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「東北記録映画三部作」 酒井耕・濱口竜介監督作品

「話すことからはじめよう」

酒井耕・濱口竜介監督作品、「東北記録映画三部作」が公開中だ。第一作目となる『なみのおと』は、2012年の「ロカルノ国際映画祭」で上映され、『なみのこえ』(気仙沼編、新地町編を合わせたYIDFF特別版)は「山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)」インターナショナル・コンペティション部門にエントリーされた。また、同映画祭において『うたうひと』が「スカパー!IDEHA賞」を 受賞するなど、それぞれの作品が大きな評価を得ている。

既に2013年6月29日〜7月19日の期間、関西地区で開催された「濱口竜介プロスペクティヴ」内において「東北三部作」としての上映がおこなわれているが、「東北記録映画三部作」単独での公開は今回がはじめてであり、オーディトリウム渋谷から続くリレー公開が、今後途切れることなく全国に広がっていくことを願って止まない。

それにしても、出てくる人々すべての表情が魅力的だ。これまで上映後におこなわれたトークでは、いかにして真正面からそうした表情をとらえたかなど、撮影の秘密についても連日語られてきたが、聞いてしまえば単純にも思えるそれら手法に関しても、語れば語るほどに新たな発見があるだろうし、実際そうした語りの場に居合わせた際、黒沢清監督の口から三部作に対しての驚くべきキーワードがこぼれ落ちるのを聞いたときは、同席した全員、思わずひっくり返りそうになったものだ。

酒井・濱口の両監督は、聞くことに主眼を置き三部作を完成させた。僕らは話すことからはじめよう。

「東北記録映画三部作」 酒井耕・濱口竜介監督作品
渋谷アップリンクにて公開中
http://www.uplink.co.jp/
Text by: 岡本英之
『なみのおと』
2011年/ドキュメンタリー/日本語/カラー/142 分
監督:濱口竜介・酒井耕/撮影:北川喜雄/整音:黄永昌
制作者:堀越謙三・藤幡正樹/制作:東京藝術大学大学院映像研究科/制作助成:芳泉文化財団・German Japanese Association/制作協力:せんだいメディアテーク<3がつ11にちをわすれないためにセンター/配給:silent voice LLP
2011 年に津波の被害を受けた三陸沿岸部に暮らす人々の「対話」を撮り続けたドキュメ ンタリー映像。姉妹、夫婦、消防団仲間など親しいもの同士が震災について対話し、そこ から生成される人々の「感情」を映像に残すことで当事者としての記憶を伝えようという 試み。 岩手県田老町の女性によって読まれる昭和 8 年 3 月 3 日の大津波の紙芝居にはじまり、気 仙沼、南三陸、石巻、東松島、新地町と南下しながら、消防団員や市議会議員、夫婦や姉 妹など、親しい者同士や監督との対話が行われる。津波の恐ろしさや悲惨さと復興への強 い思いが混在したその声には、聞き手の存在によってこそ生まれる情感、現実感があり、 未来へと伝えるべき貴重な価値を宿している。 移動の間に朗読される昭和 8 年津波被害を記録した山口弥一郎のテクスト、冒頭の紙芝居、 土地の風景や音とともに、幾度も津波に襲われた歴史をもつ三陸の姿とそれでもそこに住 み続ける人々の意志とが描かれ、故郷とは何かという問いが自ずと発生する。土地の記憶 を切断してしまった出来事を、語り継ぐ言葉のひとつひとつがその答えなのかもしれない。 濱口竜介・酒井耕監督による東北記録映画三部作 第一部。
『なみのこえ 気仙沼』
2013年/ドキュメンタリー/日本語/カラー/109 分
監督:酒井耕・濱口竜介/実景撮影:佐々木靖之・北川喜雄/整音:鈴木昭彦・黄永昌/カラリスト:馬場一幸/制作:silent voice LLP/制作者:芹沢高志・相澤久美/制作助成:公益社団法人 企業メセナ協議会(GBFund)・NPO 法人 アート NPO リンク(アート NPO エイド)・P3 art & environment・一般社団法人 震災リゲイン/制作協力:せんだいメディアテーク<3 がつ 11 にちをわすれないためにセンター>・NPO 法人 記録と表現とメディアの ための組織 remo/機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科/協力:気仙沼市民会館・気仙沼商工会議所・気仙沼本吉地域防災センター・気仙沼漁業センター・気仙沼大曲コミュニ ティセンター・新地町役場・目黒鉄工・相馬双葉漁協同組合新地町支所・新地町図書館・細谷修平・株式会社 はらほろ
『なみのこえ 新地町』
2013年/ドキュメンタリー/日本語/カラー/103 分
監督:酒井耕・濱口竜介/実景撮影:佐々木靖之・北川喜雄/整音:鈴木昭彦・黄永昌/カラリスト:馬場一幸/制作:silent voice LLP/制作者:芹沢高志・相澤久美/制作助成:公益社団法人 企業メセナ協議会(GBFund)・NPO 法人 アート NPO リンク(アート NPO エイド)・P3 art & environment・一般社団法人 震災リゲイン/制作協力:せんだいメディアテーク<3 がつ 11 にちをわすれないためにセンター>・NPO 法人 記録と表現とメディアの ための組織 remo/機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科/協力:気仙沼市民会館・気仙沼商工会議所・気仙沼本吉地域防災センター・気仙沼漁業センター・気仙沼大曲コミュニ ティセンター・新地町役場・目黒鉄工・相馬双葉漁協同組合新地町支所・新地町図書館・細谷修平・株式会社 はらほろ
『なみのこえ』は、2011 年に製作された『なみのおと』の続編であり、前作を踏襲する 形で東日本大震災の津波被災者に対するインタビューから成る。前作『なみのおと』では 震災から約半年後、岩手から福島に渡る広域で記録したのに対し、『なみのこえ』は震災 から約一年後に福島県新地町と宮城県気仙沼市に絞って記録した。 私達がインタビューをしていく中で心がけたことは、聞く相手を被災の過酷さや体験談の 鮮烈さによっては選ばないということだ。私達は出会った多くの被災者に「私たちよりも っと悲惨な体験をした人がいるから、そちらに聞いて欲しい」と何度となく言われた。地 震でライフラインが止まった人、家の半壊した人、家を流された人、親しい人を流された 人、家族を波に呑まれた人...。どこかにある「被災の中心」から離れるほど「語れない」。 彼らは被災したにもかかわらず、被災した度合いによって「負い目」を感じているようだ った。しかし、その「被災の中心」を求めて行く先は、もはや声なき死者である。決して 聞けない「死者の声」が生き残った人々の声を封じていた。 本作に登場する 21 人は単に震災のことだけを語るわけではない。彼らは被災体験を語り 合ううちにインタビューを「おしゃべり」へと変えていく。そこにあるのは「被災者」の 声ではなく、彼ら一人ひとりの声だ。私達はこの声を 100 年先まで残したいと考えた。 100 年後の未来、私達は同じく死者であり、この映画は「死者の声」になっているだろう。 この映画に収められた彼らの声と、今は聞くことのできない波に消えた声が、100 年後の 未来でつながっていくことを祈って、この映画『なみのこえ』は撮られている。
『うたうひと』
2013年/ドキュメンタリー/日本語/カラー/120 分
出演/伊藤正子・佐々木健・佐藤玲子・小野和子(みやぎ民話の会)
監督:酒井耕・濱口竜介/撮影:飯岡幸子・北川喜雄・佐々木靖之/整音:黄永昌/タイミング:定者如文/制作者:芹沢高志・相澤久美/制作:silent voice LLP/制作助成:文化庁 文化芸術振興費補助金・公益社団法人 企業メセナ協議会(GBFund)・公益財団法人 全国税 理士共栄会文化財団/制作協力:せんだいメディアテーク<3がつ11にちをわすれないためにセンター>・みやぎ民話の会/機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科・合同会社 epigraph
酒井耕・濱口竜介監督による『なみのおと』『なみのこえ』に続く東北記録映画の第三部。 昔話/伝説/世間話といった地域固有の物語を伝える「民話」。その価値は単に物語の意 味内容に留まるものではない。奇想天外な登場人物たち(ときに動物、鬼、もののけ...) や、突拍子のない展開は、彼らの先祖たちが厳しい暮らしや残酷な現実の中から作り出し た「もう1つの世界」でもあった。 二人は前二作における「百年」先への被災体験の伝承という課題に対して、東北地方伝承 の民話語りから示唆を得る。栗原市の佐藤玲子、登米市の伊藤正子、利府市の佐々木健を 語り手に、みやぎ民話の会の小野和子を聞き手に迎えて、伝承の民話語りが記録された。 語り手と聞き手の間に生まれる民話独特の「語り/聞き」の場は、創造的なカメラワーク  によって記録されることで、スクリーンに再現される。背景となった人々の暮らしの話と ともに語られることで、先祖たちの声がその場に甦る。映画と民話の枠を超えた、新たな 伝承映画が誕生した。物語の考察なども含め十数話を収録。
  • 『酒井耕(さかい・こう)』
    1979 年長野県生まれ。映画監督。現在の活動拠点は東京。東京農業大学在学中に自主制作映画を手掛け、卒業後、社会 人として働いた後、2005 年に東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『creep』(2007 年)。『ホ ーム スイート ホーム』(2006 年)の他、濱口と共同で東北記録映画三部作『なみのおと』(2011 年)『なみのこえ』 (2013 年)『うたうひと』(2013 年)を監督。現在は 映画製作と平行して、各地の土着文化の再編活動に携わっている。
  • 『濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)』
    1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)を監督。2013年からは神戸に居を移し「即興演技ワークショップ」を9月から開催。精力的な制作活動を続けている。最新作は『不気味なものの肌に触れる』(2013)。