ http://prospective.fictive.jp/
text by  hiromi_ishikawa
『はじまりへの旅』
監督・脚本:マット・ロス

出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジョージ・マッケイ、フランク・ランジェラ

原題:Captain Fantastic 119 分/シネスコ/英語/日本語字幕:中沢志乃 配給:松竹

© 2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
ストーリー:ベン・キャッシュ(ヴィゴ・モーテンセン)と6 人の子供たちは、現代社会に触れることなくアメリカ北西部の森深くに暮らしていた。父仕込みの訓練と教育で子供たちの体力はアスリート並み。みな6 ヶ国語を操り、18 歳の長男は名立たる大学すべてに合格。しかしある日入院していた母・レスリーが亡くなり、一家は葬儀のため、そして母の最後のある“願い”を叶えるため旅に出る。葬儀の行われるニューメキシコまでは2400 キロ。チョムスキー※は知っていても、コーラもホットドッグも知らない世間知らずの彼らは果たして、母の願いを叶えることが出来るのか…?(※ノーム・チョムスキー=アメリカの哲学者、言語哲学者、言語学者、社会哲学者、論理学者。)
  • 『原 尭志(はら・たかし)』
    1984年、東京都生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科製作領域卒業後、映画プロデューサーとしての活動を開始。2010年全国劇場公開作品『イエローキッド』(監督:真利子哲也)では、合計19の映画祭に招待され、複数の映画賞の受賞を果たすなど、国内外から高い評価を受けた。その他の主な制作参加作品に『ラッシュライフ』(伊坂幸太郎原作/2009)、『THE DEPTHS』(監督:濱口竜介/2010)、『同じ星の下、それぞれの夜』(監督:富田克也 冨永昌敬 真利子哲也/2012)など。最新作は黒沢清監督作品『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』(2013)。