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#04 【映画祭レポート】 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014(2014.7.19-27) vol.3

『螺旋銀河』

現代人の孤独をヴィヴィッドに描く日本映画

vol.3では日本映画について紹介しよう。長編コンペティション12本のうち、日本映画は3本。そのうち『PLASTIC CRIME』は観ることができなかったが、『友達』と『螺旋銀河』というともに85年生まれの監督の作品を観ることができた。二作品とも、現代人の孤独について鋭く斬り込む作品であることが共通していた。

『友達』

主人公は、35歳の芽の出ない役者、島田。オーディションで落選を続け、たまに入るエキストラの仕事でなんとかつないでいた。偶然会った役者の先輩である福地から、オーディションの誘いを受ける。が、行った先は客の要望にあった人物を演じる、フレンドシップという怪しげな会社であった。当初は困惑していたが、次第に演じる喜びを感じ始めていた島田であった。だが、ある日女子高生ミオにテロリスト役を演じることを要求され…。

監督は東京藝術大学大学院映像研究科の第七期生、遠藤幹大。京都造形芸術大学卒業後、演劇カンパニー「マレビトの会」に参加していたことがあり、そこで親族の呼べないワケありの結婚式に親族として参加するような仕事がある、という役者たちの話を聞いたことが着想のきっかけだという。

この映画はフレンドシップという会社の設定と描写がとにかく面白い。島田や福地以外にも何人かそこで働く役者がおり、風俗と勘違いするような客もいるから、ということで各小部屋はカメラで監視されている。小部屋をのぞいてみると、大人になった息子と酒を飲み交わすのが夢だったという客の死んだ息子の役をやらされている男。パワハラチックな上司を演じさせられ、その上司に会社ではできない反撃をしている客。

この着想が面白いのは、科学技術の発達やサイバースペースの拡大によって、バーチャルリアリティは決して夢物語ではなくなった。映画の世界でも特にSFで『マトリックス』や『アバタ―』などといったそれらを哲学的に考察しようという映画ももう珍しくはない。このフレンドシップの仕組みが面白いのは、それとは対照的に、科学技術もサイバースペースも使用しない、徹頭徹尾アナログであることだ。

この徹底的なアナログ度は演劇から得ているものが多いと思われ、表象の問題に関わる実験的な作風で知られる「マレビトの会」の影響を勘繰るのは行き過ぎかもしれないが、ただ映画ばかり観て、映画のことばかり考えていたら出てこない発想のように思う。映画は、映画のなかでは何でもできてしまうからこそ映画であるからだ(『インセプション』の実際の人の夢のなかを表現した場面の仰々しさ)。

脚本家の地獄を描いた映画や、映画クルーの実態を描いた映画ならあるが、意外と役者の世界の実態や地獄を描いた映画もない。「演じる」ということがどういうことなのか、それが高い科学技術もあまり関係のない市井の人々にとっては「最後の救い」となること。格差社会は進む一方で、科学技術の発達やサイバースペースの拡大は、果たして人々を幸福にしているのだろうか? 全てが「個」単位で進むことが多くなり(人々の娯楽がお茶の間でテレビを見ることから個室でインターネットを楽しむことに移行したこと、『マトリックス』や『アバタ―』のバーチャル装置を思い出そう)、かえって溝の狭間に落ちてしまったような人々の孤独は、増しているのではないか?

と、様々なことを考えさせられた。テロリストを島田にも演じさせ、自分も演じたミオの造形が、発想は面白いのだが、少々類型的で、納得できるような種明かしもなかったこと。ラストもそれまでの問題提起の大きさに較べたら、着地しそこねているように感じられたのが残念である。

『螺旋銀河』(監督賞・SKIPシティアワード受賞)

この作品も『友達』とは違う側面から現代人の孤独を扱っている。監督の草野なつかは映画美学校で映画を学び、この作品が長編第一作目。第10回シネアスト・オーガニゼーション(CO2)の助成を受けて製作された。

昼間はOLをしながら、夜はシナリオ教室に通っている綾。綾は自分のシナリオがラジオドラマの放送用に選ばれるが、ひとりよがりだと、先生に誰かと共同で修正するように言われてしまう。友人のいない綾は、偶然出会った社内の別の部署で働いている幸子に自分の友人のふりをしてくれないかと頼む。人付き合いの上手くない幸子は、綾に好感を持ち、協力することにする。ただ、何もしなくていいからと言われていた幸子が、シナリオの打ち合わせの場で、綾のシナリオの欠点を指摘したことから、二人の関係はギクシャクしてしまう。また、幸子の従弟が綾の元カレであることが判明し…。

この映画は、綾と幸子のキャラクター設定、二人の関係の描き方がとても面白い。いまだに若者を映画で描くのは「友情」という太い幹で、というのがスタンダードだと思う。この映画祭レポートのvol.2でも紹介したブラジル映画『彼の見つめる先に』も、他の要素がないわけではないが、作品の基調はそういうことであろう。

この映画のユニークなところは「友情」という点ではマイナスのところから二人の関係が始まっているところだ。綾も幸子も友達がいない、という設定である。そしてそれが説得力のあるようなキャラクター設定になっている。昼休み、会社の倉庫にこもってシナリオを書く綾と、屋上で一人でお弁当を食べる幸子。

ただOLをやったことがある女性なら、二人の行動は違和感がないだろう。会社の同僚とランチを食べても、上司や同僚の噂話か、芸能人の話題。どこか繊細だったり、何か目標があったりしたら、一人で食べたくなるのが筋だろう。そうしているうちに、社内の女性陣の輪には入れなくなっていく。そんな現代人が陥ってしまいがちな孤独をリアリティをもって、ヴィヴィッドに映し出している。

最初は幸子に「ふりだけでいいから」と、何も期待しない綾。この辺りは綾の自己中心的な性格をよく現している。反対に幸子は綾の役に立ちたいと、生き生きとし始めるが、この辺りも幸子の今まで孤独を想像させ、せつない。幸子が綾のシナリオに赤を入れ、綾に渡し、綾がそれをすぐさまゴミ箱に捨てるエピソード。垢抜けない幸子がファッションセンス抜群な綾と同じ服を着始めるエピソード。この辺りの二人の気持ちの行き違ったやりとりがヒートアップしていく様子がこの作品の白眉であろう。

二人の仲はいったん完全に壊れてしまうが、綾は幸子を、完成し自分が演じるラジオドラマのもう一人の演者に選ぶ。ラストは綾と幸子が、二人がその関係の鏡であるようなドラマを演じた、ラジオドラマをコインランドリーで聞くシーンで終わる。

鑑賞直後は、やはり他のコンペ作品が『時空を超えた事件』、『約束のマッターホルン』、『ロック・ペーパー・シザーズ』と、予測のつかない奇想天外な展開、凝ったプロット、パズルのピースが最後ピタッと合うようなカタルシスのあるラストという、技術的に目の覚めるようなものが並んでしまっていたので、それと較べると特にラストが少し意外性がないというか、おとなしい印象を持ってしまった。

ただ、今綾と幸子を詳しく分析してみて、やはりこのラストはこうでなければならなく、昼休みに倉庫でシナリオを書いていた綾と、屋上で一人でお弁当を食べていた幸子が、コインランドリーで自ら作り、演じたラジオドラマを聞き、微笑み合ったことは、実はどんな大事件よりも事件であったのではないかと思う。

QAでの監督のこんな言葉が印象に残っている。「コインランドリーは幸子にとって、同僚のくだらない噂話から逃げられる宇宙船のような存在」。コインランドリーを選んだ理由は、たまたま監督自身、シナリオの執筆に煮詰まった時に、歩いていて見かけたからだそう。「誰もがみな、自分にとっての宇宙船のような場所を持つ」と言う監督が、綾と幸子に、そして私たち観客に、提示してくれた宇宙船であるコインランドリーは、まさに都会にある異空間のように、ぽつんと存在している。そこに行けば、綾子と幸が演じているラジオドラマが聞こえてくるような気がして、私たちも思わず目を閉じ、耳をすます。

受賞結果

長編コンペティションを7作品を見てきたが、受賞結果は最優秀作品賞が『約束のマッターホルン』、監督賞が『螺旋銀河』の草野なつか監督、脚本賞が『彼の見つめる先に』、SKIPシティアワードが『螺旋銀河』となった。

長編コンペティションの全体の傾向としては、vol.1で取り上げたような、苦境を生きる人々を描いた映画は例年ほどは奮わず、vol.2で取り上げたような、ゲイやハンディキャップをテーマにした映画が、それぞれ互いの、或いは別のテーマも取り込みながらパンチと普遍性をもった作品に仕上がっているものが多かった。先にも述べたが、『時空を超えた事件』、『約束のマッターホルン』、『ロック・ペーパー・シザーズ』など、予測のつかない奇想天外な展開、凝ったプロット、パズルのピースが最後ピタッと合うようなカタルシスのあるラストなど、技術的に優れた作品が多かったのも特徴の一つだろう。

Vol.3で取り上げた日本の若い監督は、技術面と言うよりは、現代社会に対する視点が優れていたと思う。遠藤監督も草野監督も違う側面から現代人の孤独について考察させる映画となっていた。遠藤監督は「役者」「演じる」ということにこだわって、面白い設定を作り出していたが、その問題提起の深さが作劇に生きていなかったのが残念である。草野監督は、二人の女性の関係性を丁寧に描き、そこから拡がらなかったのが逆に功を奏し、リリカルでありながらリアリティのある小宇宙を作り上げていた。

いずれにしても、例年以上にレベルの高い作品が多く驚いた。来年もいろんな意味で最先端の映画を見せてくれることを期待している。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014
期間:2014/07/19(土)~7/27(日)
場所:SKIPシティ映像ホール/多目的ホールほか  (サテライト上映)大宮ソニックシティ 国際会議室
『友達』
監督:遠藤幹大
出演:山本剛史、松本花奈、大庭裕介
©東京藝術大学大学院映像研究科
ストーリー:俳優の島田は、一向に芽が出ない。ある日、先輩の福地に紹介されたオーディションに向かうが、そこは客の希望通りの人物を俳優が演じる会社だった。客の女子高生ミオは、島田をテロの計画に巻き込んでいく。
解説:遠藤幹大監督は京都造形芸術大学在学中から自主映画制作を始め、卒業後、演劇カンパニー・マレビトの会の活動への参加を経て、東京藝術大学大学院映像研究科に入学、黒沢清に師事した。主な監督作品に『to/for』(08)『エルドラド』(12)、『ビフォーアフター』(オムニバス映画『らくごえいが』(13)の一篇)がある。売れない俳優・島田を演じるのは『おだやかな日常』(12)『さよならドビュッシー』(12)などに出演の山本剛史。テロ計画を立案するミオ役は『サイドカーに犬』(07)『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』(09)『鈴木先生』(13)などに出演の松本花奈。満たされない欲求を抱えた人々と、彼らに巻き込まれてしまった役者の奇妙な友情を独自の視点で切り取った異色作。
(遠藤幹大監督とプロデューサーの尾形龍一さん)
『螺旋銀河』
監督:草野なつか
出演:石坂友里、澁谷麻美、中村邦晃、恩地徹、石橋征太郎
©Natsuka Kusano
ストーリー:綾は、シナリオ学校の課題を共著で仕上げなくてはならなくなる。綾がついた嘘をきっかけに、同じ会社で働く地味な幸子が共同執筆者となるが、作品が完成していくに連れ、二人の関係は微妙に変化していく。
解説:草野なつか監督は東海大学文学部文芸創作学科卒業後、映画美学校フィクションコースに入学。在籍中から自主映画の現場に制作などで参加し、本作が長編監督デビュー作となる。共同脚本は『不気味なものの肌に触れる』(13)や今秋公開作『最後の命』(14)などの高橋知由。優越感と劣等感、憧れと嫉妬を軸に、正反対の二人がシナリオを共同執筆することで、彼女達だけの言葉を共有しながら成長していく様を独特な感性で表現し、鑑賞後に深い余韻を残す。主演の石坂友里と澁谷麻美の絶妙な距離感・空気感に引き込まれる、女性二人の物語。
(草野なつか監督)
『ク ロージング・セレモニー(表彰式)』
長編、短編、アニメーション のコンペティション3部門の各賞が発表され、表彰された。
  • 『夏目深雪(なつめ・みゆき)』
    批評家、編集者。雑誌やWEB、書籍に映画評、劇評、インタビュー等を寄稿。共著に『ゼロ年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など、共編書に『アジア映画の森―― 新世紀の映画地図』、『アジア映画で<世界>を見る 越境する映画、グローバルな文化』(ともに作品社)。「批評」と「編集」によって世界を切り取ろうと奮闘中。2011年F/T劇評コンペ優秀賞受賞。